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小説:フェデルフィア国物語

2章 出会いを求めて。


ライル王国。

世界で一番大きな大陸、オルファニを縦に分断するような国土を持ち、一番の行商の街として有名な場所である。

その首都グルティスは当然行商の中心にあり、最も栄える街として人の出入りが激しい街となっていた。

「……いつまでついて来るんだよ」

「どこまでもよ。アタシは君が気に入ったって言ったじゃない」

「確かに言われたけどさぁ……」

そんなグルティスの街をレヴィンとエイリアは歩いていた。

石造りの気を抜けばどこを歩いているか分からないようになる景観の中、2人はそんな会話を砦の中からずっとしていた。

レヴィンが聞き、エイリアがそれを否定するように離れない。

着かず離れずと言った表現が的確な二人の距離は、言葉を交わす中でも変化はなかった。

「と言うか、君って歩くの速くない? ちょっと置いて行かれそうになるんだけど」

「俺としてはアンタを置いて行きたいんだがな」

「……ひどくない? それ」

「ひどくないひどくない」

スタスタと歩いて行くレヴィンに、エイリアは少し小走りになりながらついて行く。

路地をいくつも曲がり、ぐるぐると同じ所を回っていると言う印象を受ける中で、レヴィンはとあるところで立ち止まった。

「……本当についてくるのか?」

「ついて行くって言ってるじゃない。と言うより、ここに入るの? なら入りなさいよ」

「いや、ここから先はちょっとな。この先にいる奴は結構きつい性格してるから、アンタにもちょっときつい事になると思ってるんだが」

「? どういう意味よ」

「……ま、入って見れば分かるか」

ギィ……

木製の扉に手をかけ、レヴィンは建物の中に入っていく。

それに続くようにエイリアも中に入り、きょろきょろと辺りを見渡す。少し薄暗い小さなろうそくの灯りが頼りの部屋の中では、あまり何も見えなかったが。

レヴィンに関してはその場所を知っているために、なんら問題もなく歩いて行く。

「おーい、メルティア! いるんだろ?」

声を張り上げ、この薄暗い部屋の主の名前を叫ぶレヴィン。

「……今日はもう閉店ー。ってか一生閉店ー」

レヴィンの声から数秒。静かな間があった後にそんな声が返って来る。

かなりだるそうな、しかしくぐもった感じのする高めの少女の声に、レヴィンは少し苦笑した後その声のする方に歩き出す。

「ったく、今日も夜更かしか?」

「夜更かしなんかじゃない……。私の崇高で高尚な『趣味』」

趣味を強調しながら、レヴィンの言葉に答える声。その返答にレヴィンは呆れながらもさらに近づく。

そして、その声の主を発見した。そのくぐもった声の原因も。

「で、今日は何の用……? 面倒事でも吹っかけてきたら――」

「も、毛布お化け!」

「ん?」

レヴィンについてくる形でいたエイリアが、声の主に対して指をさしながら怯えた声を上げる。

まあ、エイリアが怯える理由は分からなくもない。ようやく慣れてきた薄暗い中での目で、初めてまともに見れたものがもそもそと動く小さな毛布だったのだから。

毛布お化け。そう言われた声の主は微妙に訝しんだ声を上げ、不満げにその首?を持ち上げた。

「……レヴィン? 誰連れてきたのあなた」

「誰って……なんか、ついてきた子」

「はぁ? あなた、よく懐かれるわね、特に子供に」

「子供違う! アタシにはエイリア・ウェンディって名前があるの!」

「キーキー喧しい女」

「なっ! 君も女でしょうが声的にだけど! ってかその毛布取りなさいよ! 顔が見えない相手と喋ってるのなんて不快で仕方がないわ!」

「毛布を取ったら寒いだろう。暖めてくれるのか?」

「どうやってよ!?」

「こらメルティア。いい加減にしろ。売り言葉に買い言葉で突っかかっていくな」

レヴィンの言う通り、売り言葉に買い言葉で熱くなってしまっていた二人は、その言葉で軽く乗り出していた体を元に戻す。

乗り出していたのは主にエイリアだが、名指しで注意された毛布お化けは完全に押し黙った。

そんな様子を見たレヴィンは、一度溜息を吐いた後、少しめんどくさそうに頭を掻きながら言う。

「あー……こいつはメルティア・フーリカ。ここで鑑定屋なんてことをやってる奴だ。まあ、あんまり人と話すのが嫌いと言うか苦手な奴でな。こんなんなんだ、いつも」

「……お店開いてる奴がそんなんでいいの?」

「別に構わないでしょ。態々へりくだって『いらっしゃいませお客様~♪ 今日は何を鑑定されるんですか~♪ あ、こちらの品ですね~、少々お待ちになって下さ~い♪』なんて言えるかボケ」

