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小説:獣達の舞踏会1~目覚める狼~ (完結)

三章 揺れる心






夕暮れの保健室。

昼間にあんなことがあったと言うのに、その喧騒はどこへやら。

壊された窓は直され、つい数時間前までは悲惨な光景が広がっていたとは誰も思わない、そう思えるほどに片付けられていた。

「…すぅ…」

「………っ」

そんな保健室の中には、二人の男女がいた。

片や規則正しい寝息を立てて眠る少年。幸せそうとまでは言わないが、それでもその表情には曇りは見えない。

対して、寝ている少年よりも凄惨な顔をしている少女は、少年の眠るベッドの隣で唇を噛み締めていた。

「…ユー…」

眠り続ける少年に向かって語りかけるように、ユミナは少年の名を呼ぶ。

当然、その言葉に眠るユーブメルトは身じろぎ一つせず、ただ寝息を立てるだけ。

まあ、それも当然のはずなのである。

上半身のほとんどをバッサリと斬られ、そこから流れ出る血で死にかけていたのだ。重複にかけにかけた治癒魔法が効かなければ、今ごろ彼は死んでいただろう。

だからこそ、今ユーブメルトは眠っているのだ。体の回復のために。

だが、そんなユーブメルトに痺れを切らしたのか、ユミナは思いがけない行動を取った。

「…よい、しょ」

徐に動き出したユミナは、なぜか寝ているユーブメルトの体に馬乗りになる。

絶対安静。それがユーブメルトに言い渡された状況だ。

まぁ、それは他人であるユミナには関係ないのだが、それでもこの行動は一切説明できない。

安静にしていろと言われた人間の上に、しかも馬乗りで乗る意味が分からないのである。

だが―――

「お、お姫様じゃないけど、お、起こすときはキスが当たり前って決まってるんだから…///」

ユミナにそんなことはさらに関係なかった。

先程まで唇を噛み締めて悔しがっていた姿は―――

「き、キキキキスぐらい、どうってこと…あーでも恥ずかしい!」

―――恥ずかしいなら態々すんなよ―――

そんな彼女にとっての幼馴染みの台詞が聞こえてきそうだが、今のユミナには聞こえない。

誰もいない―――一応はいるが―――ことで妄想が暴走、さらには心の外に溢れているのだ。

止められるわけがない。ユーブメルトが目を覚まさない限り。

「…ち、近くで見ると、ユーって以外と可愛い顔してるんだよね。…ぁぅ…///」

一人で呟き、一人で悶える。

三文芝居を見ている気がしないでもないが、それでもユミナ本人はかなり真剣である。間違った方向に。

そして、とうとう色々と間違った方向でユミナは動き出した。

「……ん…」

真っ赤な顔を、ゆっくりとユーブメルトに近づけていく。

そのまま卒倒してしまいかねないほど赤いが、不思議と鼻息は荒くない。

まあ、誉められたものではないが。

そして、ゆっくりと動いていたユミナの体、いや、この際はっきりと明記しよう。ユミナの唇がユーブメルトの唇に触れそうになる。

「…ユー…だいす……」

「…んぅ?」

パチッ

固まる。

それはもう、石像のように。

唇と唇が、何かがあれば絶対に触れられる。そんな距離でユミナの動きが止まる。

なぜそんな事になったのか。理由は単純だ。

対象、つまりはユーブメルトが目を覚まし、ユミナの目を覗き込んだからである。

寝込みを襲おうとして、怪我人であるユーブメルトの体の上に馬乗りになっているユミナ。

それを寝起きの頭でながら、冷静に見つめるユーブメルト。

「…お、おおおおぉー…」

突然の出来事に、ユミナは体を綺麗に硬直させたまま、顔を赤くしたり青くしたり白くしたりしながら狼狽する。

そして、そんなユミナを見ながらユーブメルトは寝起きの頭ながら英断を下した。

「………」

無言のまま、手をゆっくりとユミナの顔面、額部分に持っていくユーブメルト。

そして、最高の笑みでこう言った。

「なにしてんだこら」

ベシィッ!

