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小説:アクレニア戦記2 ~叶えた夢の終わり~

プロローグ それぞれの3年間


 ちなみに、先に歩いていってしまったユフィーはと言うと。

「……いきなり呼び出してなんの用?」

「お主、そのキレやすい性格、なんとかならんのか?」

「ならないわね。特にあんたの前では」

 ――絶賛、キレていた。

「可愛いげのないやつだな。その様子では、当分先だと見える」

 聖霊との会話。

 それはこの世界の魔導師ならば必ず行うもの。そして、魔法を扱うための鍵だ。

 鍵だと言っても、その鍵を使うための扉は聖霊からの一方的なアプローチのみでしか開けない。それはなぜか。人が持つ、魔力と言う名の生命力を糧にして彼らは存在しているからである。

 そして、ユフィーは氷の魔法を扱う魔導師。氷を冠する聖霊の名前はアイシー。

 ユフィーは今、そのアイシーとの会話の真っ最中なのだ。

「何が先? というか、いつもいつもここに呼び出すのは止めてくれない? まぁ、時間が過ぎないのは便利だけど」

 自らの顔の真ん前に浮かぶ布っきれに、ユフィーは機嫌悪く言葉をかける。

 ユフィーとアイシーがいるのはシオンと別れた王宮の廊下ではない。周りにはなにもない、少し肌寒ささえ感じる色みのない世界だ。

「それなら構わないであろう? それに、我ら聖霊は基本的にお主達、魔導師の精神世界にしか現れられないのだから」

「ふん。崇められているくせに面倒なのね」

「身も蓋もない言い方をするな……」

 がくっと、人間であれば肩を落としたような動きを見せるアイシー。

 初めて出会った、初めて力を扱えるようになったときと変わらないアイシーの姿では、このような言い方しかできない。誰が、自らの顔ほどの大きさの全身ローブ姿の者のことなど分かろうか。

「で? わざわざ呼び出しておいてなんの用なの?」

 額に青筋でも浮かべていそうな雰囲気のユフィーは、腕を組ながらアイシーを睨み付ける。

 その少女から大人に変わろうと言う女性の瞳に、悠久の時を生きるアイシーは怯みもしない。ついでと言ってはなんだが、旗色が悪かった言葉の戦争を覆すものを見つけ、笑みを浮かべているように見えた。

「いやなに、少し力添えをしてやろうとな」

「力添え? 今さらなにも要らないわよ」

「あの『時の少年』とうまくいきたいのであろう?」

「んなっ!!」

 アイシーが言った言葉に、ユフィーは顔を真っ赤にさせる。

 場所が場所、人が人であれば、状況は微笑ましくなっているであろう。友人の恋の悩み相談会と言うやつだ。まぁ、言っても無駄だが。

 ちなみに、アイシーが言った『時の少年』とは言わずもがな、シオンのことである。

 時の聖霊に魅いられし、世界を変える力を持った少年。それがシオンの聖霊達の間での認識なのだ。

 そして、アイシーに関してはユフィーのことを分かっている。ユフィーの魔力に、言うなれば生命力に惚れたアイシーにとって、その好意を関知できないはずがなかった。

「き、ききき急に何を言い出すのよあんたは!」

「……この慌てようではいつになることやら……」

「なにがよ!」

「分かっておるくせに。まぁ、こちらとしてはお主のその慌てようが見れて満足だがな」

「からかってるの!?」

「そうとも言うな」

 ブッチィ!

 アイシーのその言葉で、ユフィーの堪忍袋の緒がキレた。ように聞こえる音か響く。

 普通であれば、今この段階でアイシーは氷付けにでもなっているのだが、そうはならない。

 なぜなら、魔法は聖霊が力添えして初めて力を使えるものだからだ。聖霊に対し、魔法が使えるはずもない。態々、自らの命を粗末にする必要はないのだ。

 だが、薄ら寒かった世界には更なる冷気は満ちる。ユフィーが怒りのままに解放した魔力が、大気の温度を下げているのである。

「あんたねぇ……! 一度、ここらで決着つけようかしら?」

「つけんでよろしい。まぁ、お主の恋を応援しようと言うのは嘘ではない。楽しいからと言うのもあるがな」

「最後の一言が余計よ!」

 わめくユフィーに、白々しいアイシー。そして、さらに冷えていく周りの温度。

 昔は完全に周囲が銀世界になっていたのだから、対した魔力の制御の進歩だ。

「まったく、いい笑い者だわ。……それ以外に用がないなら帰してちょうだい。あたしにはやることあるんだから」

 温度が下がったことで頭も冷えたのか、わめくことなく冷静に言うユフィー。

「……ふむ。ではそうするとしようか。お主の頭も冷えてしまったようだしな」

 アイシーはそのユフィーの態度につまらなさを覚えながらも、言葉には従った。

「ではな、また会おう。その時は、いい報告が聞けることを期待しているぞ」

 捨て台詞のようなものを言葉を口にしながら、アイシーは虚空に吐息をかける。

 手なども振らず、ただ息を出した場所から世界が変わる。色などほとんどなかった世界から、最近になってようやく慣れ親しんだ石造りの世界へと。

「……だから一言多いのよ、あいつ……」

 少し頬が赤いまま、ユフィーはさきほど別れたばかりの戦友に愚痴をこぼす。

 何となく残る気恥ずかしさ。別に手伝ってほしいとは言わないし、頼みもしない。ユフィーとしては、この気持ちを墓まで持っていく覚悟もあるのだ。

 それほどまでに、ユフィーの想いは実現が難しい。

 一国の王。血族はその者一人と隠居した父親のみ。国側としては、断絶させるわけにはいかないのだ。血を。血脈を。

 それを2年もの間通して見てきて、痛いほどに分かっているユフィーは、遠慮してしまっている。

「だって、あいつとあたしじゃ、違いすぎるじゃない……。いくら平和になったからっていってもね……」

「何が違いすぎるんだい?」

「うわぁひゃぁ!!」

 自分に言い聞かせるように呟いていたためか、かけられた言葉にすっとんきょうな声をあげてしまう。

「どうしたのさユフィー。僕、なにか悪いことした?」

 あちらの世界でいた時間は、こちらの世界では進まない。

 心の核心を突かれて少し動揺していたユフィーは、その事を忘れていたのだ。自分が帰ってきた辺りでは、シオンはもう会議の場所に行ってしまったのであろうと。

 だが、時間は進んでいない。ユフィーが少し立ち止まって悩んでいる間に、追い付かれてしまったのだ。

「…………はぁ」

 しかも、悩みの原因の当人は少し慌てて見当違いなことを口にしている。それこそ、悩んでいることがバカらしくなるくらいに。

 ユフィーはため息を吐いた後、取り繕うように手を動かすシオンを咎めた。

「別になにもしてないわよ。なにもね。と言うより、そろそろ行かないとまたリサーナに怒られるわよ?」

「う……それは嫌だな」

「でしょう? あたしは先に行くから、ちゃんと来なさいよね」

「分かった」

 今度こそ、ユフィーはシオンと別れて歩き出す。

 結局は会議の場である王の間で出会うが、それでも一時の別れだ。モヤモヤする気持ちを整理するには充分すぎる。

 しかし――

「あ、エスカレルニアの定期報告、リィナが来るんだっけ。お菓子でも持っていってあげよ」

 ユフィーのモヤモヤの原因はユフィーの姿が見えなくなった後、そんな言葉を口にしてユフィーとは違う方向に歩き出していた。

 彼女の想いは、前途多難である。
タ
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