小説:アクレニア戦記 ~二つの決意~ (完結)
五章 すべての終わり
「ユフィー!」
「シオン! 無事だったのね! って、後ろの奴は!」
「わー!! 待った待ったユフィー! 彼女はもう敵じゃないから!」
合流を果たしたシオンとユフィー。
穏やかにその再会を喜ぶものと思われたが、シオンの後ろから現れた女性を見て、ユフィーがスターレインを構える。
だが、シオンはそんなユフィーに体を張って止めるように指示した。
「…そう? じゃあいいわね。こっちのも敵じゃないから」
「はい。改心させられてしまいましたから」
「……貴様もか……。……なら、他の者もそうなっていそうだな」
「うん。みんな優しいから。まあ、どうなってるのか何て分からないけど」
「だからこそ私に道案内をさせているのであろう? ここからは殆ど一本道だ。そうそう迷うこともあるまい」
「……こっちには約一名それでも迷いそうなのがいるけどね」
「……あの子は……まあ仕方ないでしょう」
リュウナの言葉に、シオンが仲間の一人を思い出してため息を吐く。
その仲間を知るユフィーも、ありえそうだとため息を吐いた。
「まあいいや。僕等は急ごう。この先にいるんでしょ?」
「ああ。ハイアット・エンジェナー。ルナニスクルメアを作った張本人だ」
リュウナのその呟きは、しっかりとシオンとユフィーの心の中に響いた。
そして、四人は次なる二人に出会う。だが、その二人は仲間達に弄られてしまう。
「なんだ。貴様はまだ生きていたのか? てっきりくたばっているものだと思っていたが」
「勝手に殺すんじゃねぇ! 俺はまだ生きてるよ。残念ながらな」
「へぇ……。てっきり一番弱いあなたの事ですから、命乞いでもしているのかと」
「んなもん誰がするかよクソ野郎!」
シオンたちの目の前で、そんな漫才のような遣り取りを繰り広げるクロストティアの三人。
その遣り取りが繰り広げられている後ろで、合流を果たしたリィナがシオンとユフィーに、今までの経緯を話していた。
「シオンさん! ユフィーさん! 無事だったんですね!?」
「君の方こそね。迷って変な所行ってるんじゃないかと思ったよ」
「うぅ……それはひどくないですか?」
「ひどいも何も、事実じゃないの」
「うぅー……苛めないでくださいよー……」
こちらの三人も、クロストティアたちと同じように一人を二人が弄る光景。似たような二人であることは確かである。
「で、後一人はカナなんだけど……」
リィナを弄るのを止め、残る二人の安否を気遣うシオン。だが、その語尾は沈んでいた。
「後はもう上へ上がる階段しか残っていない。奴は最後に残っていたからな。だが……」
「ユリとカイに会った時ほどではないけど、ずいぶんと臭うわね……」
再び奥へと歩き出した一行は、その先から臭うある匂いに辟易していた。正直辟易しているのはクロストティア以外の面々なのだが、それでも思う。
そう。考えずにはいられなかった。
どちらも生き残っているのか。はたまた、どちらかが生き残っているのか。はたまた、両者死んでいるのか。
シオンたちとしては前者に賭けたかったが、その先から漂う気配は、その答えが間違いだと雄弁に語っていた。
「カナ!」
座り込んだまま黙ってしまっているカナを見つけ、シオンがその名を呼ぶ。
だが、その本人は何の反応も示さず、ただ下を向いているだけだった。
「…………」
「ちょっと、どうしたのよ。あんたらしくないわよ?」
「そうですよカナさん! 笑ってくださいよ! いつものように!」
そんなカナの様子を不審に思った残りの二人は、そう励ましの言葉をかけるように言葉を発する。
その二人の言葉を受けて、ようやくカナは顔を上げた。
涙で濡れたクシャクシャの顔を。
「カナ! いったいどうしたって……」
「死んだか……。いや、そこにいる者が殺したのだな」
「ええ。あの方なら死ぬことは無いと思っていたのですが」
「へっ。大方油断してるときにグサッといったんじゃねーか?」
シオンの心配する声を遮るように、クロストティアの面々の声が上がる。
そのかつての仲間を心配しているとは思えない言葉にシオンが軽く引いていると、その中にあった言葉にカナが反応した。
「……殺した……。私が、殺した……。……初めて、人を……うわぁぁぁぁぁぁ!」
殺したという事実を再認識したカナは、慟哭の声を上げて錯乱する。
人にとって最大の禁忌である『人殺し』。
それを犯したことによって、カナは本来の自分を塞ぎ込んでしまったのだ。
そんなカナを見て、ユフィーとリィナはどうすることもできず、ただ立ち竦むだけだった。気持ちは分かる。だが、それもある一定のものまでだ。人を殺した経験など、二人には無いのだから。
そして、クロストティアの面々はこの事に関しては首を突っ込む事は不可能だ。
見ず知らずとまではいかないが、それでもよく知っている者にしか、この様な話は繊細過ぎて手出しはできない。
