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小説:守護霊は神様!?

2章 僕と不良と神様と


悪い夢を見た。
そう思うように稲羽は努めて努力したのだ。
だが、そう簡単に現実はうまくいかない。そう、うまくはいかないのだ。
「……んぅ…」
「…なにこれ…」
昨日、冷蔵庫荒らしに言われたことを綺麗さっぱり忘れるために、稲羽は料理へと没頭した。
幸い、ほとんどの食糧がまだ食べられていなかったため、その日の料理は双子たちには大変好評で、太鼓判まで押されたのである。
だが、稲羽はその時、ぶつぶつとなにかを呟くだけだったので、双子たちは割り当てられた家事である皿洗いをしてお風呂に入って歯磨きをして寝た。
その間、双子たちには冷蔵庫荒らしである少女の姿は『視えていなかった』のだ。
「……むにゃぁ…」
「…もう1回、なにこれ…」
まあ、そんな事は今の稲羽にはどうでもよかった。
それこそ、アルマゲドンの世界滅亡予測よりもどうでもよかった。
稲羽の問題は、今目の前に、たった数センチの距離にあるのだから。
「…考えても仕方ないや。起きよう」
なぜ自らのベットに半裸の少女が寝ているのか。
いくら考えても分からないために、稲羽は考えること自体を放棄し、ベットの上から降りる。
その際、ずれた布団が寝ている少女のずれていた服をさらにずらし、健全な男子高校生には少々衝撃的すぎる光景が広がるが、朝の無防備な姿など妹たちで見慣れている稲羽は無事だった。
だが、稲羽が行った選択、『無視だ無視。僕は何も見なかった』は間違いだと稲羽が気付いたのは、朝食を用意していた時。
食卓の方から聞こえてきた、妹の声が切欠だった。
「がるるるる…」
「ぐるるるる…」
「おお、お主の妹たちは面白いな。朝から元気ではないか。今どきの若者は朝は弱いと聞いていたのだがな、安心したのじゃ」
「……いや、そういうのじゃないよ。絶対」
朝の滝宮家の食卓。
修羅場が展開されていた。
「お兄ちゃん。この人誰って羽月は聞いてみる」
「同じく稲陽も」
「余は大和御神―――」
「「お兄ちゃん!!?」」
「おっと」
自己紹介のために口を開こうとした所を、双子によって思いっきり塞がれてしまう。
怒りの矛先のようなものを向けられた稲羽は、苦笑しながらも口に出すことが出来た。
「えーっと…なかなか信じられないんだけど。僕の守護霊として憑りついた、大和御神高弦堂咲耶さん。神様だって」
「「ぽかーん…」」
「だよねー」
いきなり告げられた衝撃の事実に、双子は開いた口が塞がらない。
半ばその反応を予想していた稲羽は、納得するように首を縦に動かす。
だが、その後の反応までもは全く予想できなかった。
「うーん…お兄ちゃんがそう言うなら、羽月は信じるけど」
「稲陽も。だって、お兄ちゃん嘘つけないし」
「なんなんだろう、この信頼感に危うさを感じる僕がいるよ…」
「よいではないかよいではないか。素直な妹たちじゃ」
頭を抱えて悩みだす稲羽に、大きくうなずきながら双子を褒める少女。
「えへへ…褒められたよ///」
「褒められた褒められた///」
少女の一言で、双子は照れながら用意されている食事にありつく。
どこか照れ隠しのように見えなくもないが、フレンチトーストやスクランブルエッグと言った、洋食基準の朝食はかき込む物ではないとは思う。
「さて、余もありつくとするか。お主の料理はうまいと言っておるのでな」
「言っておる? 誰が?」
「ん? ああ、この家じゃ。なに、全ての者には魂が宿るのでな、このように小さなものは中々意志を伝えにくいのだが、この家のような大きなものになると空間の中にいれば聞こえてくるのじゃ」
いきなり飛び出た理解不能の言葉に、稲羽の思考が完全にストップする。
双子は未だに朝食を取っているため、終始無言のまま。
この場でまともな思考が出来るのは、この恐る恐るフレンチトーストをかじる少女しか残っていなかった。
「ああ、そうそう。余の名前は長いのでな、咲耶でいいぞ。その方がお主たちも呼びやすいだろうし、何より余が嬉しい」
「…はぁ…」
思考を取り戻している中で、稲羽は自問する。
なぜこの咲耶と呼べと言った神様に、自分は朝食を提供してしまったのかと。
「「ご馳走様でしたー。行ってきまーす!」」
そうこうしているうちに、双子は朝食を片付けて自らのカバンを持って家を飛び出していく。
元気そのもののような行動に、咲耶は感心しながら稲羽に質問を投げかける。
「おお、元気が言いな。ん? お主は一緒には行かないのか?」
「あの子たちは朝練があるからね。僕は洗い物をしてからゆっくり行くの」
そう言いながら、稲羽は皿を片付けるために立ち上がり、洗い場へと向かう。
「そうなのか。では、少し時間があるのか、お主が学校に行くまでは」
「少しって言っても、お皿洗った後にはすぐに出るけどね」
「ほう。なら余も準備をするとするか」
「え、準備?」
「少し目を瞑っておれ。さすがにまぶしいであろうし、余が恥ずかしい」
咲耶がそう言った瞬間、稲羽の視界は真っ白な光に染め上げられた。
