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小説:守護霊は神様!?

2章 僕と不良と神様と

咲耶はクラスの仲間として認められた。
澪との一騎打ち?の一件で、咲耶は全校の注目の的となり、一躍時の人となったのだ。
学校一の不良と呼ばれる澪に様々な勝負で勝ち、学校の彼女にしたいランキングトップの稲羽の家に厄介になっている転入生。
有名にならない方がおかしいと言うものだろう。
「稲羽よ、今日も昼食は屋上かの?」
「そだよ。澪ちゃんも月ちゃんも陽ちゃんも憲君もいるよ?」
「いつも通りじゃな。なに、聞きたかったのはそれだけじゃ。では、行くとするかの」
「行くってどこに?」
「屋上じゃろう? 先ほどチャイムが鳴って今は騒がしいではないか」
「あ、そうか…って咲耶ちゃん! 先々行かないでよ!」
クラスにも馴染んだことで、咲耶には友達と呼べる人間が何人もできている。
話し方は古風。そして、美少女。さらには、運動神経抜群。頭脳明晰。
高嶺の花と思われ敬遠されるどころか、クラスの人気者にまでのし上がってしまったのだ。
だが、友達と呼べる人間が出来たのにもかかわらず、咲耶はその者達と行動を共にしようとはしない。
それはなぜかと思い、稲羽が一度それを聞いたとき、咲耶は目を丸くしながらこう言った。
「余はお主の守護霊として憑りついてやった神じゃ。態々お主と離れる必要なんかないのじゃ」
単語を色々と言いかえれば、最高の告白文であっただろうその言葉に、稲羽はその時げんなりしたのを覚えている。
澪には似たようなことをさんざん言われている稲羽だが、まだ知り合って間もない咲耶に言われるのは新鮮だったのだ。
だからこそ、そのような言葉になってしまった事に稲羽は落胆した。
「おお、憲太郎ではないか。どうしたのじゃ、こんな所で」
「お前らを待ってたんだよ。一人で行く必要もねーし、俺が双子ちゃんの相手できる訳ねーからな」
「なるほど、お主は姉派だものな」
「おう! 姉ちゃんこそ至高! 他には何もいらねぇ!」
階段の踊り場で、拳を固く握りしめながら力説する憲太郎。
それを生暖かい目で見ながら、咲耶は憲太郎の肩をそっと叩いた。
「そうか…頑張れよ…余もこのような存在ながら応援しておるぞ」
「おう! 任せときな!」
咲耶のささやかなる応援に、憲太郎のテンションは一気に上がる。さらりと言葉の中に危ない単語があったような気もするが、憲太郎はそれには気づかない。
そして、その勢いのままに屋上に至るドアを開けた。
「………」
ガチャ…
「あっれー、おかしいなー…あまりにも姉ちゃんが愛しすぎて幻覚が見えるぜ…。これも、愛の成せる業故ってか…」
扉を開けた先で仁王立ちして待っている人物を認めた後、憲太郎は体中に冷や汗を垂らしながらそんな事を口走る。
そのどうしようもない憲太郎の悪あがきに、稲羽は最後の忠告を告げた。
「…逝ってらっしゃい」
「忠告ですらねえよなちきしょう!」
「やぁ…愚弟。チョークを眉間に突き刺されるのと、肛門にチョーク万本、どちらがいい? 10秒以内に選ばなければ殺す」
「全力でチョークを眉間にお願いしまっす!!」
ザクッ
人間の体から出てはいけない様な音が、眉間にチョークが突き刺さった憲太郎から聞こえる。
と言うか、チョークが人間に突き刺さるわけがない。
それを簡単になしてしまう秋穂も秋穂で、中々に力があり得ない方向で突き抜けている。だが、それをこの場にいるとある少女二人は再現できてしまいそうだが。
「ふぅ…。邪魔したな、滝宮兄妹、大和。この愚弟はここに放置していていいからな」
「了解です。じゃ、食べよっか」
ため息を吐きながら屋上を出ていく秋穂に、稲羽はいつも通りの返事を返す。
ゴキブリをも凌駕する耐久力、精神力(秋穂に対してのみ)を持つ憲太郎は、いつの間にか復活していることが多いためいつもこのような反応なのだ。
それが分かっているから、稲羽も簡単に受け流すし、その周囲も流れに沿うのだ。
「稲君の手料理は食べるぞ! 何があっても食べる!」
「今日は高菜キムチ入ってる!? 羽月の好物!」
「稲陽の好物の、カカオ20%チョコはある!?」
稲羽の手料理を喰らう3人が、口々に声を上げて主張しだす。
ひな鳥のような3人の主張に、稲羽は若干苦笑しながらも持って来ていたカバンの中から弁当箱を取り出した。
澪には緑色、赤色は羽月に、黒色は稲陽、黄色は咲耶に、青色は自分に。と言ったように弁当箱を分散させていく稲羽。
そして、緑、赤、黒を渡された3人はいつも通りがつがつと弁当の中身を平らげていく。
稲羽自身も3人の少女の食いっぷりを見ながら、自らの食事を開始する。
だが、黄色をもらった咲耶だけは箸すらも取ろうとせず、弁当箱の蓋を見つめたままだった。
「ん? どうしたの咲耶ちゃん。早く食べないと昼休み終わっちゃうよ?」
「ああ…食べるぞ。食べる食べる。じゃがな、まあ、お主たちに言っておこうかと思ってな」
そんな咲耶の様子を心配した稲羽が声をかけるが、咲耶はそういう意味ではないとでも言うように頭を振る。
