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小説:猫の恩返し~取り憑いたのは猫の神様!?~

1章 恩返しは突然に



「うし、朝の境内の掃除終わり!」

 大きな神社の境内。

 空がようやく明るくなってきた頃。人々がようやく起き出すような朝の時間帯に、黒原 冬夜(こくはら とうや)は袴姿で箒を抱えていた。

 真っ黒な髪に真っ黒な瞳。典型的な日本人の風貌。髪はサラサラとしており、癖毛が一切どこにもない。そのため、髪の毛を弄ることはせずに肩に届かない程度までまっすぐ伸ばしている程度の特徴の男子だ。

 その足元には掃き溜められた葉っぱやら枝やら云々かんぬん。掃除をした結果の後が積まれ、あとは捨てられるのを待つばかりである。

「んー、早起きは三文の徳って確かだよな。いつもやってることだけど」

 眠いっちゃ眠いんだけどな、寒いし。と欠伸混じりに言葉を口にしながら歩きだす冬夜。ガラガラと音を立てながら扉を開け、迷わずに向かうはとある部屋。

 冬夜の朝の仕事の一つ。起こさなければならない相手がいるのだ。

 その相手がいる部屋の扉に手をかけ、ノックはせずに声だけかける。

「朝だぞー、起きろー」

 だが、その部屋の中の住人はまだ夢の中のようで、一切返事が返ってこない。

 冬夜はそれが分かっていたように、扉にかけていた手を動かした。

「ふみゅぅ……」

 部屋の中に入った先には、冬夜の予想通りの人物が規則正しい寝息をたてていた。ちなみにうつ伏せである。

 黒原 夏夜(こくはら かや)。冬夜の二つ下の妹であり、きちんと血の繋がった肉親だ。

「ったく、弄りがいのある寝顔で寝てくれてるよ。おい、起きろ夏夜。飯だ、飯。朝だぞ朝ー」

 冬夜はそんな妹の姿を見てため息を一つ吐いた後、寝起きの悪い妹を起こすために手を伸ばした。

 ――伸ばした先がどこかと言うと。

 むぎゅ

「……ふごっ……!」

「……。笑うな、笑うなよ俺。今笑ったら、すべてが水の泡だ……」

 自らの妹の鼻を摘まみ、女の子としてあげてはいけない声をあげさせておきながら、冬夜は必死に笑いを堪えている。ちなみに、まだ鼻は摘まんだまま。なんとも器用なものである。

「んぁ?」

「っと、やばっ。起きるな、これ」

 身じろぎしだした夏夜を見て、冬夜は鼻を摘まんでいた手をどけて立ち上がる。

 そして、ちょうど言いタイミングで夏夜が目を覚ました。

「……あれ、兄様?」

「ようやく起きたか我が妹よ。ささ、早く飯を作れ。兄は腹が減ったんだ」

「……兄様の方が早く起きるんですし、ご飯くらい作ってくれても――」

「んー? なにか言ったかな妹君よ。毎朝毎朝、境内の掃除をして疲れている兄に家事を押し付けるというのかね。それに、今日の当番は夏夜、お前だ。違うか?」

 起きたばかりの夏夜の頬をこれでもかとばかりにこねくり回す冬夜。

 赤くなってもおかしくないほどに弄り、最終的には引っ張るだけ引っ張って離す。妹だからと言って容赦はしない。

「いひゃい……。いひゃいですよ、にいひゃま」

「痛くしたからな。ま、とりあえず飯だ。学園に遅れたら洒落になんないからな、ほら着替えた着替えた」

「ふぁーい」

 弄り回された頬を押さえながら、夏夜は立ち上がって着替えを始める。

 寝間着なのだから、着替えるのは当たり前。さらには兄に指示されている。だが、今はまずい。

「……お前も大胆になったなぁー。お兄ちゃん、なんだか悲しいぞ」

「へ……?」

 寝間着である、いたって普通のシャツとズボン姿の夏夜は、それを脱ごうとズボンに手をかけていた。

 それはつまり、ズボンが半分ずれて中身が見えるということ。真っ白な色をした逆三角形の布が、冬夜の視界に飛び込んでくるということである。

 あくまでも必然的に、この兄は年頃の妹の着替えを覗いたのだ。

 そして、これまた必然的に制裁は行われる。

「……っ、兄様の変態!!」

「おごっ!」

 世界も狙える右手の速度で、冬夜にボディーブローが突き刺さる。

 なにかを投げ飛ばして追い払わないのは、朝一番のショックにより頭が回らなかったためか。はたまた夏夜のほんの少しの優しさか。

 どちらにしても、冬夜は自らの腹に突き刺さった拳を支えに前のめりに倒れていった。


 これが黒原 冬夜の日常の始まり。

 そして、これから始まる非日常の、始まりの朝でもあった。

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