小説:アクレニア戦記 ~二つの決意~ (完結)
三章 真実の一端
ガシャァァン!!
宿屋にいたリィナとカナは、突然のガラスが割れる盛大な音に驚いた。
ドゴォォン!!
「う、うわぁぁ!!」
「キャァァ!」
「ま、魔物だーー!」
さらには壁が吹き飛ぶ音、人々の悲鳴を聞き、リィナとカナは顔を見合わせた。
「カナさん……」
「うん。なーんか、嫌だね。シオン君とユフェルニカちゃん、無事かな?」
「大丈夫ですよ! お二人とも強いですし!」
「そっか。ならリィナちゃん。私たちがやることは、一つだよね」
「はい!」
大きく二人で頷きあった後、カナとリィナは宿屋を飛び出した。
もちろん、お金は置いたままで。
そして、二人の目の前に飛び込んで来たのは、真っ黒な空と、魔物の嘴だった。
「せやぁ!!」
それをいち早く察知したカナが、身を捻りながら『レストーション』を振るう。
体の円運動に合わせて振るわれたレストーションの柄はヒーナスの頭を捉え、頭蓋骨を破壊する音を響かせながら地面へと叩き落とした。
「おー! すごいですね! って言うか、それで殴れたんですか?」
「そうだよ? 鉄槍だからねー。固いのさ」
素直にその技に感心するリィナに、カナはレストーションを担ぎ直しながら答える。
だが、そんな悠長な構えをしている暇は無かった。
「って、そんな事より早く住民を逃さないと!」
「あ、はい。分かりました!」
そのカナの一言を境に、逃げ惑う住人を先導し、なるべく被害の少ない場所へと移動する二人。
不可解な事に、かなりの大人数で移動していたはずの二人だったが、まったくと言っていいほどヒーナスは襲ってこなかった。
だが、その事は今の二人には関係ない。今は住人の無事が優先なのだ。
「ご無事ですか!?」
「あ、王国騎士団の人だ!」
その二人の前にやってきたのは、ごくごく一般的だが少し装飾の多いコートに身を纏った女性。
頭に生えた狐耳とふわふわと揺れる尻尾から、ビルスティアであることが分かる。
「ええ!! ナ、ナリアさん!?」
「リィナ様!? どうしてこの様な所に! と言いますか、心配したんですよ!? 家出などなさって!」
「え? 家出? リィナちゃんって家出少女だったの?」
「ち、違いますぅ! ああもう! ナリアさんがここにいるって事は、もう安心してもいいんですよね!? 私は試したいことがあるので戻ります!!」
偶然の再会に戸惑いながらも、リィナはきっぱりと言い放つ。
焦りと恥ずかしさと気まずさが入り混じった、奇妙な赤い顔ではあるが。
「あーあ、行っちゃったよ……。で、騎士団の人。ここの住人の安全は、あなたたちが持ってくれるの?」
「え? あ、はい。責任を持ってお守り致します」
暴風のようなリィナの動きに、ナリアと呼ばれた騎士団の女性は半ば呆けていたが、すぐに持ち直してカナの質問に答える。
その答えを聞いたカナはすごく満足そうに笑った後、ナリアに続けてこう言った。
「んじゃ、私も戦いに行くんで、よろしくお願いします」
シュタッっと言う音が聞こえてきそうな見真似の敬礼をした後、カナはリィナの後を追いかけていった。
「あ、ちょっと!! ……大丈夫でしょうか……。リィナ様は重度の方向音痴だというのに……」
ナリアの懸念は、知り合って数時間のカナには分かるはずが無かった。
・・・
・・
・
「凍てつく氷塊。彼の者へと降り注げ! 『氷塊ノ雨(アイブロワ・レイン)』!」
向かってくるヒーナスの群れに向けて、魔法を発動する。
その魔法に合わせ群れの頭上に現れた拳大の氷の塊は、的確にヒーナスを一体一体潰していく。
