小説:守護霊は神様!?
2章 僕と不良と神様と
「次の勝負はこれ! 100m走だ!」
場バーンと言うSEが付きそうな感じで、澪が次の勝負事を発表する。
この勝負で負ける事が許されない澪にとって、死に物狂いで来ることが軽く予想される勝負だ。
「ってか、どうでも良い事なんだけどさ。澪ちゃん、きちんと一人で準備する所偉いよね」
「…ほんとにどうでも良い所で突っ込んで来たな」
稲羽の呟きに、憲太郎の冷たい突っ込みが突き刺さる。
こちらはさらにどうでも良い事だが、稲羽はもう担がれてはいない。全員がずっこけた時に下されたようだ。
「さて、ルールは分かるな! あそこに見える奴の所にいち早く辿り着いた奴が勝ち、どうだ、シンプルだろう!」
「うむ、確かに。では始めるとするのじゃ」
「ちょちょちょ、咲耶ちゃん」
「なんじゃ稲羽。今から余は勝負をするのじゃぞ? 邪魔をするでない」
「いや、聞いておきたいことがあるんだけど…」
スタート位置につこうとしていた咲耶を、稲羽は無理やりに引き剥がす。
そして、先ほどやったように小声になりながら咲耶を問いただした。
「…あれ、テニスの奴なにしたの?」
「…? ああ、あれは少し神通力と呼ばれる神の力をボールに作用させただけじゃ。何、ばれることはない」
「…そんなこと心配してるんじゃないの! 普通に考えたらおかしいでしょ! ボールが地面に埋まるなんて!」
「…ふむ、そうなのか」
「…そうなのかじゃなくって!」
「おーい! いくら稲君でもこれ以上待たすのは許さないぞー。これ以上待たせたらあたしの膝枕になってもらうぞー、1週間ほどー」
待ちきれなくなったのか、ひそひそと話しこんでいた稲羽と咲耶の間に、澪の声がかぶさる。
その声を受けて、咲耶は稲羽に手をかざして次の言葉を塞ぐ。
「…なに、大丈夫じゃ。それに、次は負けるよ、余は」
「…え…なんで?」
「…そっちの方が面白いじゃろう?」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「本当に負けちゃったよ…」
先ほどの100m走の結果。
咲耶の宣言通り、咲耶は負けた。
両者譲らずのデットヒートを演じたのだが、それでも稲羽は小声での負ける宣言を聞いていたために、全く応援には身が入らなかった。
なんでわざわざ負けるのか。最初は分からなかったが、周囲で巻きこっているこの騒動を見た稲羽は一瞬で理解した。
「これで一対一! イーブンって奴だ! 勝負はこれからだぞ、女!」
「くくく…これでさらに燃えると言うもの…楽しいではないか!」
だが、両者これで完全に火が灯ったようで、咲耶も澪も腕組みをしながらお互いを煽るように笑いあう。
そして、その周りにはその燃え滾る炎を煽るように騒ぐクラスメイト達の姿が。
本来ならばチョーク戦争時にしか使われないトトカルチョも動き、お祭り騒ぎのどんちゃん騒ぎとなっていた。
「ささ、張った張った! 現在のオッズは笠木が1,2倍! 大和が1,6倍だよー!」
「ここは順当にいけば笠木さんよね? あんまり見た事ない姿も見てるし、やっぱり笠木さんでしょ」
「何言ってんだ。ここは転入生である大和に張るべきだろ。歓迎だよ歓迎」
「歓迎っつったって、お前のは手荒いだがな。ま、俺は笠木に50円だ」
「ああ? それなら俺は大和に200円だよ!」
掛け金が異常に少ないが、それもこの2年2組トトカルチョの醍醐味で、かけた金額は幾らからでもオッケー。そこからさらにオッズの変動による掛け金の積み替えもオッケー。
かなり緩い賭けなのである。
まあ、かなり緩い賭けだからこそみんなが笑って楽しめる物なのだが。
「(よしよし…なかなか面白い事になっておるようじゃな…。これなら、稲羽にも問題はないはずじゃ…。特に『あ奴』には気づかれんじゃろうて。…まあ、『あ奴』ならすぐに見つけてきそうじゃがな。執念が違うからのぉ…)」
最後の勝負の準備が出来たのか、澪がせっせと運んできた白線引きを地面にどすっと置きながら、最後の勝負を宣言した。
「最後の勝負は勝負事らしくPK戦だ!」
「ほぅ…PKと言うとあの白い奴の中にボールを蹴り入れるんじゃったな、確か」
「先に5本ゴールを決めた奴の勝ち! キーパーは自分で務める事。他のルールは大体わかるだろ! 説明するのがめんどくさい!」
「よかろう! 余は本気で行くゆえ、お主も本気で来い! 笠木 澪よ!」
「ふん。お前に言われなくても本気で行くさ! 大和 咲耶!」
お互いの名前を叫びながら、それぞれに宛がわれた場所に移動していく二人の少女。
どうでも良いが、教科担任が笛を持って準備している所を見ると、もはやこの二人を止める気はないようである。
先行は澪。
かなり入念にボールと足を踏む場所をセッティングしながら、澪は細く息を吐いた。
「よし、来るのじゃ!」
キーパーグローブを取り付けた咲耶が、手をバシバシと叩きながら体勢を整える。
中腰に構えることはしていないが、今までの動きを見ているクラスの面々としては、その体勢でもほとんどの球を取れることを知っている。
ありえないパワーとスピード、それら両方を兼ね備えた二人の少女は、一瞬視線を交わし通じ合う。
「最初の一発は小手調べだ! そぉぉぉらぁぁぁ!!!」
声を上げながら、澪は足を大きく後ろへと持ち上げた。
ほとんど真上、180度振りかぶっていると言ってもいいほどに体が真っ直ぐになり、そこから振り子のように足先がボールに向かって驚異的なスピードで振り下ろされる。
そして放たれたサッカーボールは、白い空気の糸を引きながら咲耶に向かって真っすぐに突っ込んでいく。
バシンッ!
