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小説:アクレニア戦記 ~二つの決意~ (完結)

三章 真実の一端

 三人は辿り着いた港で情報収集のために歩いていた際、道のど真ん中で倒れている人影に出くわした。
 シーーーン……。
 まるで死んでいるかのような人影に、シオンは王国に来て初めての試練に立たされていたと、錯覚した。
 お人好しであるシオンは助けようとするだろうし、ユフィーはあまり人と接点を持ちたがらない。リィナに至っては、会話は簡単にできる方なのだが、持ち前の天然な性格で相手に伝わらない事を喋ることが多々あるのだ。
 そのために、今この状況下に置いてもシオンはツッコミ役、つまりは制止役にならざるを得なかった。
「ちょっと、これどかしなさいよ」
「いやいやいや、人が倒れてるんだってば!」
「……大丈夫ですかー? 生きてますかー?」
「風燐華で倒れてる人を小突かない!」
 今にも魔法を発動して、倒れている人影を凍らせてしまいそうな雰囲気のユフィーを止め、安否確認のために突いているリィナの行為の間違いを直すシオン。
「……うるさいわね。ここで倒れてる奴がいけないんでしょ? どうせ、路銀に困った旅人とかじゃないの? 放っておきましょう」
「そんな訳にいかないじゃないか。旅人だったら、情報には詳しいはず。何も知らない僕達が情報を手に入れるには、最善の手段だよ」
 知らない人間が嫌い。そう言えてしまうほどの極度の人見知りであるユフィーを何とか宥め、人助けをしようとするシオン。
「それは……そうでしょうけど……」
「王都クルメニアまではまだ距離がありますし、問題ありませんよ?」
 そこで唐突にリィナが話しに割り込み、渋るユフィーに微妙に勘違いした言葉を言った。
 その微妙な的外れの言葉に、ユフィーとシオンは苦笑いするがユフィーは態度を変えることはないらしく、腕を組んでシオンたちの言葉に備えた。
「……ぅぅ……んー……」
 だが、そんな時に倒れている人影からうめき声が聞こえ、身じろぎする音が聞こえてきた。
「……あれ? 私……」
「……大丈夫? さっきまでここで倒れてたんだけど……」
 起き上がってキョロキョロと辺りを見渡す藍色の髪の少女に、シオンが心配そうな声をかける。
 その声に少々驚いた様子の少女だったが、すぐに気を取り直して頭をペコリと下げた。
「あ、大丈夫です。いつもの事なので」
「いつもの事って……。道の真ん中に倒れていることが?」
「ええ。だってお腹空いてちゃ何もできないもん」
 自信満々に胸を張りながらそう言う少女。
 正直な所、威張る所ではないのだが、なぜかこの少女は自信満々だ。
「……そう……なんだ。でも、何で倒れるまで何も食べなかったの?」
「お金がないからに決まってるでしょ」
「そのとーり!!」
 ビシィ!
