小説:アクレニア戦記 ~二つの決意~ (完結)
五章 すべての終わり
「……ここだ。ここからが、私たちも知らない場所になる」
「そっか。ありがとう、リュウナさん」
「礼など言われたくないな。ただ、私は出来ることをした。それだけだ」
「それでも。ありがとうとは言わせてもらうよ?」
「ふん。勝手にしろ」
リュウナに案内されて辿り着いたのは、大きな扉の前。装飾が一切施されていない、大きな石の扉。
これが砦の性質上重要なものかはまったく分からないが、それでもシオンたちは感じずにはいられなかった。
その扉の先から放たれる異質な雰囲気を。
「ごちゃごちゃ言う必要は無いわ。さっさと行き――」
「その通りだ。早く来い」
「っ!」
扉を開けようとしたユフィーが、その扉の先から響いた男の声に扉にかけた手を止めた。
そして、その手から扉が離れ、独りでに開け放たれる。
ゆっくりと鈍い音を立てながら開く石の扉に、クロストティア以外は武器を構え、戦闘態勢をとった。
「無様だな。簡単に心を許すなど」
グサッ。
「ちっ!」
「がっ!」
「て、てめぇ!」
突如として飛来した鉄の槍が、シオンたちの後ろにいたクロストティアたちに突き刺さる。
普段なら避けることもできたはずの早さで飛来した鉄の槍だったが、それを放った人物が問題だった。
「ゴミはいらない。簡単に心変わりをするような奴はな」
槍を投擲し終わった形跡など無いのにもかかわらず、それでもシオンたちには分かった。
この灰色のよれよれの髪を後ろに纏めた、タバコを吹かして余裕の表情を浮かべる男が、それを行ったのだと。今の今まで仲間だった者を、平気で傷つけたのだと。
「なっ! 何て事をしているんだ! 仲間だったはずだろう!?」
辛うじて致命傷は避けたようだが、それでも肩や足、腕に突き刺さった槍を見ながらシオンは叫ぶ。
「仲間? お前たちの茶番は全てその言葉で片付けるな。クックック……笑わせてくれる」
「何を……!」
「もう分かっているんだろう? 俺がハイアット・エンジェナー。こいつらを使って色々としてたもんさ。そして俺は、クロストティアじゃない」
その唐突な告白に、シオンたちはおろか、クロストティア達も度肝を抜かされる。
こんなことをしでかしているのだから、当然この黒幕風な男も、そうなのであろうと全員が思っていたのだから。
「さて。俺が用があるのはそこの小僧だけだ。他はいらないな。死ね」
呟きともとれる小さな言葉とともに、今度は短剣が投げられる。
その投げられた量は計り知れず、視界全てが短剣に覆われた短剣の壁が出来上がっていた。
「くそっ! 時を早め、その脅威を全て無へ。あるべき物を、終わらせよ! 『速メ、無ヘ(スピーディア・ゼロ)』!」
シオンの体から、時の魔法特有の金色の光が放たれる。
その金色の光は、迫りくる短剣の壁以上にその光を伸ばし、その端から包み込んでいく。
そして、変化は起こった。
金色の光に包まれた短剣は錆び、風化していく。劣化していくその様を見たハイアットは、大して驚いた風でもなく、新たな策を講じた。
「やはりな。だが、お前の体力は持つのかな?」
「はぁ……はぁ……はぁ……。……持たせて、見せるさ」
額には玉のような汗が浮かび、見るからに苦しそうなシオン。
ユリが言ったようにしっかりと意識を保つようにはしているが、一瞬でも気を抜けば後がどうなるかが分からない。死が待っているのかもしれないと、シオンは覚悟していた。
そして再び、短剣が小規模だが密度の濃い状態でシオンに向かって放たれる。
「く、そっ! 時を──」
「言ったでしょ? あんただけに、重荷を負わす事はしないわ」
「そうですよ。私たちも、頼ってくださいね?」
「右腕しか使えないけど、君を守ることぐらいならできるよ!」
時の魔法で向かえ討とうとしたシオンの脇を、頼りになる仲間の少女達が通り過ぎる。
短剣を凍らせ、風でなぎ払い、槍で弾く。頼もしい仲間の助けを得て、シオンはハイアットに向かって笑みを浮かべた。