だからこそ、五人はシオンを見た。今までの経験からした、絶大なる信頼を寄せる人物に。クロストティアからは期待を、ユフィーからは当然と、リィナからは必死な。
そんな様々な視線を受けて、元よりいくつもりだったシオンはゆっくりと足を踏み出した。
「カナ……」
「っ! し、シオン……君……」
「こう言うのが君にとって最善なのかは分からない。でも、僕はあえて言うよ。彼は『眠った』んだ」
「……眠っ……た……?」
「そうだよ。だって、こんなにいい顔で……。普通なら、こんな顔はできない。きちんと救ってあげたんだろ? 彼の、心を」
「……分からないよ……。……私には……なにも」
最後に笑った顔のまま息絶えているブラディスを見て、シオンはカナにそう諭す。
その言葉を聞いたカナは、頭を振りながら未だに納得していない顔を浮かべる。だが、シオンはカナのそんな様子にお構い無く、自分の持論を展開していく。
「分からなくていいさ。それが普通なんだから。経験したことがないことを経験する、だから悩むんだ」
「初めてだから、悩む……?」
「そう。初めての事で悩まない人間なんていない。それに、僕はカナと同じ事は経験していない。でも、これだけは言える。カナは、出来ることをやったんだ」
「……やってなんか無い。だって、結局はこの人の笑顔を見れてない。……私は、この人の笑顔を奪ったんだよ!」
「でも、最後は笑ってるじゃないか! 彼の笑顔を引き出したのは君だ! カナ自身が彼に笑いかけたから、笑って欲しいと願ったから、彼は笑って逝けたんだ!」
泣き叫ぶカナに、シオンの激が飛ぶ。
自らがなした偉業を、しっかりとその目で見てほしくて。
「……でも、でもでもでもでも!」
「でもじゃない! それに、そうやって悔いる気持ちがあるなら、彼の分まで生きるんだ! 彼のほかにも、笑っていられる人が増えるように、努力すればいいじゃないか!」
それでも悩むカナに、シオンは想いをぶつける。
その想いはほぼ彼の想いその物だったが、それでもよかった。
たったそれだけの事で、一人の少女の心が救われるのなら。
「……生きる……」
「そうだよ。生きるんだ。生きて、その事をなすんだ」
「……分かった。……ありがとう、シオン君」
「礼を言われることはしてないさ。でも、どういたしまして」
差し出されたシオンの手をカナは握り、立ち上がる。
そして笑った。
今までの彼女のように。泣き腫らした目を隠せてはいないが、なるべく自然に。
彼女らしい、元気な笑顔を。
・・・
・・
・
「シオン! 無事だったのね! って、後ろの奴は!」
「わー!! 待った待ったユフィー! 彼女はもう敵じゃないから!」
合流を果たしたシオンとユフィー。
穏やかにその再会を喜ぶものと思われたが、シオンの後ろから現れた女性を見て、ユフィーがスターレインを構える。
だが、シオンはそんなユフィーに体を張って止めるように指示した。
「…そう? じゃあいいわね。こっちのも敵じゃないから」
「はい。改心させられてしまいましたから」
「……貴様もか……。……なら、他の者もそうなっていそうだな」
「うん。みんな優しいから。まあ、どうなってるのか何て分からないけど」
「だからこそ私に道案内をさせているのであろう? ここからは殆ど一本道だ。そうそう迷うこともあるまい」
「……こっちには約一名それでも迷いそうなのがいるけどね」
「……あの子は……まあ仕方ないでしょう」
リュウナの言葉に、シオンが仲間の一人を思い出してため息を吐く。
その仲間を知るユフィーも、ありえそうだとため息を吐いた。
「まあいいや。僕等は急ごう。この先にいるんでしょ?」
「ああ。ハイアット・エンジェナー。ルナニスクルメアを作った張本人だ」
リュウナのその呟きは、しっかりとシオンとユフィーの心の中に響いた。
そして、四人は次なる二人に出会う。だが、その二人は仲間達に弄られてしまう。
「なんだ。貴様はまだ生きていたのか? てっきりくたばっているものだと思っていたが」
「勝手に殺すんじゃねぇ! 俺はまだ生きてるよ。残念ながらな」
「へぇ……。てっきり一番弱いあなたの事ですから、命乞いでもしているのかと」
「んなもん誰がするかよクソ野郎!」
シオンたちの目の前で、そんな漫才のような遣り取りを繰り広げるクロストティアの三人。
その遣り取りが繰り広げられている後ろで、合流を果たしたリィナがシオンとユフィーに、今までの経緯を話していた。
「シオンさん! ユフィーさん! 無事だったんですね!?」
「君の方こそね。迷って変な所行ってるんじゃないかと思ったよ」
「うぅ……それはひどくないですか?」
「ひどいも何も、事実じゃないの」
「うぅー……苛めないでくださいよー……」
こちらの三人も、クロストティアたちと同じように一人を二人が弄る光景。似たような二人であることは確かである。
「で、後一人はカナなんだけど……」
リィナを弄るのを止め、残る二人の安否を気遣うシオン。だが、その語尾は沈んでいた。
