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小説:―Legurus―

2章 外れない指輪と裸の女の子。

圭椰はボロボロになった仕様機のレグルスを借りた先に返した後、1人で家路についていた。
ボロボロになったレグルスを返したとき、教員には「またやったか、『壊し屋』。まあ、ここまで壊れるといっそ清々しいがな」とも言われたが、慣れきってしまっている圭椰にとってはどうでも良い事だった。
ただ、彼の頭の中にあるのは一つだけ。
「(今日の晩飯何するかな……)」
今日の夜をどうやって乗り切るか。この一つだけである。
完全に主夫の頭の中身であり、それが今までの生活で切っても切り離せない存在でもあった。
「せーんぱーい!!」
「ん?」
今日はハンバーグでもしようか、と圭椰が思っていると、その背後から元気すぎる声が聞こえて来た。
その聞き覚えのある声に、圭椰が振り返った時その視線の先には―――
「とうっ♪」
ドスッ
「ぐはっ!」
視線の先を見る暇もなく、圭椰は腹に思いっきり頭突きを喰らう。
そしてそのまま倒れ込み、固いアスファルトの地面に強かに背中を打ちつけた。
「えへへー、先輩、捕まえました!」
「捕まえましたじゃねーよ……いてて」
攻撃を食らわせ喜んでいる人影の正体は少女。出ている所は出ていない、一乃と比べれば色々な所で残念な少女だ。
圭椰の腰にがっしりと手を回すようにしている少女に、圭椰は打ち付けた背中をよじりながら抗議する。
人目につくかもしれない往来で何をしているのかと言われるかもしれないが、時間は遅く夕暮れ時。あまり誰も出歩いてはいなかった。
だが、圭椰の上に乗る少女は一切そんな事を気にせず圭椰の上から動こうとはしない。
その事に、圭椰は強硬手段に応じた。
「ふんぬっ!」
「きゃっ!」
全身の筋肉と言う筋肉を使って跳ね起きる。
対して少女の体重が重くないおかげで出来た離れ業だが、その代償は大きかった。
「……腰いてぇ」
跳ね起きた圭椰の上から転げ落ちた少女は、腰を軽く痛めた圭椰とは違いお尻を擦っていた。
そして、そのままの態勢で圭椰を上目づかいで見ながら講義した。
「いたたた……先輩、なにするんですかぁ」
「なにもない。そのままだったらどかなかっただろ、後輩君?」
「うー! 先輩、舞依の名前は崎原 舞依(さきはら まい)ですってば! 舞依って呼んで下さいよー!」
「良いじゃないか、後輩君で。この方が性に合ってる気がするぞ後輩君」
「それだと他の1年生の子と同じじゃないですかー!」
ぶんぶんと手を振りながら涙目になって圭椰を追い回す少女。
頭にある2つのお団子が特徴的な、男子の平均的身長からは少し高い圭椰の頭2つ分ほども小さい少女。それが舞依だ。
圭椰と一乃の小さい頃からの一つ下の幼馴染と言う間柄で、よく圭椰の手料理も食べていたりする。
「悪かった悪かった。舞依、これでいいだろ?」
「うぅ……意地悪です先輩」
「あのなあ、舞依だって俺の事『先輩』じゃねーか。これだとごっちゃになるだろ?」
「い、いいんです! 舞依の場合はそれで!」
「あっそう……」
よく分からない理屈で丸め込まれた圭椰は、そう頷くしかなかった。
だが、直ぐに話はほかの方向へと反れていく。
「そういや舞依、今日が入学式だったんだろ? 俺は新学期初日の始業日だって言うのになぜかある授業を受けてきた帰りなんだが」
「あ、舞依もありましたよ、授業。なんか、校庭で戦闘訓練があったからその観戦と解説を」
「……そりゃうちのクラスの所為だな。すまん」
「へ? なんで先輩が謝るんですか?」
「いや……気にしないでくれ」
頭を抱えながら舞依の話を聞いていた圭椰は、舞依の心配する声を振り切るように頭を振る。
「あ、舞依、練武科なんですよ! 先輩の一つ下ですね、これでかんっぺきな!」
「ああ、そっか。なら、国際試合に出れるぐらいに頑張れよ。あれ、出れるだけでも名誉だって聞くから」
「それなら聞きました! 先輩出るんですよね? 一週間後の国際試合! テレビで中継されるぐらいの大きな試合に出られるなんて、やっぱりすごいです!」
「え……?」
「今日のホームルームで言ってましたよ?」
どうやら圭椰と一乃の国際試合への出場は全校の知るものとなってしまっているようだ。
その事を理解した圭椰は、がっくりと今度こそ綺麗に項垂れた。ついでにため息付きで。
「はぁぁぁーー……。なんなんだよ全く、国際試合って言えば、国同士の交流試合だろ? そんな外交問題にも発展しそうなもんに、なんで俺を選んだんだよ……」
「すごい事じゃないですか! ほら、先輩! きちんと立って歩きましょー!」
「………」
やたらと高いテンションの舞依に背中を押されながら、圭椰は家路へとつく。
だが、直ぐに後ろから押される力はなくなった。
「あ、先輩。舞依の家はこっちですので」
「……知ってるよ、ったく。そんなに家が近いわけでもないのに幼馴染なんだよな。俺たち」
「あはは……でも、舞依はこれ位がいいって思いますよ」
「なんで?」
舞依の家がある方向への曲り道で、舞依は自らの家を見通すようにしながら言った。
