小説:アクレニア戦記 ~二つの決意~ (完結)
一章 変化の予兆
「……ねぇ。あたし、場違いじゃない?」
隣の豪勢な椅子に普通に座っているシオンに、そう頼り無さげな声でユフィーは助けを求めていた。
緊張のためか、体を小刻みに震わせている
「大丈夫だよ。僕の友達って事でさ」
「そんな簡単に言わないでよ!」
ちなみに、このやりとりはかなりの小声で行われている。
なぜなら、二人がいるのは王宮の中にある謁見の間だからだ。
蒼を基調とした色使いの豪勢な家具に、高そうなランプの数々。辺境の小さな村に住むユフィーにとっては、ありえない世界だった。
ギギィ……。
「……ひゃっ……」
突然響いた扉の開く音に、緊張のピークを向かえているユフィーは変な声をあげてしまう。
その姿を見たシオンが笑いを堪えていると、開かれた扉から入ってくる人の影があった。
「シオンよ。よく生き残ったな」
現れたのは、クルト以下数名の忠臣達だった。
その中にはなぜかリサーナの姿もあり、シオンもユフィーもその面々に似合わないメイド姿に驚いていた。
「ええ。でも、トラヴァスが来てくれて助かりましたよ。それに、ユフィーもいましたし」
「ほぅ? 隣にいる者か?」
クルトの言葉に立ち上がりながら、シオンは淡々とだが、しかし少し嬉しそうに答える。その気分のまま隣に座るユフィーを示した。
その息子の言葉に、クルトは若干眉をひそめながらもその方向を向く。
「は、初めまして! ユ、ユフェルニカ・シーファスです!」
言葉をつまらせながらも、何とか自分の名前を名乗ることに成功したユフィー。
すぐさま立ち上がって、綺麗なお辞儀を決める彼女の姿は、普段のユフィーを知る者にとってはかなり新鮮なものであった。
まあ、自国の王様に対して敬語も何もないのはおかしな話であるのだが。
「シーファス殿か。此度は王子と共に魔物の撃退に尽力してくれたこと礼を言う」
だが、クルトにとってはその慌てぶりを見るのは慣れているのか、至って平静に言葉を返す。
しかし、ユフィーにとってはクルトの告げた礼の言葉がいけなかったのであろう。
あたふたと手を振りながら、再び慌てだしてしまった。
「い、いえいえいえいえ! そ、そんな礼を言われるようなことなんかしてないですよ! ……あ、あははは!」
どこか気でも狂ったのか、なぜか高笑いを始めてしまうユフィー。
これにはクルトも驚いたようで、他の者共々固まってしまっていた。
「……と、とりあえずユフィーはこのままで放っておいて。……ゴホン。父上、お話があります」
隣にいたシオンも半ば慌てていたが、胸の中にしまっていた疑念をぶつける事にした。
「なんだ? 話してみろ」
「今回の魔物の襲撃……エスカレルニアの、王国側で報告された襲撃事件と似ていませんか?」
「……ふむ。なぜそう思うのだ?」
シオンの切り出した話題に、クルトは記憶を探るように顔をしかめた後、シオンの言葉の続きを待った。
「僕はエルブレイアと戦っていないので分かりませんが、ヒーナスの方なら分かります。普通なら、共食いを初めてもおかしくないほどの量です。ですが、それをしている所は一度も見ませんでした」
そう深刻な表情で言うシオン。
本来、魔物は群れて行動することはない。それは利害の一致があったとしてもだ。
群れたとしても、限りある同族でのみ。それ以外は食料としか見えていないのが魔物なのである。
そして、空腹の限界にきた魔物は、たとえそれが何であろうと食する。それが同族でも。
だからこそシオンは疑問に思ったのだ。堕ちていた死骸は、全て武器や魔法による傷しかついていないことを。
「……確かにそうであるな。エルブレイアに関しては単独行動であったため、断言は出来ぬが……」
先程の戦闘を思い出しながらクルトは悩み出してしまう。
だが、その後ろから小さく手を挙げる者の姿があった。
「……あのー、少しよろしいでしょうか?」
「ん? 何だリサーナ、申してみよ」
「はい。私はシオン殿下の言う通りだと思っています。私のスタイルは基本的に遊撃ですので、ヒーナスとエルブレイアの動向に疑問を思っていたんです」
クルトの許可を得たリサーナは、恐縮ですというような風に遠慮がちに発言する。