「まだ、やる気ですか?」
「当たり前だ。これは、世界のための戦いだ。正しき世界を作るためには、今ある偽りの世界を壊すことこそが、世界のためなのだから」
「世界のため? 彼らも言っていた。なぜ月を一つにすることが、平和になると言うんだ?」
唯一解けなかった疑問。
月の存在。これがなぜここまで重要なのか。
そして、それで本当に世界が平和になるのか。それがシオンにはまったく想像がつかなかった。
「……人の月、魔物の月。ならば魔物の月が無くなれば、平和になる。これが、古より伝わりし、月の伝説」
「……そんな事ができる訳ないでしょう? 月はこの空の遥か彼方、その先にあるのよ? どうやって手を出すっていうの?」
ユフィーがハイアットの言葉に噛みつく。
月は空に輝いている。それに手が届いた者は、この世界中どこを探してもいない。
リィナのような風の魔法を扱える者でも、どんな科学技術を持ってしても、その領域には誰も至ってはいないのだ。
その事を端的に示したユフィーの言葉に、ハイアットは笑いを堪えるように、下を向きながら俯く。
だが、それもすぐに終わり、真っ直ぐにシオンを見つめた。血走った両目で、シオンの中にある、時の力を睨むように。
「……これだから無知は嫌いだ。あるのだよ、方法がな。その時の力を……『禁忌の力』を……『失われし魔法』を使えばな」
「禁忌の力? 失われし魔法? 何を言っているんだ!」
「言葉の通りさ。……時の力の象徴……時の魔剣……。その力を持って、俺は世界を作り直す! その力、『エヴィーディタイマー』を持って!」
その言葉と共に、シオンとよく似た、だがどこかが、何かが決定的に違う金色の光がハイアットを包み込んだ。
「なに!? こ、これは!」
「シオンと同じ光……じゃあ!?」
「いえ! 何か違います! こう……何かが!」
「私も分かるよ。暖かくない、全然、冷たい光……」
ハイアットの声と共に出現した、金色の光。
その金色の光に狼狽えるシオンたちだったが、唯一カナだけは冷静だった。いや、悲しそうな顔をしたまま、その光を見つめていたのだ。
「分かる。あの光には、優しさが無い。シオン君とは違う……絶対に違う、冷たい光……」
「……! カナ! その光は!」
「私が、冷やしてあげる。これで!」
シオンがカナの異変に気づき、声を荒げる。
だが、どこか意識が無いような目をしたカナは、右手一本で槍を振り回した後、その槍に宿る蒼色の光に命じた。
「……水龍。走れ、伝え、踊れ、喰らえ、捕らえよ。鎖となりて、敵を締め上げろ! 『水龍流鎖(ドラゴニック・チェイン)』!」
レストーションに纏った光が、絡みつく水龍となり、猛る。
そして、その龍は命を受けた通りに、ハイアットに絡みつき、締め上げた。
「……この程度か? 興ざめだな」
体に絡みつく水龍を余裕の表情を浮かべたまま引き千切る。
その行動に驚愕を浮かべる面々に、ハイアットはただ無感動に手を掲げるのみ。
生まれたのは、金色の光。その金色の光の性質をよく知る者たちは、その脅威に顔を歪ませる。だが、その金色の光はすぐに霧散した。
「へ? ど、どういうこと?」
「……俺には時の力は無い。これはただの虚像。ただ、本物を模倣しただけの劣化番だ」
「どうしてそんなものをあんたが使えるのよ。それに、そんな光なんてシオンのを見るまでは見たこともなかったわよ?」
「当たり前だ。これは俺が独自に調べ、復讐のために会得した物。だから足りない、足りないのだ。全て、俺が望む物には!」
激昂し、シオンに向かって突撃していくハイアット。
得物もなく、ただその身そのままの突貫だが、その動きは素早かった。
「くっ! 君は、何がしたいんだ!」
「聞いていなかったのか? 俺はただ、世界を作り直す。復讐のために」
「ふざけるな! ただの私怨で、そんな事を行うなんて許されるはずがない!」
「許されると思っているなら、こんなことはしないと思うがね!」
ガキィン!
