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小説:焔 凉華の五つの約束

プロローグ 出会いが最悪でもいいじゃない



 キーンコーンカーンコーン……

「ふわぁ……」

 午前の授業が終わるチャイムと共に、恭平はあくびをもらした。

 別に眠たい訳ではないのだろうが、それでもそのあくびはかなりの大きさである。

「でっかいあくびしてんなー、しのりん」

 その大きなあくびに気づき、突っ込みを入れた人物が一人。

 優男と言う印象がよく似合う、眼鏡をかけた長身の少年。だが、その中身は残念極まりなく、ものの見事にギャップと言うものを体現していた。

「別にいいだろ? もう昼なんだし。あと、しのりん止めろ」

「ええー、いいじゃんしのりん。しっのりーん」

 金城 一樹(かねしろ いつき)。恭平が蓮美高校に入学してからできた友人であり、今では悪友とでも呼べる存在だ。

 優男と言う印象が似合うとは言ったが、その中身は優男などと言う言葉では足りないほど軽い。もし例えるとするならば、羽毛よりも軽いだろう。

 基本的に、それがどんなに重要なことでも考えることをしない。直感を信じるタイプでもなく、その日その日を何となくで生きるタイプである。

 しかし、感覚肌の天才であるため、大抵のことはなんとかなると言う、努力家からすれば不満対象第一位にのしあがる。それが金城 一樹と言う人間なのだ。

 それを一年と一月できちんと学んだ恭平は、一樹に向かってため息混じりに、幾度となく口にした言葉を発する。

「……ダメだこいつ」

 分かってはいるのに、体が反応してしまう。

 慣れとは恐ろしいものである。

「ん? 暗いぞしのりん。どうしたしのりん。腹減って力でないのか?」

「お前がしのりんしのりんうるさいからだよ」

「なに? なら俺はしのりんをしのりんと呼べないじゃないか」

 呆れ返っている恭平の言葉に、一樹は心底不思議そうな言葉を返す。首まで斜めに動かしているのを見るに、本当にわからないのであろう。

 まぁ、一樹の場合は考えることをしないためにその体勢なのかもしれないが。

「……もういいや。なんだかアホらしくなってきたし。購買行こうぜ、腹減った」

「おう。なんだかよく分からんが分かった。腹が減っては戦もできんからな!」

「何でお前はそういう言葉だけは覚えてるんだよ……」

「かっこいいからだ」

「あっそ」

 心底どうでも良さそうに言葉を返しながら、恭平は一樹と共に教室を出る。

 恭平と一樹のクラスは2年2組。青羽は1組。悪友とは二年間連続。青羽とは一年の時も被っていない。幼なじみ補正が効いていないのだ。

 まぁ、だからと言って恭平が気にする必要はない。その理由は、相手から会いに来るからだ。

「あ、恭平くん。今日は購買?」

 そしてタイミングよく、恭平たちのクラスがある三階から購買のある一階に降りた辺りで、青羽と出くわした。

「ああ、作ってる暇なんかなかったからな」

 恭平は察しろとばかりに、青羽の頭をポンポンと叩く。

「ちょ、やめてよもー。崩れちゃうじゃん」

「そんな綺麗に整えてねーだろーが。なんなら俺がやってやろーか?」

「え、いいの?」

「おう」

 普段から動物に囲まれてるだけあって、恭平のそう言う類いのスキルは高い。

 撫でスキル。整髪スキル。あやしスキル。エトセトラエトセトラ……。

 それが受けられるとあって、青羽は一気に上機嫌になるが、恭平としてはいつもの動物と触れあうことと何ら代わりはない。

 ――青羽はそれを知らない。知らなくていいのだ。

「ねー、あおはねちゃんはどうなの? 食堂?」

 そんな和やかな空気を、一樹はなんの遠慮もなく壊した。

「……お前、ずいぶんと話を戻したな」

「だってお腹すいたし。早く行かないとパンなくなっちゃうし」

「大丈夫だよ。うちの学校、購買があれば食堂もあるんだから。あ、ちなみに私は購買だよ」

 青羽の言う通り、蓮美高校には購買と食堂が一つづつある。

