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小説:アクレニア戦記 ~二つの決意~ (完結)

五章 すべての終わり



「かわいいーーーーーー!!!!」
「ちょ、ちょっとカナさん! こ、声が大きいですって!」
「えーー、いいじゃんいいじゃん。可愛いは正義、だよ♪」
「でも、だからってこの格好は何なんですかーーーー!!!」
 カナの喜色の絶叫と、ユリの楽しそうな声、リィナの驚愕の絶叫が響く。
 ――そして時は少し遡り、カイに言われて着替えに着た三人。
 ユリは二人を、自らの住処としている質素な造りの山小屋に案内していた。
「ふわー……なんかいいですね。雰囲気とか、なんかぴったりです」
「ありがと。でも、他にも造ってあって、ここは服のみを置いている所だからね。カイと一緒に寝ている家は見せられないよ♪」
「愛の巣って奴だね!」
「その通り!!」
 頬を赤らめながら言うユリに、カナのそんな声がかかるとリィナは下を向いてしまう。
 顔を真っ赤に、耳の先まで真っ赤にして。恐らく、愛の巣と言うカナの台詞に反応したのだろうが、それにしても初心な反応である。
 そんなリィナに笑いかけながら、ユリは自らの衣裳部屋に案内した。
「はい! ここがユリたちの服が置いてある所だよ!」
「へー。いっぱいあるん――」
 そこまで言った後、カナはそこに広がっていた光景に言葉を失った。
 ――否、震えていた。
 そんなカナの反応にリィナは少し首をかしげながら、一拍遅れてその部屋の中身を覗き込む。
 そして、その天然の性格で、バカ正直な言葉をはっきりと言った。
「うわぁー。綺麗なお洋服がいっぱいありますね!!」
「でしょでしょ!? ユリの自信作なんだー!」
 そこに広がっていたのは、様々な形、色取り取りの服の数々。山小屋のすべてを覆うような量の服は、衣裳部屋と言う言葉では言い表せないほどだ。
 これをすべてユリが作ったと言うのならば、ユリはかなりの裁縫能力を持っている事になる。
「いやー、暇だったからねー。それに、これ着てカイの前に行くと……///」
 ボンッ。
 その先の事を思い出したのだろうか。ユリが顔を爆発させるようにして真っ赤にさせ、下を向いてボロボロの服を弄り始めてしまう。
 そしてそのまま何を思ったのか、一気にその服を脱ぎ捨てるユリ。
「うわっぷ!」
「ゆ、ユリさん!?」
 その突然の行動に、未だにプルプルと震えていたカナは、服を頭の上から綺麗にすっぽりと被り、リィナは少し顔を赤くしながら焦る。
 だが、すぐにその二人の表情は驚愕へと変わった。
「じゃーん! 早着替え終了ー! えへへ、どうどうどう?」
 大した時間も立たずに、服が並んでいる隙間から颯爽と現れたのは、新しい服を身に纏ったユリ。
 一部だけ青く染まった黒い髪の毛には、銀色で縁取りされた緑色の四葉の花。紺と白で色分けされた上の服は、少しだけ堅苦しい雰囲気を纏っている。下に着たスカートは上の紺色と同じ色でその丈はかなり短い。極めつけは足に履いた黒い布で、膝まで隠したその布のおかげで太ももがまぶしく光っていた。
 クルクルと回りながら足に履いた革張りの黒く光る靴を鳴らすユリ。本当に楽しそうだ。
 そして、その様子を見たカナとリィナはほぼ同時に声を上げた。
「「可愛い(です)ーーー!!!」」
 声を上げ、楽しそうに回るユリに突進していく二人。カナなどは服を投げつけられたことは忘れているようだ。
「ねぇねぇねぇ、まさか私達も着ていいの!?」
「うん! その為につれて来たんだもん! カナには何が似合うかなー……あ、これとかどう?」
「着る着る! 今すぐ着る!」
 手渡された服を手に掴み取り、部屋の奥へと消えていくカナ。
 そして、現れたカナを見たリィナは軽く絶句した。
