小説:あの虹の麓で
一章 新たなる場所で
クラスの雰囲気
そわそわそわそわ…
充てがわれた俺の席。窓際の一番後ろから一つ前の席で、俺は授業を受けていた。
特に変わったことはない。
ただ、今は先生が教室を本を読みながら回っているだけだ。
だが、クラスの雰囲気は浮ついていた。
「(…ま、転校生が来た後ってこんなもんだろ…)」
新しいことと言うのは、それだけで注目を集める。
新鮮な空気があれば、刺激も生まれるのだ。
けれど、俺はそんな雰囲気よりも気になることがあった。
「……うぅ…」
俺の右斜め前に座る、長い三つ編みが印象的な少女。
ジーーーーーー…
先ほどから俺を射殺さんばかりに見つめてくる、俺の右後ろに座る少年。
「…えっと…今はこうで…あ…」
ブツブツと教科書とにらめっこをしている、少年のような少女のような人。
「先生! トイレ行ってきていいですか!?」
やたら頻繁にトイレに行きたがる、髪に巻いたバンダナが特徴的な少女の四人だ。
この四人、見ただけでかなり濃いと思う。
男はどうでもいいが、女に関してはレベルが高い。
と言うか、ほとんどの女子のレベルが高いのだ。
その全てと男子。合わせてもその濃さには勝てないであろう。
そわそわ…
そして、さっきからずっとチラチラと俺を見てくる右斜め前に座る少女。
記憶違いで無ければ、彼女は俺の幼なじみだ。
十歳の頃、彼女が引っ越して以来だから、六年から七年ぶりだろうか。
それほどの月日が経ったというのに、まったく変わっていなかった。
キーンコーンカーンコーン…
「きりーつ、礼」
「「「「「ありがとうございました」」」」」
クラス委員の号令がかかり、全員で席を立つ。
その後、俺はすぐに座ったのだが、それがいけなかった。
バッ
ズラズラズラ…
素晴らしいチームプレイで席を取り囲まれてしまった。
逃げ場は……ない…。
「転校生への質問タイムー! はい、一人一個、被らないようにな!」
「はいはいはい! じゃあまず私から! ズバリ、引っ越してきた理由は!?」
俺を睨んできていた右後ろの男が音頭を取るように始めやがった。
それにしても全員ノリいいな。
しかもトイレに頻繁に行っていた女からドストレートな質問が来たし。
どう答えっかな…。
「…越してきた理由は療養だよ。俺、あんまり右足が動かないんだ」
「おーそーなんだーじゃー次の人ー質問行ってみよー」
俺が何気なく言った言葉に、質問してきた少女が信じられない棒読みを披露する。
他の面々も何か一様に暗いが、どうした?
「…あ、あの!」
そんな事を思っていると、人ごみからそんな声が上がった。
右斜め前に座っていた三つ編みの少女だ。
「…陽くん、だよね…?」
「おう。やっぱりお前、芽衣なんだな?」
「…うん…でも、どうして…」
「どうしてって、俺こそ聞きたいよ。お前ってもっと他の方じゃなかったっけか? 親父さんの転勤だろ?」
「…あれはほとんど無くなったの。で、親交のあったここに引っ越して来たんだ」
「…そっか。…元気にやってたか?」
「うん。私は元気だよ。陽くんは?」
「さっき言ったこと以外は案外普通。健康そのものって奴だな」
すごく懐かしい。
やはり、長らく会っていないとは言え気心の知れた人は楽だ。
肩肘張らなくて済む。
だが、その空気を一瞬にしてぶち壊した奴がいた。
いや、奴等か。
「え!? ちょっと、天原! 転校生と知り合いなの!?」
「何かすごく親しそうだし!」
「何で今まで黙ってたのよ!」
「くっそー! 綺麗どころには綺麗どころが寄り付くのか!?」
「神様、許すまじ!!」
「いや、神はいない!!」
ぎゃーぎゃーと口々に騒ぎ始めるクラスメイトたち。
やたらとうるさいが、これはこれでいいものだと思う。
だが、そろそろ座らないと…。
キーンコーンカーンコーン…
「授業始めるわよー…って、何してるの? あなたたち」
俺の席に全員が集まっていた事が驚きだったのだろう。
母さんが授業の用意そっちのけで驚いてしまっている。
そして、そこに漬け込んだのがこの男。
「先生! この授業は転校生と先生に対しての自己紹介の時間って事でいいっすか!?」
「休み時間だけじゃ足んないよー!」
バンダナも声をあげる。
って、一応今の母さんは教師モード…。
「いいわねそれ。じゃあこの授業は質問タイムにします。質問するのもいいけど、ちゃんと自己紹介もしてね? 根掘り葉掘り聞くのはなし!」
「って、母さん!?」
「いいじゃないの。子供は元気が一番! じゃあ、出席番号一番の子から自己紹介していってね? 私たちはそれから」
「「「「「はーい」」」」」
…不安だ。
授業、しなくてもいいのか…?
これからの勉学に不安を覚えた俺だった。
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