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小説:フェデルフィア国物語

3章 過去の亡霊。



エイリアの心は絶賛不機嫌である。

レヴィンの心は絶賛上機嫌である。

対極の心持ち。それはなぜか。

「ほら、食えよ。案外旨いもんなんだぞ? 毒もないし、きちんと火を通せば食えるんだって」

「うぅ……」

「背に腹はなんとやらって言うじゃないか。ほら、あーん」

「だからって……」

「?」

「だからって蛇の魔物の肉なんか普通に食べれるわけないでしょーがー!!」

差し出されているレヴィンの手にあるのは、こんがりと焼けたかなり長い肉。その後ろにはくべられた火。さらに後ろには剥がれた蛇の皮。

誰がどう見ても分かる構図ではあった。

だが、その蛇の皮がその構図を異様なものに変えていた。

――大きいのだ。すごく。

「だいたい、なんでこんなとこにハイドラなんて出てくるのよ! おかしいじゃない!?」

「……俺が知るわけないだろう」

「そりゃそうだけど!」

「ってかもう少し声落とせよ。もう夜なんだからな」

窘めるように発せられた声にエイリアはバツが悪そうに顔をしかめる。

レヴィンの言う通り、2人の周りは火の灯りで照らされているだけでその他は真っ暗。時折聞こえる鳥の声が、夜だと言う事を知らせていた。

ただでさえ夜は危なく、2人のいる場所は山の中腹辺り。いつ何が襲ってきても不思議ではない。

「でも食糧にありつけてるんだから良かったじゃないか。これがリザードとかだったら尻尾しか食べられなかったんだし」

「……そういう問題なの?」

「ああ。そういう問題だ。ま、3年も外で野宿を繰り返してたらこうなるって」

「3年!? 君、その間ずっとこんな生活してたの!?」

「いや、たまには昼みたいに首都に行ったりしてたさ。その時は宿屋泊まりだったけどな」

ぱちぱちと音を立てている火に向かって拾った木の棒を突っ込みながら、レヴィンはそんな過去話を始める。

「まあでも、それ以外はこうやって魔物やらそれ以外の獣を狩って飢えをしのいでたな。人間、追い込まれるとなんでもできるんだよ」

「ふーん……」

火に照らされるその横顔を見ながら、エイリアは感嘆の息を漏らす。

自分と対して年も変わらないような少年が、『追い込まれれば何でもできる』なんてことを言っているのだ。感心しない方がおかしいだろう。

「……ねえ、ちょっと頂戴? それ」

「ん? おう、まだまだあるんだから食え食え」

「……贅沢なんて、言ってられないものね……はむっ……」

手渡されたこんがりと焼けた肉。その先にあるであろう剥がされた蛇の皮をなるべく見ないようにしながら、小さく口を開けてそれを口に運ぶ。

一般的に食されている家畜の牛や豚とは違う、さっぱりとした触感。そのどこか鳥に似た肉の繊維の触感に、エイリアは思わず呟いた。

「……んぐ……美味しい……」

「だろー? 食ってみれば何とかなるんだって! そういや前は鹿を食ったんだけど、その骨に張り付いた辺りの肉が旨くってさー」

料理が褒められたと言うよりも、自らが薦めたものを美味しいと言ってもらえたのが嬉しいのだろう。今まで見せたことがなかった上機嫌な表情と声音で、ペラペラと饒舌に語りだすレヴィン。

そんな少年の姿を見ながら、エイリアは手にまだ残っていた肉を咀嚼する。

別段、特殊な調味料をかけている訳でもない。ただ、肉の味がするだけ。それなのに美味しい肉を食べて行きながら、エイリアは徐々にヒートアップしていくレヴィンを止めるために口を開いた。

「ねぇ、レヴィン。目的地なんだけど、明日にはつけると思――」

「お、そっかそっか。そりゃ良かったぜ」

「~~っ///!」

「ん? どした。また顔が真っ赤だぞ?」

「な、なんでもない///!」

首から上を真っ赤に染めながら、見てしまったレヴィンの表情から避けるようにして首を動かすエイリア。

今の今まで見たレヴィンの表情。どこか達観した、一歩後ろにいるような冷静さを保った笑みしか見ていなかったエイリアは、年相応を感じさせる無邪気なレヴィンのその笑みを見たことはなかったのだ。

命を救われ、あまつさえ恥ずかしい思いをさせられ、コンダクトも断られた相手。だが、どこか気になる存在。よく頭を撫でてくる少年。

そんな相手の普通の、ありのままの姿を見られた。それだけで、エイリアの頭の中はいっぱいだった。

「何でもないならいいけど……。あ、今日の寝る時は交代で見張りな。別に大丈夫だと思うけど、一応」

「……分かったわ」

提案された事柄に、若干素っ気なくなってしまいながらも何とか答えるエイリア。

未だに顔の熱は引かず、頭の中では色々な事がぐるぐると巡っているが、それだけでも答えられたことは彼女にとっては幸いだった。

「んじゃ、先に寝させてもらうな。時間は適当でいいよ。魔法についての話も明日にしよう。自分が寝たくなったら起こ、し……ぐぅ……」

「寝つき良すぎっ!」

早々に寝息を立ててしまったレヴィンに、エイリアは突っ込みながらその方向を向く。

そして、そこにあるのは安らかな寝顔。先ほど見た年相応の無邪気な笑みとは違って落ち着いてはいるが、それでも幼く見えた。

完全に毒気を抜かれたエイリアは、一瞬キョトンとした後に笑った。

「……なんか、調子狂うわ。君といると」

眠る少年の頬。そこに向かって指を突き刺しながら、またもほんのりの赤くなっている頬に気づきもせず、エイリアは悪戯好きな子供のような笑みを浮かべた。

「……絶対、責任とってもらうぞ。アタシをこんなにしたんだから……」

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