小説:アクレニア戦記 ~二つの決意~ (完結)
二章 遥かなる旅
「ふわぁぁぁ……」
大きなあくびを一つ。
昨日の一件から一夜明け、出立の日の朝。
シオンは自らが選んだ部屋から大きく背伸びをしながら現れた。
「……はぁ……」
朝の空気を楽しんでいるシオンの耳に、そんな憂鬱なため息が届く。
まさかと思ってその声がする方角に向かうと、そこにいたのは案の定彼女だった。
「……リィナ……ちゃんと寝れたの?」
「……一応は寝ました。眠らないと動けない体質なんで」
「そんな体質ってあるんだ……」
「……でも、昨日の事とか、剣を見ていると悲しくなっちゃうんです」
「思い入れのある物……なんだよね? その剣は」
「はい。兄様に頂いた、初めての剣です」
折れたセントクルセイダーズを見ながら、リィナはそう呟く。
リィナの兄、レイソル・ハーキュリーはエスカレルニア王国の筆頭剣士であり、王国騎士団団長でもある。リィナはそんな兄を誇りに思い、そして敬愛しながらも劣等感を抱いていた。
若くしてその才覚を発揮し、その腕を存分に振るう兄。
対して自分は、剣士になる夢を捨てきれない女。
そんな自分が、偉大なる兄の妹でよいのかと。そう思ってしまっていたのである。
ついでに言えば、その事で親と喧嘩し、さらにはシオンたちと出会ってしまっているのだが。
「そうなんだ。僕は一人っ子だから、そう言う気持ちは分からないや」
「そうなんですか? てっきり下に弟さんや妹さんがいると思ってました」
「僕が物心つく前に母上は亡くなったからね。それに、父上も側室を取らない人だったから」
「……なるほどですね」
「それに、そういうのは贅沢な悩みって言うんだ。分からないなら、お兄さんがリィナの事をどう思っているのかを知りたいなら、全力でぶつかってみなよ。きっと、いい経験になると思う」
リィナの気持ちを整理させるために、シオンは自らの思いを述べていく。
きっと、彼女ならいい答えを見つけてくれると信じて。
「試しに啖呵でも切ってみたら? 『私は兄様を越えます!』見たいな感じでさ」
「……そうですね。知りたいなら、ぶつかってみればいい……。……やっぱり、シオンさんはいい王様になりますよ」
「恥ずかしいから止めてよ」
「あはは。いいじゃないですか。私の決意は、シオンさんがくれたんですから」
先ほどまでの落ち込んだ顔とは打って変わって、朗らかな笑顔で笑うリィナ。
「……私は、兄様を……いえ、誰よりも強くなります。慣例だか通例だか、そんなの知らないです。私は、私の決めたことをやります」
「その言葉を待ってたよー♪ かっこいいー♪」
「ええ。その通りですね」
「…………ん」
「……まったく、心配かけさせないでよね」
リィナが決意の言葉を口にした瞬間、楽しそうな言葉を皮切りに、ゾロゾロと人が溢れてきた。
突然の出来事に、リィナは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
そのリィナに助け船を出すかのように、シオンが疑問を口にした。
「何でここに風の聖霊がいるのさ。それに、かなり普通に会話してたし」
「聖霊は魔剣と共にあるのです。ですので、かなり前から私は知っています」
「…………聖霊さん」
「あたしはアイシーとの一件があるからね。慣れたわ」
「……なんだろう。なんかこう、普通が普通じゃなくなっていく感じは」
「まぁまぁ気にしないでおこうよ♪ ボクはプレゼントしにきたんだからね♪」
くるくると宙を舞いながら、楽しそうに言うウィンディア。
その様は、ローブに隠れた幼い顔と同じような無邪気なものだった。
「プレゼント?」
「……確か、昨日の戦闘中に何か言ってたような……」
リィナがその発言に首をひねり、シオンが記憶を呼び覚ますかのように口元に手を動かす。
そんな二人に対し、メアが唐突に言葉を投じた。
「この風燐華を、あなたに使ってもらいたいのです」
「ええ!? ま、魔剣をですか!?」
黒塗りの、装飾が一切無い鞘に収められた風燐華を、リィナに向かって差し出すメア。
その出来事の大きさに、リィナは困惑を隠せない。手を前に最大限押しやりながら抵抗した。