ハイアットが隠し持っていた短剣と、シオンのカテドラルが交差し、金属特有の嫌な音を奏でる。
その見事な鍔迫り合いに、ユフィーたちは手が出せず、見守るしかできなかった。
「だからって、何でこんな事を! 復讐なんて、絶対に間違ってる! 負の感情に縛られたまま生きてちゃ、絶対に笑えない! 心から、笑うことなんかできない!」
「そんなもの必要ない! なぜ笑わねばならない! 何のために笑う! お前は、何のために!」
「仲間だ! 友達だ! ……大切な人達のために、僕は笑う! 笑っていてほしいから!!」
ギャリィン……。
何とかハイアットの猛攻を弾き飛ばし、その出方を伺うシオン。
あの奇っ怪な偽者だという金色の光。シオンの時の力を模倣したと言うあの光以外は、ハイアットの動きに特別さは見られない。いわば普通だった。
とは言っても、短剣の扱いやその鬼気迫る気迫は一級品そのもの。いくらシオンが王族で、それに見合う訓練を受けているとは言っても、分が悪い。
だが、ハイアットは手を緩めることはせず、再びシオンに向かって突進していく。
今度は短剣を二本、両手に携えての突進。その突進を、飛び出したリィナが受け止めた。
先ほどのシオンのような鍔迫り合いを演じ、風燐華に魔力を集中させていく。溢れ出す魔力は風燐華に風を纏わせ、その風を暴風へ、竜巻へと変化させる。
しかし、その竜巻を目の前にしてもハイアットの表情は変わらなかった。
「邪魔だ。失せろ」
「失せません! あなたには、教えてほしいことがあります!」
「俺には無いな、お前に教えることなど。消えろ、風」
風燐華に風を纏わせているというのに、ハイアットは一歩も引かず、逆に攻撃を繰り出してくる。
両手の短剣を振り、様々な角度から切りつけていく。
得物の長さからか、短剣の取り回しは速い。それが、リィナにとっては決定的な致命打となる。二本の短い短剣と、長さのある風燐華の刀身。その圧倒的不利な状況をリィナは覆せず、風燐華と共にその体を弾き飛ばされた。
「リィナちゃん! へー……君、結構強いんだね」
「覚醒したとは言っても、所詮は腕一本。お前に俺が殺せるのか?」
「……こ、殺す……」
「見ていたぞ? 先ほどの戦闘。お前に、俺が殺せるのか?」
二度目のハイアットの質問。
その質問の重みに、カナは一瞬たじろぐ。
だが、彼女にはついてくれている仲間がいる。想いを分けてくれた、恩人が。
「……殺さない。……私が殺すのは、君のその想いだよ。絶対、それは間違ってるから!」
「お前に決めつけられる同義は無い。お前も消え失せろ、水」
無意識の状態だが、それでも槍に纏わせている水は、カナの想いに応えて猛っている。
ざわざわとうごめき、放たれるのを待つ水の本流を、カナは解き放つ。目の前に立つ、狂気を身に宿した男の、その狂気を洗い流すために。
放たれた水の本流は、前回と同様龍の形をとってハイアットに迫る。
その水龍を、ハイアットは握り潰す。その人間とは思えない芸当に、魔法が扱える身として旋律を覚えるユフィー。だが、カナはその事が予想できていたのか、レストーションを真っ直ぐに突き刺す。
走るハイアットの足元へと突き出された槍を、ハイアットは冷静な表情のまま踏み落とした。
「なっ! これ、なら!」
「無駄だと言っている。お前はもう退場していろ」
「カナ! 引きなさい! 凍りつけ。永遠の牢獄へと、その魂を閉じ込めよ。咎を受けしは、心の闇! 『牢獄ノ氷闇(ジュエル・アイダーク)』!」
薄く濁った氷の牢獄が、ハイアットに向かって落ちる。
その牢獄は微妙な位置調節により、見事にハイアットの頭上に綺麗に落ちた。
「……こんなもの」
「簡単には壊れないわよ。だってそれ、一番固く作った奴だから」
「関係ない。全てには綻びがある。だからこそ……!」
バキャァン!
「えっ!? そ、そんな簡単にっ!」
「お前は無用だ。魔法が無ければ、意味が無い。無くなれ、氷よ」
スターレインを構え直すユフィーだが、そのスターレインを弾き飛ばされてしまう。
簡単に蹴り飛ばされてしまったスターレインを握っていた手を見て、ユフィーは愕然とする。
「お前はそれだけしかないのだ。魔が無ければ、お前はどうすることもできない」
「そんなこと!」
「ユフィー! いいんだ、下がってて!」
「シオン!?」
「僕がやる。大丈夫、僕は大丈夫さ」
シオンがユフィーを止める。
スターレインが手元に無い状態で戦うのはかなり無茶だが、ユフィーとしてはまだ戦えた。魔力も残っているし、怪我もない。だからこそユフィーは戦いたかったのだ。シオンと共に、同じ立場に。
だが、シオンはそれを止めた。
後ろで待っていて欲しくて。帰るべき場所を、守っていてほしかったから。
その想いを込めたシオンの言葉に、ユフィーは黙るしかなかった。
「さあ、始めようか。君は、僕の力が欲しいんだろ?」
「ああ。その力のためなら、俺はなんでもしてやる」
