楽天市場
[無料でホームページを作成] [通報・削除依頼]

小説:アクレニア戦記 ~二つの決意~ (完結)

四章 目覚める、時

 一度闇に呑まれた意識が覚醒した時、シオンは真っ暗な世界の中を漂っていた。走馬灯のようなものでもない、光りも何もない真っ暗な世界。
 自由の利かない手足。口すら動かない頭の中だけの思考。シオンがこの世界で出来ることは、考えることだけだった。
 真っ暗な世界を漂いながら、シオンは一人思う。
 かっこ悪いなぁ……。
 だって、急によく分からない何かに大穴を開けられちゃったんだもんな……。
 ほんと、情けない。
 自責の念に押しつぶされそうになる。
 だが、シオンはそんな簡単に沈んでいいはずが無かった。
 生まれてから今まで、たくさんの場所で経験した様々な出来事。
 帝国領でのユフィーとミーナとの出会い。そこでは、何も持っていない、なんの力も持たないものは何も守れない事を知った。
 戴冠式の日に遭った魔物の襲撃。そして、ユフィーとの再会。父の想いと、今は亡き母の想い。そこで支えられていた事実を、支えられていた者達へ恩を返す決意を。
 旅の始まりで出会った剣士になりたい少女と、幼き君主とその忠臣。未来の王として、初めて迷える者に手を差し伸べた。
 王国についての戦い。旅に出ていなければ出会わなかったような、トレジャーハンターとの出会い。
 そして、偉大なる王との会話。そこで見つけた、知らなければならない真実。確かめなければいけない、自らの力。
 それら全てが、今のシオンを突き動かしていた。
 僕は何のために王国まで来たんだ? みんなを守りたいからだろう?
 今は守る所か、自分の命さえ危ないけど。
 でも、絶対に生き延びる。
 ──絶対に。
 シオンの思考の中に混じる映像の中には、友達の、仲間たちの姿が。彼にとってかけがえの無い、大切な者たちの姿が写っていた。
 みんなで笑っていられる世界こそが、僕の創りたい世界なんだから。
 そのためなら、なんだってやってやる。例え、自らの身がどうなっても。
 シオンにはその覚悟があった。その覚悟こそが、彼の決意そのものだった。
 大切な人たちを守る。どんなことがあっても、護り抜く覚悟が。
 ──だから、僕はこんな所で死ねない。
 動くはずのない手足を必死に動かす。だが、暗い世界の中にあるシオンの手足は、意識が覚醒した時のように全くと言っていいほど動かない。
 だが、そんな事では挫けない。挫いてはいられない。
 ──動け。動け。動け。
 ──僕は、こんな所で終われない。
 だって、まだ、護れてないから──!!
 必死にもがく。そのもがく彼の耳には、何も聞こえていなかったはずの彼の耳には、仲間たちの声が届いていた。
 彼の名前を呼ぶ声が。戦う声が。苦しみの声が。
 だから求める。
 自らの奥底に眠る『力』があるのなら。
「みんなを護れる、力が欲しい!!!」
 何もない暗い空間に響いた、シオンの願い。
 その響き渡った声に、暗かった空間が変貌する。どこか不思議な、薄く光る金とも銀ともつかない色の世界に。
 変貌したその世界に驚いていると、シオンは目の前にいつの間にか現れていた小柄な少女を目に留めた。
 どこか色味の薄い、存在さえ希薄な少女はゆっくりと口を開く。
「……力が欲しいの?」
 どこか気の抜けそうな、しかししっかりとした少女の問いかけに、いつの間にか自由になっていた体の事も忘れ、シオンはゆっくりとながら答えた。
「……欲しい。みんなを護れる、そんな力が」
「……なんで?」
「なんでって……。……仲間を、友達を護りたいから。大切な人たちと、笑い合いたいから……。……じゃ、だめなのかな?」
 シオンの返した答えに、少女は少し驚いた後に首を縦に振った。