「くぅぅ~~…痛いのじゃ…」
恐るべきスピードで飛んできたサッカーボールを、咲耶は体全体で受け止める。
一瞬体が浮き上がりながらも受け止めたボールを手放しがら、咲耶はもろにぶつかった腕を擦っていた。
「やっぱりそれぐらいは取れるな! 次は違う所に打ってやるから覚悟しろ」
「覚悟も何も…物凄く痛いではないか…余は痛いのが嫌いじゃと言うのに…」
「では次、お前の番だ!」
澪は教科担任からキーパーグローブを受け取り、咲耶に向かって急かす言葉をかける。
だが、咲耶はと言うとなかなか動きださなかった。
「…あれ? どうしたのかな? まさか、どこか痛めたとか…」
「いや、別にどこも痛めてないみたいだぜ。ほら、どこも押さえてないし…」
キーンコーンカーンコーン…
「「あ」」
咲耶が動かなかった理由。
それは、あと数十秒で授業が終わってしまうのであれば、その続きはどうするのかと言う問いで頭の中がいっぱいになったからだった。
チャイムが鳴れば、半ば強制的に休み時間に入る。
そして、態々休み時間を大きく削ってまで授業を続けたいと思う生徒も教師もこの場にはいなかった。
「はい、今日の授業は終わり。皆、くれぐれもこのような事を真似しないように」
「せんせー、しようと思ってもできませーん」
「ならそれでいい。では、解散!」
「あーあ、今日は時間切れかよー」
「やっぱり、制限時間を設けてもらった方がいいんじゃない?」
「そうなんだよなー、チョーク戦争でもたまに長引いたら授業終わってるし…」
ガヤガヤと騒ぎながら、解散を始めるクラスメイト達。
授業時間的には後1時限分あるため、早く更衣室で着替えて教室に戻らないと時間が間に合わなくなるのである。
「…引き分け、か。まあ、このような終わり方もありじゃろ」
「いや、ありとかなしとかの問題じゃないよね、普通」
「くっそー! 引き分けじゃ夢の稲君とのムフフタイムが勝ち取れないじゃないか!」
「澪ちゃん!? ムフフタイムって何さ!」
「ん? そりゃあもう…ムフフ///…な時間だ」
「顔を赤くしながら言うセリフなの!?」
「…俺も姉ちゃんとそんな時間を過ごしたいぜ…」
「憲君! トリップしない!」
またもや突込みに大忙しの稲羽。
どういう方面に納得したいのか分からない咲耶と、頬を赤らめながら何かとんでもない妄想をしているであろう澪。憲太郎に関しては、澪のそれすらも越えているであろう妄想だ。
全てに突っ込みをかます稲羽だが、彼は一つ重大な事を忘れていた。
それは―――
キーンコーンカーンコーン…
「「「「あ」」」」
本礼のチャイム。最後の授業である6時限目が始まるチャイムが、無情理にも響き渡ったのだ。
そして、それを聞き終わった後、4人は一斉に顔を見合わせ、さらには周囲を見渡す。
周りには当然、誰もいない。
「「遅刻だーー!!」」
「はっはっは。転入初日から遅刻をかますとは、余も悪じゃなぁ」
「ここに稲君がいるんだから、あたしが授業に出る必要はない!」
男二人が遅刻だと騒ぎ、黒髪の女子は笑い出す。茶髪の女子は笑いに加えて開き直っている。
誰が常識を兼ね備えた人間なのだろうか。
まったくそれが分からない状況だった。
場バーンと言うSEが付きそうな感じで、澪が次の勝負事を発表する。
この勝負で負ける事が許されない澪にとって、死に物狂いで来ることが軽く予想される勝負だ。
「ってか、どうでも良い事なんだけどさ。澪ちゃん、きちんと一人で準備する所偉いよね」
「…ほんとにどうでも良い所で突っ込んで来たな」
稲羽の呟きに、憲太郎の冷たい突っ込みが突き刺さる。
こちらはさらにどうでも良い事だが、稲羽はもう担がれてはいない。全員がずっこけた時に下されたようだ。
「さて、ルールは分かるな! あそこに見える奴の所にいち早く辿り着いた奴が勝ち、どうだ、シンプルだろう!」
「うむ、確かに。では始めるとするのじゃ」
「ちょちょちょ、咲耶ちゃん」
「なんじゃ稲羽。今から余は勝負をするのじゃぞ? 邪魔をするでない」
「いや、聞いておきたいことがあるんだけど…」
スタート位置につこうとしていた咲耶を、稲羽は無理やりに引き剥がす。
そして、先ほどやったように小声になりながら咲耶を問いただした。
「…あれ、テニスの奴なにしたの?」
「…? ああ、あれは少し神通力と呼ばれる神の力をボールに作用させただけじゃ。何、ばれることはない」