 パン主体の購買に、ご飯主体の食堂。両者の値段もさほど変わらずリーズナブル。そのため、生徒やその保護者からも人気なのだ。

「じゃあちゃちゃっと行こうぜ。天気もいいし、外で食おう」

「うん」

「じゃあ出発ー。行くぞしのりん、あおはねちゃん!」

 恭平のその声に、一樹は待ちきれなかったとでも言うように走り去ってしまう。

「おい、待て……ってもう聞こえないか」

「金城くん、お昼になると元気だよね」

「あいつはいつでも元気だと思うぞ? それに、いい加減止めさせなくていいのか?」

「ん? なにを?」

 少し呆れたもの言いの恭平の言葉に、青羽は首をかしげた。

「呼び名だよ。青羽だろ? あおはねじゃなくて」

「んー、そうだよ? だって金城くん、人の名前はあだ名みたいにしてしか呼ばないじゃん」

「そうだけど……」

 青羽の言う通り、一樹は人の名前をきっちりとは覚えない。基本、名字の文字を一文字とって改造し、その呼称で呼ぶことが多い。

 恭平のしのりんが良い例であり、恭平の姉、霧香とも面識があるのにも関わらず、名字を崩したあだ名を変えることはせず、霧香にはしのりん姉と言うあだ名をつけている。

 だが、青羽に関しては例外のようで、七山と言う名字は弄らずに名前を素直に呼んだ形にしているのだ。

「って言うか、金城くんに私のこと紹介したとき、私の名字一回も言わなかったの恭平くんじゃん」

「そうだっけ?」

「そうだよー」

 案外、例外でもないようである。

「ま、別にどうでも良いか。購買にもついたしな」

「なんか、どうでも良いって言われると癪だなー」

「へいへい、わるーござんした。ほれ、レーズンパン」

「ありがと」

 購買に設置されている、菓子パンやらなんやらが大量に詰め込まれたワゴンの中から、恭平は目当てのものを見つけて青羽に手渡した。

「お前、レーズンパン好きよなー」

「だってレーズンだもん。目にも良いんだよー」

「そりゃブルーベリーだろうが……。それに目もそんなに悪くねーだろ、眼鏡かけてねーし」

「いーの! 気持ちの問題だから! レーズンだし」

「はいはい。……っと、俺はどーするかな」

 ――レーズンはね、甘酸っぱくてちょっとだけ芯が残った感じが美味しくてね――と、大好物のレーズンの世界にトリップしてしまった青羽を放置し、恭平は自分の昼食を選び始める。

 だが、山盛りワゴンの中からはなかなか自分の食べたいものは見つけられない。青羽のようにレーズンパン一択なら話は別だが。

「ま、何でも良いか。百二十円均一だしな」

 特に食べたいものもないため、くじ引きでもするかのようにワゴンの中に手を突っ込んだ恭平。

 しかし、その手が掴んだのはパンではなかった。

「あっ……」

「ん?」

 固いようで柔らかい、それでいて暖かい物体。

 女の子の腕、それも手首をガッチリと恭平は掴んでしまっていた。

「あ、ごめん。これか? チーズクリームパン」

 掴んでしまっていた手首をすかさず離し、その手首の先にあったパンをお詫びとばかりに差し出す恭平。

「…………」

 だが、少女は恭平の差し出したパンとは別のものをワゴンから掴み取り、レジへと無言で走り去ってしまった。

「なんだ、あいつ……」

「どしたの、恭平くん」

 パンを差し出した形で固まると言うカッコ悪い体勢の恭平に、レーズンの世界から帰ってきた青羽が声をかける。

「あー、いやなんでもない。って、お前もう買ってきてたのかよ」

「あったり前じゃん。ついでにもう一個レーズンパン買ったし。早く食べよーよー」

「あ! しのりんに、あおはねちゃん! 早くしないと昼休み終わるぞー」

 両の手に一つづつレーズンパンを持った青羽に、両手で抱えるほどのパンを持った一樹。

 このままだと完全に置いていかれると悟った恭平は、手に持っていたままだったチーズクリームパンをレジへと運んだ。
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