「疑問? 何かあったの? リサーナさん」
だが、その発言された言葉に興味を持ったシオンは、さらに発言を促していく。
「まず、ヒーナスはエルブレイアのお零れを貰うために行動していたはずです。ですが、そんな素振りは一切見せずに我々を共に攻撃してきました。……息が合っているかのように」
「まさか! そんなことがある訳ねぇだろう!」
リサーナの分析した発言に、今まで静かにしていたブレイクがガラの悪い声をあげる。
「ですが、それしか考えられません! そうでもなければ、このシンセミアの街にこうも易々と踏み入られるなど…!」
リサーナはその声に屈することなく自らの意見を主張した。
「ええい! 私たちがここで悩んでいても意味があるまい! 民たちの避難は大丈夫なんだろうな?」
「……はっ! 既に近隣の村や街に避難しております。連絡も取れており……」
クルトの苛立ちのこもった声に、リサーナとブレイクはバツが悪そうに黙ってしまう。
その間に、後ろに控えていた忠臣から報告がなされていく。
伝えられた報告には悲惨な物も混じっていたが、民たちが無事という報告を聞いてクルトは安堵していた。
だが、今まで何かを決めかねるように思案していたシオンが、唐突に顔をあげてこう言った。
「父上、皆、僕の話を聞いてほしい。……僕は、王国に向かってみようと思うんだ」
唐突なシオンの発言に、リサーナは声を荒げてしまう。
「な! 正気ですか殿下!」
「僕は正気だよ、リサーナさん。父上、いいですか?」
そんなお抱えのメイドの姿に、シオンはごくごく普通に言葉を返し、クルトに答えを求める。
「……理由を、聞いておこうか」
クルトは数瞬悩んだ後、そう切り出した。
「まずは情報収集です。王国側の事件と照らし合わせることで、何かが見えてくるかもしれません。そして、王国王家に協力を申し込みます。もう一度こんな事があったとき、どうあっても一国の力じゃ足りませんからそれに、文ではなく直に会って確かめたいんです」
真剣な表情で告げるシオン。
その決断と意志のこもった目に、クルトは何度目かの衝撃を覚えていた。
「(……ふ……恐ろしいものだな。成長という物は……)……よかろう。だが、お前一人で行くというのか?」
「いえ、ユフィーも一緒に」
「ひゃう! え、あ、あたしも!?」
「うん。だって、魔法が扱える人材なんて、そうそういないからね!」
急に話題に出されたユフィーは、変な声をあげながらひどく狼狽してしまう。
だが、シオンは満面の笑みでユフィーを見ながら言い切ってしまった後だ。取り返しは付かない。
「……ふむ。シーファス殿は魔導師であったか。ならば任せられるな」
クルトも顎に手を当てながら、感心するようにうんうんと頷いてユフィーの同行を許可してしまう。
「え、いや、ちょっと! あ、あたしなんてまだ魔法使えるようになったばっかりなんだからね! それに、今さっきの奴でも───」
ひどく狼狽したまま、ユフィーは自分自身の状況を説明しようと喋り始める。
だが、クルトはそんなことはお構い無しにリサーナに指示を飛ばす。
「ほう。ならば…リサーナ! シーファス殿にアレを」
「はっ!」
その指示を受けたリサーナは、軽く一礼した後に部屋から飛び出して行った。
「お持ちして参りました」
「「はやっ!」」
部屋から出てそんなに時間が経っていないというのに、リサーナが布に包まれた大きなものを持って返ってきたことに、シオンとユフィーは同時に突っ込んでしまう。
リサーナはその手に抱えたものをクルトに渡すと、礼をして後ろに控えた。
「魔導師であるなら、媒介の杖は必要であろう。これを持っていくがいい」
布を剥がした先に現れたのは、ゴツゴツとした印象を受ける長杖だった。
宝玉が幾つも散りばめられ、その一つ一つの宝玉が鈍く輝く杖を、クルトはユフィーに向かって差し出しす。
「名を『スターレイン』という。いつまでも肥やしにしておくのは勿体ないのでな。受け取ってくれ」
「『スターレイン』……」
ユフィーは差し出された杖を手に取る。
まるで専用にあつらえられたかのようにユフィーの身長にしっくりとくる杖の長さに、ユフィーは驚きながらもその感触を確かめていく。