「……じゃあ、こんな所にはいられないよね。待ってるよ、みんな。あなたの言う、大切な人たちが」
「うん。僕は、行かないと。みんなの所に」
「……いってらっしゃい」
「いってきます」
 不思議な世界にいた二人が見送りと見送られる台詞を言った瞬間、その世界は、霧散した。
・
・・
・・・
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 コーガディーガの群れと戦って、どのくらいの時間が経っただろうか。濃密な戦闘の連続に疲弊したユフィーの精神と体力は、もはや限界だった。
 それは背中を預けて戦うカナも同じで、完全に息が上がって肩で息をしている。
 風の剣閃を飛ばして相手の群れを散らせるリィナも、そこかしこに傷を負っているし、重力球を飛ばして足止めをするカイも、額には玉のような汗が浮いていた。
 そして極めつけはユリだった。至る所にかすり傷をつけ、服はボロボロ。満身創痍と言っても過言ではない。
 倒れるシオンの心臓の代わりに魔剣を使用しているために、ユリは素手だ。魔物に襲われればひとたまりも無い。
 それが分かっているからこそ、カイはユリの元へと行かせないために重力球で足止めをしているのだが、それこそが一番の重労働だった。
「……く、そっ!」
「ゆ、ユフィーちゃん。お、女の子がそんな声出しちゃダメだって」
「知らない……わよ、そんな事。それより、あんたは無事、なんでしょうね?」
「もしかして……心配、してくれてるの?」
「してないわよ! ただ、背中にもたれられると、きついからって理由だけ、よ!!」
 突進してきたコーガディーガに向けて、ユフィーは魔法を放つ。正確にはその走ってくる地面に。
 一瞬にして凍った地面に足をとられ、バランスを崩してこけるコーガディーガ。その隙を逃さず、カナがレストーションで魔物を貫いた。
「く……ジリ貧ね。これじゃあ……」
「うん。何か効率のいい作戦とかは……」
「ただでさえ、今の作戦も効率がいいかもって始めた奴でしょうが。そんな都合よくある訳ないわよ」
「ですよねー」
 落胆した声を出しながら、カナは自らの前に迫るコーガディーガを睨みつける。その視線の遥か後ろには、リィナの飛ばす風の刃が乱れ飛んでいるが、今のカナにはそれに感動を覚えるほどの余裕はない。
 そして、目の前に迫った一匹を貫こうと槍を構えたとき、彼女の耳にある音が聞こえた。
 ザッ。
「ったく、情けねぇなぁ。こんだけの数集めても、一人も殺せねぇって、どういうことだよ。ああ?」
 ガラの悪い声と共に、一人の男がユフィーたちが戦う戦場に現れた。
 体躯は細い。いや、細すぎる。贅肉はおろか、必要な筋肉さえも削り取られたような男のなりに、五人は驚きで目を見開く。
「『時の王子様』はまだお寝んねか。まぁ、なら暇つぶしにこいつらを殺してみるとするかねぇ」
 だが、その男の言葉と同時に放たれた殺気に、五人は意識を改めざるを得なかった。
 その細すぎる体のどこから出てきているのか分からない、濃密な殺気。溢れ出る、殺しの気配。
 それに気づいたカナがレストーションを構えた時には、その体ごと吹き飛ばされていた。
「キャァァ!!」
「カナさん! ええぇい!!」
「風は、軽ぃんだよ!!」
「くはっ!」
 吹き飛ばされたカナを見たリィナが、男へと斬りかかっていく。そのリィナを素早く避け、リィナの攻撃の力を利用してその腹を蹴る男。
 くの字に曲がった体を、リィナは体全体を駆け抜けていく痛みに構わず動かす。
 風燐華に風を纏わせ、自らの体を蹴った男の足を狙う。だが、その攻撃は腕ごと蹴り飛ばされた。
「……お前。なぜ分かる」
 風燐華に纏われた風の鎧を無視してリィナの腕を蹴り飛ばしたことに、カイは疑問の声を男に投げかける。しかし、男は意に介さずに吠えながらカイに飛びかかる。