「うにゃぁぁぁーーー!」

ユーブメルトの折り畳まれた指が、見事にユミナの額にヒットした。

綺麗すぎる音のでこぴんを食らったユミナは、悲鳴を上げながらベットから転げ落ち、床で体をのたうち回せる。

体が仰け反るほどのでこぴんを食らったのだ。痛くない方がおかしい。

まあ、なぜそんな威力のでこぴんが出せるのかと言えば、疑問しか残らないのだが。

「うにゃーー! 痛い! 痛いよユー!」

「痛くしたんだから当然だろ?」

「いたいけな女の子に向かってそれはどうかと!」

「自分で言うな自分で…っ…」

額を押さえながら涙目になって抗議するユミナに、ユーブメルトは呆れ返る。

そして、ついでと言ってはなんだが、座り直すために体を動かすと、その体に鈍痛がはしった。

「ユー! 大丈夫!?」

「…っ…ああ。やっぱり、幻痛は残るか」

四肢を斬り飛ばされても、その先と根本が残っていれば治せてしまう治癒魔法だが、時間はやはりかかってしまうもの。

さらに、幻痛と呼ばれる神経痛のようなものが治ってからも襲うため、基本的に敬遠される。

普通に考えれば敬遠もくそもなく、仕方ないことだと思うのだが、ユーブメルトはこの幻痛が大の苦手なのだ。

「…傷は塞がってるし、気分も悪くない。大丈夫さ」

「ほんとに?」

「ああ。痛み云々って話なら、お前の方が痛いんじゃないのか?」

「うぅー…。その痛みの原因を作った人が言う台詞?」

拗ねたように頬を膨らませて抗議するユミナ。

そんな幼馴染みの姿を見て、ユーブメルトは苦笑する。

なんとも微笑ましいと思う光景だが、すぐにその時間に終わりは訪れた。

「あ、目が覚めたんだね。良かったよ」

心の底から安堵するような声で、フレリックが保健室に現れる。

少し顔がやつれているような気もするが、それでもフレリックはユーブメルトが目を覚ましたことを喜んでいた。

「フレリックさん…ご迷惑、お掛けしました」

「いやいやいや、お礼なんかいいさ。僕は僕に出来ることをしただけだから」

「まぁ、それでも礼は言わないと。…ありがとうございました」

「うん、どういたしまして」

どこか他人行儀な感じがするが、それでもこの二人にとっては普通である会話を終え、ユーブメルトは一番の関心事を口にした。

「…で、あの時の事は結局…」

「うん。あの黒いものは君が気を失った後にすぐに消えた。あの少女と共に、ね」

「な……くそっ…なにもできなかったんだ、俺は」

フレリックの報告を聞き、ユーブメルトはがっくりとうなだれる。

悔しさが滲み出る台詞に、フレリックとユミナは言葉が出ない。

「…無力なんだよな…俺は」

「いいえ? 無力などではありませんよ?」

呟きを漏らすユーブメルトの言葉に、新たなる介入者の声がかかった。

「…レオリス…どうしてお前がここに?」

「数時間ぶりですね、ユーブメルト君。なに、理事長に呼ばれて調査と説明を」

「調査? 説明? どう言うことなんです?フレリックさん」

レオリスの言った言葉の意味が分からず、ユーブメルトは話に出てきたフレリックに話を振る。

「…あの少女についてわかったことがあるんだ。そして、その分かったことでの詳しい人物と言うことで、彼に話を聞いていたんだよ」

「なるほど。で、分かったことってなんです?」

「すごく…言いにくいことなんだがね…。…彼女は…」

フレリックは本当に言いづらそうにしながら、覚悟を決めるためだろうか。そこで言葉を切った。

そして、大きく息を吸い込み伝えるべき事を伝えた。

「……彼女は、負の遺産。……戦争があった頃に生まれた、人の形をした『生体兵器』なんだ」

「………は?」

開いた口が塞がらないとはこのことを言うのだろうか。