ほんの出来心だったのだろう。その杖に対してユフィーは魔力を込めた。
シュオン……。
「キャッ!」
「うわっ、綺麗な宝玉になった!」
その魔力が宝玉に吸い込まれ、宝玉の鈍い輝きが薄い水色の輝きに変わる。
突然の出来事に、シオンはただ単に驚きの声をあげたが、ユフィーの方は面白いぐらいに驚いていた。
「その杖は所持者の魔力を封入し、魔法の発動を早めることができると聞いたことがある。今の輝きは、それがなされた証だろう」
その現象を冷静に分析するクルト。
はっきり言って、ユフィーにはそんな言葉は聞こえてはいなかったのだが、ユフィーはクルトに向かって笑いながらこう言った。
「……気に入った。気に入ったわ。……これ、貰ってもいいんですよね?」
「もちろんだ」
「……なら、ユフィーの武器も手に入ったし、早速行こうか!」
満足そうに頷いたクルトを見て、ユフィーはスターレインを背中に抱える。
それを見たシオンは、早々と部屋を後にしようとする。
「待たんか。せめて今日の疲れを癒し、明日にでも出発しろ。その間に、私が信書を書いてやる」
「信書……。……そうですね、分かりました。なら明朝、僕等は王国に向かって出発します」
「うむ」
クルトはそれだけを答えて、部屋を後にする。
他の忠臣たちもそれに習い、ぞろぞろと部屋から出て行く。
そして、部屋に残ったのはシオンとユフィーとリサーナだった。
「ふぅ……。じゃあ、僕等も明日に向けて休もうか。リサーナさん、ユフィーに部屋を用意してあげて」
「はい、分かりました。では、どうぞこちらへ」
リサーナにユフィーのことを頼むと、シオンは部屋から出て行こうとする。
「……シオン!」
しかし、ユフィーは歩き出しているシオンを呼び止めた。
「ん? なに、ユフィー?」
「あの、えっと……ありがとね」
顔を真っ赤にしながら、消え入りそうな声でお礼の言葉を言うユフィー。
そんなユフィーに、シオンは苦笑しながらこう返した。
「……どういたしまして。じゃ、また明日」
そう言って、シオンは自分の部屋へ向かって行った。
・・・
・・
・
隣の豪勢な椅子に普通に座っているシオンに、そう頼り無さげな声でユフィーは助けを求めていた。
緊張のためか、体を小刻みに震わせている
「大丈夫だよ。僕の友達って事でさ」
「そんな簡単に言わないでよ!」
ちなみに、このやりとりはかなりの小声で行われている。
なぜなら、二人がいるのは王宮の中にある謁見の間だからだ。
蒼を基調とした色使いの豪勢な家具に、高そうなランプの数々。辺境の小さな村に住むユフィーにとっては、ありえない世界だった。
ギギィ……。
「……ひゃっ……」
突然響いた扉の開く音に、緊張のピークを向かえているユフィーは変な声をあげてしまう。
その姿を見たシオンが笑いを堪えていると、開かれた扉から入ってくる人の影があった。
「シオンよ。よく生き残ったな」
現れたのは、クルト以下数名の忠臣達だった。
その中にはなぜかリサーナの姿もあり、シオンもユフィーもその面々に似合わないメイド姿に驚いていた。
「ええ。でも、トラヴァスが来てくれて助かりましたよ。それに、ユフィーもいましたし」
「ほぅ? 隣にいる者か?」
クルトの言葉に立ち上がりながら、シオンは淡々とだが、しかし少し嬉しそうに答える。その気分のまま隣に座るユフィーを示した。
その息子の言葉に、クルトは若干眉をひそめながらもその方向を向く。
「は、初めまして! ユ、ユフェルニカ・シーファスです!」
言葉をつまらせながらも、何とか自分の名前を名乗ることに成功したユフィー。
すぐさま立ち上がって、綺麗なお辞儀を決める彼女の姿は、普段のユフィーを知る者にとってはかなり新鮮なものであった。
まあ、自国の王様に対して敬語も何もないのはおかしな話であるのだが。
「シーファス殿か。此度は王子と共に魔物の撃退に尽力してくれたこと礼を言う」
だが、クルトにとってはその慌てぶりを見るのは慣れているのか、至って平静に言葉を返す。
しかし、ユフィーにとってはクルトの告げた礼の言葉がいけなかったのであろう。
あたふたと手を振りながら、再び慌てだしてしまった。
