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小説:―Legurus―

2章 外れない指輪と裸の女の子。

バキィ!
右手で握る剣の柄から、そんな嫌な音が響く。
だが、俺はその音を完全に無視し、右手に握った無骨過ぎる鈍い銀色の剣を振るった。
「ハァァッ!」
圭椰の身長ほどもあるであろうその剣を軽々と振るい、圭椰は対戦相手である陣平に向かって横凪ぎに剣を振るう。
その剣の刃を、陣平は両手にある橙色の手甲で受けるのではなく、体全体を使って仰け反りながら避けた。
「っぶね! 俺様の筋肉がなければ首ちょんぱだったぜ……」
「そのまま首と胴体がサヨナラしてたらよかったのにな」
「……このドSが」
「るせ。手伝ってくれるのは有難いけど、ほとんど全力じゃねーか。これで俺が戦ってる時に仕様機が壊れたらどうすんだよ。俺、死ぬぜ?」
陣平から聞こえてきた呆れの声に、圭椰は肩に剣を置きながら答える。
そして、次はどんな風に動くか考えを巡らせていると、圭椰の耳につけたインカムから声が聞こえてきた。
『圭椰、今使ってる奴の損傷度が80%を超えてる。さすがに無理だよ、これ以上は』
インカム越しに聞こえてくる一乃の声。
それを聞いた圭椰は、まるで思い出したかのように肩に置いていた剣を見やる。
鈍い銀色の無骨な剣は、もともと装飾が一切なかったためにそのボロボロ具合がかなり際立っていた。幾条にも奔る傷と、自壊を始めているヒビ。どこからどう見てもすぐさま手放した方がいい、そんな状況だった。
「ま、あと一回はこれぐらいいけるか? つか、試してみたいし」
肩に置いていた剣を前方に向かって突き出すように構える圭椰。
剣先を前に、体を横に開いて柄をしっかりと両手で握る。明らかに突きを繰り出すと言うしかない姿勢で、圭椰は挑発した。
「行くぜ、陣平」
《剣モード(ブレズベルド)、アストラル》
握っている剣から投影されている形態変化の完了の文字に、圭椰は満足そうに顔を歪める。
「……おいおいおいおい。帷、まさか―――」
剣先から光が溢れだしていることに気付いた陣平が顔を青ざめ始める。
だが、もう遅い。
「蒼裂斬・衝刃(そうれつざん・しょうは)!」
圭椰は叫ぶと、光の宿っていた剣を力任せに振る。
空気自体を引きちぎるように振るわれた剣は、巨大な閃光を伴い陣平に迫る。
だが―――
バキィィン!
先ほどよりもひどい破壊音が、圭椰の右手から聞こえてくる。
その音の根元は、握られた柄の先。剣が半ばからバラバラに砕けて散っていた。
《エネルギー転換率200%。臨界点到達時間3秒。耐えきれず自壊しました》
無残な姿になってしまった剣から報告書が出され、圭椰はその報告書を眺めていく。
「ちっ、やっぱり稼働率とシンクロ値がえげつない事になってやがる。これじゃ動けねーぞ、試合中に……」
次々に示される報告書をスクロールしながら、圭椰はそう悪態をついた。
投影液晶に書かれているのは圭椰の身体数値と、レグルス稼働中のその稼働率とシンクロ値。
稼働率はそのままの意味で、どれだけレグルスが限界まで使用され、その力を発揮できているかと言う値。シンクロ値はその稼働率を左右する最も重要な値で、幾ら仕様機の大量生産品で誰にでも扱える物と言ってもその値は最重要なのだ。
なぜなら、このシンクロ値によりレグルスが扱えるか扱えないかが決まるのだから。
『圭椰、こっちでもモニターしてるから戻ってきて』
「分かった。レグルス、チェインアウト」
インカム越しに聞こえてきた一乃の声に、圭椰は従ってボロボロになってしまっている剣を見つめ指示を出した。
レグルスを扱ううえで最も重要な事、それは信頼である。