「だって、隣だったらいつでも会えちゃうじゃないですか。少しぐらい、寂しい思いをした方がいいんですよ、人間」
「舞依……」
どこか憂いを持ったその言葉に、圭椰は少し面喰ってしまう。
そんな圭椰を尻目に、舞依はべっと舌を出しながらくるりと回った。
「なーんてね。先輩、今日はありがとうございました」
「何もしてねーよ。ま、気を付けて帰れよ。それと……」
「それと?」
「舞依には、さっきみたいな顔は似合わないぜ。やっぱり、今みたいに笑ってくれないと。俺、舞依の笑った顔、好きだからさ」
「………///」
「舞依?」
圭椰としては何気なく言った言葉だろうが、年頃の少女である舞依にとって、先ほどの言葉は強烈だったのだろう。
耳まで顔を真っ赤にしながら、焦点の合わない瞳で圭椰のいる方向だけを見つめていた。
だが、鈍感な圭椰にはそんな事は分からない。急に顔を真っ赤にして機能を停止した舞依を心配し、さらなる行動に出たのだ。
ぴとっ
「……うーん、熱はないよな?」
「うな、なななな……」
「ん?」
額と額を引っ付けあったまま、圭椰は分からないと言った顔、舞依は驚き慌てふためく真っ赤な顔の対照的な顔で2人はいた。
「せ、せせせせ先輩のばかぁぁーー!!」
「っ!!」
ビンタはされなかったが、かなり大きなソニックブームを喰らったように圭椰は顔をしかめる。
そして、顔が真っ赤のままの舞依は自らの家のある方向へと全力で走り去ってしまった。
「……いってー……なんだったんだ? あいつ……」
耳を抑えながら言う圭椰には、一生分からないだろう。
女の子に口説き文句を発し、額と額を引っ付けると言うありえないほどの接近をしてもなお分からない圭椰には。
「……ま、帰るか」
頭をガシガシと掻いた後、圭椰はそう呟いて歩き出す。
彼は一乃の件で知っているのだ。
女の子がああなったら、男の子が手を出してはいけない。出すならせめて時間を空けないといけない。と言う事を。
「…わっかんねーよな、女の子って」
そんなことを呟きながら歩く圭椰。
まあ、異性のことなど簡単に理解できてしまうのも考えものだが、それを差し引いても圭椰は鈍感な部類に入る。
モテることはモテるのだが、周りにいる人間、一乃を筆頭とした女性関係が圭椰の場合、とある方向で親密すぎる気があるのだ。
例えば、男だけでむさ苦しくどこかに出掛けることもなければ、朝は朝で一乃の誘惑を受けている。一般的健全な男子高校生からは、いつのまにか外れてしまった男の子、それが圭椰なのである。
「……ん?」
そんな鈍感な彼でも、目の前で光る物体を見つけるぐらいの敏感さを示す。。
「指輪? なんか、物凄くメカメカしてるけど……」
メカメカとはつまり機械らしいと言うことである。
どこか空色を思わせる鮮やかなブルーのラインと周囲を覆うように引かれた金と黒のコントラストのライン。その下地には吸い込まれそうな蒼色が光る、美しい指輪だ。
道端にポツンと落ちていたその指輪を、圭椰は興味本意で拾い上げた。
「剣、刀、閃?なんだこれ、指輪に漢字を掘るなんて珍しいな……」
指輪の表面部分に彫られた三文字の漢字。
一般的に考えて、どの国に属するものでも英語体、つまりはアルファベットを使うのが普通だ。漢字などは難しい形が多いし、何より小さい所に掘るわけで、多少長くなってもアルファベットが選ばれるためである。
だが、そこに書かれていたのはどこからどう見ても『剣刀閃』の三文字。誰かの名前でもなさそうな文字に、圭椰はただ困惑した。
「……どうすんだ、これ。交番に届けても持ち主を特定できるようなものがなけりゃ―――」
《登録者DNAを感知。自己防衛プログラム機能停止、初期設定モードへ移行します》
「は?」
突如として聞こえてきた機械音声に、圭椰はとぼけた声を上げる。
幾ら技術が発展してほとんどの機械にAIが内蔵されているとはいえ、ここは何の変哲もないただの通学路だ。そんな場所から声が聞こえてくること。それはまずもってありえないしおかしい。
だからこそ圭椰はその声に驚き、辺りを見渡す。
パシッ
「いって」
きょろきょろと辺りを見渡していると、手元が光り一瞬電流が奔ったような痛みを覚える圭椰。
その事に、圭椰は光った手元を見る。
すると、予想通りそこには光り輝いている蒼色の指輪の姿があった。
「なんだこれ……。指輪自体が光ってんのか?」
《初期設定完了。最適化と登録者バイタルチェック―――完了。レグルス、起動します》
「レグルス? こいつが? っ、まぶしっ!」
見ていられるほどの光量だった光りが、目を焼くほどの強烈な光に変わる。それこそ、手で指輪を包み込んでもその光が隙間から溢れ出してしまうほどに。
圭椰はその光に顔をしかめ、目を焼かれないように顔を指輪を握っていない方の手で覆い隠す。
「ん……なんだったんだ、あの光……」
強烈な光が止み、ようやく開けられるようになった目を開けた圭椰はそう呟く。
そして、圭椰はとある変化を目にした。
「あれ? なんで俺この指輪なんかつけて……。くのっ、外れねぇ……! 拾いもんだぞこれ!」
「大丈夫です。それはあなたのもの、最初から最後まで、マスターのものです」
「は? これのどこが俺の物だって―――」
ぐりんっ!