「…そんなこと心配してるんじゃないの! 普通に考えたらおかしいでしょ! ボールが地面に埋まるなんて!」
「…ふむ、そうなのか」
「…そうなのかじゃなくって!」
「おーい! いくら稲君でもこれ以上待たすのは許さないぞー。これ以上待たせたらあたしの膝枕になってもらうぞー、1週間ほどー」
待ちきれなくなったのか、ひそひそと話しこんでいた稲羽と咲耶の間に、澪の声がかぶさる。
その声を受けて、咲耶は稲羽に手をかざして次の言葉を塞ぐ。
「…なに、大丈夫じゃ。それに、次は負けるよ、余は」
「…え…なんで?」
「…そっちの方が面白いじゃろう?」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「本当に負けちゃったよ…」
先ほどの100m走の結果。
咲耶の宣言通り、咲耶は負けた。
両者譲らずのデットヒートを演じたのだが、それでも稲羽は小声での負ける宣言を聞いていたために、全く応援には身が入らなかった。
なんでわざわざ負けるのか。最初は分からなかったが、周囲で巻きこっているこの騒動を見た稲羽は一瞬で理解した。
「これで一対一! イーブンって奴だ! 勝負はこれからだぞ、女!」
「くくく…これでさらに燃えると言うもの…楽しいではないか!」
だが、両者これで完全に火が灯ったようで、咲耶も澪も腕組みをしながらお互いを煽るように笑いあう。
そして、その周りにはその燃え滾る炎を煽るように騒ぐクラスメイト達の姿が。
本来ならばチョーク戦争時にしか使われないトトカルチョも動き、お祭り騒ぎのどんちゃん騒ぎとなっていた。
「ささ、張った張った! 現在のオッズは笠木が1,2倍! 大和が1,6倍だよー!」
「ここは順当にいけば笠木さんよね? あんまり見た事ない姿も見てるし、やっぱり笠木さんでしょ」
「何言ってんだ。ここは転入生である大和に張るべきだろ。歓迎だよ歓迎」
「歓迎っつったって、お前のは手荒いだがな。ま、俺は笠木に50円だ」
「ああ? それなら俺は大和に200円だよ!」
掛け金が異常に少ないが、それもこの2年2組トトカルチョの醍醐味で、かけた金額は幾らからでもオッケー。そこからさらにオッズの変動による掛け金の積み替えもオッケー。
かなり緩い賭けなのである。
まあ、かなり緩い賭けだからこそみんなが笑って楽しめる物なのだが。
「(よしよし…なかなか面白い事になっておるようじゃな…。これなら、稲羽にも問題はないはずじゃ…。特に『あ奴』には気づかれんじゃろうて。…まあ、『あ奴』ならすぐに見つけてきそうじゃがな。執念が違うからのぉ…)」
最後の勝負の準備が出来たのか、澪がせっせと運んできた白線引きを地面にどすっと置きながら、最後の勝負を宣言した。
「最後の勝負は勝負事らしくPK戦だ!」
「ほぅ…PKと言うとあの白い奴の中にボールを蹴り入れるんじゃったな、確か」
「先に5本ゴールを決めた奴の勝ち! キーパーは自分で務める事。他のルールは大体わかるだろ! 説明するのがめんどくさい!」
「よかろう! 余は本気で行くゆえ、お主も本気で来い! 笠木 澪よ!」
「ふん。お前に言われなくても本気で行くさ! 大和 咲耶!」
お互いの名前を叫びながら、それぞれに宛がわれた場所に移動していく二人の少女。
どうでも良いが、教科担任が笛を持って準備している所を見ると、もはやこの二人を止める気はないようである。
先行は澪。
かなり入念にボールと足を踏む場所をセッティングしながら、澪は細く息を吐いた。
「よし、来るのじゃ!」
キーパーグローブを取り付けた咲耶が、手をバシバシと叩きながら体勢を整える。
中腰に構えることはしていないが、今までの動きを見ているクラスの面々としては、その体勢でもほとんどの球を取れることを知っている。
ありえないパワーとスピード、それら両方を兼ね備えた二人の少女は、一瞬視線を交わし通じ合う。
「最初の一発は小手調べだ! そぉぉぉらぁぁぁ!!!」
声を上げながら、澪は足を大きく後ろへと持ち上げた。
ほとんど真上、180度振りかぶっていると言ってもいいほどに体が真っ直ぐになり、そこから振り子のように足先がボールに向かって驚異的なスピードで振り下ろされる。
そして放たれたサッカーボールは、白い空気の糸を引きながら咲耶に向かって真っすぐに突っ込んでいく。
バシンッ!