言っておくことなんてあったっけと稲羽は思うが、それでも咲耶がそう言うのならと追及はしなかった。
しかし、その追求をしなかったことで稲羽の周囲は一気に汚くなることになる。
「そこで伸びている憲太郎は置いておいて、お主たちに言おう。実はな、余は神様で稲羽の守護霊なんじゃ」
「「「ぶっふぅーーー!!!」」」」
「…ぶっふぅーーー!!!」
突然の咲耶の告白に、その中身を知っている滝宮家はものの見事に食事を吹き出す。
基本的に、自分に関係ない事は無関心を貫いている澪も、1拍遅れて吹き出した。
「…ごほっ、げほっ。なんでいきなりそんなこと言ってるのさ!」
「いやなに。そろそろカミングアウトとやらをした方がいいかと思っての。お客さんも来た事じゃしな」
「え? お客さんって、どういう意味?」
咲耶の最後の呟きの言葉に、稲羽が反応したとき世界は止まった。
空気までもが止まり、全てが死んだような青色の世界。
そんな世界がいきなり現れたことに、稲羽たちは驚き目を見張る。
だが、咲耶だけは一人難しそうな顔をして空を見上げているだけだった。
「…そろそろ出てきたらどうじゃ?」
『えー、もうちょっと荘厳にさせてくれてもいいじゃない♪ せっかくの出番なんだし♪』
虚空へと語りかけるように咲耶が言葉を発すると、楽しそうに浮ついた声が咲耶の問いに答えるように聞こえてくる。
その声の出所に、稲羽たち人間は驚いて周りを見渡すがそこには何もない。止まってしまった青色の世界だけしか、稲羽たちの目には入らなかった。
だが、神である咲耶には見えていた。自らの目の前で、自らが持っている十二単の色違いを着た、金髪をツインテールに纏めた少女の姿が。
『…うーん。やっぱり可愛いわね…あの子…じゅるり…』
「こら、涎を拭かんか。神と言うものでありながらはしたない」
『えー、だってー…』
「だっても何もないのじゃ。と言うか、さっさと結界を解かんか、稲羽たちが困っておろう」
『困っている顔も可愛いんだけどなー…ま、いいや。後でおいしくいただくもんね♪』
咲耶だけがその正体を分かっているようで、呆れたり少し怒ったりしながらどことも知れない所から聞こえてくる声と会話する。
その傍から見たら危ない光景にも、突然止まった世界の中にいる稲羽たちはどこか納得するしかなかった。
そして、声が最後に嬉しそうに言った瞬間、その青い世界が晴れ元に戻る。
「じゃーん♪ どうどう、滝宮稲羽君? 驚いた? 驚いた?」
「神の力を私用に使うな馬鹿者が」
「あいたー♪」
突如現れ、ピースサインを作りながら稲羽に語りかける金髪のお団子のツインテールを持った少女。稲羽と同じぐらいの身長を持ったその少女に、その姿を始めて見ることが出来た3人は若干拍子抜けてしまう。
咲耶に頭をペシリと叩かれながらも嬉しそうにしているその少女に、稲羽は恐る恐る話しかけた。
「…えーっと、君は、誰? なんで僕の名前を…って聞くまでもないしその恰好を見れば大体わかるんだけど…」
「おーおー♪ 分かってくれるよね、やっぱりそうだよね! クロの目に狂いはなかった!」
「喜んでないで、自己紹介せんか!」
「咲耶ちゃんこわーい♪ …んん! クロの名前はクロスヴェール=ローエルナリア=キュークリッジ。長いからクロって呼んでね♪ あと、金髪なのにクロってなんだよ! って言う突込みは無しの方向性でよろしく!」
十二単と言うかなり重いはずの服を着ているのにも関わらず、ぶいぶいとピースサインを前後に動かしながら自己紹介を終わらせる少女。
その元気っぷりに、稲羽たちは気圧されっぱなしで一切リアクションが取れていなかった。
だが、そんな中でもリアクションを取れる人間は一人だけいた。
「わっかりました! 女性に秘密には口を出さない! これが姉ちゃんに習った事だから!」
「…憲太郎…空気を読まないでくれるのは嬉しいんじゃが、今は場合が違うのじゃ…」
「…可愛くない子はいらないから♪」
復活していた憲太郎が声を上げ、敬礼もどきでクロと呼べと言った少女に礼をすると、咲耶が頭を抱えた。
そして次の瞬間、憲太郎の頭に雷が落ちた。
「あぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」
どこから出したのかもわからない様な悲鳴を上げながらぶっ倒れる憲太郎。
その威力にただ一人の少女を除いて屋上にいる全員が引いていると、とてもいい笑顔で金髪の少女は言った。
「クロはね、可愛いものを手に入れるためには手段を選ばないの♪ だから覚悟してね、滝宮稲羽君?」
右手に灯った雷の光で、クロの笑顔はより一層引き立つ。
だが、稲羽は覚悟してと言われた言葉の意味が分からず、呆けた声を上げる。
「はい?」
「クロは神様。稲羽君を愛でるために神界から降りてきました! だから、クロの事を飼って? 雌犬って罵って♪」
時は7月19日。
咲耶と出会ってから約1か月。ようやく慣れたこの生活を、神様と名乗る2人目の少女がぶっ壊した。
そんな気がした、夏休み前日の出来事だった。
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