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小説:フェデルフィア国物語

1章 巡りあう2人。


ガラガラガラ……

ほんの少し前。少女が爆弾を爆発させた後辺りの頃。1人の少年が埃と瓦礫にまみれていた。

灰色の外套は埃にまみれてさらに灰色になり、蒼黒かった髪の毛も白くなっている。まるで一気に老けたかのようだ。

「いててて……。なんでこんなにもろくなってるんだよ……こんな海でも山でもない所にあるような砦で」

少年、レヴィン・ホルストの言う通り、この砦の場所は海に近くもなく山に近いわけでもない。どうしてこんなところに砦を建てたのかと言うほどに辺鄙な場所にあった。

砦と言えば防衛の拠点。どんな砦でも作られる目的は変わらない。それなのに周囲に遮るものがない、全方位を警戒しなくてはならないものにする必要性は全くないのだ。

だからこそ、背後が海。背後が切り立った崖などの場所に作られるのが砦であり、それは劣化の激しい環境の厳しい場所と言う事。

そんな場所に建てていない砦でありながら劣化していることに、レヴィンは悪態をついていたのだ。

「それに、なんでこんなにも山賊が多いんだよ……。魔物も飼い慣らしてるみたいだし……」

そう呟く彼の背後には10人に届こうかと言うほどの人の倒れている姿。全員が床にうずくまりながらどこか体の一部を押さえている。

全てが致命傷とまでは言わないが、今すぐには動くことが出来ない状態なのでレヴィンが今ここで何をしようと止める事は出来ない。まあ、レヴィンがそういう戦い方をしたのだが。

気絶させるのではなく、殺すのではなく、戦意を失わさせる戦い方。それがレヴィンの最も得意とする戦い方だ。

刃向ってくるものを切り捨てるのではなく抑え込む。そして、後は話し合う。明らかに相手より強くないと出来ない行為だが、それでもレヴィンはそれを行う。

だが、それは人間に対して。

暴力的なもの。自らの本能のままに、腹を満たすことしか考えていない魔物に対しては別だった。

その証拠に、倒れている人影の他に魔物であったものが転がっている。切り落とされた四肢。突き刺さった矢。殴られて陥没している体など、かなり酷い惨状にはなっているが、それでもレヴィンは気にしない。

ただ、黙祷するのみである。殺したことを忘れないために。命の上に自分が立っていることを自覚するために。

「ま、でもさっさとあの金髪の頭領を見つけないと来た意味がない。とっちめてやるって言っちゃったしな」

髪や体についてしまった埃を落としながら、レヴィンはそう呟いて歩き出す。

途中、落ちている剣や矢などを拾いながらレヴィンは自身の装備を充実させていく。

充実と言うより、かなりの量を持っているだけに過ぎないのではあるが、まるでハリネズミのようになっていく様はこれから戦おうとしているとは全く見えなかった。

『おい、宝物庫の方見て来い! いるかもしれねぇ!』

『分かった!』

『俺も行くぜ、ぶっ殺してやる!』

ハリネズミのようになっている少年の元に、そんな怒号が聞こえてくる。

ぶっ殺すなどと言う言葉を発していることから、相当苛立っていることは分かるがレヴィンの方には向かって来てはいなかった。

それはつまり、レヴィンの他に侵入者がいると言う事。そして、その侵入者はレヴィンより目立ってしまい山賊のお怒りを買ってしまっていると言う事である。

「宝物庫……ねぇ……。どっちだ?」

辺りをキョロキョロと見渡しながら、レヴィンは先ほどの声がした方向を探す。

大分、砦内の石によって音が反響してはいるが大抵の位置は掴める。対して暗くもないので、足元にも問題はない。あると言えば、自分で拾った武器の数々が奏でる金属音のみ。

だが、それを以てしてもその宝物庫の位置は直ぐに見つかった。

『好き勝手暴れてくれたじゃねーか、ええ!?』

『てめぇの命置いて行きなぁ!』

続く怒号と木製の扉が割れる音。それだけで十分だった。

レヴィンはその音を聞いた後、すかさずその音のした場所へと向かう。

対して隠れる必要もないので、ただ走る。道中誰かに見つかっても気にしない。何か言ってきたり攻撃してきたら回収していた武器群を投げる。

あくまでも偶然的だが、武器庫のようになっていたレヴィンの手持ち武器の数々が役立っていたのだ。

そして、レヴィンは到着した。今まさに、命を終えようと目を閉じた少女のいる部屋の中に。

ギャリィィン……

「――っ、てめぇは!」

「また会ったね金髪さん。で、今度も弱い者いじめ? かっこ悪ぅ……」

「っ! ぶっ殺す!」

手に持っていた拾い物の一振りの剣で、振り下ろされる剣を受け止めるレヴィン。

見覚えのある顔が目の前に現れ、今まさに八つ当たりと言うべき人殺しを止められた男は盛大に苛立つ。それを逆手に取るように挑発してきたレヴィンの言葉に、簡単に乗ってしまう。

