小説:守護霊は神様!?
3章 神様ヒーローズ
「稲羽くーん。なんでクロの事を雌犬って呼んでくれないの?」
「こらこのマゾ。稲羽から離れんか!」
「稲君は渡さないぞ! 稲君はあたしのなんだ!」
「羽月のもの! だってお兄ちゃんだもん!」
「お兄ちゃんは妹のもの! 稲陽のものだ!」
「…なんだよこの羨ましい状況…ちくしょう…でも、俺には姉ちゃんの水ぎぃ!!?」
「何だ愚弟、砂風呂でもしたいのか。では私が手伝ってやろう」
「あぁ、そこまで埋めちゃダメぇー!! お、俺の大事な所がぁー!」
場所は海。
夏真っ盛りのこの時期、誰もが1度は来たいと思える夏の風物詩だ。
そして、その海が見える砂浜の一角で、稲羽は死にたくなっていた。
女性5人に上から乗られる乗られる。つぶれるとも思っていた。蛙のように。
「…なんで…」
「…雌犬って呼んでよー♪ クロは稲羽君の雌奴隷なんだから♪」
「淫靡に言っても駄目じゃ! ええい、お主はなぜこのような事になっておるのじゃ!」
「稲君はあたしのだ! 稲君はあたしのなんだ! 絶対に渡さないぞ!」
「「お兄ちゃん!」」
「…なんで僕がこんな目に遭ってるんですか神様ぁーーー!!!」
目の前に神様が2人もいると言うのに、稲羽はどこにいるともしれない他の神様に助けを求める叫び声をあげた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「海?」
『海だよ海! ほら、夏休みに入っただろ? それでさ、行こうぜ!』
「別にいいけど…。いつにするの? それに行くんだったらどれだけ誘うの?」
『俺は姉ちゃんを誘う! お前はお前の家にいる女子全員だ! それと笠木もな! いつも通りのメンバーって奴だ。ロッテンベルグも呼ぶか?』
「うえぇー…。…頑張れ、憲君。秋穂先生に迷惑かけちゃダメだからね。ティアちゃんは帰省中でいないよ? 聞いてなかったの?」
携帯で会話をしながら、稲羽は熱さにやられたように自分の部屋にあるベットに倒れ込む。
『おうよ! ってか、俺がロッテンベルグとそんな事話すと思うか? …じゃあ、日時は追って伝えるな!』
「それもそうだね。りょーかーい…」
携帯の通話が切れたことを確認し、稲羽は携帯を閉じる。
そして、このことを伝えるためにリビングにいるであろう少女たちの元へと向かった。
「咲耶ちゃん、クロちゃん。海に行かないかって誘われたんだけど…」
「よし、そこじゃ!」
「なんの! これで仕返し!」
「ふん! それぐらいはお見通しじゃ!」
「こっちもね!」
リビングに至るドアを開け、稲羽が中にいる二人の少女に声をかけると、案の定その言葉は無視された。
神様が二人、自らの家のリビングで対戦格闘ゲームに熱中している光景。
どんな需要があるのだろうか。
咲耶はいつも通りの黒髪を下した状態で、服はシャツに太ももが大きく見える短いジーパンと言うラフな姿で必死にボタンを連打している。
その隣でそれに拮抗するようにボタンを連打し始めているクロは、金髪のツインテールを団子状に纏めて短くし、服装は咲耶よりもさらにラフなかなり大きなぶかぶかのワイシャツを着ていた。もちろん、中身は見えても大丈夫なものを着ているが。
「カウンターじゃと!? ぬぅ、生意気な!」
「今日こそはこの勝利貰った!」
「させるか!」
「何その技! 説明書になんか書いてない!」
「裏技と言う奴じゃ。やりこめば出て来るんじゃ」
「くぅぅー…」
どうやら勝負は咲耶の勝ちに終わったようで、クロは悔しそうにドンドンと床を叩いている。
それを見下ろすように勝ち誇った表情で見つめていた咲耶は、ようやく稲羽の存在に気づいたようだ。
二人の様子を観察するために麦茶をすすっていた稲羽の元へと、嬉しそうな表情を浮かべながら歩いて行く。
「やっぱり1か月の差は大きいね」
「そりゃそうじゃ。これで余が負けていては立つ瀬も立たんからの」
「まあ、1か月と言うよりほぼ毎日6時間以上ゲームしてたら上手くもなるよね…」
咲耶がこの家に来てからの事を思い出しながら、稲羽はため息を吐く。
この神様、稲羽の家に眠っていたゲームを掘り起こしたばかりか、それをつぶす勢いで遊ぶほどはまってしまったのだ。
「で、どうしたのじゃ稲羽。何か用かの?」
「あ、うん。憲君が海に遊びに行かないかって。僕としては賛成だよ、暑いし」
「お主が決めた事なら、余は反対はせん。じゃが…」
「稲羽君、海に行って何するの? まさか、クロを溺れさせて楽しむとか…きゃっ♪」
「この阿呆はどうする気じゃ?」
海に聞くと聞いてから、クロの様子が完全におかしい。
まあ、口から漏れ出るその妄想の切れ端を聞いただけでもぞっとする内容ばかりの妄想である。
と言うより、稲羽が女の子に対してそんな事をしている姿など想像がつかないのだが。
「…連れて行くよ、一応。誘われたのはこの家にいる全員だしね。月ちゃんも陽ちゃんも必ず行くって言うと思うよ。澪ちゃんは言わずもがなって感じだし」
「そうか。ならば余はこやつをしっかりと見張って置こう。何をするかわからんのでな」
「え、一緒に遊ばないの?」
「いや、遊ぶことは遊ぶが…。余が守護霊としてお主に憑りついた原因の半分はこやつじゃ。お主の事は、余が守ってやるゆえ安心せい」
「クロは愛でるためだからねー。そして、罵ってー。クロの性欲を満たして♪」
「そんな事はさせん! ほら、少しこっちに来るのじゃ」
「いーやー、咲耶ちゃん大胆ー♪」
ずるずると引きずられていくクロの姿を見ながら、稲羽はため息を吐いた。
そして、誘う残りの相手である澪に連絡を取るために携帯電話を操作する。
「……あ、もしもし澪ちゃん?」
『おお、稲君から電話がかかってくるとは! 面倒な夏休みもこの楽しみがあれば生きていけるな!』
「楽しみって…。まあいいや。今度、みんなで海に行こうって話なんだけど、行く?」
『行くぞ! 当たり前ではないか! 場所は! 時間は!』
「いや、そこまでは決まってないんだけど。多分、夏祭りあたりだと思うよ。あのあたりが一番休める時期だと思うし、みんなね」
『おお、そうか! ならばその辺りは開けておこう! と言っても、稲君が来いと言うなら何があっても行くがな!』
「ちゃんと出なきゃならないものは出てよ? じゃ、また何かあったら連絡するよ」
『了解だ! 返事を待っているぞ!』
最後の澪の威勢のいい声と共に携帯の通話が切れた。
携帯を閉じながら、稲羽は憲太郎の言葉を思い出しながら椅子から立ち上がった。
「うーん…。月ちゃんと陽ちゃんは帰ってくるまで時間あるし…水着もあるから問題はないか。よし、晩御飯でも作ろう。今日は何にしよっかな…」
一人で呟き、一人で完結。
言葉を口に出しながらだが、悩むべきことを完結させた稲羽は冷蔵庫の扉に手をかける。
そして、来る海で遊ぶことに思いを馳せながら、稲羽は夕食の用意を済ませて行った。
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