自らの『武器』であるレグルスを信頼し、その力をいかんなく発揮する事。それが最も重要であり、レグルスとチェイン、繋がることでその力を引き出すことが出来るのだ。
一乃や陣平、遊馬の時とは違い、量子格納されない仕様機を片手に圭椰は一乃と遊馬の待つ観測スペースへと向かう。
観測スペースの中にあるのは、戦闘中の者のバイタル変化を見届ける機械であったり、応急処置用のベットが並んでいたりする。
詰まる所、ドッグのようなものだ。
圭椰たちが所属し、その拠点ともなる練武館でもっとも生徒の出入りの多い場所であり戦闘を安全に観戦できるスペースでもある。
「あ、来た来た。圭椰、どうだった?」
「どうもこうもない。そっちだってバイタルチェックの時に見えてたんだろ? 稼働率とシンクロ値、低すぎるったらありゃしねぇ。両方10パーセント未満だ」
「見てたよ、きちんとね。シンクロ値が低いのは分かるんだ、だって仕様機、大量生産品だからね。でも、稼働率が低いのが分からない、誰にでも扱えるように設計されてるんだから、最低でも30パーセントは出るはずなのに」
遊馬が悩むように顎に手を添えながら言うのを、圭椰は少し驚いた顔をしながら否定した。
「いや、両方50パーセントまで行かなかったらおかしいだろ? そうでもなきゃ、俺がここの学園に入学できるわけがない」
「それもそうなんだけどね。でも、圭椰君のバイタルを見れば僕が悩んでいる理由も分かるよ」
遊馬から提示されたデータを圭椰は覗き込む。
空中投影型のために見えにくい部分もあるが、そこに描かれたグラフを見て圭椰は声を上げた。
「どれ……って、これが俺のバイタル!? 普通に考えて死ぬだろこれは! レグルスの身体補助も生命維持もほとんど効いてない! こんな状態で戦ってたのか!?」
グラフの中身を理解した圭椰は驚き、その内容が本当なのかどうか見せてきた遊馬に詰め寄った。
「落ち着いて、圭椰君」
「これが落ち着いてられるかよ! 2本の線が揃えば揃うほどレグルスとのシンクロ値は高い。でも、このグラフじゃあ1回も触れ合ってすらいねーじゃねーか」
描かれているグラフには赤と青の2本の線があり、それが時間とともに波打ちながら推移している。
圭椰の言う通り、隣に表示されている陣平のグラフの波形はほとんどが揃っているのに対し、圭椰のグラフは荒れ狂っていた。
お互いが歩み寄ろうとしているのに、どこかで踏み外して触れ合うことが出来ないそのグラフを見て、遊馬は言葉を口にする。
「確かにね。でも、僕が君と友達になってから今まで、ずっと君はこのデータなんだ。そうでしょ? 久我山君」
「おう、俺様も見た時は焦ったぜ。ほとんど生身で戦ってることになるんだからな。俺様みたいに筋肉がないくせに」
「最後の一言は完全に余計だクズ肉」
現れた陣平の言葉に、圭椰は容赦ない突っ込みを加えた。
手首を捻り、綺麗なスナップを利かせて放り込まれた手の突込みは、陣平の腹に突き刺さる。
「おぅふ! ってーな帷。そんなに俺様の筋肉が恋しいのか? やらんぞ、そしてお前にはこの筋肉を愛でてやる資格が―――」
「遊馬、続きを」
「おいおい帷さん、そりゃ悲しいってもんじゃないんですかね? 俺様、独りぼっちになっちゃうから―――」
「でも、あたしは知らなかったな。圭椰のがこんなのになってるなんて」
「そこのお姉さんもひでぇ! 俺様無視されるのが一番きついんだから―――」
「ああ、うん。あまり人には見せない方がいいとは思ってたし、圭椰君が国際試合に出るって言うから見せたみたいなもんなんだけどね。今回は」
「……華井まで……くそぅ、なんで俺様の筋肉がこんな辱めを受けなければならないんだ……」
「あーもう鬱陶しいな! なんで小さくなってんだよ! これでも飲んでろ!」
