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小説:フェデルフィア国物語

プロローグ


「おい、しっかりしろ! もう少しで外だ、そこまで頑張れ!」

「はぁ……はぁ……はぁ……」

崩れゆく街。燃え盛る街。悲鳴が聞こえる街。

どこにも救いのない状況の中で、2人の若者の姿が揺れていた。

1人は程よい長身の少年。もう一人はその少年よりも頭1つほど小さい少女。同じ髪の色をした少年と少女は、お互いの手を握り合いながら走る。

息切れ激しい少女を、少年が必死になって引いている、そんな状況だ。

「くそっ、なんでこんなことに……!」

「……兄様……私は……放って置いて……」

「馬鹿野郎! そんなこと出来るか! 俺は諦めない、絶対に!」

「けど……このままじゃ、2人とも――」

ドガン!

強烈な破裂音。

それが聞こえたと思った瞬間、少年と少女の体は吹き飛ばされていた。

「がはっ!」

「うぐっ!」

飛び散る瓦礫、地を嘗める炎、こびりついた血。そんな地上に、2人は叩き付けられた。

そして、少年は後悔する。吹き飛ばされた時に離してしまった少女の手の事を。

「……いっつ……大丈夫か?」

打ちうけられた背中や腕を抑えながら、少年は何とか立ち上がる。

そして、見た。

変わり果てた街を。変わり果てた空を。変わり果てた自らの妹の姿を。

今までの凄惨な光景が、まだ優しいと思えるほどの絶望の光景を。

「……ぅ」

「――っ!!」

燃え行く街と、真っ赤に染まった空。その中で1人壁にもたれ掛るようにしてぐったりとしている少女の姿。

その右肩から先は引き千切られ、跡形も無くなっていた。

「ユナ! 待ってろ、今助けを――」

「兄、様……? いいの、私の事なんか……かふっ」

「馬鹿言うな! 助ける、絶対助けてやる!」

荒い息をこぼしながら言う少女に、少年は怒鳴りつけながら少女の元へと向かう。

そして、少女の前にかがみ少女の傷を覗き込むようにしながら少年はぶつぶつと呟く。

「……やれるか? いや、やるんだ……ここで尻込みしてたって変わるわけない……助けるんだ、ユナを……!」

「……兄……様?」

そんな少年の様子に、少女は真っ青になった顔をしながら少年の事を心配する声を上げる。

少年は少女の声が聞こえていないようで、ぶつぶつと呟いた後おもむろに両手を少女の肩口にかざした。

「はぁっ!」

気合を込めた声を一つ。

すると、その声に反応するように少年の両手から白い光が溢れ出す。

「兄様、それは……!」

「黙ってろ! こんな時に、そんなこと言ってられないんだ!」

その白い光を見た少女は驚きの声を上げ、少年を咎めようとする。

だが、少年は少女の言葉を被せるようにして遮る。額に大玉の汗を浮かべながら。

バチィ!

「ぐあっ!」

「兄様!」

「大丈夫だ、大丈夫。俺は、まだ……」

かざした両手からあふれた白い光が、弾かれた電流のようにうねった後に少年の手を襲う。

焼かれた両手をかざしながら、少年はさらに同じことを繰り返そうとする。

だが、少女はそれを良しとしなかった。

「兄様……もう、いいよ」

「え? なんでだよ、死ぬなんて言わせねーからな」

「ううん、言うよ。私は、これまでだから……兄様だって分かってるんだよね?」

口から血を溢れさせながら、息も絶え絶えと言った風にしゃべる少女。

そして、もたれ掛るのにも疲れたのか、体重の赴くままに地面へとゆっくりと倒れていく。

「なっ、ユナ……」

「ね? 私は、助からないから……。だから……兄様だけでも生きて……」

倒れた少女の背には無数の瓦礫の欠片が突き刺さり、おびただしい量の血がもたれ掛っていた壁にべっとりとついていた。

絶対に助からない、そう思える出血量と傷の多さに少年は一瞬考える事を放棄する。

だが、直ぐに先ほどと同じ行為にかかった。

「ふざけるな! 俺は、俺は認めないからな! 絶対に、絶対に助けてやるから!」

「………」

目を閉じたまま動かない少女。

その少女に対し、両手を焼かれながらも蘇生を試みようとする少年。

「ふざけるな! ふざけるなよ! ……戻って、来いよ……なぁ、ユナぁ……」

大粒の涙をこぼしながら、少年は冷たくなっていく少女の体を抱く。

両手を焼かれた痛みなど気にならない。流れている血すらも焼かれ、嗅いでいたくは無い臭いとなってしまっている両手で、少年は必死に繋ぎとめる。

まるで、その手を離せば終わると言うように。

「……に、さま……」

「!! な、なんだ、ユナ!?」

冷たくなっていた体が動き、少女の口がかすかに動いて少年へと言葉を伝える。

1つも聞き洩らさないと言うように、少年は少女の口元へとその耳を近づけた。

「……にいさま……」

「ああ! 聞いてやる! だから、ゆっくりな?」

「……大好きだよ、兄様……。そして、さようなら……兄様……」

「――っ! ユナ! ユナ!」

「…………」

口を動かし、想いを伝えた少女は動かない。

もう、二度と。

完全に力の抜け切った冷たい体をゆすりながら、少年は何度も少女の名前を呼ぶ。

だが、動かない。動くことはない。

―――死んだ人間が、再び動き出すことはないのだから。

「……ぅぅ……ユナぁ……」

少年は泣きながら少女の体を強く抱きしめる。

そして、叫んだ。

慟哭の声を。喉がつぶれんばかりの声で。泣きながら、強く、強く、強く。

「うわあああぁぁぁ!!!」

真っ赤に染まった空は、その少年の気持ちを表すかのように揺れていた。


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