「い、いえいえいえいえ! そ、そんな礼を言われるようなことなんかしてないですよ! ……あ、あははは!」
どこか気でも狂ったのか、なぜか高笑いを始めてしまうユフィー。
これにはクルトも驚いたようで、他の者共々固まってしまっていた。
「……と、とりあえずユフィーはこのままで放っておいて。……ゴホン。父上、お話があります」
隣にいたシオンも半ば慌てていたが、胸の中にしまっていた疑念をぶつける事にした。
「なんだ? 話してみろ」
「今回の魔物の襲撃……エスカレルニアの、王国側で報告された襲撃事件と似ていませんか?」
「……ふむ。なぜそう思うのだ?」
シオンの切り出した話題に、クルトは記憶を探るように顔をしかめた後、シオンの言葉の続きを待った。
「僕はエルブレイアと戦っていないので分かりませんが、ヒーナスの方なら分かります。普通なら、共食いを初めてもおかしくないほどの量です。ですが、それをしている所は一度も見ませんでした」
そう深刻な表情で言うシオン。
本来、魔物は群れて行動することはない。それは利害の一致があったとしてもだ。
群れたとしても、限りある同族でのみ。それ以外は食料としか見えていないのが魔物なのである。
そして、空腹の限界にきた魔物は、たとえそれが何であろうと食する。それが同族でも。
だからこそシオンは疑問に思ったのだ。堕ちていた死骸は、全て武器や魔法による傷しかついていないことを。
「……確かにそうであるな。エルブレイアに関しては単独行動であったため、断言は出来ぬが……」
先程の戦闘を思い出しながらクルトは悩み出してしまう。
だが、その後ろから小さく手を挙げる者の姿があった。
「……あのー、少しよろしいでしょうか?」
「ん? 何だリサーナ、申してみよ」
「はい。私はシオン殿下の言う通りだと思っています。私のスタイルは基本的に遊撃ですので、ヒーナスとエルブレイアの動向に疑問を思っていたんです」
クルトの許可を得たリサーナは、恐縮ですというような風に遠慮がちに発言する。
「疑問? 何かあったの? リサーナさん」
だが、その発言された言葉に興味を持ったシオンは、さらに発言を促していく。
「まず、ヒーナスはエルブレイアのお零れを貰うために行動していたはずです。ですが、そんな素振りは一切見せずに我々を共に攻撃してきました。……息が合っているかのように」
「まさか! そんなことがある訳ねぇだろう!」
リサーナの分析した発言に、今まで静かにしていたブレイクがガラの悪い声をあげる。
「ですが、それしか考えられません! そうでもなければ、このシンセミアの街にこうも易々と踏み入られるなど…!」
リサーナはその声に屈することなく自らの意見を主張した。
「ええい! 私たちがここで悩んでいても意味があるまい! 民たちの避難は大丈夫なんだろうな?」
「……はっ! 既に近隣の村や街に避難しております。連絡も取れており……」
クルトの苛立ちのこもった声に、リサーナとブレイクはバツが悪そうに黙ってしまう。
その間に、後ろに控えていた忠臣から報告がなされていく。
伝えられた報告には悲惨な物も混じっていたが、民たちが無事という報告を聞いてクルトは安堵していた。
だが、今まで何かを決めかねるように思案していたシオンが、唐突に顔をあげてこう言った。
「父上、皆、僕の話を聞いてほしい。……僕は、王国に向かってみようと思うんだ」
唐突なシオンの発言に、リサーナは声を荒げてしまう。
「な! 正気ですか殿下!」
「僕は正気だよ、リサーナさん。父上、いいですか?」
そんなお抱えのメイドの姿に、シオンはごくごく普通に言葉を返し、クルトに答えを求める。
「……理由を、聞いておこうか」
クルトは数瞬悩んだ後、そう切り出した。
「まずは情報収集です。王国側の事件と照らし合わせることで、何かが見えてくるかもしれません。そして、王国王家に協力を申し込みます。もう一度こんな事があったとき、どうあっても一国の力じゃ足りませんからそれに、文ではなく直に会って確かめたいんです」
真剣な表情で告げるシオン。
その決断と意志のこもった目に、クルトは何度目かの衝撃を覚えていた。
「(……ふ……恐ろしいものだな。成長という物は……)……よかろう。だが、お前一人で行くというのか?」