ユーブメルトはフレリックから伝えられた言葉の真意を測りかね、口をあんぐりとあけたまま固まってしまっている。

漏れ出る言葉も、言葉として意味をなさない息が抜けたようなものばかり。それほどまでに、フレリックの言葉はユーブメルトにとって絶大な破壊力を持つものだった。

「…『生体兵器』?」

一人話の展開に全くついていけていないユミナが、分からない単語をそのまま口にする。

「君たちが先日討伐したウィンディーヌの事だよ。あれは生み出された物、研究と実験の果てにね」

そのユミナに対し、どこか諭すような声音でフレリックが発言する。

だが、ユミナはそのような答えを求めていたのではなかった。

「いえ、だから『生体兵器』ってどういう事なんですか? 確か、20年以上前の戦争時代の負の遺産だって…。そんなものが、なんだって今になって?」

「生体兵器…いえ、今はこう言っておきましょうか。『イミュニテーター』は現在も実在するんですよ。強大な力を持つものをいるので、全てを討伐することは叶いませんので」

「『イミュニテーター』?」

レオリスが言った新たな単語に、ユミナが聞き返すように質問する。

その返された質問に、レオリスは少し楽しそうに顔を歪めながら答えていく。

「我々、高濃度魔力研究科の者たちが言う通称ですよ。生体兵器は忌み語となっている部分もありますので、このような通称を定めさせてもらっています。基本的な通称のキメラでも構いませんがね」

「ふむ…。で、まさかあのユーにくっついてた子が、その…いむにた? なの?」

「イミュニテーターです。その通りですね、お察しの通りですよ。彼女の識別は形式番号3089、約20年前に創られ、今の今まで封印処理されていたんです」

「…封印って…じゃああいつは生まれてから今までずっと…?」

俯いたままだったユーブメルトが、ようやく話に割り込んでくる。

少し憔悴したような瞳だが、話だけは聞き洩らさないようにしっかりとレオリスの方を向いている。その事を確認したフレリックは、レオリスの話を告ぐように言葉を口にした。

「その通りだよ。きちんととは言えないけれど、記録が残っていた。彼女は戦争末期に創られた、フォーゲルノート帝国の最後の切り札だってことがね」

「…切り札? そりゃ、あいつがイミュニテーター?だって言うんなら、計り知れない力を秘めていることになりますけど…」

どこか合点がいかないのか、ユーブメルトは異論を呈するような口調でフレリックに言葉を投げかける。

「まあ、ここからはかなりひどい話になるよ。君たちが戦ったウィンディーヌ然り、イミュニテーターは基本的に異形の形をしているんだ、キメラと名付けられるように。力を十二分に発揮するためにね。だが、それでは敵陣営に警戒されるだう? 人以外がいるのだから」

「っ! それって、まさか…!」

フレリックが言った最後の言葉に、ユーブメルトはすべてが繋がったような感覚を覚えた。

自らの考えが確かなら、『黒』が現れた理由にも納得がいく。そう考えながら。

「ああ、そのまさかさ。スパイ、と言った方がしっくりとくるかな? 敵を内部から駆逐するために創られたのが彼女だ。愛らしい少女の姿なら、ありえないほどの人間不審者でなければ世話を焼きたくなるからね。…そこに付け込んだ、最低の考えの結果さ」

吐き捨てるようにフレリックは言葉を口にする。

確かにフレリックの言う事は理に叶っている。ウィンディーヌに関しては目立つ水色の鱗を持ち、かなりの巨躯を持っているのだ。

それでは確かにどう隠そうとしてもばれるものはばれる。そこで、彼女のような人の形でありながら強力な破壊力を持つものを生み出す研究がなされていた。まあ、それは『獣刻印(ゲルニア)』を持つ者達が現れた事で意味が無くなってしまったのだが。

