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小説:アクレニア戦記 ~二つの決意~ (完結)

二章 遥かなる旅

 朝の光に照らされた朝露の輝く森の中を、シオンとユフィーは歩いていた。
 二人共、あまり会話が無く歩いているが、これは専らユフィーのせいであった。
 パキン!
 パリパリパリ……。
 バリィン!
「……ちょっとユフィー。音だけ聞くと、すんごく何やってるか分からないよ」
 隣から聞こえてくる不吉な音の連鎖に、たまらずシオンは内心ビクビクしながら声をあげる。
「仕方ないでしょ。これの使い方を覚えないといけないんだし」
 だが、ユフィーは手に持つスターレインを示すと、再び魔力を練り上げていく。
 ユフィーが行っているのは、自らの魔力の制御と杖の効果を見極める行為だ。
 戦っている最中に突然ぶっ倒れても、誰も助けてくれはしないし。まあ、お人好しのシオンならば助けるかもしれないが、あまり褒められたことではない。
 それに加え、スターレインについている宝玉は魔力を内包できる能力がある。この能力を見極めるために、ユフィーは少しずつ魔力を流しているのだ。
 ちなみに、今の宝玉の色は全て淡い水色に光輝いている。
「うん。それは分かってるんだけどね? ……こう……何て言うかさ……」
「なによ。はっきり言いなさいよ」
 歯切れの悪いシオンの台詞に、ユフィーは苛立ちを隠せない。
 これ以上機嫌が悪くなってとばっちりが来ても困るため、シオンは渋々と言った様子で周りの惨状を示した。
「……これはちょっと、やりすぎなんじゃないかなー……って僕は思うんだけど」
 シオンの周りには、氷漬けにされた魔物や、木々の数々が広がっていた。
 周囲の気温もそれに従って下がっており、シオンは着ていたローブを深く着直している。
「あら、いいじゃない。魔物に関しては、未曾有の悲劇を防げたって事で」
 寒そうにしているシオンを尻目に、ユフィーはまったく寒そうにしていなかった。
 シオンより、かなりの薄着なはずなのだが。
「未曾有って何さ……。でも、魔物の量が多いことは確かだよね」
「ええ。馬引きもいないようだし、多分魔物が多いせいなんじゃないかしら」
 馬引きというのは、この世界での長距離の移動手段だ。
 馬が数十頭集まって、一般的な大きさの民家を引っ張る。その民家の中に人々を収容し、目的地まで運ぶのが馬引きの仕事である。
 乗合いの形も可能なため、街の外に出ると、馬引きは必ず見かけることになる。その馬引きがいないと言うことは、魔物の量が多く運行ルートが取れないという事と、天候状況の二つがあげられるが、今の状況は魔物が多いせいだろうと2人は確信していた。
「でもまあ、そのせいで歩いてるんだけどね。僕達は」
「……それを言わないでよ」
「方向さえ間違わなければ、三日後には多分大陸の端に着いてるよ?」
「……三日、ね。三日」
「……うん、三日……」
「「……はぁ……」」
 道のりがまだまだ長く、遠いことに、二人は同時に大きなため息を吐く。
 しかし、今の二人の状況では、ゆっくりと落ち込んでいる暇など無かった。
 ガサガサガサ……。
「方向を間違わなければ三日よね?」
「……確かにそう言ったけど?」
「……魔物に襲われてたら三日以上かかるんじゃないの?」
「あ。確かにそうだね」
「グルルルル……」
 二人がそんな会話を交わしていると、ユフィーの心配通りの事が起こる。凍っていなかった茂みが不自然に動き、そこから魔物が現れたのだ。
 四本の足に、均等に生えそろった長い爪。そして、逆立つ藍色の毛並み。その姿を認めたユフィーは、その魔物の名前を口にする。
「あの長い爪は『クローウルフ』ね。いい感じに食料になりそうよ?」
「え? 食べれるの?」
「当たり前じゃない。ちょっと臭みはあるけど、きちんと焼けば食べれるわ」
「へぇ、そうなんだ」
 思わぬ所で聞けた食事情報に、シオンは感嘆の息を漏らす。
 そんな二人の会話など理解もできないクローウルフは、自慢の長い爪を剥き出しにしながら跳びかかってきた。
 跳びかかってきたクローウルフを、シオンは真っ向からカテドラルで受け止る。そして、跳びかかってきた力を逃がすかのように、器用にクローウルフを打ち上げる。
 宙に浮き上がったことで完全無防備になったクローウルフの腹を、シオンは容赦なく貫いた。
「……やるわね」
 その技を見ていたユフィーは、少し悔しそうな表情で呟く。
 普通、刃物で何かを受け止め、弾く行為は尋常では無い技量と、それを成し遂げるための集中力がいる。
 刃物によって対象が切れるか、刃物が刃毀れする可能性があるため、出来ると思っても普通は行わない事が多い。だが、その心配を微塵も感じさせないシオンの動きが、ユフィーはなんとなく面白くなかったのだ。
「はい。どうするのこいつ? どこか食べられない所とかってある?」
 カテドラルに突き刺さっていたクローウルフの死体を引き抜き、足を掴んで逆さにつった状態でユフィーにそう聞くシオン。
 ユフィーはそのクローウルフの死体を見ながら、状況を冷静に分析していく。
「そうね。とりあえずは皮を剥いで、内臓を全部取り出す。爪に関しては、あたしたちの村では調度品になっていたんだけど、今は必要ないわ」
 指で状況を指差しながら、ユフィーは的確に指示していく。
 その様を見て、シオンは再び感嘆の息を吐いた。
「へぇー。僕はこんなの見たこと無いから、よく分かんないや」
「それはそうでしょう。あなたは王子なのよ? こんな事知ってる方がおかしいわ。普通、きちんと料理された物が出てくるんだからね」
 少しばかりの皮肉を込めながら、ユフィーはシオンに向かって言い放つ。
 非情に回答に困るその言葉に、シオンは黙るしかなかった。
「ま、後はこれを焼くだけだから簡単なんだけれどね」
「あ、そうなんだ。じゃあ、僕は薪でも集めに……」
 そこまで言って、シオンは綺麗に固まってしまう。
 振り返る所は振り返り、振り返っていない所は振り返っていない。そんな奇妙な体の向きのままで。
「なに? どうしたの?」
 そんな奇妙な体の向きで固まったシオンを訝しみながら、ユフィーはとりあえず質問をする。
 その質問に、シオンは呆れたような、困ったような声を出しながらこう言った。
「……木とか葉っぱとか、全部凍ってるんだけど」
「…………///」
 そう。ほとんどの木々は、ユフィーの実験のために凍らされてしまっていたのだ。
 その事に気づいたユフィーは、顔を真っ赤にしながら下を向いてしまう。
「……ま、少しだけ歩こうか。後には戻れないけど、先に行けばあるはずだからさ」
「……ええ。そうしましょうか」
 顔が真っ赤のままだが、ユフィーは前を進むシオンの後を追いかけて行った。
・・・
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