「後はもう上へ上がる階段しか残っていない。奴は最後に残っていたからな。だが……」
「ユリとカイに会った時ほどではないけど、ずいぶんと臭うわね……」
再び奥へと歩き出した一行は、その先から臭うある匂いに辟易していた。正直辟易しているのはクロストティア以外の面々なのだが、それでも思う。
そう。考えずにはいられなかった。
どちらも生き残っているのか。はたまた、どちらかが生き残っているのか。はたまた、両者死んでいるのか。
シオンたちとしては前者に賭けたかったが、その先から漂う気配は、その答えが間違いだと雄弁に語っていた。
「カナ!」
座り込んだまま黙ってしまっているカナを見つけ、シオンがその名を呼ぶ。
だが、その本人は何の反応も示さず、ただ下を向いているだけだった。
「…………」
「ちょっと、どうしたのよ。あんたらしくないわよ?」
「そうですよカナさん! 笑ってくださいよ! いつものように!」
そんなカナの様子を不審に思った残りの二人は、そう励ましの言葉をかけるように言葉を発する。
その二人の言葉を受けて、ようやくカナは顔を上げた。
涙で濡れたクシャクシャの顔を。
「カナ! いったいどうしたって……」
「死んだか……。いや、そこにいる者が殺したのだな」
「ええ。あの方なら死ぬことは無いと思っていたのですが」
「へっ。大方油断してるときにグサッといったんじゃねーか?」
シオンの心配する声を遮るように、クロストティアの面々の声が上がる。
そのかつての仲間を心配しているとは思えない言葉にシオンが軽く引いていると、その中にあった言葉にカナが反応した。
「……殺した……。私が、殺した……。……初めて、人を……うわぁぁぁぁぁぁ!」
殺したという事実を再認識したカナは、慟哭の声を上げて錯乱する。
人にとって最大の禁忌である『人殺し』。
それを犯したことによって、カナは本来の自分を塞ぎ込んでしまったのだ。
そんなカナを見て、ユフィーとリィナはどうすることもできず、ただ立ち竦むだけだった。気持ちは分かる。だが、それもある一定のものまでだ。人を殺した経験など、二人には無いのだから。
そして、クロストティアの面々はこの事に関しては首を突っ込む事は不可能だ。
見ず知らずとまではいかないが、それでもよく知っている者にしか、この様な話は繊細過ぎて手出しはできない。
だからこそ、五人はシオンを見た。今までの経験からした、絶大なる信頼を寄せる人物に。クロストティアからは期待を、ユフィーからは当然と、リィナからは必死な。
そんな様々な視線を受けて、元よりいくつもりだったシオンはゆっくりと足を踏み出した。
「カナ……」
「っ! し、シオン……君……」
「こう言うのが君にとって最善なのかは分からない。でも、僕はあえて言うよ。彼は『眠った』んだ」
「……眠っ……た……?」
「そうだよ。だって、こんなにいい顔で……。普通なら、こんな顔はできない。きちんと救ってあげたんだろ? 彼の、心を」
「……分からないよ……。……私には……なにも」
最後に笑った顔のまま息絶えているブラディスを見て、シオンはカナにそう諭す。
その言葉を聞いたカナは、頭を振りながら未だに納得していない顔を浮かべる。だが、シオンはカナのそんな様子にお構い無く、自分の持論を展開していく。
「分からなくていいさ。それが普通なんだから。経験したことがないことを経験する、だから悩むんだ」
「初めてだから、悩む……?」
「そう。初めての事で悩まない人間なんていない。それに、僕はカナと同じ事は経験していない。でも、これだけは言える。カナは、出来ることをやったんだ」
「……やってなんか無い。だって、結局はこの人の笑顔を見れてない。……私は、この人の笑顔を奪ったんだよ!」
「でも、最後は笑ってるじゃないか! 彼の笑顔を引き出したのは君だ! カナ自身が彼に笑いかけたから、笑って欲しいと願ったから、彼は笑って逝けたんだ!」
泣き叫ぶカナに、シオンの激が飛ぶ。
自らがなした偉業を、しっかりとその目で見てほしくて。
「……でも、でもでもでもでも!」
「でもじゃない! それに、そうやって悔いる気持ちがあるなら、彼の分まで生きるんだ! 彼のほかにも、笑っていられる人が増えるように、努力すればいいじゃないか!」
それでも悩むカナに、シオンは想いをぶつける。
その想いはほぼ彼の想いその物だったが、それでもよかった。
たったそれだけの事で、一人の少女の心が救われるのなら。
「……生きる……」
「そうだよ。生きるんだ。生きて、その事をなすんだ」
「……分かった。……ありがとう、シオン君」
「礼を言われることはしてないさ。でも、どういたしまして」
差し出されたシオンの手をカナは握り、立ち上がる。
そして笑った。
今までの彼女のように。泣き腫らした目を隠せてはいないが、なるべく自然に。
彼女らしい、元気な笑顔を。
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