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小説:守護霊は神様!?

3章 神様ヒーローズ

「あーもう! 何よあれ! 稲羽君にあんなこと言われたら色々と妄想働いちゃうけど、あのじじぃに言われるのは腹立つ!」
「余も同感じゃ。鬱陶しいとはこのことじゃろうて」
「…2人とも、もう少し落ち着こうよ」
青色の時が止まった世界が終わった後、稲羽の目の前にいる神様2人は明らかに苛立っていた。
まあ、楽しいひと時を奪われるだけでなく一緒にいたいと思える人物からも引き離そうとする者がいるのだ。苛立ちもするだろう。
だが、それは甘い考えであり子供の考えだ。それを2人ともが分かっているから、ここまで荒れているのだ。
「くそぅ…ここは稲羽君になじってもらって元気を出すしか…」
「なじられて元気が出るのは君だけだよ? クロちゃん」
呆れたようにクロの言葉に反応する稲羽。だが、クロはそれでスイッチが入ってしまった。
「…い、、稲羽君に…呆れられた…///。…ハァ…ハァ…///。や、やばい…これ…いい///♪」
頬を赤く染めながら、クロは一人妄想の世界に飛び込んで嬉しそうにだらしなく顔を歪める。
整っている顔を持つクロが、金髪のツインテールを振り乱しながら表情を危ない方向に歪めていく。なかなかにそそる光景ではあるが、稲羽はそれに反応している暇はなかった。
―――隣にいる咲耶に頬を掴まれていたからだ。
ぎぎぎ…
「ひゃくやひゃん…。いひゃいんだけど…」
「…で、デレデレするでない。…あ、あのような女の風上も置けぬ女の事で…」
こちらはこちらで頬を染めてはいないが、恥ずかしいのか稲羽の顔を直視出来ていない咲耶。
頬を掴まれながら、その相手は自らを見てくれない。そんなよく分からない状況に陥りながら、稲羽は一人思う。
―――さっきまでの事ってなんだったんだろう―――
あの最上級神と話した空間を経て、変わった事と言えば、時々出る咲耶の態度。
それ以外は何一つ変わっていない。変わらなさすぎている。だからこそ、稲羽たち3人は忘れていたのだろう。
今が青色の時が止まった世界ではなく、普通の時が動いている現実だと言う事を。
そしてそこには、稲羽の知る人間が5人はいる事に。
「おいそこ! あたしの稲君に何してるんだ!」
その5人のうちの1人、澪が稲羽たち3人を見つけて帰ってきてしまう。
咲耶が稲羽の頬を掴んでいることに、なにを思ったのか澪は駆けてきた後に飛び上がった。
「離れろ女! 稲君の柔肌は抓まれるためにあるんじゃない!」
「ぐおっ!」
所謂ライダーキ○クのような形で咲耶を蹴り飛ばす澪。
それをまともに喰らった咲耶は、錐もみしながら吹っ飛んでいく。だが、砂浜を削り取りながら無様にこける事だけはしない。
しっかりと自分の2本の足で着地を決めていた。
「…ふふふ…お主、神に喧嘩を売るか…おもしろい!」
「ふん! あたしは稲君のためなら神様だろうがなんだろうが敵にしてやる! そして勝つ! それが惚れた弱みだ!」
名言なのだが、どこかが決定的に間違った言葉を口にしながら、澪は指をビシッと指しながら咲耶を挑発する。
「こら。人を指で指しちゃダメでしょ」
「ああすまん稲君。この方がかっこいいと思ったんだよぉ…」
…怒られていては格好も何もないとは思うが。
だが、澪の言った言葉は咲耶にとって重要な事を決断させる一言だった。
最上級神にも言われたし、自分でも分かっている。自らのした行いが、他人から見えればどれほど愚かなものなのか。
だが、『惚れた弱み』だ。そのためなら、惚れたのなら、全力でやるしかないのである。
「…よいではないか…ここまで必死になってみると言うのも! 澪よ! 余とお主は今からライバルじゃ! 稲羽を巡る、ライバルじゃ!!」
突然の告白。
唐突すぎるその告白に、稲羽も澪も、その後ろ側に帰ってきていた秋穂も固まってしまっていた。