「いえ、ユフィーも一緒に」
「ひゃう! え、あ、あたしも!?」
「うん。だって、魔法が扱える人材なんて、そうそういないからね!」
急に話題に出されたユフィーは、変な声をあげながらひどく狼狽してしまう。
だが、シオンは満面の笑みでユフィーを見ながら言い切ってしまった後だ。取り返しは付かない。
「……ふむ。シーファス殿は魔導師であったか。ならば任せられるな」
クルトも顎に手を当てながら、感心するようにうんうんと頷いてユフィーの同行を許可してしまう。
「え、いや、ちょっと! あ、あたしなんてまだ魔法使えるようになったばっかりなんだからね! それに、今さっきの奴でも───」
ひどく狼狽したまま、ユフィーは自分自身の状況を説明しようと喋り始める。
だが、クルトはそんなことはお構い無しにリサーナに指示を飛ばす。
「ほう。ならば…リサーナ! シーファス殿にアレを」
「はっ!」
その指示を受けたリサーナは、軽く一礼した後に部屋から飛び出して行った。
「お持ちして参りました」
「「はやっ!」」
部屋から出てそんなに時間が経っていないというのに、リサーナが布に包まれた大きなものを持って返ってきたことに、シオンとユフィーは同時に突っ込んでしまう。
リサーナはその手に抱えたものをクルトに渡すと、礼をして後ろに控えた。
「魔導師であるなら、媒介の杖は必要であろう。これを持っていくがいい」
布を剥がした先に現れたのは、ゴツゴツとした印象を受ける長杖だった。
宝玉が幾つも散りばめられ、その一つ一つの宝玉が鈍く輝く杖を、クルトはユフィーに向かって差し出しす。
「名を『スターレイン』という。いつまでも肥やしにしておくのは勿体ないのでな。受け取ってくれ」
「『スターレイン』……」
ユフィーは差し出された杖を手に取る。
まるで専用にあつらえられたかのようにユフィーの身長にしっくりとくる杖の長さに、ユフィーは驚きながらもその感触を確かめていく。
ほんの出来心だったのだろう。その杖に対してユフィーは魔力を込めた。
シュオン……。
「キャッ!」
「うわっ、綺麗な宝玉になった!」
その魔力が宝玉に吸い込まれ、宝玉の鈍い輝きが薄い水色の輝きに変わる。
突然の出来事に、シオンはただ単に驚きの声をあげたが、ユフィーの方は面白いぐらいに驚いていた。
「その杖は所持者の魔力を封入し、魔法の発動を早めることができると聞いたことがある。今の輝きは、それがなされた証だろう」
その現象を冷静に分析するクルト。
はっきり言って、ユフィーにはそんな言葉は聞こえてはいなかったのだが、ユフィーはクルトに向かって笑いながらこう言った。
「……気に入った。気に入ったわ。……これ、貰ってもいいんですよね?」
「もちろんだ」
「……なら、ユフィーの武器も手に入ったし、早速行こうか!」
満足そうに頷いたクルトを見て、ユフィーはスターレインを背中に抱える。
それを見たシオンは、早々と部屋を後にしようとする。
「待たんか。せめて今日の疲れを癒し、明日にでも出発しろ。その間に、私が信書を書いてやる」
「信書……。……そうですね、分かりました。なら明朝、僕等は王国に向かって出発します」
「うむ」
クルトはそれだけを答えて、部屋を後にする。
他の忠臣たちもそれに習い、ぞろぞろと部屋から出て行く。
そして、部屋に残ったのはシオンとユフィーとリサーナだった。
「ふぅ……。じゃあ、僕等も明日に向けて休もうか。リサーナさん、ユフィーに部屋を用意してあげて」
「はい、分かりました。では、どうぞこちらへ」
リサーナにユフィーのことを頼むと、シオンは部屋から出て行こうとする。
「……シオン!」
しかし、ユフィーは歩き出しているシオンを呼び止めた。
「ん? なに、ユフィー?」
「あの、えっと……ありがとね」
顔を真っ赤にしながら、消え入りそうな声でお礼の言葉を言うユフィー。
そんなユフィーに、シオンは苦笑しながらこう返した。
「……どういたしまして。じゃ、また明日」
そう言って、シオンは自分の部屋へ向かって行った。
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