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小説:フェデルフィア国物語

1章 巡りあう2人。


「このアマぁ、いい加減に待ちやがれ!」

「盗ったもん全部置いてってもらおうか!」

「待てって言われて待つ盗賊なんか言わないわよ、バーカ!」

2人の男と1人の少女。合計3人の人影が追い駆け合いを行っていた。男たちは似たようなラフなシャツと半ズボン。一様に汚れており、洗うことが出来ていなそう。

対して少女の服装は清潔そうで、肩の部分が大きく開いた長袖の腰より長い白地のシャツに、所々が破けたデザインの赤い袖がないジャケットを羽織っている。そして、下の方は動きやすさ重視のためか膝よりかなり上の部分で切られた薄黄色のズボンを履いていた。

話す三人の言葉の内容から分かるように、逃げているのは少女。追いかけているのは2人組の男たちだ。

少女は走っている立地を利用し、上に下に右に左にと縦横無尽に逃げる。そのすばしっこい動きに男たちは翻弄されっぱなしである。

自分たちの縄張り、それもそのど真ん中にある砦の中だと言うのにもかかわらず、男たちは少女の動きについていけない。

山賊のメンツが丸つぶれである。

「おい、お前はあっちに行け! 俺はこっちから行く!」

「挟み撃ちだな、分かった!」

「いや、口に出してたら意味ないでしょうが。しかも大声で……」

後ろから聞こえてくる怒声にも似た声に、少女は少し呆れかえりながらも走る足を止めはしない。

少女が今いる場所、それは山賊の本拠地である砦の中。なぜそんな場所に少女がいるかと言えば、少女の仕事に関係していた。

義賊。それが真っ赤な髪、真紅と言ってもいいその髪を肩口でバッサリと切った、ショートカットの髪形をしている少女の職業だ。

職業と言っていいものではないのかもしれないが、それでも少女は信念を持ってこの仕事をこなしている。

誇りがあるのだ。少女には。

「ま、分かってるんだからこっちから仕掛けても問題ないわよね?」

まるで虚空に語りかけるようにしながら、少女は赤い髪につけた髪飾りを引き抜く。

どこか丸みを持った雰囲気のある、先端が放射状にばらけて尖った銀色の髪飾り。

鈴のようなものがついているようで、シャンシャンと小さい音を鳴らすその髪飾りを、少女は投げた。

思いっきり振り被って、まるで遠投をするかのように。

「天下の義賊、ブラッディスカーレット様の特製隠し爆弾、とくと味わいなさい♪」

ぶんと言う音を出した後に投げられた髪飾り。それは見事なコントロールで少女の目の前にあった砦の壁に突き刺さる。

壁に突き刺さったと言うより、石造りの砦の石の間に挟まったと言う方が正しいかもしれないが。

「ばーん♪」

可愛く言った言葉と共に、その可愛さとは正反対の暴力的な音が一瞬にして砦全体に響き渡った。

「ぐはぁ!」

「な、なんだ! 揺れてるぞ、おい!」

爆発音と突風に、少女を追い駆けていた男たちの違う反応が返ってくる。

少女を先回りしていた男は、見事に爆発に巻き込まれて吹き飛ばされ、後ろ側から追い駆けていた男は、突然の砦を襲った揺れに驚く。

「……この隙にお宝をいただいてっと……」

その反応が聞こえていた少女はニシシと口を吊り上げながら笑うと、目的の場所へと駆けて行く。

目的の場所、それは――

「宝物庫ー!」

扉を蹴破るようにしながら、少女は宝物庫の中に入る。

さすがは砦。所有者がたとえ山賊などになっていても、その辺りの管理をする部屋はきっちりと作られているものなのだ。

そこに堂々とかっさらった金品を置いておくのもどうかとは思うが。

「おい、まだ見つからねぇのか!」

「こっちにはいねぇ! ちっ、頭が街に出てる時にこんな失態、なにされるか――」

「馬鹿! 今はそんなこと考えるな! 探せ、そして殺せ!」

砦内からは男たちの怒号が途切れることなく鳴り響いている。

慌てる者、怯える者、キレる者。様々な声が混じっているが、全員の注意の先はただ一人。少女のみだ。

「ふーん、頭ってことは頭領は今いないんだ……ラッキー♪」

その声が勿論届いている少女は、その情報に嬉しそうに表情を緩める。

だが、その表情もすぐに苦虫を噛み潰した後のような表情に変わった。

「げ。鍵かかってるじゃない。面倒なものつけてくれるわね、山賊の脳筋のくせに」

少女の目の前にあるのは、粗雑に置かれた貴金属の中心にぽつんと置かれた1つの大きな箱。四隅が金属で打ちつけられており、かなり頑丈そうだ。

体の小さな子供なら簡単に入ってしまいそうな大きさの箱にかけられた鍵を前に、少女はやってしまったと言う表現がよく似合う表情を浮かべる。

そして、直ぐに先ほど撒いてきたばかりの山賊の男どもの顔を思い浮かべて、憎々しげに吐き捨てる少女。

「ま、いいわ。アタシにかかれば何の問題もないもの。……ふっ!」

ありったけの貴金属をかき集め、持ち込んでいた袋の中に詰め込んでいくと少女は気合一声、それを担ぎ上げた。

さらに、大きな箱にはどこから取り出したのかが全く分からないが、かなり太めの綱のようなものを取り付けそれをがんじがらめにして大きな箱に絡める。

そして、その先端を自らの腰に巻きつけると、思いっきり引いた。

「くぁぁーー……。お、重いぃ……」

当たり前である。

例え中身がなかったとしても、金属で補強された箱だ。空でも十分な重さがあるはず。そして、少女は背中にめいっぱい詰め込んでパンパンに膨らんだ貴金属の入った袋を背負った状態。