「なんでも、ね。僕は、その考えは分からない。だって、力を求めるだけでは意味ないじゃないか」
「はっ! 意味なんか求めていたら、何も出来はしない! だからこそ、俺は求める! 力を!」
「復讐のために、力は使わせない! この力は!」
シオンがそう叫び、自らの手を胸に突き入れる。
金色の光を帯びたその手を胸から引き抜き、そこからハイアットが求める力を取り出すシオン。
彼には聞こえていたのだ。自らの中に宿った、時の聖霊エヴィデンスの声が。
『君の心臓が、この者が求める力、エヴィーディタイマーだ。それを見せよ』と。
「それが、エヴィーディタイマー……。世界を変える、時の力か……」
どこか陶酔したような表情で、シオンの体から生まれた金色の光を見つめるハイアット。
その金色の光は形を変え、剣の形を取っていく。
「そう。でもこの力は悠久の力。時の流れを統一し、操る禁断の力。……この力を、君の復讐何かに使わせはしない!」
剃りの強い片刃の剣を、慣れないながらも構えるシオン。
その剣を見て、ハイアットは走り出した。
「それを寄越せ! その力があれば、俺の願いは叶う!」
「願いを叶えるためだけに、力を欲するなんて! 与えられるだけの力に、何の意味があるっていうんだ!」
「それが持たぬ者の考えだ! 持つ者がその想いを理解することはできない!」
「出来るさ! それが出来るように、僕は努力してきた! 民たちに理解され、信頼されるために僕は努力する! お互いがお互いを求めあえる中になれるように!」
「そんな絵空事!」
取り出した短剣をぶつけ、想いと共に切りつけていくハイアット。
その動きについていくのが精一杯のシオンだが、鍔迫り合いに持っていくようにシオンは動く。
シオンは戦いたくないのだ。彼すらも、助けたいのだ。
「僕は君を助ける! そんな復讐にとらわれた君の心を! この時の力は、そのために手に入れたんだ! 僕は、みんなが幸せで笑っていられる、そんな世界のためにこの力を使うんだ!」
シオンの体から、金色の光が、時の力が溢れ出す。
手元にあるエヴィーディタイマーもその力に共鳴し、その剣身をより一層輝かせる。
「……綺麗ね……」
「……やっぱり、シオンさんの光です……」
「……暖かな光……」
その金色の光を見て、少女達は呟く。
ある者は頬を赤く染め、少年の光をみつめる。またある者はその光を賞賛し、その光を少年の優しさと照らし合わせる。はたまた、ある者は光に手を伸ばし、その温もりを肌で感じている。
三者三様のその感じ方は、あながち間違いではなかった。
「……俺は……そんな物を求めてはいない! 俺が求めているのは、絶対的な力! 全てを覆す、真理の時の力だ! そんな光が、俺が求めたもののはずが無い!」
「いや、これが時の力だよ。聖霊と心を通わせ、魔法を最大限に発揮する、心の光。自分で言ってて恥ずかしいけどね」
「ふざけるな! ならば、俺が求めた物はどこにあるというのだ!」
「そんなもの、最初から無かったんだ。それか、君は求めていたんだよ、救いを」
「救いなどいらない! なぜこの俺が救われなければいけないのだ! 救われるべきは、世界なのだ! なぜ!?」
「君も世界の一部に決まってるからじゃないか!」
シオンのその言葉に、ハイアットの顔色が変わる。
今までただ喚き散らしていた男の姿が、おとなしくなって下を向く。全てが無駄に終わってしまったのかと。
だが、シオンのその一言はハイアットの答えだった。
彼は、全てを魔物に奪われ、復讐の時を生きていた。世界に有り様を恨み、全てを呪った。
そんな時に知った月の伝承。それこそが、自らを貶めた世界への復讐と、救いだった。そう、信じていたのだ。
「世界の一部だから! 君も、世界に必要な一人だから! 誰一人、欠けちゃいけないんだ!」
「なぜそんな事が言える! 俺が世界に必要とされているなどと! 全てを奪われ、滑稽にも復讐を選んだ、男の事など!」
認めたくなくて。ハイアットはシオンへと突っ込んでいった。
だが、そのがむしゃらなまでの直線的な動きに、今までのキレは一切感じられず、簡単に抑えることができた。
ドカッ!
「いい加減にしろ! なぜそうも悲観的になる必要があるんだ! 前を、明日を向いて生きてみなよ! そしたら、絶対に世界は、綺麗に見えるはずだから!」
そんなハイアットの動きに憤りを覚えたシオンは、その憤りのままにその頬を殴っていた。
殴られたハイアットは鑪を踏み、何とか倒れまいと持ちこたえる。
そこからの反撃は無く、ただ呆然とシオンを見ていた。
「世界が綺麗に……? ふっ……本当にお前は綺麗事を言うのだな」
「綺麗事なんかじゃない。人の想いは、そんな物では計れないんだ。だからこそ、綺麗なんだよ」
「ククク……ははは……はーっはっはっは! そこまで言うなら従ってみてやろう。お前の綺麗事に」
タカが外れたように笑い声をあげると、急にそんな事を宣うハイアット。