「……言えてるじゃない。って言うか、アタシより声高かったし……」

突然変わった声音と雰囲気にエイリアは引き攣った笑みを浮かべる。

普通から猫なで声、そして最後にドスの効いた低い声。一度にそれだけの感情の変化をあらわにする所を見てしまえば、引き攣った笑みしか出ないだろう。

「まあまあ落ち着けメルティア。と言うより、いい加減に毛布を脱いで部屋の灯りをつけろ。暗いのは嫌いなんだ」

「それもそうね」

宥めるようなレヴィンの声に、名前を呼ばれた少女は妙に納得したように毛布を脱ぐ。

なぜかかなり大胆に、埃が舞い上がるのも構わずに毛布をはぎ取るメルティア。エイリアはその行為に顔をしかめるが、レヴィンは涼しい顔でそれを眺めていた。

毛布を取り払った少女の体でまず目につくのは、全身を覆う黒いローブ。首より上はフードが取られて現れているが、それ以外は完全に真っ黒で分からない。

だが、その首から上も真っ黒な髪。それを光沢感のある赤い球体で結びツインテールにしている。その髪の色と同じ瞳は、かなり眠たいのだろうか半眼に開かれて二人を睨んでいた。

パチン!

そして、メルティアはおもむろに手を差し出し、エイリアと同じほどの華奢なその手の指を鳴らす。

小気味いい音を響かせたと思った瞬間、3人のいる部屋が一気に明るくなった。

「……これは?」

部屋中にある灯り。至る所に取り付けられた燭台にある蝋燭の火が灯り、部屋を明るく灯しているのだ。

その突然の出来事にエイリアが驚いた声を上げていると、メルティアは不敵な笑みを浮かべた。

「分からない? これは私がやったのよ?」

「……じゃあ、君は魔法使いってこと?」

「ご名答」

エイリアがかなり疑いながら言ったその言葉、魔法使い。

アラウメニアの世界では魔法と言う力が存在する。自らの生命力である魔力を消費し、生み出すことが出来る力。それはこの世界に住まう者であれば誰もが使え、そしてその恩恵に与っているものである。

誰もが扱える力だが、それは扱えると言う事実を生まれながらに持っているだけ。その条件を現実に出来た者は少ないのだ。

それはなぜか。誰もがその恩恵に与りながらも、使用できると言う事実しか持ち合わせていないのか。その答えは、世界の根幹が握っていた。

「ローマルティアと……世界の涙と会ったことがあるの? 君は」

「会ったことがないと言えば嘘になる。良く覚えてはいないけどね」

肩をすかすようにしながら、メルティアはエイリアの質問に答える。

世界の涙。通称ローマルティアと呼ばれる世界の根幹。それこそが、魔法使いを魔法使いたらしめるものだ。

ローマルティアとは、世界に流れる無形のエネルギーとして知られている。それ自身が意思を持ち、認めた人間の魔力と感応して魔法になると言われ、崇められてきた。

そして、実体のないものと出会う事は難しい。さらに、よく分からないものに気に入られなければならないのである。崇められているのに信じられてはいない。それがローマルティアの実態だった。

メルティアに関しても、魔法が扱えると言う事はローマルティアに気に入られていると言う事。だが、直接出会った訳でもなければ声を聞いたわけでもない。

その意味を込めてよく覚えていないと言ったのだ。

「こんな所に魔法使いがいるなんて……」

「その魔法使いっての止めてくれない? なんか『ふぁんしー』で嫌なんだけど」

どことなく発音がおかしい言い方でメルティアがエイリアに提案する。

だが、その言葉は上の空と言った風に、少しぶつぶつと呟きながら何かを考えているようで、一切エイリアには届いていなかった。

「ちょっとレヴィン、あなたなんでこんなの連れて来たの?」

「なんでって言われてもな……。グルティスの近くにある街で山賊に絡まれてる子を助けてさ、そこからその山賊を取っちめてやろうと思って根城にまで行ったんだ。で、そこで殺されかけてて助けたらこうなった」