向かって来ていた群れの一角を潰したユフィーは、そこで少しため息を吐いた。
「……ふぅ……。……すぅ……はぁ……」
魔力の流れを見極めるため、ため息を深呼吸に入れ替えるユフィー。
魔力は体力と似ている。使えば無くなるし、落ち着いて体を癒せば回復する。つまり、走った後に体を落ち着けるのと同じ行為をすれば、微弱ながら回復はするのだ。
「……もう……誰も……あんたたちに傷つけさせないわ」
そう言うユフィーは、スターレインを振りかざして呪文を唱えた。
「……氷よ。糸のように張り詰め、細く強靭に変われ。我が敵を捉え離さない、永遠の呪縛となれ! 『膜ヲ氷オ(アイスピルネア・ネット)』!」
スターレインの宝玉全てが輝き、広範囲に魔法を発動させるためにその内包された全ての魔力を解放する。
放射状に流れた魔力に合わせ、辛うじて見える程度の糸が周囲を完全に覆い込んだ。
その糸が見えないヒーナスは、糸に触れた途端凍り付く。冷気で造られた糸の檻が、触れる者全てを凍らせていく。
「……何か少ないけど……まぁいいわ……。ここにいる者全て、あたしが殺してあげる……」
憎悪と憤怒と悲しさのこもった瞳で、ユフィーは氷の糸の檻の中で不敵に笑った。
・・・
・・
・
ザシュッ。
「……はぁ……っ……こ……これで何体目だ。それに、僕ってこういう役多くないか……?」
無数に襲いかかるヒーナスの群れを切り伏せ、シオンの体力は限界に近づいていた。
いくら倒しても減らないその数。
どこからでも沸いてくるようなその感覚に、シオンは嫌な予感を覚えていた。
「……やっぱり、あの男が命じているのか……? だから、こんなに僕の所に……」
思い出されるのは、先ほど対峙していた男の言葉。
『ええ、その通りです。そしてこの一連の魔物の襲撃事件、私たちルナニスクルメアが行っています。……復讐のために……』
「……復讐って何さ…! そんな事しても何も変わらないっていうのに……!」
空を覆う真っ黒な影。その影の名前と同じ男の言葉は、シオンの胸の中で渦巻いていた。
実際、シオンの懸念の元である男の言葉は、今のこの状況を作っている。
半数以上の数をシオンの元に向かわせているのだ。明らかに、シオンだけを殺そうとしている行動。
「……でも……ある意味助かったかな? ……僕が頑張れば、他には行かないんだろう?」
初めに見せた挑発的な笑みを見せ、シオンはカテドラルの爪を鳴らす。
「……君がどこで見ているかは、知らないけど……」
グシャッ。
「……僕は決して……屈しないよ」
突っ込んできたヒーナスの一匹を、その言葉と共にカテドラルで貫く。
そして、今度は逆に自分から飛びかかっていった。
・・・
・・
・
「……どこでしょうか……ここ……」
完全に迷子になったリィナは、立ち止まって辺りを見渡していた。
普通に考えれば、空に浮かぶヒーナスの群れを追いかけていけばいいのだが、リィナにその考えは無かった。
と言うより、それぐらいの考えが少しでもあれば、重度の方向音痴にはならないで済むのだ。
「……うぅ……どうしましょうか……」
「リィナちゃん!」
「カナさん! どうして!?」
「どうしてもこうしても、こっちが聞きたい! なんでぐるぐるぐるぐる同じ所を回ってるの!?」
「へ?」
突然目の前に現れたカナにリィナが驚いていると、さらにカナの口から発せられた言葉に首を傾げた。
キョロキョロと辺りを見渡し、手を打つ。
「あ。何か見たことのある景色ですね」
「だから同じ所を回ってるだけだと言うとーに!!」
バシン!