だが、シオンはそれでもよかった。
それでも、男の喧騒が晴れるのなら。もうこれ以上、戦わなくてもいいのなら。
「従う必要なんかないさ。ただ、分かってくれればいい。こうやって、話してくれればいい。僕が目指す世界は、『分かり合う事の出来る世界』だから」
「分かり合う、か。……俺はお前が分からない。それでもいいのか?」
「分かってもらうように努力するよ。だから君も、分かるように努力してね?」
「……善処する……」
そして、二人は手を握らないまでも和解した。
どれだけの困難があっても、それを乗り越えたときに、人は更なる絆が芽生え、その絆は強固になっていく。
初めは綻んでいてもいい。他者と他者が本当に分かり合うことなど、本来はありえないのだから。
だからこそ、シオンは手を取り合うことで分かり合おうと努力し、話し合うことで友達になるのだ。
それが、世界をいい方向に持っていく唯一の『決意の力』だと信じて──。
「そっか。ありがとう、リュウナさん」
「礼など言われたくないな。ただ、私は出来ることをした。それだけだ」
「それでも。ありがとうとは言わせてもらうよ?」
「ふん。勝手にしろ」
リュウナに案内されて辿り着いたのは、大きな扉の前。装飾が一切施されていない、大きな石の扉。
これが砦の性質上重要なものかはまったく分からないが、それでもシオンたちは感じずにはいられなかった。
その扉の先から放たれる異質な雰囲気を。
「ごちゃごちゃ言う必要は無いわ。さっさと行き――」
「その通りだ。早く来い」
「っ!」
扉を開けようとしたユフィーが、その扉の先から響いた男の声に扉にかけた手を止めた。
そして、その手から扉が離れ、独りでに開け放たれる。
ゆっくりと鈍い音を立てながら開く石の扉に、クロストティア以外は武器を構え、戦闘態勢をとった。
「無様だな。簡単に心を許すなど」
グサッ。
「ちっ!」
「がっ!」
「て、てめぇ!」
突如として飛来した鉄の槍が、シオンたちの後ろにいたクロストティアたちに突き刺さる。
普段なら避けることもできたはずの早さで飛来した鉄の槍だったが、それを放った人物が問題だった。
「ゴミはいらない。簡単に心変わりをするような奴はな」
槍を投擲し終わった形跡など無いのにもかかわらず、それでもシオンたちには分かった。
この灰色のよれよれの髪を後ろに纏めた、タバコを吹かして余裕の表情を浮かべる男が、それを行ったのだと。今の今まで仲間だった者を、平気で傷つけたのだと。
「なっ! 何て事をしているんだ! 仲間だったはずだろう!?」
辛うじて致命傷は避けたようだが、それでも肩や足、腕に突き刺さった槍を見ながらシオンは叫ぶ。
「仲間? お前たちの茶番は全てその言葉で片付けるな。クックック……笑わせてくれる」
「何を……!」
「もう分かっているんだろう? 俺がハイアット・エンジェナー。こいつらを使って色々としてたもんさ。そして俺は、クロストティアじゃない」
その唐突な告白に、シオンたちはおろか、クロストティア達も度肝を抜かされる。
こんなことをしでかしているのだから、当然この黒幕風な男も、そうなのであろうと全員が思っていたのだから。
「さて。俺が用があるのはそこの小僧だけだ。他はいらないな。死ね」
呟きともとれる小さな言葉とともに、今度は短剣が投げられる。
その投げられた量は計り知れず、視界全てが短剣に覆われた短剣の壁が出来上がっていた。
「くそっ! 時を早め、その脅威を全て無へ。あるべき物を、終わらせよ! 『速メ、無ヘ(スピーディア・ゼロ)』!」
シオンの体から、時の魔法特有の金色の光が放たれる。
その金色の光は、迫りくる短剣の壁以上にその光を伸ばし、その端から包み込んでいく。
そして、変化は起こった。
金色の光に包まれた短剣は錆び、風化していく。劣化していくその様を見たハイアットは、大して驚いた風でもなく、新たな策を講じた。
「やはりな。だが、お前の体力は持つのかな?」
「はぁ……はぁ……はぁ……。……持たせて、見せるさ」
額には玉のような汗が浮かび、見るからに苦しそうなシオン。
ユリが言ったようにしっかりと意識を保つようにはしているが、一瞬でも気を抜けば後がどうなるかが分からない。死が待っているのかもしれないと、シオンは覚悟していた。
そして再び、短剣が小規模だが密度の濃い状態でシオンに向かって放たれる。
「く、そっ! 時を──」
「言ったでしょ? あんただけに、重荷を負わす事はしないわ」
「そうですよ。私たちも、頼ってくださいね?」
「右腕しか使えないけど、君を守ることぐらいならできるよ!」
時の魔法で向かえ討とうとしたシオンの脇を、頼りになる仲間の少女達が通り過ぎる。
短剣を凍らせ、風でなぎ払い、槍で弾く。頼もしい仲間の助けを得て、シオンはハイアットに向かって笑みを浮かべた。
「まだ、やる気ですか?」
「当たり前だ。これは、世界のための戦いだ。正しき世界を作るためには、今ある偽りの世界を壊すことこそが、世界のためなのだから」