レヴィンの言い方も言い方で、完全に神経を逆撫でするような間延びした言い方だったのだが。

「おーおー、言葉使いが荒いね、やっぱり」

「死ね!」

殺すために振るわれる剣。生きるために跳ね返す剣。

1回、2回、3回と剣が振るわれ、金属同士の嫌な音が鍔迫り合いの度に起こる。

拮抗しているように見えて、そうでは無かった。レヴィンが持つのはそこらへんで拾ったなまくらの剣。自身の持つ剣を引き抜いてはいない。

対して、男もレヴィンと同じような剣を握ってはいるが、それはなまくらではない。きちんと手入れされてあれば、どんなに普通の剣でも持ちこたえる事は出来るのだ。

その証拠にレヴィンの剣は刃こぼれが激しく、男の剣は全くと言っていいほど刃こぼれしていなかった。

そして、その事実が男に余裕を持たせていた。

「ほらほらどうしたぁ! 折れちまうぜ、てめぇの剣!」

「折れたって代えがある! だからアンタはそんなこと考えなくていいよ!」

「なら圧し折ってやるよ!」

バキィン!

男の宣言通り、上段から振るわれた剣閃が見事にレヴィンの持つ剣を折る。

破片をまき散らせながら半ばから折れた剣を見ながら、対して驚いたそぶりも見せずにレヴィンはすぐに次の行動に移った。

もはや用済みとなってしまった剣の柄を投げ捨て、レヴィンは男へと肉薄する。

「はぁっ!」

素早く男の懐に潜り込み、剣を振った後でがら空きとなったその腹を拳で思いっきり突き上げる。

「がはっ!」

口から空気を絞り出されながら、男は体をくの字に折り曲げ苦悶の表情を浮かべる。

レヴィンはなおも追撃。腹にもう二発拳を打ち込む。全く同じ場所を正確に狙い、男はその攻撃に反応できずに再度体をくの字に折らせることしかできない。

そして、最後にレヴィンは男の襟首を掴んだ。その理由は、投げるため。

ブンッ

大の男の服の襟首を掴んでそれを放り投げる少年。なかなか見る事のできない光景が繰り広げられていた。

街の中であった時のように投げ飛ばされ、再度その痛みにのた打ち回る男を尻目にレヴィンは少女に振り向く。

振り向いた先にいる少女。その少女は壁に背中を引っ付けたまま目を閉じていた。完全に男に剣を振り下ろされた瞬間、涙を流したその後の状態で固まってしまっているのだ。

助けた少女がそんな姿のままでいる事に、レヴィンは軽く呆れながらも声をかける。

「おーい、いつまで目つぶってるんだ?」

「え? あれ? 生きて――」

レヴィンに声をかけられたことで、赤毛の少女はようやく目を開ける。

そして、その髪の毛の色によく似た暗い赤目でレヴィンの姿を認めた後、少女はピシリと石のように固まった。

言いかけた言葉すらも切って固まった少女の様子などには気づかず、レヴィンは思った事を口にしていく。

「怪我とかは無いよな? いやー、いきなり殺されかけてる女の子がいたからびっくりしたぜ」

失礼を承知でやっているのかもしれないが、レヴィンは少女の姿をジロジロと眺めていく。

比較的長身なレヴィンより頭一つ分は小さいであろう身長。細身の体に似合うすらっとした服。比較的大きな怪我もないようで、服が汚れているという訳ではない。

そして、レヴィンの視線が少女の顔に向いた瞬間レヴィンは本気で驚いた。

「……///」

「うわっ! アンタ、顔真っ赤だぞ!? 大丈夫なのか? 風邪とか引いてないか?」

「ひぁっ!」

「……熱は、無いよな……?」

顔を真っ赤にさせ、口を陸に打ち上げられた魚のようにパクパクと動かすだけだった少女の額に、レヴィンは自らの額をつける。

普通に考えれば相手を心配するが故の行為である。そして、普通に考えればここは砦の中。そして、先ほどまで山賊の頭領に襲われていたのだ。

状況についていける訳がない。

「あ、ああああ……ななななな……」

「ん?」

「い、いいいい……」

「い?」

「いきなり何すんのよバカ!!」

「うおぅ!」

顔を真っ赤にしたまま、少女は割れんばかりの声で叫ぶ。