どんなに大の大男でも『無理』と言いたくなる重さなのだ。

決して小柄とは言わないが、それでも少女の体であるはずなのに潰れていない方がおかしいと言った具合である。

だが、一歩づつでも進んではいた。

毛ほどしか進んではいないが。

「おい、宝物庫の方見て来い! いるかもしれねぇ!」

「分かった!」

「俺も行くぜ、ぶっ殺してやる!」

「やっば。逃げないと!」

ようやくと言う言葉が一番合うだろう。

山賊どもが少女のいる宝物庫へと押しかけていく。

そして、宝物庫との扉が吹き飛ばされ、中にいる少女の姿が露見する。

腰に綱を巻きつけ、背中には膨らみに膨らみまくった袋で見つかる少女。なかなかにシュールな光景である。

宝物庫に入って来たのは2人の男。声の限りではもう一人いたはずだが、今は来ていない。だが、時機に来るであろうことは容易に予想できた。

「好き勝手暴れてくれたじゃねーか、ええ!?」

「てめぇの命置いて行きなぁ!」

腰に佩いていた剣を引き抜きながら、そんな怒鳴り声で迫る男たち。

その男たちに、少女は怯むことは一切せず、逆に挑発した。

「ふん、死んでたまるかってんですか。捕まえてみなさいよ、べー!」

舌を出しながら男たちにそう言う少女。普通であれば何とも茶目っ気のある行為だが、今はそんな状況ではない。

人の命のやり取りをしている最中なのだ。

「おらぁ!」

比較的長身な方。声の感じでは先ほどからキレていた男からの剣の一撃が少女に迫る。

上段、少女の身長よりかなり高い位置から振り下ろされる刃に、少女は身を翻すことでそれを回避。その際、腰に巻きつけていた綱を解くことを忘れない。

だが、それを待っていたかのように恐怖心に煽られていたはずの男の声が、少女の耳に届いた。

「死ね!」

目が血走り呼吸も荒い。

完璧に己の恐怖に飲み込まれた男の剣の切っ先が、突き出されるようにして少女へと向かう。

先ほどとは違い、上からではなく真ん中。さらには伸びてくる剣に少女は盛大に舌打ちをした後に、自らの腰からあるものを引き抜いた。

ガギン!

少女の腰から引き抜かれたもの。それは2本の小振りの短剣。

装飾など一切施されていない。まるで暗器と言ってもいいような風貌をした2本の短剣が、男の繰り出した突きを絶妙に逸らしていた。

刃を当てこするようにではなく、たった一撃加えただけの絶妙な力加減。それに、男の体勢は完全に揺らいだ。

「ほい」

「ぐぎゃ!」

剣を突き出したときに残っていた前へと進むエネルギー。それを利用するために、少女は体勢の揺らいだ男の足をひっかけた。

すると、面白いように男はそれに引っかかり顔から石畳の砦の床に突っ込んでしまう。

「うっわー、痛そう……」

「てめぇがやったんだろ! 頭が帰ってくるまでにお前を殺して――」

「あぁ? お前、俺様が帰って来るまでになんだってぇ?」

「そりゃ有耶無耶にするんだよ、殺されたくなんか――」

「じゃあ死ねよカス」

「ぐはっ!」

いきなり現れた男に、少し狂気じみた男の言葉は途中で中断させられる。

背中から生えた自らが持つ剣と同じような剣によって。

「――っ!」

目の前で人の体が貫かれる様を見た少女は、手で顔を覆いながらその現実から目を背ける。

だが、視界を無くした真っ暗な世界に逃げ込んだ少女には、耳と鼻がまだ残っていた。

肉が千切られる音。鼻につく血生臭い臭い。流れ出る血が石畳に落ちる音。狂ってしまいそうな狂気の匂い。

全てが異常な事を訴えている体の反応を、少女は何とか押さえ込んでいた。狂ってしまえば、止まってしまえばそうなるのは自分だと分かっているから。

「ふぅ……。お前、随分と荒らしてくれたらしいじゃねーか。んん? どう落とし前つけてくれるんだ?」

「お、落とし前も何も、あげる物なんて何もないわよ」

「あるだろう? お前の体とかなぁ? 腰の引けたお嬢ちゃんよぉ?」

下衆の浮かべる笑みを浮かべながら、剣の柄にまでべっとりとついた血を舐め取っている金髪の男。

明らかに正気ではない目。だが、少女にはそれを正気に戻す術もない。そして、そんな勇気を持ち合わせてはいなかった。こと、先ほどのようなものを見た後では。

男の言う通り、完全に腰が引けてしまっているのだ。義賊なんてものをやっていても、目の前で人の生き死になど、人殺しなど見たことはなかったのだから。

「俺様イラついてんだ。街ではガキにコケにされ、帰ってみたら自分の家が荒らされてる。なんだ、俺様は呪われてるのか?」

「し、知らないわよ。どうせ『ローマルティア』に嫌われることでもしてるからじゃないの?」

「ふん。『世界の涙』だか何だか知らねーが、今は関係ない。だから、死ね」

いつの間にか壁際にまで追い込まれていた少女。

腰が引けた状態で無意識のうちに男から逃げていた少女が、それを自覚したときにはもう遅かった。

眼前に血塗られた剣を突き付けられ、その奥には狂気を孕んだ男の瞳。

恐怖せずにはいられなかった。絶望せずにはいられなかった。命を失う事より、少女の夢が断ち切られてしまう事に。

「(……アタシは……こんな所で死ぬの? 何も出来てない。……何も返せてないのに……)」

「サヨナラだ」

開かれていた髪の毛より暗い赤色の瞳を瞑り、悔し涙を流した少女の顔に、無慈悲に剣は振り下ろされた。

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