「世界のため? 彼らも言っていた。なぜ月を一つにすることが、平和になると言うんだ?」
唯一解けなかった疑問。
月の存在。これがなぜここまで重要なのか。
そして、それで本当に世界が平和になるのか。それがシオンにはまったく想像がつかなかった。
「……人の月、魔物の月。ならば魔物の月が無くなれば、平和になる。これが、古より伝わりし、月の伝説」
「……そんな事ができる訳ないでしょう? 月はこの空の遥か彼方、その先にあるのよ? どうやって手を出すっていうの?」
ユフィーがハイアットの言葉に噛みつく。
月は空に輝いている。それに手が届いた者は、この世界中どこを探してもいない。
リィナのような風の魔法を扱える者でも、どんな科学技術を持ってしても、その領域には誰も至ってはいないのだ。
その事を端的に示したユフィーの言葉に、ハイアットは笑いを堪えるように、下を向きながら俯く。
だが、それもすぐに終わり、真っ直ぐにシオンを見つめた。血走った両目で、シオンの中にある、時の力を睨むように。
「……これだから無知は嫌いだ。あるのだよ、方法がな。その時の力を……『禁忌の力』を……『失われし魔法』を使えばな」
「禁忌の力? 失われし魔法? 何を言っているんだ!」
「言葉の通りさ。……時の力の象徴……時の魔剣……。その力を持って、俺は世界を作り直す! その力、『エヴィーディタイマー』を持って!」
その言葉と共に、シオンとよく似た、だがどこかが、何かが決定的に違う金色の光がハイアットを包み込んだ。
「なに!? こ、これは!」
「シオンと同じ光……じゃあ!?」
「いえ! 何か違います! こう……何かが!」
「私も分かるよ。暖かくない、全然、冷たい光……」
ハイアットの声と共に出現した、金色の光。
その金色の光に狼狽えるシオンたちだったが、唯一カナだけは冷静だった。いや、悲しそうな顔をしたまま、その光を見つめていたのだ。
「分かる。あの光には、優しさが無い。シオン君とは違う……絶対に違う、冷たい光……」
「……! カナ! その光は!」
「私が、冷やしてあげる。これで!」
シオンがカナの異変に気づき、声を荒げる。
だが、どこか意識が無いような目をしたカナは、右手一本で槍を振り回した後、その槍に宿る蒼色の光に命じた。
「……水龍。走れ、伝え、踊れ、喰らえ、捕らえよ。鎖となりて、敵を締め上げろ! 『水龍流鎖(ドラゴニック・チェイン)』!」
レストーションに纏った光が、絡みつく水龍となり、猛る。
そして、その龍は命を受けた通りに、ハイアットに絡みつき、締め上げた。
「……この程度か? 興ざめだな」
体に絡みつく水龍を余裕の表情を浮かべたまま引き千切る。
その行動に驚愕を浮かべる面々に、ハイアットはただ無感動に手を掲げるのみ。
生まれたのは、金色の光。その金色の光の性質をよく知る者たちは、その脅威に顔を歪ませる。だが、その金色の光はすぐに霧散した。
「へ? ど、どういうこと?」
「……俺には時の力は無い。これはただの虚像。ただ、本物を模倣しただけの劣化番だ」
「どうしてそんなものをあんたが使えるのよ。それに、そんな光なんてシオンのを見るまでは見たこともなかったわよ?」
「当たり前だ。これは俺が独自に調べ、復讐のために会得した物。だから足りない、足りないのだ。全て、俺が望む物には!」
激昂し、シオンに向かって突撃していくハイアット。
得物もなく、ただその身そのままの突貫だが、その動きは素早かった。
「くっ! 君は、何がしたいんだ!」
「聞いていなかったのか? 俺はただ、世界を作り直す。復讐のために」
「ふざけるな! ただの私怨で、そんな事を行うなんて許されるはずがない!」
「許されると思っているなら、こんなことはしないと思うがね!」
ガキィン!
ハイアットが隠し持っていた短剣と、シオンのカテドラルが交差し、金属特有の嫌な音を奏でる。
その見事な鍔迫り合いに、ユフィーたちは手が出せず、見守るしかできなかった。
「だからって、何でこんな事を! 復讐なんて、絶対に間違ってる! 負の感情に縛られたまま生きてちゃ、絶対に笑えない! 心から、笑うことなんかできない!」
「そんなもの必要ない! なぜ笑わねばならない! 何のために笑う! お前は、何のために!」
「仲間だ! 友達だ! ……大切な人達のために、僕は笑う! 笑っていてほしいから!!」
ギャリィン……。
何とかハイアットの猛攻を弾き飛ばし、その出方を伺うシオン。
あの奇っ怪な偽者だという金色の光。シオンの時の力を模倣したと言うあの光以外は、ハイアットの動きに特別さは見られない。いわば普通だった。
とは言っても、短剣の扱いやその鬼気迫る気迫は一級品そのもの。いくらシオンが王族で、それに見合う訓練を受けているとは言っても、分が悪い。
だが、ハイアットは手を緩めることはせず、再びシオンに向かって突進していく。