「…腐ってやがる…。そんな事のために、創っては殺して捨てるなんて…」

心底嫌そうに、ユーブメルトは自らの考えが当たっていたことに嫌悪感を覚える。

そして、さらに怒りを覚えてもいた。

「許せねぇ…絶対に…命をなんだと思ってやがるんだ…!」

「…確かにひどい…そんな事があったなんて…。私たちは代理戦争が始まった頃に生まれたから、そんなの全く知らないもん…」

やるせない怒りに体を振るわせるユーブメルトに、ユミナの悲痛な声が重なる。

ユミナの言う通りユーブメルトたち、今の学園で学んでいる者達のほぼ全員が代理戦争に切り替わった辺りで生まれた者達ばかりだ。

ある程度の世界の歴史は当然習うものだが、やはりそのような裏の歴史は習う訳がないのだ。

「…ちっ…じゃああの『黒』はあいつを狙って…」

「そうだろうね、やはり。僕たちが調べた物と彼の情報を照らし合わせてみると、結構やばいことが分かってるんだ」

ちらりとレオリスの方を見ながら、フレリックはユーブメルトが言った言葉に同意する。

「…やばい? ちなみに、それってどれぐらいなんです?」

微妙に冷や汗が流れているが、ユーブメルトは喉を鳴らしながら話を進めるように質問をする。

その質問に答えようとしたフレリックを、レオリスが止めた。

まるで、自分が話すべき事柄だと言うように。

「あなたの魔力総量か、それ以上の物を持っているんですよ形式番号3089は。それこそ爆弾と言ってもいいかもしれません。あなたも経験がおありでしょう? 制御できなくなった魔力が暴走し、周囲の物を壊し、蹂躙する様を」

「…俺の魔力よりも? いや、俺の事なんかどうだっていい。あいつが、今その状況だって言うのか?」

「さあ? イミュニテーターの事なんか分かりませんよ、私には。ただ、形式番号3089はかなり精神的に未成熟で生まれたことが分かっています。封印処理されていたのも、それが原因でしょう」

投げやりな態度で、手を大きく芝居がかったように言うレオリス。

一見すると挑発にもとれるその動きだが、普段のユーブメルトならレオリスのその動きは気にはならなかった。

だが、今の彼は気が立っている。

「お前、あいつを助ける気があるのかよ? それに、聞いてみりゃ形式番号3089形式番号3089って、あいつは物じゃねーぞ!」

「人ではありませんよ? それは何度も言っているじゃありませんか」

肩を竦めるようにため息を吐くレオリス。

その態度に、ユーブメルトはとうとうキレた。

「レオリス! お前、そんな奴だったのかよ! 人じゃない? そんなこと俺にだって分かってるよ、あれだけの事を聞いたら嫌でも納得しなくちゃなんねーよ! でも、それでもな! あいつが生きてることに変わりはねーだろ!」