 シオンの疑問にユフィーが答えたとき、間髪入れずに少女の指が三人に向けられる。
 まるで、どこかの効果音が聞こえてきそうなぐらいの勢いに、三人は気圧されてしまう。
「そうそうそう! そうなんだよ! お金がなかったら何も食べれないし、そのお金を手に入れようにも何も売れなかった! これが世に言うジリ貧って奴だね!!」
「……いや、違うと思う……」
 早口でまくし立てながら喋る少女の言い分を、シオンは小声ながらも突っ込んだ。
 グゴゴゴゴゴ……。
 そして唐突に、信じられない音が響く。
「な、何!? 地鳴り!?」
「……ちっ。ここにも魔物がくるっていうの?」
「港が襲われたっていう話は聞いたことがないんですが……」
 その響き渡った音を魔物が近づいてくる音だと思ったユフィーは、背中におったスターレインの柄を握り締める。
 リィナもそれに習い、風燐華を鞘から何時でも抜けるように構え、臨戦態勢を整えていく。
 唯一その音を目の前で聞いたシオンは、あまりの音量の大きさにただただ驚いていた。
「……あははは……何か悪いことしたなー……」
「何言ってるの!? あんたも早く構えるか逃げなさい!」
「……いや、そうじゃなくてさ」
 グゴゴゴゴゴゴ……。
 その響く鈍い音はさらに大きくなり、三人を圧迫する。
「……ユフィー……違う、違うんだ。……魔物じゃない。いや、ある意味で言えば魔物だけど、戦わなくていいんだ」
「シオン? 何を言って……」
 一足先にその音の正体に気づいたシオンは、なぜか悲しそうな顔をしながら、ユフィーの肩を叩いて安全であることを知らせる。
 その真意が図れず、シオンに疑問の言葉を投げかけようとするユフィーだったが、すぐに理解した。
「……私のお腹の音なんだよねー……ごめんね? そして何か食べ物頂戴?」
「図々しいわ!!」
「つめたっ!!」
 可愛く舌を出しながら言った少女に、ユフィーの氷を纏った突っ込みが入った。
「こらこらユフィー。僕らも食事にしようとは思ってたんだから、そんなに怒らないで」
「とは言っても図々しすぎるわよ。あたし、そんなに優しくないの」
 肩を竦めるようにしながら、咎めてきたシオンの言葉をいなすユフィー。
「へー、優しくないんですか、ユフィーさんって」
「リィナ、そこは反応する所じゃないよ……。あ、ほら、あそこに宿屋があるからそこで食事にしよう? ほら、君も」
 リィナの天然すぎる質問を、シオンは若干疲れたような声を上げて行き先を示す。その際、少女を誘う事を忘れない辺り、シオンはこの少女と一緒に食事をとる事を諦めていないのだろう。
「あ、いいんだ。ゴチになりまーす!」
「うん、なんだか清々しくていい感じだね。二人も、行くよ」
「分かったわよ……」
「はーい」
 渋々と言ったユフィーと素直なリィナ。対極な二人と、目をキラキラと輝かせている少女を連れて、シオンは宿屋へと入った。
 給仕に案内され、店のメニューを確認しながら、シオンは慣れた様子で注文を取っていく。
「じゃあ、これとこれとこれ……。あ、これは四人前で。あ、そうだ。お腹空いてるんだったらこれもかな?」
「畏まりました」
「あ、なにか自分で注文したかったら遠慮なく言ってね」
 席についてそわそわしている少女に、シオンは柔らかな笑みでそう告げる。
 そんなシオンの優しさに甘える形で、少女は開口一番、とんでもない事を言い放った。
「じゃあ……。ここからここまで、全部!」
「ぶふっ!」
 王族であるシオンでさえやった事のない、大胆注文。それを見て聞いたシオンは、出されていた水を思いっきり吹き出した。
「ごほっごほっ! な、なにさその注文……」
「え? 夢だったんだよねー、こんな注文の仕方」
 思いっきりむせるシオンを尻目に、少女はわくわくとした気分を押さえられないかのように、目をキラキラさせたままそう言う。
「こいつ……。遠慮と言う言葉を知らないのかしら」
「大食漢なんですねー」
 そんな少女の態度にユフィーはキレかけ、リィナはなぜか感心している。だが、そんな態度は、食事が運ばれてきてからは豹変することとなった。
「いっただきまーす!!」
 ガチャガチャガチャ……。
 モグモグモグモグ……。
 ゴックン。
「ぷはー!!! い・き・か・え・っ・たーーーー!!!」
 少女が食事のあいさつを終えてから、実に数分。
 信じられないほどに散らかった机。積み重ねられた皿と、満足そうにお腹を擦っている少女を見て、シオンたち三人は完全に絶句していた。