ソニックブームにも似た声の衝撃波がレヴィンを襲い、レヴィンはもんどりうって倒れてしまう。

「いてて……。なんだよ、心配してやっただけなのに……」

「し、心配にしてもやり方とかあるでしょ! み、見ず知らずの人間に対して、ひ、ひ、額どうしくっ付けるなんて!」

「……それぐらい普通だろ? 熱があるかもしれないって思ったんだから」

「普通じゃない! そ、そう言うのは好きな者同士が……ごにょごにょ……」

倒れたまま呆れかえるレヴィンに、顔を真っ赤にさせたままだが、段々と尻すぼみに語尾が弱くなっていく少女。

そんな少女を見ながら、レヴィンはとりあえず立ち上がる。

このまま座っていても仕方がないと思った結果なのだが、それは結果的に失敗であり成功だった。

「うぐ……このガキィ……散々この俺様をコケにしやがって……!」

レヴィンに投げ飛ばされていた男が、ここでようやく立ち上がって復活する。

恨み言全開で立ち上がった男を、やれやれと言った雰囲気でレヴィンは見つめながら言葉を口にした。

「コケにしてはいないんだけどなー……。でも、アンタも物好きだよな。態々向かってくるなんてさ」

「うるっせぇ! お前は俺様に殺されてりゃいいんだ!」

「そんな変なプライド捨てちゃいなよ……」

がっくりと項垂れながら、レヴィンは男の言葉に呆れかえる。

だが、男はそんな事を気にしない。と言うよりも、レヴィンのその言葉を挑発と受け取ったようで瞳をさらに狂気の色に染めていた。

そして、地面に落ちていた剣を拾いレヴィンへと突貫する。

「はぁ……。いい加減にしろよな」

一度溜息を吐いた後、レヴィンは動く。振り下ろされる剣を迎撃するために。

しかし今回は剣は握っていない。代わりに持っているのは腰に差した自らの愛剣。レヴィンはそれを握り、だがその刀身を露わにはしなかった。

剣を鞘に刺したまま、振られる剣を真横から叩く。幅広とまでは言わないが、一般的な両刃の剣。装飾は特にないが、所詮は普通の数打ちの剣。そんなものが真横から真っ直ぐ叩かれては、耐久力が持つわけがない。

当然、見事に鈍く光るその刀身は折れた。

「んなっ!」

「ほんと、いい加減にしてくれ。アンタは俺には勝てないってわかってるんだろ?」

そして、投げた。

通算三回目の投げ。少年が男を放り投げる光景が繰り広げられた。

最初は拳を握りながらそれごと。二回目は首を掴んで。三回目は相手の体を回転させ、背中から叩き落とす。

今まで以上に痛烈な投げに、今度こそ意識を落とす男。それを見ながら、レヴィンは再度ため息を吐いた。

「はぁ……。これで終わり、かな? 大丈夫か?」

意識を失った男を一度確認した後、レヴィンは背後にいるはずの少女に声をかける。

「だ、大丈夫よ。そ、それより君に聞きたいことがあるんだけど」

「ん? ああ、名前か。そう言えば言ってなかったな。俺の名前はレヴィン。レヴィン・ホルスト」

「アタシの名前はエイリア・ウェンディよ。って、っそうじゃなくて!」

「じゃあどういう意味なんだよ……」

「え? えええっと、いや、あのね、その、だから……~~っ///!」

首まで真っ赤なまま、少女は両手の指を突っつきながら恥ずかしそうにもじもじしているエイリア。

そんな可愛い姿を見ながら、レヴィンはよく分からないと言った風に首をひねりながら声を上げる。

「……どうしたんだよ。なんか、凄く可愛い小動物みたいになってるけど」

「か、かわっ///! あうぅ……だ、だから……///!」

「ん?」

もうこれ以上ないぐらいに顔を真っ赤にさせながら、エイリアはさらにもじもじしだす。

そして、色々なものを振り絞って叫んだ。

「あ、アタシと……アタシとコンダクト契約しなさい! おでことおでこくっ付けた責任とりなさいよね!!」

高圧的な物言いで、ビシィッと言う音が付きそうなほどに指を突き付けてエイリアは言った。

「……は?」


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