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小説:焔 凉華の五つの約束

プロローグ 出会いが最悪でもいいじゃない



 所変わって、学校の中庭にて――。

「いやー、うまいな!」

 バクバクバク…

「食いながら喋んなよ汚い」

「だってうまいもんはうまいし……」

「飲み込んでから喋れって言ってんの」

 恭平は、購買で買ってきたばかりのパンの袋を破りながら、一樹の行為を咎める。

「そうだよ金城くん。行儀悪いよ」

「……お前が言うなお前が。つか、なんでパンくわえながらで発音きれいに喋れるんだよ」

「やだー、きれいだなんてそんなー///」

「照れんなよ、誉めてねーから」

 レーズンパンを口一杯に頬張ったまま恥じらう青羽に、恭平はあきれた声をあげる。

「と言うよりさー、しのりんの方がどうかと思うよ。いっつもさ」

「どうかと思うって何が」

「……恭平くんの周りのことを言ってるんだよ」

 細長く作られた中庭に対し、平行に並べてあるベンチに、一人一つの形で三人は座っている。同じベンチに座れば良いとは思うが、この三人ではそれができない理由があるのだ。

 青羽は何ら問題ない。ただレーズンパンが好きなだけで、量も二つと少ない。

 だが、一樹は量が多い。十を越えるパンを口にし、その袋の残骸が座っているベンチに散乱するのだ。誰も、ゴミにまみれて食事をしたくはないだろう。

 そして、恭平は一樹と青羽が言うように周囲に問題があった。

「周りって、普通じゃん」

「……しのりん的には普通なんだろうけどさ」

「うん。鳥とか猫とかが、恭平くんの周りにいる状況はね」

 恭平の座るベンチを取り囲むかのように、動物たちが現れていた。

「今日はいつもより少ないだろ。朝の犬たちがいないってだけだけどな」

 頭上にはツバメやスズメ、ベンチの周りには様々な毛色の猫たち。

 動物園とまでは行かないが、それでも普通の日常生活では見ることができないであろう動物の量が、恭平の周りを取り囲んでいるのだ。

「まあ少ないけどー。いつもよりって話でしょ?」

「そうだよねー。餌付けしてるわけでもないのに、これだけの量以上が毎回毎回集まってくるなんて、恭平くんの特異体質はすごいもんだよ」

「……特異体質とかで片付けないで欲しいんだが」

「じゃあフェロモン?」

「もしくは因果応報って奴だよ」

「なーにが因果応報だ。俺が昔に何かやったって言うのか。それに青羽、フェロモンってなんだフェロモンって」

「さぁ?」

「さぁ? じゃねーよ一樹」

 膝に上ってきていた一匹の猫を撫でながら、一樹の返答に突っ込む恭平。

 そんな恭平を見ながら、青羽は恭平の周りにいる一匹の猫を抱え込んで撫で始める。

「まー、私としては猫好きだし。別に何でもいいんだけどねー」

「お前はな。って、そう言えば、お前は猫が好きで霧香姉さんは犬が好きだったような――」

 顎に手を当てて思い出すように考え込む恭平。だが、言葉を口にした瞬間、ハッとした様な表情を浮かべてベンチの後ろ、つまりは校舎側を振り向いた。

「呼ーんーだー?」

 恭平が振り向いた瞬間、大声とまでは言わないが間延びした声が響き、その後に人影が恭平めがけて現れる。

「呼んでねーよこの愚姉」

 その現れた人影に容赦ない言葉を浴びせかけながら、突っ込んできた人影をさらりと避ける恭平。

「あーん、つめたーい」

「冷たくて結構。と言うより、なんで俺が名前を呼んだ瞬間に現れることができるんだよ、霧香姉さんは」

「ふふん。それは私が恭平の愛する姉だからだ!」

「逆だ。色々と」

 長い髪をポニーテールにまとめ、自己主張の激しい胸を押し出しながら言う霧香に、恭平はどうでも良さそうに声をあげる。

 なぜなら、恭平の言う通り、霧香は昔から恭平の声への反応が異常に早いのだ。さすがに声が聞こえないような距離では無理だが、聞こえるなら別である。

 恭平が『霧香』と呟いた瞬間に現れる。どこからともなく。それが産まれてから今の今までずっと続けば、恭平のように飽きてしまうだろう。

「恭平くん、毎度ながらに扱い雑だね。霧香さんの」

「身内だったらこんなものだろ?それに、霧香姉さんにはこれくらいが丁度良いんだよ」

「ほー。して、その理由は?」

 手のひらに拳をポンと置きながら訪ねる一樹に、恭平はニヤリと笑って言った。

「霧香姉さん、絶対マ――」

「セーンパーイ! おっはよー!」

 少しカッコつけて言う恭平の言葉を遮るように、元気のいい少女の声が恭平の真後ろから響く。

「――なんだよ、せっかく良いところなのに……」

 言葉を遮られたからか、少し苛立ちのこもった声を発しながら、恭平は声のした方を向く。

 だが、その選択は間違いだと言うことを、恭平は数瞬後に知ることになる。

「てりゃっ!」

 ドゴッ!