漫才のように、どこからか取り出した紙の束でリィナを叩くカナ。
痛みはないようで、リィナはケロッとしていた。
「ってこんなことしてる場合じゃない。行くよ、リィナちゃん!」
リィナの手を取り、ヒーナスのいる方角に向かって駆け出していくカナ。
「二ヶ所だけかなりの数が集まってる……けど、他にもいるね。リィナちゃん! あそこの二ヶ所は後回し! それ以外を潰すよ!」
「うわー、どんどん近づいて行ってますよ」
「……ダメだこの子」
落胆しながらも、走る速度は緩めないカナ。
「あ、もうここでいいです! ここならやれるはずですから」
少し大きな広場に出たときにリィナがカナの手を振りほどき、止まる。
その行動に、カナは少し苛立ちを覚えた。
「やれるって何を? もう少しだけど、また一人にすると迷子に……」
「大丈夫です。……行きましょう、『風燐華』」
集中しながら風燐華に手をかけ、ゆっくりと鞘から引き抜いていくリィナ。
「……こ、これが魔剣……。……は、初めて見た」
魔剣の姿とその力の大きさに、カナは苛立ちも忘れ見惚れてしまう。
薄緑色の風を纏った、風燐華の魔剣としての真の姿。
小規模の台風がそこにあるような威圧感に、カナは呑まれていた。
「魔剣闘技、『飛翔(ひしょう)・貫(つらぬき)』」
厳かにそう呟くと、構えた風燐華をゆっくりと前に構えだす。
刀の先を目線の先に。体を開き、深く落とす。左手を前に突き出し、右手のみで刀をしっかりと構える。左手を突き出し、右手を後ろ向きに引き絞った奇妙な形で、リィナは構えを止めた。
そして、魔法を唱える。魔導剣士としての、初の呪文を。
「吹き荒べ、数多の風よ。幾重に連なり、敵を貫く矛となれ。『風香槍々(ウィミル・スピナー)』!」
呪文を唱えたと同時に、引き絞っていた刀を前に突き出す。
風燐華に纏われた薄緑色の風の輝きが、その動きと連動し強まっていく。
そして、突き出された刀の先から放たれたのは、高密度の暴風の槍。その破壊的な密度を持った暴風の槍は、寸分違わずヒーナスの群れを貫いた。
「うわ……すご……。……あれだけいたのが一瞬なんて」
魔法の威力を見たカナが感嘆の息を漏らす。
その威力の証拠に、極端に集まった二ヶ所以外のヒーナスの群れは、綺麗さっぱり無くなっていた。
「後二ヶ所ですよね。私は港側に行きますから、カナさんは町側に行ってください」
「分かったけど……大丈夫なの? 一人で行けるの?」
かなりの大きな事をしたというのにケロッとしているリィナの口から出た言葉に、カナは少し不安を覚える。
先ほども綺麗に迷っていたのに、ここまで自信満々に言える理由は何なんだろうかと。
「……大丈夫です。大丈夫、大丈夫。これだけの距離なんです。たったこれだけ……いけるいけるいけるいけるいけるいけるいける……」
呪詛のように『いける』をつぶやいていくリィナ。
その何とも言えない雰囲気に、カナは少し青ざめた顔をしながら逃げるように言った。
「……わ、分かった。……じゃ、じゃあ、私は町側に行くからね」
「はい。お気をつけて」
最後には呪詛を止め、にっこりと笑ってカナを送り出したリィナだったが、カナの顔色が戻ることは無かった。
・・・
・・
・
宿屋にいたリィナとカナは、突然のガラスが割れる盛大な音に驚いた。
ドゴォォン!!
「う、うわぁぁ!!」
「キャァァ!」
「ま、魔物だーー!」
さらには壁が吹き飛ぶ音、人々の悲鳴を聞き、リィナとカナは顔を見合わせた。
「カナさん……」
「うん。なーんか、嫌だね。シオン君とユフェルニカちゃん、無事かな?」
「大丈夫ですよ! お二人とも強いですし!」
「そっか。ならリィナちゃん。私たちがやることは、一つだよね」
「はい!」
大きく二人で頷きあった後、カナとリィナは宿屋を飛び出した。
もちろん、お金は置いたままで。
そして、二人の目の前に飛び込んで来たのは、真っ黒な空と、魔物の嘴だった。
「せやぁ!!」
それをいち早く察知したカナが、身を捻りながら『レストーション』を振るう。
体の円運動に合わせて振るわれたレストーションの柄はヒーナスの頭を捉え、頭蓋骨を破壊する音を響かせながら地面へと叩き落とした。
「おー! すごいですね! って言うか、それで殴れたんですか?」
「そうだよ? 鉄槍だからねー。固いのさ」
素直にその技に感心するリィナに、カナはレストーションを担ぎ直しながら答える。
だが、そんな悠長な構えをしている暇は無かった。
「って、そんな事より早く住民を逃さないと!」
「あ、はい。分かりました!」
そのカナの一言を境に、逃げ惑う住人を先導し、なるべく被害の少ない場所へと移動する二人。
不可解な事に、かなりの大人数で移動していたはずの二人だったが、まったくと言っていいほどヒーナスは襲ってこなかった。
だが、その事は今の二人には関係ない。今は住人の無事が優先なのだ。
「ご無事ですか!?」
「あ、王国騎士団の人だ!」
その二人の前にやってきたのは、ごくごく一般的だが少し装飾の多いコートに身を纏った女性。
頭に生えた狐耳とふわふわと揺れる尻尾から、ビルスティアであることが分かる。
「ええ!! ナ、ナリアさん!?」
「リィナ様!? どうしてこの様な所に! と言いますか、心配したんですよ!? 家出などなさって!」