「余は稲羽を愛している! 神だろうがなんだろうが関係ない! 余は、一人の女として滝宮 稲羽を愛している!」
顔を耳まで真っ赤にさせながら、そんな事を叫ぶ咲耶。
かなりの大声だったために、周りにいる人間ほとんどが稲羽たちを向いた。
ここは海水浴が行われる砂浜のある海岸。そこまで人でごった返していると言うわけではないが人がいない事はない。
そしてそれはつまり、かなりの人数が咲耶の告白を聞いたことになる。案の定、冷やかしと言う名の称賛の声が各地で上がった。
「おー! あの女の子、かっこいいじゃん!」
「あたしもあんな告白されてみたいわー…」
「男の方はあの子か?」
「って言うか修羅場展開じゃないの、あれ」
「………///」
言った後でされに恥ずかしくなったのか、咲耶は顔をゆでだこのように真っ赤にさせて倒れてしまうのではないかと言うぐらいだ。
それに比例するように、告白された稲羽も顔を真っ赤にさせて俯いてしまう。
傍から見れば、中々初々しいカップルに見えなくもないだろう。だが、それを快く思わない人間もいる。
「むむむ…」
澪が唇をかみしめながら、告白を周知の事実にしてしまった咲耶を睨む。
普通、恥ずかしくて何も言えない様なものだが澪はそんな精神を持ち合わせてはいない。だからこそ、奇行に走ると言うもの。
おもむろに稲羽の体を引き寄せ、後ろから覆いかぶさるように稲羽の体を抱きしめた。
「ふん! 稲君を愛しているのはあたしも同じ! それに稲君はあたしのものだ! 誰にもやらん!」
ぎゅーっと稲羽を後ろから抱きしめながら2人目の爆弾告白をかます澪。
稲羽としては澪からのこのような言葉と好意はある程度慣れているものだったが、このような状況で言われては顔をさらに真っ赤にさせてしまうしかできなかった。
「おいおいおいおい、ほんとに修羅場になって来たぞ!」
「って言うか羨ましすぎる!」
「あの子、スタイルよすぎじゃない? 胸に頭が埋まってるわよ?」
「…あんな風に大胆に出れば、きっと彼も…」
ギャラリーの面々も盛り上がってきているようだ。
「…ぬぅ…やはりお主はそう言うか…。分かっていたこととはいえ、中々に悔しいな…」
「はんっ! だが、あたしとしてもライバルとして認めてやらなければならないようだな女…いや、咲耶!」
そのライバルである原因の稲羽を挟んだまま、咲耶と澪は睨み合う。
視線の交錯する場所にバチバチとスパークする何かを幻視している稲羽は、気が気ではなかった。
学校であったような勝負がまたも繰り広げられるのではないかと心配しているのだ。だが、その杞憂は意外な所で無くなることになる。
「ちょーーーっと、ストーーーップ!」
睨み合いを続ける2人の間に、とある少女が1人突貫を仕掛ける。
その正体は当然のごとく、クロだ。
「そんな話、クロの目の黒いうちは許さないぞ! クロだって稲羽君を愛してるんだから!」
三つ巴。それが今、稲羽を巡る抗争の状況だ。
「すげぇ…。なんて状況なんだ…」
「物凄く羨ましいけど、物凄くなりたくない状況だな…」
「黒髪に茶髪に金髪…オンパレードだわ」
「いや、そこに注目するのおかしくない?」
ギャラリーもクロの登場で沸き立つどころか呆れが入ってきてしまっている。
普通に考えて2人からほぼ同時に告白されること自体ありえないのに、3人目までいるのだ。しかも公衆の面々の前で。
女の子からの告白など受けることがない男子の方が多いと言うのに、稲羽に関しては3人。しかも同時。ギャラリーの言う通り、経験したくはない出来事だ。
当然、修羅場になるだろう。
そして、さらに油を注ぐように稲羽の周りにいる残りの女性、+αが参入してきた。
「見て見てお兄ちゃん! 人間砂柱! …ってあれ?」
「羽月と一緒に作ったの! どう!? …ってあれ?」
「滝宮妹たち、お前たちはこちらに来い。それと…」
ずぼっ
「「ああ! なんで潰すの!? まだお兄ちゃんに見てもらってないのに!」」