 ――服一つでここまで人は変わるのかと。
「ばっばーーん!! これが新しいカナちゃんだー!!」
 胸元の大きく開いた、赤色のロングドレスを身に纏ったカナはそう声をあげながら二人の前に現れる。
 その胸元に光るのは、大きな宝石がたくさんついたネックレス。頭についていた黒色のリボンは、同じ黒色でもフリルに変わっていた。足元は踵が高く上がっている黒い靴を履いており、カナの身長を少しだけあげていた。
 慣れない靴を履いているからか、少し足元が震えて覚束ないが、すぐに歩き方を習得したようでふらつく事も無くなっていた。さすがの身体能力である。
「……すごい……なんか大人っぽいです……」
「うーん……元気印なカナがここまで化けるとは……。こうまで着こなされると、作ったかいがあるねー」
 カナの姿を見ながら、口々にそう言う二人。
 まあ、普段のカナを知っているものからすれば、今のカナが纏っている雰囲気は全く正反対のものだったのだから、そう言うことも仕方が無いと言える。
「じゃあ次リィナちゃんね! ユリちゃん、どんなのがあうかなー?」
「ええ!? 私も着るんですか?」
「当ったり前だよー。カナも着てユリも着たんだもん。リィナも着ないと!」
「そうそう! 可愛いって言ってたじゃん!」
 二人の剣幕に押され、いつの間にか用意されていた一着の服を押し付けられてしまうリィナ。
 そこでリィナは渋々ながらも、その服に着替える為に部屋の奥へと引っ込んでいった。
「いやー、いい仕事してるねーユリちゃん」
「いやいや、そっちこそよく着こなすよねー」
「これだけ綺麗でかわいい服なんだもん、カッコよく決めないとね!」
「よく言った! でも、ユリが作れるのは女の子のものだけなんだよねーって、あれ?」
 そんな会話を二人がしていると、着替えが終わったのであろうリィナの白銀の頭が服にまぎれて飛び出ていた。
 本人としては隠れているつもりなのだろうが、恥ずかしさのあまり少しだけ震えている白銀の髪を見れば、この二人は目ざとく食いついてしまうのだ。
「もう! こっち来て見せなよ! 可愛いは正義なんだから!!」
「うきゃぁ!」
「おおーー! リィナちゃんぴったりだよ!!」
 ユリに服の間から引きずり出され、悲鳴をあげながら出てくるリィナ。
 出てきたリィナを見たカナは、素直に賛辞の声を上げた。
「うぅ……なんか恥ずかしいです……」
 短い裾を押さえながら、顔を赤く染めていくリィナ。
 リィナが着ているのは、ここエスカレルニア王国のある北の大陸の東の地方で呼ばれる『和服』と言うものだ。黒を基調とした布に、リィナとカナが見つけていた黄色の一輪花が刺繍されていた。帯と呼ばれる腰の部分の布は暗めの緑色で、その花を引き立たせている。
「かわいいーーーーーー!!!!」
「ちょ、ちょっとカナさん! こ、声が大きいですって!」
「えーー、いいじゃんいいじゃん。可愛いは正義、だよ♪」
「でも、だからってこの格好は何なんですかーーーー!!!」
 恥ずかしさに揺れる頭には、いつもの小さなリボンではなく金属製のかんざしと呼ばれる金色のものがつけられていた。手には、青を基調とした水が流れているような色合いの巾着袋が握られており、足に履いた下駄と呼ばれる木製の靴の黒と相まって雰囲気をかもし出している。
「あ、ユフィーちゃんの分も考えておこうよ。仲間はずれはよくないからね!」
「ああ、氷のあの子ならこれなんかどうかなー」
「おお! さいっこうだね!」
「……二人とも、絶対に怒られると思います……」
 リィナのため息交じりの心配をよそに、カナとユリの悪巧みにも似た顔はさらに深くなっていった。
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