「くぅぅ~~…痛いのじゃ…」
恐るべきスピードで飛んできたサッカーボールを、咲耶は体全体で受け止める。
一瞬体が浮き上がりながらも受け止めたボールを手放しがら、咲耶はもろにぶつかった腕を擦っていた。
「やっぱりそれぐらいは取れるな! 次は違う所に打ってやるから覚悟しろ」
「覚悟も何も…物凄く痛いではないか…余は痛いのが嫌いじゃと言うのに…」
「では次、お前の番だ!」
澪は教科担任からキーパーグローブを受け取り、咲耶に向かって急かす言葉をかける。
だが、咲耶はと言うとなかなか動きださなかった。
「…あれ? どうしたのかな? まさか、どこか痛めたとか…」
「いや、別にどこも痛めてないみたいだぜ。ほら、どこも押さえてないし…」
キーンコーンカーンコーン…
「「あ」」
咲耶が動かなかった理由。
それは、あと数十秒で授業が終わってしまうのであれば、その続きはどうするのかと言う問いで頭の中がいっぱいになったからだった。
チャイムが鳴れば、半ば強制的に休み時間に入る。
そして、態々休み時間を大きく削ってまで授業を続けたいと思う生徒も教師もこの場にはいなかった。
「はい、今日の授業は終わり。皆、くれぐれもこのような事を真似しないように」
「せんせー、しようと思ってもできませーん」
「ならそれでいい。では、解散!」
「あーあ、今日は時間切れかよー」
「やっぱり、制限時間を設けてもらった方がいいんじゃない?」
「そうなんだよなー、チョーク戦争でもたまに長引いたら授業終わってるし…」
ガヤガヤと騒ぎながら、解散を始めるクラスメイト達。
授業時間的には後1時限分あるため、早く更衣室で着替えて教室に戻らないと時間が間に合わなくなるのである。
「…引き分け、か。まあ、このような終わり方もありじゃろ」
「いや、ありとかなしとかの問題じゃないよね、普通」
「くっそー! 引き分けじゃ夢の稲君とのムフフタイムが勝ち取れないじゃないか!」
「澪ちゃん!? ムフフタイムって何さ!」
「ん? そりゃあもう…ムフフ///…な時間だ」
「顔を赤くしながら言うセリフなの!?」
「…俺も姉ちゃんとそんな時間を過ごしたいぜ…」
「憲君! トリップしない!」
またもや突込みに大忙しの稲羽。
どういう方面に納得したいのか分からない咲耶と、頬を赤らめながら何かとんでもない妄想をしているであろう澪。憲太郎に関しては、澪のそれすらも越えているであろう妄想だ。
全てに突っ込みをかます稲羽だが、彼は一つ重大な事を忘れていた。
それは―――
キーンコーンカーンコーン…
「「「「あ」」」」
本礼のチャイム。最後の授業である6時限目が始まるチャイムが、無情理にも響き渡ったのだ。
そして、それを聞き終わった後、4人は一斉に顔を見合わせ、さらには周囲を見渡す。
周りには当然、誰もいない。
「「遅刻だーー!!」」
「はっはっは。転入初日から遅刻をかますとは、余も悪じゃなぁ」
「ここに稲君がいるんだから、あたしが授業に出る必要はない!」
男二人が遅刻だと騒ぎ、黒髪の女子は笑い出す。茶髪の女子は笑いに加えて開き直っている。
誰が常識を兼ね備えた人間なのだろうか。
まったくそれが分からない状況だった。
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