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小説:フェデルフィア国物語

4章 お互いの夢、それぞれの願い。



シャァァァ……

流れ落ちる温水が、均整のとれた筋肉がついた体を洗い流していく。

掘っ建て小屋と言っても良いであろう小屋の中には充分すぎる設備。

少なからずその内容に驚いたレヴィンだったが、すぐにその考えは霧散した。

頭からシャワーから出る温水を被り、規則正しく床のタイルを叩く水の音を聴きながらも、頭の中に流れるものは1つだけ。

「……捨てたはず、なんだけどな。いや、捨てるなんて出来ないんだ、結局。アレは、俺自身なんだから」

頭の中に流れる葛藤の中にあるのは悔しさと虚しさ。

出来たはずなのに出来なかった。やれたはずなのにやれなかった。

全ては、自らが招いたものであるがゆえの葛藤。過去は変えられない。変わらないのだ。

3年前、襲ってきた戦争の波。その中で、レヴィンは家族を亡くした。最愛の家族を。ただ、平和に暮らしていただけなのに、その平穏は一瞬で崩れ去ったのだ。

その中で守ろうとしてくれた父と母。その想いに縋るだけで逃げる事しかできなかった自分。せめて自らの妹だけでも守ろうと誓い、逃げた。だが、その手に握っていた小さな手は離れ、二度と握れなくなった。

そんな過去を見たくないから、もう二度と同じ思いを経験したくないからと逃げた時もあった。誰とも触れ合わずにいられれば、大切な者を失う痛みを知ることはないからと。

しかし、それは無理だ。人である限り、人は1人では生きていけないのだから。グルティスで出会ったメルティアとカルロ。旅の中で出会ってしまった様々な人の想いが、それをレヴィンに痛感させたのだから。

だからこそ彼は、フェデルフィアと言う名前を捨てた。

フェデルフィアと言う過去を捨て、ホルストと言う新たな未来を掴み取るために。

「俺自身だからこそ、捨て切れてなかったのか。……俺を殺すのは、俺の役目じゃないからな……」

名を捨てる。と言う事は死ぬと言う事と同義だ。親からもらった名前を、受け継いだ名前を捨てる。それだけで、他人になれるはずはない。

そんな事は分かっていた。でも分かりたくなかった。そうやって見てみぬふりを続けていたから、突き刺さっているのだ。

自分の過去を知っている人物との再会が、レヴィンの心奥深くに。

「考えても仕方ない……か。まあ、とりあえず上がろう。いつまでも待たせる訳にはいかないしな」

だが、それも今は関係ない。自らと一緒にいた少女に何一つ話してはいないのだから。

そう一つ決意を固めたように、キッと前を見据えて呟くレヴィン。そうして、外へと出るために扉についたノブを回した。

ガチャ

「――っ!」

「……エイリア?」

扉を開けた先にいたもの。濡れた服を脱ごうとしていたエイリアが、出てきたレヴィンを見て固まっていた。

「はっ、はだっ! はははは裸!?」

「? あぁ、シャワー浴びたばっかだし――」

気でも狂ったかのように、服を脱ごうと両手をあげ、万歳のようなポーズをしたまま言葉を発していく。

何時も通りと言ってもいいほど見慣れた、エイリアの茹で蛸になった顔を見ながら、レヴィンは思い出したように言葉を口にした。

だが、他にやることがあるはずだ。なぜこの状況になった事を思い出すような言葉ではなく、他にも。

――ちょっとは隠せ、と言うことである。

「きゃぁぁぁーーー!!!」

悲鳴が上がるのは必然だった。

まあ、入ろうとした場所から濡れた裸の男が現れては、悲鳴も上がると言うものだ。少し状況が特殊かもしれないが。

「ど、どどどどうしたんですか!? ね、ネズミでも出たんですか!?」

案の定、この小屋の持ち主が悲鳴を聞き付けて駆け込んでくる。客人を心配すればこその行為だったが、この持ち主には少々……いや、かなりきつすぎる事になるのを、駆け込んできた段階では知らない。

知らないまま、小屋の持ち主は入った。

服を脱ごうと両手をあげたまま悲鳴をあげて固まる少女と、素っ裸のままの少年がいる脱衣所へと。

「きゅぅ……」

「って、おぉ!? 急に顔真っ赤にして倒れるなよ! のぼせたわけじゃないだろ!?」

若さと言うものは、色々な場所で融通がきかない。

若さゆえにジルベルは刺激的な光景に意識を飛ばし、レヴィンは鈍感ゆえに全く的外れな言葉を口走っている。

経験がないと言うのは、こういう事を言うのであろう。まあ、こんな経験、誰もが好んでしたいとは思わないだろうが。

「あ、あわ、あわわわわ……」

「…………ぅうぅ……おっきな、おっきなぁ……」

「……どうするんだよ、これ」

エイリアは万歳をしたまま口をわなわなと動かすのみ。ジルベルはぶっ倒れてうわごとを言うように口を動かす。そして、2人がこうなった原因、張本人は呆れた声を頭をガシガシと掻きながら出していた。
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