小説:真・恋姫無双 白の銀紅
序章
その六
争奪戦
ただいま呉に向かう軍の、行軍の中にいます。
馬やら徒歩やら、色々な中で行軍する中で、俺はなぜか孫策の馬に乗っていた。…ま、つまりは二人乗りで。
こう言う事になったのは少し一悶着あった。
「なー、呉に行けばうまい肉まんがあるのか?」
「肉まん?」
「そ。肉まん」
「あるわよー。他にも汁麺の美味しい所もあるわよー」
「本当に!?」
急に目を光らせ、孫策へと詰め寄る彪夾。
「なら呉に行く!うまい飯があるのなら!!」
「そ、そうか。なら、早速帰るか」
彪夾の気概に気圧されるかのように、指示を出す孫堅。
その他の者達もそれに見習い、各々の天幕へと戻っていく。その中で、俺はどうしていいか分からず、軽く途方にくれていた。
「彪夾?どうしたんだ?そんな所に突っ立って」
そんな俺に、孫堅が話しかけてきた。
なぜ他の皆の様に散っていかないのか疑問に思った俺は、孫堅にその事を問いかける。
「いや、どこに行けばいいのか分かんないし…。それになんでここにいるの?」
「総大将が本陣にいる事がそんなに不思議か?」
「総大将…。あ、一番偉いのか」
今更と言う風に、手をポンと叩く彪夾。それを見て、呆れたように頭を抱える孫堅。
「んー。なんか、大変そうだな…。それはそうと、彪夾。あんた、馬には乗れるのかい?見た所、馬は持っていないようだが…」
「見た事はあるけど、乗った事はない」
「そうか…。乗れるのであれば、馬一頭を貸してもよかったんだが…」
そのままぶつぶつと何かを呟く孫堅。そこに、娘の孫策がやってきた。
「母様ー。準備終わったわよー…って、何してるの?」
娘の姿に気づかず、そのままぶつぶつと唸る自分の母に、いぶかしんだ顔を向ける孫策。
「分かんない」
「そう…」
しばらくその姿を眺めていると、孫堅がこちらに帰ってきた。
「…?ああ、雪蓮か。どうした?」
「どうした?じゃないわよ。報告にきたらぶつぶつぶつぶつと、なにかあったの?」
「…ああ。彪夾が馬に乗った事がないんだと。これから客将になる人間を、歩かせる訳にも行かんのでな。どうしようかと思っ
ていたのだが…」
「あら。そういう事なら私が乗せてあげる♪」
喜色満面に、彪夾を引っ張り出す孫策。
「雪蓮。何もあなたでなくてもいいでしょう?」
「そうじゃぞ、策殿」
そこに、周瑜と黄蓋がやってくる。その時ばかりは、その二人が救世主のように光って見えたのだが、それが幻想だとすぐに思い知らされた。
「ぶーぶー。何よー、二人して邪魔してー」
頬を膨らまして抗議する孫策。
「私は色々とこの者に聞きたい事があるのでな」
眼鏡の位置を直しながら、理知的に笑う周瑜。
「わしは単純にこの者に興味がわいてのぅ。なんとも面白そうに見えたのじゃよ」
豪快に笑いながら答える黄蓋。
「あー、もう!そうなんだったら、あたしが連れて行く!」
半ばキレ気味に主導権を奪おうとする孫堅。
それからは、あーでもない、こーでもないの不毛な言い争いが続く。
「(なんか、置いていかれちゃったなー…。…ん?)」
その様を遠巻きに―――その当事者であるくせに―――見ていると、背中を何かに押された。
ブルルッ
こっちに気づけ、とも言わんばかりに佇む馬がいた。
「…馬、か。見た事は何度もあるけど、乗った事は無いんだよなー。お金ないし」
そう言いつつ、馬を撫でる。馬は気持ちよさそうに、こちらに体を預けてきた。
「よく分かんないけど、お前っていい馬?」
自分で言っておいてなんだが、変な質問をしたと思う。
だが、その馬はその問いに答えるがのごとく、動いた。
「へ?うわぉ!?」
頭を体へと滑り込ませ、そのまま首の筋肉を使い、体を動かし、投げる。
すると、面白いように体は一回転しながら馬の背中に収まっていた。
「…あー、ビックリしたー…。って、おい?どこ行くんだ?」
彪夾を乗せたまま、馬は未だに言い争いを続ける女達の所に向かう。
「…ん?雪蓮…黒燕がまた抜け出して…」
「なによ、冥琳。そんな事言ったって…彪夾?」
「や」
彪夾の登場と共に、固まる女性陣。その目は彪夾の乗る馬に注がれていた。
「彪夾。あんた、馬には乗った事が無いはずじゃ…」
孫堅が代表するように問いかける。
「なんか乗せられた」
「黒燕が?あんたを?」
「後ろから突かれて、そのまま撫でたりしてたら、乗せられた」
有りのままをなるべく簡潔に話すと、四人全員が驚愕のため息を吐いた。
「うちで一番気難しい、黒燕が…?」
「初めて会った人間に気を許した…?」
「珍しい事もあるもんじゃのぅ…」
「私なんか、初めての時は蹴られたのに?」
口々に感想を述べる。
改めて馬を見てみる。素人目から見てもかなりいい馬だとは思う。毛並みもしっかりしてるし、筋肉もちゃんとついている。何より、頭がいいと思う。
「あ、でもこれなら私が連れて行けるってことよね!?」
孫策が急に声を上げ、どうだと言わんばかりに胸をそらしている。
「そうだね…。今の所、黒燕には雪蓮しか乗れないし…」
「あきらめますか。城に帰ってからでも、機会はあるでしょう」
「そうじゃな」
「やったー!」
体全体で喜びを表し、馬に飛び乗ってくる孫策。馬、黒燕がちょっと鬱陶しそうに見えたのは気のせいだろうか。
「…なら帰るよ!全軍、進め!」
嬉しそうにする孫策を少し悔しそうに見ながら、指示を飛ばす孫堅。
その声とともに、軍が動き出した。
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