今度は短剣を二本、両手に携えての突進。その突進を、飛び出したリィナが受け止めた。
先ほどのシオンのような鍔迫り合いを演じ、風燐華に魔力を集中させていく。溢れ出す魔力は風燐華に風を纏わせ、その風を暴風へ、竜巻へと変化させる。
しかし、その竜巻を目の前にしてもハイアットの表情は変わらなかった。
「邪魔だ。失せろ」
「失せません! あなたには、教えてほしいことがあります!」
「俺には無いな、お前に教えることなど。消えろ、風」
風燐華に風を纏わせているというのに、ハイアットは一歩も引かず、逆に攻撃を繰り出してくる。
両手の短剣を振り、様々な角度から切りつけていく。
得物の長さからか、短剣の取り回しは速い。それが、リィナにとっては決定的な致命打となる。二本の短い短剣と、長さのある風燐華の刀身。その圧倒的不利な状況をリィナは覆せず、風燐華と共にその体を弾き飛ばされた。
「リィナちゃん! へー……君、結構強いんだね」
「覚醒したとは言っても、所詮は腕一本。お前に俺が殺せるのか?」
「……こ、殺す……」
「見ていたぞ? 先ほどの戦闘。お前に、俺が殺せるのか?」
二度目のハイアットの質問。
その質問の重みに、カナは一瞬たじろぐ。
だが、彼女にはついてくれている仲間がいる。想いを分けてくれた、恩人が。
「……殺さない。……私が殺すのは、君のその想いだよ。絶対、それは間違ってるから!」
「お前に決めつけられる同義は無い。お前も消え失せろ、水」
無意識の状態だが、それでも槍に纏わせている水は、カナの想いに応えて猛っている。
ざわざわとうごめき、放たれるのを待つ水の本流を、カナは解き放つ。目の前に立つ、狂気を身に宿した男の、その狂気を洗い流すために。
放たれた水の本流は、前回と同様龍の形をとってハイアットに迫る。
その水龍を、ハイアットは握り潰す。その人間とは思えない芸当に、魔法が扱える身として旋律を覚えるユフィー。だが、カナはその事が予想できていたのか、レストーションを真っ直ぐに突き刺す。
走るハイアットの足元へと突き出された槍を、ハイアットは冷静な表情のまま踏み落とした。
「なっ! これ、なら!」
「無駄だと言っている。お前はもう退場していろ」
「カナ! 引きなさい! 凍りつけ。永遠の牢獄へと、その魂を閉じ込めよ。咎を受けしは、心の闇! 『牢獄ノ氷闇(ジュエル・アイダーク)』!」
薄く濁った氷の牢獄が、ハイアットに向かって落ちる。
その牢獄は微妙な位置調節により、見事にハイアットの頭上に綺麗に落ちた。
「……こんなもの」
「簡単には壊れないわよ。だってそれ、一番固く作った奴だから」
「関係ない。全てには綻びがある。だからこそ……!」
バキャァン!
「えっ!? そ、そんな簡単にっ!」
「お前は無用だ。魔法が無ければ、意味が無い。無くなれ、氷よ」
スターレインを構え直すユフィーだが、そのスターレインを弾き飛ばされてしまう。
簡単に蹴り飛ばされてしまったスターレインを握っていた手を見て、ユフィーは愕然とする。
「お前はそれだけしかないのだ。魔が無ければ、お前はどうすることもできない」
「そんなこと!」
「ユフィー! いいんだ、下がってて!」
「シオン!?」
「僕がやる。大丈夫、僕は大丈夫さ」
シオンがユフィーを止める。
スターレインが手元に無い状態で戦うのはかなり無茶だが、ユフィーとしてはまだ戦えた。魔力も残っているし、怪我もない。だからこそユフィーは戦いたかったのだ。シオンと共に、同じ立場に。
だが、シオンはそれを止めた。
後ろで待っていて欲しくて。帰るべき場所を、守っていてほしかったから。
その想いを込めたシオンの言葉に、ユフィーは黙るしかなかった。
「さあ、始めようか。君は、僕の力が欲しいんだろ?」
「ああ。その力のためなら、俺はなんでもしてやる」
「なんでも、ね。僕は、その考えは分からない。だって、力を求めるだけでは意味ないじゃないか」
「はっ! 意味なんか求めていたら、何も出来はしない! だからこそ、俺は求める! 力を!」
「復讐のために、力は使わせない! この力は!」
シオンがそう叫び、自らの手を胸に突き入れる。
金色の光を帯びたその手を胸から引き抜き、そこからハイアットが求める力を取り出すシオン。
彼には聞こえていたのだ。自らの中に宿った、時の聖霊エヴィデンスの声が。
『君の心臓が、この者が求める力、エヴィーディタイマーだ。それを見せよ』と。
「それが、エヴィーディタイマー……。世界を変える、時の力か……」
どこか陶酔したような表情で、シオンの体から生まれた金色の光を見つめるハイアット。
その金色の光は形を変え、剣の形を取っていく。
「そう。でもこの力は悠久の力。時の流れを統一し、操る禁断の力。……この力を、君の復讐何かに使わせはしない!」
剃りの強い片刃の剣を、慣れないながらも構えるシオン。
その剣を見て、ハイアットは走り出した。