「…ごほっ…ごはっ。…あれ…俺はどこか桃色の空間にいたはずじゃあ…」
「こんなのでも私の愛してはいない弟なんだ。死なれては困る」
「…さすが姉ちゃん。その愛が裏返しになることを祈るぜ…。…そして、早くひっくり返してください…。頭に血が上って…」
「お前はまだ逆さのままになっていろ。疑似宇宙体験でもするがいい」
片手で憲太郎の足首を持ってぶら下げたまま、秋穂は無表情に言い放つ。
そして、憲太郎の顔が明らかに羞恥ではない方向で真っ赤なゆでだこになったことを確認したあと、秋穂は憲太郎を投げた。
―――稲羽の目の前に。
「へぶらっ」
砂浜に顔を盛大に擦りながら、憲太郎は稲羽たちの目の前に現れる。
ちなみに、彼ら4人の位置関係はこう。
稲羽の後ろに澪。その稲羽の前に憲太郎。そしてその前にクロがいて、一番遠くに咲耶がいる。しかも、微妙に直線状ではなく緩やかなカーブを稲羽を中心に描いている。
完全にオリの中に放り込まれた餌のような状況。それが憲太郎のいる位置だった。
だからこそ、告白した後の今のこのピリピリとしたような気まずい状況である3人の少女の捌け口になるのは必然であり―――
「かわいくない子はクロの前に来ないで!」
「どうえい!」
一番近くにいたクロからの蹴りが憲太郎の腹に炸裂する。
「せっかくのいいシーンに割り込んでくるな! 稲君とのラブラブシーンだぞ!」
「ぺぎぃ!」
クロの蹴りにより蹴り飛ばされた憲太郎は、稲羽の前に落ちたことにより澪の攻撃を喰らう事になる。
かなり理不尽な叫びの声を聞きながら、憲太郎は澪の振りあげた右足を顔面に真っ直ぐ受け、例えられない様な声を上げて吹っ飛ぶ。
プロのサッカー選手よりも強いであろう蹴りを喰らった憲太郎は、最後に咲耶の前に飛んでしまう。
そして、裁きを受けた。
「…神の裁きじゃ。潔くうけよ」
「でふん!」
振り下ろされた右ストレートが、憲太郎の体の中心、鳩尾辺りをとらえる。
ほぼ力任せに振り下ろされたため、憲太郎の体はくの字に折れ曲がり、砂浜に減り込んだ。
「…あーあー…」
その一部始終を見ていた稲羽は、ほぼ死体になってしまっているであろう憲太郎の事を思い、ため息にも似た声を出す。
ギャラリーに関してもその一部始終を見た後、3人の攻撃の苛烈さに恐怖を感じて逃げだした。
そのため、今この場にいるのは稲羽たち8人だけなのだが、気まずい雰囲気はまだ継続していた。
「…さて。ここは年長者である私が口を出そうか。本来出すべきではないとは思うがな」
そのまま永遠とも呼べる時間が過ぎようとしていた時、秋穂がこの空気を打開するべく口を開いた。
稲羽たちの元に歩き出しながら、少し芝居がかった抑揚の利いた声で話を始める。
「滝宮兄、お前の気持ちがどうのと言うのは今は言うな。今正さなくてはいけないのはこの状況の整理であり、収拾だ。それは分かるな?」
「はぁ…」
気の抜けた声を漏らしながら、稲羽は秋穂の言葉に相槌を打つ。
「まず、滝宮兄は片づけだ。今この場に持って来た物を片付けろ」
「はい」
「笠木、大和、キュークリッジはこの場の整地でもしていろ。ぼこぼこだからな」
「「「…はい」」」
「滝宮妹たちは私と共にこの愚弟を担いで運ぶ。いいな?」
「「はーい」」
てきぱきと指示を出していく秋穂に全員が従いながら、全ての行為を終わらせていく。
だが、ふと稲羽は思う。
これはただ普通に片づけをして帰る用意をしているだけなのではないのかと。
「あのー、先生。これって普通に帰る用意ををしているだけなのでは…」
「そうだが? 帰るんだ」
「え…」
「逃げるんだよ。さすがに私では何もできんし、庇いきれん。こういう事はうやむやにするのが一番だ」
対して表情も変えずに言う秋穂に、稲羽は片づけをしている手を止めて固まった。
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