「見てきたからなぁ。もちろん、お前らもなぁ!」
「意味が分からない。だけど、向かってくる奴は死ね!」
 飛びかかってくる男に向け、牽制のための重力球を放出するカイ。
 かなりの量の重力球が散らばり、カイはそれに一つでも引っかかってくれればいいと、そう思っていた。
 だが、男は意外な行動でその重力球を無力化した。
「手緩ぃなぁ、まったくよぉ!!」
 楽しそうに笑いながら、男はカイの放った重力球を切り落としていく。
 その手に握られた、巨大な剣を持って。
「『ソルトレスター』! ロイスの魔剣か!?」
 男が握っていたのは、巨大な黄土色の大剣。剣身に描かれた紋様が波打ち、その異質さをこれでもか言うぐらいにアピールしてくる。
 その叩く事にも特化していそうな幅広の大剣を担ぎ直すと、男はカイを挑発するように言った。
「ロイスぅ? そんな奴は知らねぇなぁ。ちびっこい薄汚れたローブを着た奴なら知ってるがなぁ!」
「……き、貴様ぁぁぁ!!」
 男の言葉に、カイが激昂する。先ほどあったような狂い方ではない、ただ、怒りに任せた狂い。頭のどこも冷静ではないカイの攻撃は、まったく男には届かなかった。
 魔剣を弾かれ、その体もソルトレスターによって吹き飛ばされてしまう。
「さぁて……後はこいつらだけだな……。……魔剣を持たない光の巫女に、魔力切れの氷の女。どこまで対抗できる?」
「ふざけないで。あたしはまだやれぐぅ!」
「あんま舐めたこと言ってると殺すぞ?」
 がりがりに痩せ細った体からは想像できないほどの素早さで動いた男は、ユフィーの顔を掴み、さらに見た目からは想像も出来ない膂力でユフィーを持ち上げる男。
 額に青筋を浮かべ、完全に切れている。
 そんな男の顔を見ることすら出来ないユフィーは、足を動かしてもがくことしかできなかった。
「ったく、何もできないくせにいきがんじゃねぇ。それに、てめぇが大切に思ってる王子様の真実を聞けば、仲良くなんてしたくなくなるだろうけどなぁ?」
「っ!」
 その男の言葉に驚愕と怒りを覚えたユフィーは、暴れる力を強め、男の手から逃れようとさらに暴れる。
 だが、顔をしっかりと掴まれ、首に魔剣の剣先を当てられてはどうすることもできなかった。
「まぁいいよ。お前はここで死……」
「――させないよ」
 チャキッ。
 涼やかなシオンの言葉が、男の言葉を塞ぐ。
 そして、その冷ややかな言葉と共に突きつけたカテドラルの爪の切っ先を、男の首に押し込んだ。
「……へへ……脅しってか? 似合わない真似はするもんじゃないと思うぜ? 王子さまよぉ」
「そんな事は知ってる。だからこんな事、終わらせたいんだ。……ユフィーから手を離せ」
「おぉ怖い」
 首の皮が、あと少しだけ力を入れただけで切れるという所まで力を入れた所で、男はユフィーを離した。
「かはっ……ごほっ!」
「ユフィー、大丈夫?」
「あたしは平気。ってか、あんたの方は平気なの?」
「うん。ありえないぐらいぴんぴんしてるよ」
 ぽっかりと穴の開いた服の先にある自分の胸を叩きながら、もうなんとも無いと言うようにユフィーに笑いかけるシオン。
「だから大丈夫。後は僕に任せて」
「あ、ちょっと!」
 ユフィーを自らの後ろに回し、自らは立つ。男の前に、しっかりと。
「……ここからは、僕が君の相手だ! 友達には、仲間達には、手を出させない!!」
 体から金色の光を放ちながら、シオンは男にそう宣言した。
「おもしれぇ……。いいぜ、やってやるよ。こっからはとっておきだ! 来なぁ、『時の王子様』よぉ!!」
 シオンの宣言を受けた男は声を張り上げ、手に持った土の魔剣を振りかざし、地面へと突き立てた。
「魔剣闘技。生命の源、母なる大地よ。父祖に仇なす我が敵に、大地の鉄槌を! 『地神槌棺(アース・クリプティ)』!!」