昼時に起こった出来事のように、再度暴走する魔力。

ユーブメルトの怒りに呼応し、荒れ狂う魔力の嵐を見つめながら、レオリスは叫んだ。

「今です! 今の状態で魔力を安定! 心を鎮めてください!」

「? いきなり何言いやがんだお前…っ…がぁっ!」

突如叫んだレオリスの言葉に、ユーブメルトは訝しんだ声を上げる。

だが、直ぐに疑問が浮かんでいた表情は、突如頭に襲った激痛により歪んだ。

そして、それと同時に起こる変化。それは、残された二人にとって、驚くべきものだった。

「…うそ…! ユー!」

「…まさか、銀とはやはり…」

心配するユミナと、驚きの声を上げるフレリック。

その原因は、頭を押さえてもがくユーブメルトのその頭にあった。

「ぐ…がぁぁ…な、なんだ…これ…」

ゆっくりと変わっていく髪。暗めの赤色の髪が、浸食されていくような形で陽光を反射する艶やかな銀髪に変わっていく。

それに比例するかのように、痛みにゆがむユーブメルトの漆黒の瞳も変化が起こっていた。

変化していく髪と同じ、艶やかな銀色。生命力に満ち溢れ、ギラギラと獲物を求めるような銀の瞳に。

「…ふざけんな…お前、誰なんだよ…ぐぁぁぁ!!!」

一際大きな声を上げたかと思うと、ユーブメルトは糸の切れた操り人形のように倒れてしまう。

「ユー! しっかりして!」

倒れてしまったユーブメルトに、ユミナは声を上げながら駆け寄る。

「エンディー君! 君はまさか、ユーブメルト君に…」

フレリックに至ってはレオリスを問い詰めるように声を荒げている。

だが、問い詰められている当の本人であるレオリスは、冷や汗を流しながらユーブメルトに起こった顛末を眺めていた。

「…理事長の思っている通りで構いませんよ。彼には…銀狼、フェンリルの獣刻印が刻まれているんです。それは、幾度となく確かめています。入学した時から今の今まで」

「銀狼…やはりそうだったのか…。だが、今のようなことをすればユーブメルト君が…」

どこか楽しそうなレオリスと、どこか悲しそうなフレリック。

対極のような二人の会話だが、その根底にはとある事象が関係していた。

獣刻印は古今東西の獣たちの形をした力を引き出すために現れる、契約の証のようなもの。それが現れなければ、獣神界に住まう獣神と契約することが出来ないと言われいるのは、誰しもが知る事実だ。

その中でも、現れる獣神の獣の姿は古今東西様々と言われる通りに多種多様である。

セリスクであれば蝙蝠、スフィアであれば狐、ユミナであれば猫、レオリスに至っては鷲だ。

そして、その中でも獣神のランク、特殊な事象の者がいる。代表的に上げられるものは、神話や伝承、お伽話に出てくるような獣達である。

いい例がユミナで、ユミナは猫でありながら猫ではない。猫又と呼ばれる極東の地方に伝わるお伽話に出てくる妖怪の獣なのである。だからこそ、ユミナの『共振(リゾナーター)』は尻尾が2本も生えるのだ。

スフィアに関してもそれに当てはまり、狐は狐でも金狐。人を化かすことが得意ないたずら好きな狐として伝えられている。

まあ、簡単に言ってしまえば神話や伝承に出てくる獣神と契約できるものは、レアな恵まれた人たちと言う事なのだ。

しかし、なぜその事がユーブメルトの事に関係があるのか。それは二人が口にしている銀狼、フェンリルと言う言葉に関係があった。

獣の頂点に立つ王。それが伝えられるフェンリルの神話だ。獣神たちが住む世界、獣神界にも暗黙の了解と言うべきなのか、支配される側とする側と言うものが存在している。

その事から、支配する側として名高いのが、王と呼ばれるフェンリル。神話に現れるような者たちのの名前なのだ。

「…大丈夫です、彼なら。仮に王と会ったとしても、彼ならきっと大丈夫です」

「そんな事を言っても、仮にも王と呼ばれる者の力なんだ。無事なはずがない!」

「無事ですよ。私が思うには、ね。彼は―――」

「…そなたか? わらわを起こしたのは」

希望的観測が見え隠れするレオリスの言葉に、低い声がかぶさる。

どこか尊大で横暴さを感じる、だが、従うべきであると感じるような声。

よく聞いていた声であるはずなのに、なぜかそんな感じがする声に、フレリックは呻いた。

「…まさか…ユーブメルト君が…!」

「…ふむ。男子の体は初めてだが、よく動くものだな。ふはっ、中々ではないか」

呻くフレリックの先には、倒れる前とは何も変わらないユーブメルトの姿が。

だが、どこかが決定的に違う。雰囲気が、纏っている空気が違う。それらから、フレリックとレオリスは目の前にいるのがユーブメルトであり、ユーブメルトではないと言う事を理解した。

だが、その隣にいたユミナだけはその変化に気づけていなかった。

ただ、倒れたユーブメルトが何事もなかったかのように立ち上がったことに安堵している。しかし、その安堵はすぐに崩される。

他でもない、隣に立つ者によって。

「…どけ、女子。わらわの隣に立つなど、殺してほしいのか?」

「えっ?」

いきなり投げかかられた、ユーブメルトの声だが、絶対に彼が言わないであろう台詞に、ユミナは困惑の声を上げる。

「…ユー? いったい何を…」

「わらわはそのような名前ではない。わらわの名はフェンリル、メルクスニアの一の王ぞ!」

ユーブメルトの声で喋るその者は、威勢よくそう宣言した。




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