「それを寄越せ! その力があれば、俺の願いは叶う!」
「願いを叶えるためだけに、力を欲するなんて! 与えられるだけの力に、何の意味があるっていうんだ!」
「それが持たぬ者の考えだ! 持つ者がその想いを理解することはできない!」
「出来るさ! それが出来るように、僕は努力してきた! 民たちに理解され、信頼されるために僕は努力する! お互いがお互いを求めあえる中になれるように!」
「そんな絵空事!」
取り出した短剣をぶつけ、想いと共に切りつけていくハイアット。
その動きについていくのが精一杯のシオンだが、鍔迫り合いに持っていくようにシオンは動く。
シオンは戦いたくないのだ。彼すらも、助けたいのだ。
「僕は君を助ける! そんな復讐にとらわれた君の心を! この時の力は、そのために手に入れたんだ! 僕は、みんなが幸せで笑っていられる、そんな世界のためにこの力を使うんだ!」
シオンの体から、金色の光が、時の力が溢れ出す。
手元にあるエヴィーディタイマーもその力に共鳴し、その剣身をより一層輝かせる。
「……綺麗ね……」
「……やっぱり、シオンさんの光です……」
「……暖かな光……」
その金色の光を見て、少女達は呟く。
ある者は頬を赤く染め、少年の光をみつめる。またある者はその光を賞賛し、その光を少年の優しさと照らし合わせる。はたまた、ある者は光に手を伸ばし、その温もりを肌で感じている。
三者三様のその感じ方は、あながち間違いではなかった。
「……俺は……そんな物を求めてはいない! 俺が求めているのは、絶対的な力! 全てを覆す、真理の時の力だ! そんな光が、俺が求めたもののはずが無い!」
「いや、これが時の力だよ。聖霊と心を通わせ、魔法を最大限に発揮する、心の光。自分で言ってて恥ずかしいけどね」
「ふざけるな! ならば、俺が求めた物はどこにあるというのだ!」
「そんなもの、最初から無かったんだ。それか、君は求めていたんだよ、救いを」
「救いなどいらない! なぜこの俺が救われなければいけないのだ! 救われるべきは、世界なのだ! なぜ!?」
「君も世界の一部に決まってるからじゃないか!」
シオンのその言葉に、ハイアットの顔色が変わる。
今までただ喚き散らしていた男の姿が、おとなしくなって下を向く。全てが無駄に終わってしまったのかと。
だが、シオンのその一言はハイアットの答えだった。
彼は、全てを魔物に奪われ、復讐の時を生きていた。世界に有り様を恨み、全てを呪った。
そんな時に知った月の伝承。それこそが、自らを貶めた世界への復讐と、救いだった。そう、信じていたのだ。
「世界の一部だから! 君も、世界に必要な一人だから! 誰一人、欠けちゃいけないんだ!」
「なぜそんな事が言える! 俺が世界に必要とされているなどと! 全てを奪われ、滑稽にも復讐を選んだ、男の事など!」
認めたくなくて。ハイアットはシオンへと突っ込んでいった。
だが、そのがむしゃらなまでの直線的な動きに、今までのキレは一切感じられず、簡単に抑えることができた。
ドカッ!
「いい加減にしろ! なぜそうも悲観的になる必要があるんだ! 前を、明日を向いて生きてみなよ! そしたら、絶対に世界は、綺麗に見えるはずだから!」
そんなハイアットの動きに憤りを覚えたシオンは、その憤りのままにその頬を殴っていた。
殴られたハイアットは鑪を踏み、何とか倒れまいと持ちこたえる。
そこからの反撃は無く、ただ呆然とシオンを見ていた。
「世界が綺麗に……? ふっ……本当にお前は綺麗事を言うのだな」
「綺麗事なんかじゃない。人の想いは、そんな物では計れないんだ。だからこそ、綺麗なんだよ」
「ククク……ははは……はーっはっはっは! そこまで言うなら従ってみてやろう。お前の綺麗事に」
タカが外れたように笑い声をあげると、急にそんな事を宣うハイアット。
だが、シオンはそれでもよかった。
それでも、男の喧騒が晴れるのなら。もうこれ以上、戦わなくてもいいのなら。
「従う必要なんかないさ。ただ、分かってくれればいい。こうやって、話してくれればいい。僕が目指す世界は、『分かり合う事の出来る世界』だから」
「分かり合う、か。……俺はお前が分からない。それでもいいのか?」
「分かってもらうように努力するよ。だから君も、分かるように努力してね?」
「……善処する……」
そして、二人は手を握らないまでも和解した。
どれだけの困難があっても、それを乗り越えたときに、人は更なる絆が芽生え、その絆は強固になっていく。
初めは綻んでいてもいい。他者と他者が本当に分かり合うことなど、本来はありえないのだから。
だからこそ、シオンは手を取り合うことで分かり合おうと努力し、話し合うことで友達になるのだ。
それが、世界をいい方向に持っていく唯一の『決意の力』だと信じて──。
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