あまりのまぶしさに、咲耶に言われずとも目を瞑らなければならなかった稲羽が目を開けた時、咲耶の姿が変わっていた。
「ふふん。どうじゃ? 似合うかの?」
そう言ってくるりとまわりながらポーズをとる咲耶。
変わったのは服装。今まで来ていた豪勢で重そうとしか感想がなかった十二単から、胸の赤いリボンがまぶしい簗高の女子制服にチェンジしていた。
どうやったのかは全くと言っていいほど分からないが、それでも一瞬のうちに着替えを完了させた咲耶に、一瞬でも稲羽は見惚れてしまう。
「…うん。一応、似合ってるんじゃない? どこをどうやったのか全く分からないけど」
「細かい事は気にするな。さて、これで余も学校に行けるのじゃ。案内せい」
「案内って…。と言うか、学校に来るの!?」
「当たり前じゃろう。余はお主の守護霊じゃ。今なら何が来ても追い払ってやることが出来るぞ?」
「いや、来てほしくなんてないし。なんでそんな事になってるのさ!」
「なに、普通ならお主を見送って学校で再会、押しかけてきた女の子が転入性としてやってきた! 的なパターンなんじゃがな。そんなパターンはぶっ壊してしまえと思ってな」
「…あ、そう…」
何とも強引と言うか破天荒的な咲耶のやり口に、稲羽は頭が痛くなったのか少し下を向いて頭を抱える。
だが、そんなこんなの話をしている合間に、時計の針は着々と進んでいた。
「あ、やば! そろそろ行かないと!」
時計の針は8時ちょうど。まあ、家の距離にもよるが、間に合う時間だ。
だが、稲羽はその例にはもれず、家の中を駆け回る。
「おお? いきなり騒がしいの。どうしたのじゃ」
「だから、学校行くんでしょ!? 詳しい話は歩きながらする!」
もともと制服を着ていた稲羽は、勉学用のカバンや弁当の入ったカバンを抱え、玄関へと向かう。
その騒がしさに、咲耶はつられるように玄関に向かうと、稲羽に手を思いっきり引かれた。
「おお!? ひ、引っ張るでない!」
「あ、ごめん」
「まったく、いきなりどうしたのじゃ。まさか、学校まで態々走っていくのか?」
「違う違う。僕、暑いの嫌だし。それに、歩くの遅い方だからね」
家の外の道路に出た後、稲羽は学校に向かうために歩き出す。
咲耶はそれにぴったりとつけながらも、どこか周囲を警戒しているそぶりを見せている。
だが、稲羽はそんな事に気が付かない。頭の中には、学校についた後のアイスの事しか頭には入っていないからだ。
「ああ、そうそう。お主、女難の相が出ておるよな?」
「ぶっふぅぅーーー!!!」
唐突に切り出された昨夜からの言葉に、稲羽は何も飲んでいないのにもかかわらず大量の何かを吹き出す。
「ごっほごほ…! い、いきなり何言いだすのさ!」
「いや、なに。余がお主の守護霊になってやろうと思った切欠の一つじゃ。世の中にはバランスと言うものがあるのは知っておるじゃろ?」
「うん、そりゃあね」
「そこでじゃ。お主には少々女っ気が偏りすぎておるのじゃ。それを正してやろうと思ってな。まあ、そこまで男だらけにするつもりはないが。なにか身に覚えはないか?」
「うーん…そこまで思わないけど…」
悩んでまで返答しようとする稲羽。
彼の頭ではそんな反応しか返せないだろうが、彼の周囲にいる人間、例えば憲太郎ならばこんな答えが返せるだろう。
「お前は十分偏ってる! 俺なんか姉ちゃん一人で十分なのに!」とでも言うはずだ。
幼い頃から女性に囲まれ、今では性格と容姿的問題で男と付き合うより女と付き合うのが楽になってしまっている稲羽にとって、その質問は頭を捻らせるだけしか効果がない。
「まあ、お主に覚えがなくても、お主を見ていた余からすれば女っ気がありすぎるのじゃ。昨日もそうであろう?」
「昨日?」
「い~な~く~ん~、会いたかったぞ~~。約半日振りの稲君だ~」
「うわっ! 澪ちゃん、いきなり後ろからは禁止だよ…」
咲耶の問いに再び稲羽が首をかしげると、稲羽は後ろからの衝撃によろける。
そして稲羽が振り返ろうとした先にいたのは、案の定澪の姿だった。
昨日と同じように、自らの豊満な体を余すところなく擦り付けている。
「…まったく…これで女っ気がないとは言わせんぞ…?」
「…稲君、こいつ誰だ?」
「あー、えーっとね…」
「いや、よい。嫌でも知ることになるゆえな。ではな、稲羽」
見慣れない咲耶の姿に、澪のテンションが急激に下がっていくことに稲羽はどうしたものかと考えを巡らせる。
だが、それは杞憂に終わったようで咲耶が空気を読んだ形で幕を閉じた。
そして、現金にも澪のテンションはすぐに回復してしまう。
「さぁさぁ稲君! 今日こそは購買に言って一緒にアイスを食べようではないか! がじがじ君か? それとも、もなこか?」
「うーん…今日はもなこかな? それにしても…嫌でも分かるって言ってたけど…まさか…ねぇ」
「何をぶつぶつ言ってるんだ稲君! さあ、行くぞ!」
「って、澪ちゃん! その神輿みたいに僕を担ぎ上げて運ぶのは止めてぇーー!!」
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