「え? 家出? リィナちゃんって家出少女だったの?」
「ち、違いますぅ! ああもう! ナリアさんがここにいるって事は、もう安心してもいいんですよね!? 私は試したいことがあるので戻ります!!」
偶然の再会に戸惑いながらも、リィナはきっぱりと言い放つ。
焦りと恥ずかしさと気まずさが入り混じった、奇妙な赤い顔ではあるが。
「あーあ、行っちゃったよ……。で、騎士団の人。ここの住人の安全は、あなたたちが持ってくれるの?」
「え? あ、はい。責任を持ってお守り致します」
暴風のようなリィナの動きに、ナリアと呼ばれた騎士団の女性は半ば呆けていたが、すぐに持ち直してカナの質問に答える。
その答えを聞いたカナはすごく満足そうに笑った後、ナリアに続けてこう言った。
「んじゃ、私も戦いに行くんで、よろしくお願いします」
シュタッっと言う音が聞こえてきそうな見真似の敬礼をした後、カナはリィナの後を追いかけていった。
「あ、ちょっと!! ……大丈夫でしょうか……。リィナ様は重度の方向音痴だというのに……」
ナリアの懸念は、知り合って数時間のカナには分かるはずが無かった。
・・・
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「凍てつく氷塊。彼の者へと降り注げ! 『氷塊ノ雨(アイブロワ・レイン)』!」
向かってくるヒーナスの群れに向けて、魔法を発動する。
その魔法に合わせ群れの頭上に現れた拳大の氷の塊は、的確にヒーナスを一体一体潰していく。
向かって来ていた群れの一角を潰したユフィーは、そこで少しため息を吐いた。
「……ふぅ……。……すぅ……はぁ……」
魔力の流れを見極めるため、ため息を深呼吸に入れ替えるユフィー。
魔力は体力と似ている。使えば無くなるし、落ち着いて体を癒せば回復する。つまり、走った後に体を落ち着けるのと同じ行為をすれば、微弱ながら回復はするのだ。
「……もう……誰も……あんたたちに傷つけさせないわ」
そう言うユフィーは、スターレインを振りかざして呪文を唱えた。
「……氷よ。糸のように張り詰め、細く強靭に変われ。我が敵を捉え離さない、永遠の呪縛となれ! 『膜ヲ氷オ(アイスピルネア・ネット)』!」
スターレインの宝玉全てが輝き、広範囲に魔法を発動させるためにその内包された全ての魔力を解放する。
放射状に流れた魔力に合わせ、辛うじて見える程度の糸が周囲を完全に覆い込んだ。
その糸が見えないヒーナスは、糸に触れた途端凍り付く。冷気で造られた糸の檻が、触れる者全てを凍らせていく。
「……何か少ないけど……まぁいいわ……。ここにいる者全て、あたしが殺してあげる……」
憎悪と憤怒と悲しさのこもった瞳で、ユフィーは氷の糸の檻の中で不敵に笑った。
・・・
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ザシュッ。
「……はぁ……っ……こ……これで何体目だ。それに、僕ってこういう役多くないか……?」
無数に襲いかかるヒーナスの群れを切り伏せ、シオンの体力は限界に近づいていた。
いくら倒しても減らないその数。
どこからでも沸いてくるようなその感覚に、シオンは嫌な予感を覚えていた。
「……やっぱり、あの男が命じているのか……? だから、こんなに僕の所に……」
思い出されるのは、先ほど対峙していた男の言葉。
『ええ、その通りです。そしてこの一連の魔物の襲撃事件、私たちルナニスクルメアが行っています。……復讐のために……』
「……復讐って何さ…! そんな事しても何も変わらないっていうのに……!」
空を覆う真っ黒な影。その影の名前と同じ男の言葉は、シオンの胸の中で渦巻いていた。
実際、シオンの懸念の元である男の言葉は、今のこの状況を作っている。
半数以上の数をシオンの元に向かわせているのだ。明らかに、シオンだけを殺そうとしている行動。
「……でも……ある意味助かったかな? ……僕が頑張れば、他には行かないんだろう?」
初めに見せた挑発的な笑みを見せ、シオンはカテドラルの爪を鳴らす。
「……君がどこで見ているかは、知らないけど……」
グシャッ。
「……僕は決して……屈しないよ」
突っ込んできたヒーナスの一匹を、その言葉と共にカテドラルで貫く。
そして、今度は逆に自分から飛びかかっていった。
・・・
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「……どこでしょうか……ここ……」
完全に迷子になったリィナは、立ち止まって辺りを見渡していた。
普通に考えれば、空に浮かぶヒーナスの群れを追いかけていけばいいのだが、リィナにその考えは無かった。
と言うより、それぐらいの考えが少しでもあれば、重度の方向音痴にはならないで済むのだ。
「……うぅ……どうしましょうか……」
「リィナちゃん!」
「カナさん! どうして!?」
「どうしてもこうしても、こっちが聞きたい! なんでぐるぐるぐるぐる同じ所を回ってるの!?」
「へ?」
突然目の前に現れたカナにリィナが驚いていると、さらにカナの口から発せられた言葉に首を傾げた。
キョロキョロと辺りを見渡し、手を打つ。
「あ。何か見たことのある景色ですね」
「だから同じ所を回ってるだけだと言うとーに!!」
バシン!