「ぐはっ!」

 猪のように突っ込んできたツインテールの少女が、華麗にドロップキックを決めたのである。恭平の腹に。

 突っ込んできた少女と共に恭平は吹っ飛び、一瞬のうちに三人の視界から消える。

「おおー、鮮やかだね」

「くの字に曲がってるよ、恭平くんの体」

「やれやれー、もっとやれー。お姉ちゃんを大事にしない弟には天誅だー!」

 しかし、一樹や青羽は見えていた状況を誉めたりするだけ。姉である霧香に至っては、ほとんど野次を飛ばしている状況ではあるが。

「……お前ら、少しは俺の心配しろよ! この薄情者!」

 体を吹っ飛ばされ、蹴られた腹を押さえながら、恭平は欠片の心配もしてくれない友人+家族に文句を垂れる。

 その隣で、恭平を蹴り飛ばした張本人である少女は、顎に手を当てて、なぜか考え込んでいた。

「……ぬぐぐ。さすがはセンパイ、この程度では倒れませんか……。では、次はもう少し大胆な方法で行くっきゃないですね」

 真剣な様子で考え込む様子は、どことなく様になってはいる。だが、その中身が自らの体に危険が及ぶものだと分かっている恭平は、危険な思考をやめさせるために動く。

「おいこら、梛木(なぎ)。その危険思考をやめろ、今すぐにだ」

「危険思考じゃないですよー。ただ、センパイを倒すにはどうしたらいいかって言う悩みなだけでー」

 手を上下にひらひらと振りながら、どこぞのおばちゃんみたいに言う少女。

「それが危険思考だって言ってんの。どう言う事だよ、俺を倒すにはどうしたらいいかって」

「だって、ボクの一撃を食らってケロッとしてるのってセンパイだけなんですもん」

「そう言えばそうだよねー、なぎりんとこって道場やってるんだし」

 少女のぼそっと呟くような声に、一樹が最後のパンを頬張りながらそんなことを言う。

 梛木拳闘道場。主に護身術を教えている道場で、生徒の量もそこそこにいる人気の場所である。いわゆる、地域の人々が集まる場所と言う奴だ。

 その道場の一人娘が、先ほど恭平をドロップキックで蹴り飛ばした少女。梛木 夏蓮(なぎ かれん)なのである。

「そうだね。確か、金城くんは一撃で落とされてたし」

「暴力反対だよー」

「金城センパイ。センパイよりガタイいいのに、ちょーっとした一撃で落ちちゃいましたね」

「いや、夏蓮ちゃん。あれはちょーっとした一撃じゃないよ。お姉ちゃんでも死んじゃうよ、あれ食らったら」

「ったく、なんで梛木は男見かけたら喧嘩吹っかけるんだよ」

 夏蓮は恭平の言う通り、初めて会った初対面の男子に喧嘩のようなものを吹っかけるのだ。

 その理由は簡単に言うと、『ボクより弱い男とは付き合えない』と言うような、可愛い理由である。だが、その理由にはきちんと裏があり、なぜかその『ボクより強い男』と言うのを自分で探すのだ。そのためにいきなり喧嘩を吹っかけられた普通の男共は、吹っ飛ばされるのである。

「それよりセンパーイ、なんでボクの名前呼んでくれないのさ」

「名前? 呼んでるじゃねーか、名前で」

「梛木、じゃなくて夏蓮って呼んでほしーのですよ」

「男を見かけたらぶっ飛ばすお前の名前なんか、死んでも呼んでやらん」

 何処となく決意の篭った声で言う恭平に、夏蓮は頬を膨らませながら無言の抗議を開始する。

 だが、恭平はさらりとそれを無視して残ったままだったパンを口に運ぶ。

「なーなー、しのりんの打たれ強さって、絶対にハーメルンのせいだよな」

「うん。イノシシに突進かけられたって、私恭平君から聞いたよ?」

「あ、その時恭平ボロボロだったよ。制服も破れてたし」

「制服ボロボロってどれぐらい? しのりん姉」

「ふっつーに破れてたよ。ふっつーに」

「恭平君に頼まれて直したの私だよ? その制服」

「私、家庭科の成績悪いからねー」

「おいこら愚姉、誇る所じゃねーぞ。少しぐらい料理とかの勉強しろって」

「ってセンパーイ! ボクのこと無視しないでよー!」

 昔の思い出を楽しげに語り合う四人に、夏蓮は体全体で抗議した。

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