 そう叫んだ男の魔剣から、膨大な魔力と、無数の土の棘が現れる。
 鋭利に尖った土の棘は、空に地面に、様々な場所に突き刺さりながらシオンへと迫っていく。
 その土の棘の奔流に、シオンはただ冷静にそれを見ていた。
「……時よ。悠久に流れ続ける、絶対の調律詩よ。還る流れを、その身で示せ。『調律ノ時(エヴィー・スティルス)』」
 カテドラルを眼前に突き出し、土の奔流を受け止めると思われたその両手から、淡い金色の光が放たれる。
 不確かに揺らめく金色の淡い光は、真っ直ぐに土の棘と接触した。
「ちいっ! やっぱり情報通りだな。真正面じゃあ勝てねぇか」
 舌打ちをした男の先に広がっていた光景は、淡い金色の光に包まれた土の棘が、もろくも崩れ去っていく姿。
 鋭利だった棘の先は崩れ、根元さえも砂に還っていく。
 淡い金の光に触れたものすべての時を巻き戻すシオンの魔法に怯むが、男はさらにシオンへと攻撃を加え始めた。
 ギャリィィン……。
 土の魔剣の大質量の剣が、シオンのカテドラルの爪と擦れ、盛大な嫌な金属音を上げる。
 その傍から見れば圧倒的に不利な鍔迫り合いに、シオンの表情は先ほどと変わらず、少し冷たい冷静になる。だが、男の顔は違った。戦いを楽しむような、狂気の表情に変わっていたのだ。
「これぐらい、僕にはどうって事ないよ。それより、いい加減に話してくれないか、な!」
 魔剣をカテドラルで弾き飛ばしながら、シオンは尋ねる。
 襲撃の意図を。そして、自らが狙われる意味を。
「へっ。何を話せばいいってんだ? 俺様は何も知らねぇ。ほんとの事だぜ? ただ、名前が『コーガディーガ』ってだけだ」
「そんなものは今までの状況を目にした僕らにとっては簡単に予想がつく! ルナニスクルメア……君たちが所属する組織が何をしようとしているのか。この力を手に入れても、真意が掴めないんだ」
「そんなもん聞いてどうするってんだ。俺様達はただ、世界に復讐する。それだけだ」
「なんでそんな考えに至るんだ! 復讐なんて……過去に囚われたままで……そんなもので未来を掴める筈が無い!!」
 シオンの体から魔力が溢れ、その怒りと共に猛り狂う。
 シリアナに言われた通り、受け入れようとした。だが、駄目だった。シオンには、復讐という言葉が許せなかったのだ。
 だが、その言葉を聞いた『コーガディーガ』は吐き捨てるように言う。
「はっ! 俺様には……俺様達には未来なんかねぇんだよ! 生きている事そのものが罪な俺様達にはなぁ!!」
『ヒーナス』も言っていた。生きている事そのものが罪なのだと。
 しかし、シオンは生きている限りその罪は消えることは無くても、償うことが出来ると思っている。
 今この瞬間にも、シオンはこれまでの旅で命を奪った魔物たちのことを考えていた。
 自らが生き永らえる為に奪った命。その命を背負いながら生きることこそが、罪であり償いなのだ。
 それをシオンは分からせたかった。そして、正したかった。
「……生きていれば、未来はある。……生きている事そのものが罪なんて、そんな事はありえない!」
「それがありえるんだよ! 俺様みたいな『クロストティア』にはなぁ!!」
 泣きそうな声音でそう叫んだ後、男は自らの足を持ち、その部分の服を引き千切った。
「なっ! き、君は…!」
「これが俺様、忌み嫌われる『亜人』、『クロストティア』の姿だ……!」
 引き千切られた服から覗くその足は、ヒューマティアの足ではなかった。
 いや、それ以前に人の形をした足ですらない。
 黒く変色した『コーガディーガ』の足は、その名前と同じ魔物の足と全く同じだった。
「……亜人……本当に存在したのね……。御伽噺の世界の話だと思ってた」