大男が体を縮こまらせて小さくなっていくと言う行為を見かねたのか、今まで無視に徹していた圭椰がとあるものを声を荒げながら投げる。
投げたものはビン。緑色の液体が詰まった少し怪しい瓶だ。
「おお! これは青汁(プロテイン入り)ではないか!」
「それでも飲んでおとなしくしてろ」
「おうよ!」
完全に餌付け行為の図である。
陣平の(プロテイン入り)は彼の筋肉を維持するうえで最も重要な事であり、青汁は筋肉の美容?を保つために不可欠であるらしい。
まあ、そんな事が科学的に実証され、誰もが真似をする、と言う所までは絶対に行かないであろうが。
「ま、これで煩いのは無くなったわけだが……遊馬、これがどういう事か、端的に説明できるか?」
学園一の秀才とも言われていたりする遊馬に、圭椰は陣平を黙らせた後に話を振った。
「端的に? うーん、詳しく調べてみないと分からないけど、圭椰君自体には何か違和感はないの? チェインスタートするとき、まあレグルスを起動させた時とかに頭痛とか」
「いや、全くない。今も健康そのものだと思ってるぜ?」
「なるほど……」
圭椰の返答に、遊馬はバイタルが描かれているグラフを薄く睨む。
そこにあるのは医学的な観点からも名前を知られる物ばかりの数値の数々。心拍数や血圧はもちろん、静脈や動脈での血液移動量なども示されている。
レグルスは使用者とチェインすることによりその機能を十二分に発揮する。通常状態では便利なアクセサリー型の量子格納機にしか過ぎないが、チェインすることにより使用者の身体強化や細胞活性まで行うのだ。
ちなみに、通常状態であるアクセサリーは使用者により簡単に変更が可能であり、一乃は首の赤いチョーカー、陣平は腰に巻く橙色のベルト、遊馬は新緑色のイヤーカフスだ。
しかし、変更が可能と言ってもそのデザインまでもは選べない。レグルスに搭載されている疑似的なAI、戦闘の際に情報を発する程度のものだが、それの独断により生成されてしまうからである。
「……アドレナリン、と言うか興奮剤が結構以上に分泌されてるってことぐらいしか分からないね。あとは、シンクロ値の低さは何かが阻害しているようにしか見えないけど」
「そっか。ま、ありがとな遊馬。あ、俺、こいつの処理してこなくちゃいけないし、今日はこれで解散にしようぜ?」
液晶に投影されている時間を見て、圭椰は机に置いてあるボロボロの剣を指差して言った。
「どういたしまして。まあ、僕の方からも何か調べておくよ。何か分かったら連絡する」
「おう。あ、一乃。先に帰っててくれないか? 絶対に俺の方が遅いと思うから」
「あ、うん。あたしは少し華井君と話すことがあるから」
「? まあ、俺よりは遅くはならないと思うけど、早く帰れよ」
「圭椰こそね」
手を振りあいながら圭椰と一乃は同じ家に住む者同士の会話を終える。
圭椰は机に広がっている剣の欠片を集め、ボロボロの剣を肩に担ぐ。普通に考えたら全部金属製の重い剣のはずなのだが、レグルスの身体強化がまだ働いているためにこれ位は軽いのだ。
そして、一乃は話があると言った遊馬の方へと圭椰の姿が完全に見えなくなった後、ゆっくりと向き直った。
―――弟である圭椰でも見た事がないような暗い表情をしながら。
「話って、なにかな。帷さん」
「……圭椰の事、圭椰のバイタルの異常さの理由、あたしは知ってるから……。華井君には、知らせておこうと思って」
「僕に? まあ、いいけど……」
いつも明るい一乃にしては珍しすぎる歯切れの悪さに、学園の1年生からの知り合いである遊馬でさえもその雰囲気に飲まれて暗い雰囲気を出すことしかできない。
そんな遊馬を一乃は見ずに続ける。
「あのね、圭椰は―――」
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