「最後の方の説明、えらく省いてない?」

「……なんかコンダクト契約求められたんだよ。えっと、『おでことおでこくっ付けた責任取りなさい!』だっけか?」

レヴィンの言葉に、メルティアは冷めた目で彼を見つめる。

元々が眠たそうに開かれた半眼のため、その破壊力はかなりのもの。慣れているであろうレヴィンでさえも、少し驚いてしまっているのだ。

「……あなた……またやったの?」

「ま、またってなんだよ。俺はただ、心配してさ……」

「たらし。女と男の敵。だまくらかし。鈍感」

「うぐっ。ひでぇ言い草だな……。なんか、見事に突き刺さった気がするぜ」

「お褒め頂き恐悦至極」

「褒めてねぇ褒めてねぇ」

ひらひらと手を振りながら、レヴィンは深々と頭を下げるメルティアに呆れた声をかける。

そのレヴィンの態度をどうとったのかは分からないが、メルティアは頭を下げるのを止めて店の奥へと歩いて行ってしまう。

「あ、おい。どこ行くんだよ」

メルティアの行動に気づいたレヴィンが声をかけるが、それより数瞬速くメルティアは行動に出ていた。

「そこでぶつぶつ呟いている女。少し黙れ」

「ぐむっ!」

そんな冷たい言葉と共に投げかけられたのは毛布。

先ほどまでメルティアが被っていたのと全く同じものを投げつけられ、エイリアは器用にひっくり返った。まあ、ぶつぶつと呟きながら下を向いていたのだから当たり前だが。

「むー! むー!」

「何言ってるか聞こえない」

「……さすがにそれはないんじゃないかって、俺は思うんだが」

「黙らせるにはこれが丁度いいの♪」

「時々お前の声帯がどうなってるのか知りたくなるよ」

正反対と言った声で喋ったメルティアの声に、レヴィンは少し呆れながら暴れる毛布を見つめる。

くぐもった声を上げ、ぐちゃぐちゃになっていく毛布。普通なら簡単に剥がせるはずなのだが、突然真っ暗になった事と考え事をしていた時に毛布を投げつけられた混乱から抜け出せていないために、脱出には時間がかかっていた。

そんな毛布を見かねたレヴィンは、小さくため息を吐いた後に毛布に手をかけて剥ぎ取る。

そして、毛布の中に入っていた赤い弾丸はメルティアに向かって放たれた。

「ちょっと! いきなり何するの!」

「煩い姦し女。なにか私に質問があるなら手を上げてから質問しろ。ぶつぶつ言ってて気持ち悪い」

「きっ、気持ち悪いって何よ気持ち悪いって!」

「その通りでしょうが姦し女」

「どこがよどこが! ってか姦し女ってなに!?」

「3人寄らなくても1人で煩い女だから」

「じゃあ姦しって言わなくてもよくない? アタシは1人しかいないのに?」

「なら駄犬」

「どうしてそんなセリフが出て来るの!」

「ノ・リ♪」

「急にかわいい声を出すなー!!」

一頻り応酬が終わった後、レヴィンの目の前にいる2人の少女の雰囲気は違っていた。

方や肩で息をしながらぜーぜーと苦しそうな首から上が真っ赤な少女。方やしれっと息を一切乱さずに、若干楽しそうな笑みを浮かべている首の部分以外が真っ黒な少女。

対称的と言ってもいい2人の少女の温度差に、レヴィンは少し気圧されていた。

「ふぅ……。メルティア、エイリア、2人とも落ち着けって」

「あら、私は十二分に落ち着いているわよ?」

「……そう……してほしい……ぜー、ぜー……なんで、アタシが、こんなに疲れなきゃ、いけない、のよ……」

息も絶え絶えと言った風に肩を荒く動かしながら、エイリアはレヴィンの言葉に律儀に答える。

「はいエイリア、深呼吸」

「すーはー。すーはー」

「落ちついたら喋ってオッケー」

指で丸を描きながら、レヴィンはエイリアに向かって笑いかける。

その急に目の前に現れた命の恩人の顔。吊り上った翡翠の瞳と暗めの赤色の瞳があった時エイリアは見事に悲鳴を上げた。

「うわきゃぁぁ!!」

「おわっ」

顔を真っ赤にさせながら悲鳴を上げて後ずさるエイリア。ソニックブームのようなその声を聞いたレヴィンは、顔をしかめて耳を押さえる。

本日2度目であるその大音量の声に、一応はガードしたつもりなのだろうが、それでもそのガードの上から声は降ってきた。

「~~っ。アンタ、声でかすぎだろ……」

「い、いきなり顔近づけてこないでよ!」

「なんで―――」

「たらし。女と男の敵。だまくらかし。鈍感」

「何か聞いたことあるぞその台詞」

「そう? まあいいから、あなたはここから出て行きなさい?」

しっしと手を振って、まるで野良猫を追い払うかのようなメルティアの動き。

その動きを見て、少し痛めてしまった耳を押さえながらレヴィンは立ち上がる。

「なんで疑問形なんだよ……。まあ、いいけどさ。他にも行く所あったし」

「そう。なら後でね」

「ああ。そいつの事頼むな」

軽く手を上げた後、レヴィンは先ほど入って来た扉を開けて外に出て行ってしまう。

その一連の流れに全くついていけなかったエイリアは、数回扉とメルティアを見た後口を開いた。

「え? ちょっ、なんで出て行ったの?」

「男の子には秘密があるのよ。女の子と同じぐらい……いいえ、それ以上にね」

「なんでそんなに意味深なのよ」

「さぁ? でも、これでここには私とあなただけ。聞きたいことがあるんじゃなくて?」

妖艶な微笑みを湛え、蝋燭に照らされるメルティアの表情。

それに同じ女でありながら少し目を奪われてしまったエイリアは、頭を振って一度頭の中をリセットする。そして、自らの中にある疑問を口にした。

「……魔法使いって、どうやったらなれるの?」

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