漫才のように、どこからか取り出した紙の束でリィナを叩くカナ。
痛みはないようで、リィナはケロッとしていた。
「ってこんなことしてる場合じゃない。行くよ、リィナちゃん!」
リィナの手を取り、ヒーナスのいる方角に向かって駆け出していくカナ。
「二ヶ所だけかなりの数が集まってる……けど、他にもいるね。リィナちゃん! あそこの二ヶ所は後回し! それ以外を潰すよ!」
「うわー、どんどん近づいて行ってますよ」
「……ダメだこの子」
落胆しながらも、走る速度は緩めないカナ。
「あ、もうここでいいです! ここならやれるはずですから」
少し大きな広場に出たときにリィナがカナの手を振りほどき、止まる。
その行動に、カナは少し苛立ちを覚えた。
「やれるって何を? もう少しだけど、また一人にすると迷子に……」
「大丈夫です。……行きましょう、『風燐華』」
集中しながら風燐華に手をかけ、ゆっくりと鞘から引き抜いていくリィナ。
「……こ、これが魔剣……。……は、初めて見た」
魔剣の姿とその力の大きさに、カナは苛立ちも忘れ見惚れてしまう。
薄緑色の風を纏った、風燐華の魔剣としての真の姿。
小規模の台風がそこにあるような威圧感に、カナは呑まれていた。
「魔剣闘技、『飛翔(ひしょう)・貫(つらぬき)』」
厳かにそう呟くと、構えた風燐華をゆっくりと前に構えだす。
刀の先を目線の先に。体を開き、深く落とす。左手を前に突き出し、右手のみで刀をしっかりと構える。左手を突き出し、右手を後ろ向きに引き絞った奇妙な形で、リィナは構えを止めた。
そして、魔法を唱える。魔導剣士としての、初の呪文を。
「吹き荒べ、数多の風よ。幾重に連なり、敵を貫く矛となれ。『風香槍々(ウィミル・スピナー)』!」
呪文を唱えたと同時に、引き絞っていた刀を前に突き出す。
風燐華に纏われた薄緑色の風の輝きが、その動きと連動し強まっていく。
そして、突き出された刀の先から放たれたのは、高密度の暴風の槍。その破壊的な密度を持った暴風の槍は、寸分違わずヒーナスの群れを貫いた。
「うわ……すご……。……あれだけいたのが一瞬なんて」
魔法の威力を見たカナが感嘆の息を漏らす。
その威力の証拠に、極端に集まった二ヶ所以外のヒーナスの群れは、綺麗さっぱり無くなっていた。
「後二ヶ所ですよね。私は港側に行きますから、カナさんは町側に行ってください」
「分かったけど……大丈夫なの? 一人で行けるの?」
かなりの大きな事をしたというのにケロッとしているリィナの口から出た言葉に、カナは少し不安を覚える。
先ほども綺麗に迷っていたのに、ここまで自信満々に言える理由は何なんだろうかと。
「……大丈夫です。大丈夫、大丈夫。これだけの距離なんです。たったこれだけ……いけるいけるいけるいけるいけるいけるいける……」
呪詛のように『いける』をつぶやいていくリィナ。
その何とも言えない雰囲気に、カナは少し青ざめた顔をしながら逃げるように言った。
「……わ、分かった。……じゃ、じゃあ、私は町側に行くからね」
「はい。お気をつけて」
最後には呪詛を止め、にっこりと笑ってカナを送り出したリィナだったが、カナの顔色が戻ることは無かった。
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