「ビルスティアである私よりも、ヒューマティアであるあなたの方がいいんです」
「うんうん♪ それにボクは君が気に入った♪ これはもう決定事項だからねー♪」
「うぅ……」
「もらっときなって。お兄さんとの件については必要ないかもしれないけど、旅には必要でしょ?」
「そうよ。あたしなんて剣なんか使えないから無理だけど、あんたは出来るじゃないの」
なおも抵抗しようとするリィナに、トドメの一撃となるシオンとユフィーの言葉が突き刺さる。
その事に軽く打ちのめされそうになりながらも、リィナはおずおずと手を差し出した。
「……じゃあ、私が使ってもいいんですか?」
「そう言ってるじゃない♪」
「……なら、ありがたく使わせていただきます」
先ほどの啖呵を切ったときのような決意のある瞳で、リィナは風燐華をその手に取った。
「やったね♪ 君はこれから晴れて魔導剣士ってやつだよ♪ 難しいことしかないけど、頑張ってねー♪ じゃ、ボクはこれで当分出てこないけど、頑張って覚えてね♪」
「え? どうしてですか?」
「こうやって姿を見せるのって疲れるんだよー♪ 継承の儀もかなり簡略化したし、疲れたのだー♪ ってなわけでーバイバーイ♪」
音の旋律はそのままだが、少し疲れたような声でそう言葉を残すと、ウィンディアは薄緑色の風に包まれて消えていった。
それを呆然と見つめた後、リィナは手の風燐華を固く握り締める。
その行動を横目で見ていたシオンは、少し息を吐くと言葉を投げかけた。
「よし。リィナも大丈夫になったことだし、行こうか」
「ええ。メア、コロナ、世話になったわね」
「いえいえ。また何時でもいらしてください」
「…………来て」
ユフィーが珍しく感謝の意を残る二人にかけると、二人は同じように言う。
また遊びに来て。また会えるよねと。
「分かった。近くに来たときには立ち寄ることにするよ」
「本当に有難うございました!!」
先に帆船に乗り込んだユフィーに続き、シオン、リィナの順に帆船へと乗り込む。
そして、それを送り出す二人は手を振って三人の旅を送り出した。
「行こう! 王国へ!」
大きなあくびを一つ。
昨日の一件から一夜明け、出立の日の朝。
シオンは自らが選んだ部屋から大きく背伸びをしながら現れた。
「……はぁ……」
朝の空気を楽しんでいるシオンの耳に、そんな憂鬱なため息が届く。
まさかと思ってその声がする方角に向かうと、そこにいたのは案の定彼女だった。
「……リィナ……ちゃんと寝れたの?」
「……一応は寝ました。眠らないと動けない体質なんで」
「そんな体質ってあるんだ……」
「……でも、昨日の事とか、剣を見ていると悲しくなっちゃうんです」
「思い入れのある物……なんだよね? その剣は」
「はい。兄様に頂いた、初めての剣です」
折れたセントクルセイダーズを見ながら、リィナはそう呟く。
リィナの兄、レイソル・ハーキュリーはエスカレルニア王国の筆頭剣士であり、王国騎士団団長でもある。リィナはそんな兄を誇りに思い、そして敬愛しながらも劣等感を抱いていた。
若くしてその才覚を発揮し、その腕を存分に振るう兄。
対して自分は、剣士になる夢を捨てきれない女。
そんな自分が、偉大なる兄の妹でよいのかと。そう思ってしまっていたのである。
ついでに言えば、その事で親と喧嘩し、さらにはシオンたちと出会ってしまっているのだが。
「そうなんだ。僕は一人っ子だから、そう言う気持ちは分からないや」
「そうなんですか? てっきり下に弟さんや妹さんがいると思ってました」
「僕が物心つく前に母上は亡くなったからね。それに、父上も側室を取らない人だったから」
「……なるほどですね」
「それに、そういうのは贅沢な悩みって言うんだ。分からないなら、お兄さんがリィナの事をどう思っているのかを知りたいなら、全力でぶつかってみなよ。きっと、いい経験になると思う」
リィナの気持ちを整理させるために、シオンは自らの思いを述べていく。
きっと、彼女ならいい答えを見つけてくれると信じて。
「試しに啖呵でも切ってみたら? 『私は兄様を越えます!』見たいな感じでさ」
「……そうですね。知りたいなら、ぶつかってみればいい……。……やっぱり、シオンさんはいい王様になりますよ」