 ユリの所まで後退していたユフィーが、『コーガディーガ』の足を見て驚く。
 クロストティア。三つの種族のどれにも当てはまらない、まったく異なる種族。
 普通、異種族間で結婚し、子供がそのハーフであってもどちらかの特徴しか受け継がず、重なることが無いのがこの世界の鉄則だ。
 だが、それにも当てはまらないのがクロストティアである。
 彼らは魔物の特徴を受け継ぎ、尋常ならざる身体能力を持って生まれる。その身体能力はビルスティアなどが到底追いつけないほどの途方も無いもので、彼らに勝てるものはいないと言われているのだ。
「ふん……。絶望したか? 俺様たちルナニスクルメアは、ほとんどがクロストティアで構成されている。名前の理由はそう言うことだ。そして、すべての者が憎んでいる。この世界を。この、二つの月がある世界を!」
 空を見上げ、昼でもありありと浮かぶ天空の紅と蒼の月を睨む『コーガディーガ』。
 だが、その言葉の真意が分からなかったシオンは、質問を再度ぶつけた。
「月が何の関係があるのか知らないし、絶望するのは分かるけど……。……なんで希望を探さないんだ!」
「探したさ! それがこの方法だ! 『時』を扱うお前の力を持って、俺様達は世界を戻す。壊すんだ。魔物のいない、新たな世界に!!」
 その理想の世界を語る『コーガディーガ』の目には涙が浮かんでおり、歓喜にむせび泣いている様に見えた。
 だが、シオンは止めなければならない。一国の王子として。そして、自らの想いと夢のために。
「魔物の無い世界、それは素敵なことだと思う。……でも、それで誰かを泣かせてちゃ、何にも意味が無いんだ!!」
 シオンの脳裏に浮かぶのは、あの小屋の中で再会した時の、ユフィーの涙に濡れた顔。
 帝都崩落の際の襲撃に巻き込まれたユフィーの友人、ミーナ・ルナーシアの死が、ユフィーを変えたのだ。
 なにもそれはユフィーだけではない。あの場にいたほとんどの人間が同じかそれ以上の悲しみを背負ったのだ。それは、決して許されることではない。
 人を悲しませて自分だけが幸福になることなど、許されるはずが無いのだ。
「んな事わかってらぁ……。だけどな、もう止められねぇ。もう、止まんねぇんだ。お前が力に目覚めた。なら、俺様達はそれを全力で奪う。それだけだ」
 そう言い残すと、『コーガディーガ』はクロストティアらしいその身体能力で、一瞬にしてシオンの目の前から姿を消した。
 ――周りの魔物も引き連れて。
「待てっ! くそ……ごめんユフィー、逃がしちゃった」
「構わないわよ。それより、皆の手当てを急がないと」
「それはユリがやったげる。カイに触れていいのは、ユリだけだもん♪」
 今まで沈黙を保っていたユリが、カイの元へと走っていく。
 その元気な姿を認め、シオンはユフィーの下へと歩き始める。
 ドクン……。
「ぐぁ……!」
 体が脈打ち、呼吸が荒くなる。
 体の奥底から何かを搾り取られるような、何かを抜き取られるような感覚に、シオンは体を倒しかける。だが、間一髪の所でユフィーがそれを抱きとめた。
「ちょ、ちょっと! しっかりしなさいよ!」
「ご、ごめんユフィー。な、何か変……っ!」
 ズグン!
 ようやく認識できるようになっていた、自らの体の内に巡る魔力が、巨大な渦となってシオンの体を駆け巡り、抜ける。
 唐突に起こった体に残ったほとんどの魔力の放出に、シオンは極度の脱力感と血反吐を吐くほどの苦しみに襲われたのだ。
「ぐぁっ!」
 激しく痛む胸を抑え込むようにして、シオンは崩れそうになる体を持たせようとする。だが、それも無駄だった。
「シオン! しっかりして!」
 崩れ落ちていくシオンの体を抱きとめ、心配する声を上げるユフィー。
 だが、その言葉も届かず、シオンの意識は再度闇の中に落ちていった。
・・・
・・
・
30/40