「マスター? どうしましたか? 心拍数と血圧が上昇しています、落ち着かれた方がいい事を進言します」
「いや、落ち着きたいけどってかいろいろとごっちゃになってるからどこから突っ込んでいいのか分かんないんだけど」
「はぁ……」
首が折れるのではないのかと言う勢いで回された首を気にせず、圭椰は無理やりに向いた首の向きのまま叫ぶ。
ほぼ真後ろを向き、顔を真っ赤にして。
「とりあえず、服を着てくれぇぇーーー!!!」
「?」
光りが晴れた後に現れたすっぽんぽんの美少女の姿に、圭椰は思いっきり叫んでしまう。
家に同い年のスタイルの良い姉が住んでいても、そこまでスタイルはよくない幼馴染の後輩がいても、いきなりの生身の少女の生の裸は、圭椰にはきつすぎる衝撃だった。
今も首の筋肉の柔軟性をいかんなく発揮し、隠れて鼻血を抑えている始末である。
そんな圭椰の反応の理由が分からないのか、現れた少女はただ首をかしげるばかり。
「あーもう! これ、これでも着ていてくれ! 羽織るだけでも良いからとりあえず隠してくれ!」
少女の反応にしびれを切らしたのか、圭椰は着ていた制服のジャケットを少女へと若干乱暴ながらも着せる。
「……なぜでしょうか? 私には、服を着る理由が見受けられないのですが」
だが、少女はそんな事を言いながら圭椰に着せられていたジャケットを器用に脱ぎだしてしまう。
「そっちにはなくてもこっちにはある! 俺がお前を見れなくなるから!」
「そうですか。マスターのためとあらばそうしましょう」
渋々と言うより淡々とした口調で答える少女は、そう言いながら圭椰に渡されたジャケットを羽織る。
そんな少女の態度に、圭椰は軽く拍子抜けしてしまった。
「……えらくあっさり引き下がったな」
「私はマスターのために生きおりますので。マスターの命令は絶対です」
一回りほど大きいであろうジャケットを着たままで跪く少女。
突然のその行動に、圭椰は慌てて少女の肩に手をやって立たせた。
「ちょっ、そんなことしなくていいから! 普通に立ってくれればいいから!」
「了解しました」
慌てる少年とあまり表情を変えない少女。
よく分からない構図の絵が出来上がりながらも、その当事者である圭椰はようやく少女の事を落ち着いて見ることが出来るようになった。
身長は一乃に比べると同じほど。スタイルは負けているが、十分に均整のとれた体格だ。そして、極めつけは髪の色と瞳の色。
指輪の下地の蒼色によく似たサラサラの腰まで伸びるロングヘアー。指輪についたブルーのラインのような空色の瞳。明らかに日本人でもなければ外国にいるような色でもない。
どこかのお伽話の登場人物がそのまま圭椰の前に現れたかのような蒼髪の少女の姿に、圭椰は頭を捻る。
「えーっと、色々と話があるんだけど、いいかな?」
「なんなりと、マスター」
「それ! そのマスターって、どういう意味?」
「マスターはマスターです」
「ですよねー……って、そうじゃなくて!」
息の合ったコンビプレーのように繰り出される2人の会話。
一乃や舞依といる時のように、昔から一緒にいるような雰囲気の掛け合いである。
だが、2人は今初めて出会ったのだ。だから、こんな質問が圭椰の口から飛び出る事になった。
「……君は、誰なんだ?」
「私ですか? 私の名前は『剣刀閃(ブレイザーエッジ)』。ミセス真弓が創りだした最初で最後のレグルスです」
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