「恥ずかしいから止めてよ」
「あはは。いいじゃないですか。私の決意は、シオンさんがくれたんですから」
先ほどまでの落ち込んだ顔とは打って変わって、朗らかな笑顔で笑うリィナ。
「……私は、兄様を……いえ、誰よりも強くなります。慣例だか通例だか、そんなの知らないです。私は、私の決めたことをやります」
「その言葉を待ってたよー♪ かっこいいー♪」
「ええ。その通りですね」
「…………ん」
「……まったく、心配かけさせないでよね」
リィナが決意の言葉を口にした瞬間、楽しそうな言葉を皮切りに、ゾロゾロと人が溢れてきた。
突然の出来事に、リィナは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
そのリィナに助け船を出すかのように、シオンが疑問を口にした。
「何でここに風の聖霊がいるのさ。それに、かなり普通に会話してたし」
「聖霊は魔剣と共にあるのです。ですので、かなり前から私は知っています」
「…………聖霊さん」
「あたしはアイシーとの一件があるからね。慣れたわ」
「……なんだろう。なんかこう、普通が普通じゃなくなっていく感じは」
「まぁまぁ気にしないでおこうよ♪ ボクはプレゼントしにきたんだからね♪」
くるくると宙を舞いながら、楽しそうに言うウィンディア。
その様は、ローブに隠れた幼い顔と同じような無邪気なものだった。
「プレゼント?」
「……確か、昨日の戦闘中に何か言ってたような……」
リィナがその発言に首をひねり、シオンが記憶を呼び覚ますかのように口元に手を動かす。
そんな二人に対し、メアが唐突に言葉を投じた。
「この風燐華を、あなたに使ってもらいたいのです」
「ええ!? ま、魔剣をですか!?」
黒塗りの、装飾が一切無い鞘に収められた風燐華を、リィナに向かって差し出すメア。
その出来事の大きさに、リィナは困惑を隠せない。手を前に最大限押しやりながら抵抗した。
「ビルスティアである私よりも、ヒューマティアであるあなたの方がいいんです」
「うんうん♪ それにボクは君が気に入った♪ これはもう決定事項だからねー♪」
「うぅ……」
「もらっときなって。お兄さんとの件については必要ないかもしれないけど、旅には必要でしょ?」
「そうよ。あたしなんて剣なんか使えないから無理だけど、あんたは出来るじゃないの」
なおも抵抗しようとするリィナに、トドメの一撃となるシオンとユフィーの言葉が突き刺さる。
その事に軽く打ちのめされそうになりながらも、リィナはおずおずと手を差し出した。
「……じゃあ、私が使ってもいいんですか?」
「そう言ってるじゃない♪」
「……なら、ありがたく使わせていただきます」
先ほどの啖呵を切ったときのような決意のある瞳で、リィナは風燐華をその手に取った。
「やったね♪ 君はこれから晴れて魔導剣士ってやつだよ♪ 難しいことしかないけど、頑張ってねー♪ じゃ、ボクはこれで当分出てこないけど、頑張って覚えてね♪」
「え? どうしてですか?」
「こうやって姿を見せるのって疲れるんだよー♪ 継承の儀もかなり簡略化したし、疲れたのだー♪ ってなわけでーバイバーイ♪」
音の旋律はそのままだが、少し疲れたような声でそう言葉を残すと、ウィンディアは薄緑色の風に包まれて消えていった。
それを呆然と見つめた後、リィナは手の風燐華を固く握り締める。
その行動を横目で見ていたシオンは、少し息を吐くと言葉を投げかけた。
「よし。リィナも大丈夫になったことだし、行こうか」
「ええ。メア、コロナ、世話になったわね」
「いえいえ。また何時でもいらしてください」
「…………来て」
ユフィーが珍しく感謝の意を残る二人にかけると、二人は同じように言う。
また遊びに来て。また会えるよねと。
「分かった。近くに来たときには立ち寄ることにするよ」
「本当に有難うございました!!」
先に帆船に乗り込んだユフィーに続き、シオン、リィナの順に帆船へと乗り込む。
そして、それを送り出す二人は手を振って三人の旅を送り出した。
「行こう! 王国へ!」
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