「いやー、ごめんね、これだけ食べちゃってさ。ここ一週間ぐらい何も食べてなかったんだよねー」
 汚れた口元を充てがわれた白い布で拭きながら、少女は自らの状況を説明する。
「……い、一週間……」
「……それでこの食いっぷりな訳ね」
「……ほわー……お皿の塔が出来てますよー」
 だが、その説明も三人にとっては上の空で、机の上の広がった惨状を見つめてほとんど聞いていなかった。
「あ、私の名前はカナ。カナ・コルセルニアだよ。ありがとうね、命の恩人さんたち。カナって気軽に呼んでね」
「そんな大それた事はしてないよ。僕はシオン・セナ。僕もシオンでいいよ」
「……ユフェルニカ・シーファスよ」
「リィナ・ハーキュリーです! よろしくお願いしますね、カナさん!!」
 カナが頭を下げながら自己紹介した事に、シオンは少し苦笑しながらもその自己紹介に答えていく。
 途中、ユフィーの氷の態度には少し違和感を感じる物があったが。
「……そういえば、カナさんって槍を使って戦うんですか?」
 リィナが今まで気になっていたであろう事を口にした。
 カナの背中に担がれた長槍。鉄槍のようで、持ち手の部分が黒光りして鈍い輝きを放っている。剣士として、そして同じ女としてそのような武器を持ち歩いている訳をリィナは知りたかったのだ。
「ああ、これ? 私、トレジャーハンターやってるの。その時に魔物に襲われること何てたくさんあるから、こうやって自衛?のために持ち歩いてるの」
「ふえーー……。そうなんですか……すごいですね!」
「そう言うリィナちゃんだって、すごいの持ってるじゃん」
 今度は逆に、カナがリィナの腰にさした風燐華を指差した。
 カナが気付いたように、この世界では剣を鞘に入れておく事自体が珍しい。武骨な両刃剣が多いこの世界では、鞘に入れておくなどという動きの阻害される行為は基本的にしないのだ。
 ただ唯一、エスカレルニア王国の極東の地域だけで造られる『刀』だけが、その例外とされている。カナはその事を言っているのだ。
「あ、これですね。風の聖霊さんからもらった魔剣、風燐華です」
 その刀の輝きをカナに見せようと、鞘から刀身を抜こうとするリィナ。
 だが、その動きをシオンは焦りながら必死に止めた。
「ダメだって! まだあんまり制御しきれていないんでしょ!? こんな店の中で出さないの!!」
「あ、そうでしたね。……すいません」
 事実、リィナは未だ風燐華の力を制御しきれていない。
 帆船に乗っている間に、魔力の練り上げの感覚をユフィーに習ってはいたのだが、風燐華自体が持つ魔力に引っ張られて細かな制御が出来ていないのだ。
 そのために、下手をすれば刀を鞘から引き抜いただけで暴風が巻き起こるという危険がある。
 シオンはそれを懸念して、リィナに刀を抜くのを止めさせたのだ。
 だが、その懸念とは裏腹にカナの両目は完全に輝いてしまっていた。
「すごいすごいすごいすごーーーい!!! 魔剣とかってどうやって手に入れるの!? なにそれなにそれ、すっっっっっごーーーーーく気になる!!!!」
 身を乗り出しながらシオンとリィナに詰め寄るカナ。
 両目をキラキラさせながら涎を垂らして詰め寄るその様は、もはや恐怖としか言いようがなかった。
「ちょ、ちょっとカナ、落ち着い──」
「……凍らせるわよ?」
「ひうっ!」
「ユフィー! いきなり何するんだ!」
 暴れ出そうとするカナをシオンが抑えようとしたとき、絶対零度の魔力の流れとユフィーの冷やかな声がカナを貫いた。
 その寒気にカナは小さく悲鳴を上げながら飛び上がり、その隣にいたシオンはユフィーの行動を咎める。
「……ふん」
 その咎めもユフィーの耳には入らず、ユフィーは小さく鼻を鳴らした後に宿屋から出て行ってしまった。
「ユフィー! リィナ、カナ、勘定はこれで済ませておいて。僕はユフィーを追いかけてくる」
 ユフィーを追いかけるため、シオンは持っていた有り金を全て机に置いた後宿屋から飛び出していった。
「……ひー、ふー、みー……うわ……何この大金……これだけ食べたのにまだおつりがくるよ……」
「シオンさん……どこにこんな大金隠してたんでしょう……」
 机に置かれた金貨銀貨様々なお金の数々に、カナは純粋に驚き、リィナはどこか驚く所が違っていた。
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