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小説:―Legurus―

3章 国際試合。

翌日。
「よぉ。お前が帷 圭椰か? よろしくしてやるよ、俺の名前は―――」
「知ってる。情報ならこちらにも入ってるさ、ソルバ・グルシュタイン?」
「ふ……」
固い握手を交わす2人の少年。
1人は言わずとも分かる、圭椰だ。
もう1人は男にしてはかなり珍しい肩甲骨の辺りまで伸びた、金髪と言うよりも茶髪に近い髪が印象的な青い目を持った少年。白人らしい身長の高さを持った、明日に圭椰たちと戦うロシアの代表その人である。
なぜそんな人物と圭椰が試合の1日前に面会しているかと言うと、簡単に言えば押しかけてきたのだ。
皮肉的な笑みが印象的な少年が押しかけてきたのはつい先ほど。
練武館でいつものように訓練を行おうとしていた圭椰たちの元にソルバがやってきたのである。
もちろん、訓練内容や色々なものを触らせるまたは見せないためにも訓練は中止。とりあえず、と言う形で同じ男の出場者同士面会をしていると言う次第なのだ。
「お前の情報は入ってきてるぜ? あの真弓氏の息子なんだってな?」
「……息子だろうがなんだろうが、明日の試合に関係ないだろ、そんなこと」
「まあ、確かにそうだわな。おいおい、そんなに警戒しなくてもいいじゃねーの?」
「警戒でもしてないとやってられないんだよ。こっちとしては初めての試合、しかもそれがこの試合だなんてふざけんなって感じなんだ」
「はあー……お前も国に振り回されてる側な訳ね。同情はするぜ? 助けてなんかやらねーけど」
「どうやって助けるって言うんだよ……」
半ば呆れたようにソルバの言葉に反応する圭椰。
完全な初対面だと言うのに、両者一切敬語を使っていないがどちらもそれを気にしている風はない。
お互い緊張しているという訳でもなさそうだが、それでも2人の間には少し異常な空気が漂っていた。
相手の出方を伺いながら、少しでもへまをすればすぐにその首を落としてやる。とでも言うような緊張感。獲物を虎視眈々と狙う鷹のような目つきで、2人は話を進めているのだ。
だが、そんな緊張は真っ向から破られた。
ソルバの口から出てきた言葉によって。
「そうだな……喧嘩でも売るか? 世界に」
「は? どんな大言だよ、それ」
「俺達には、力がある。それこそ、簡単に人ぐらい殺せてしまう力が。こんな力、使わなきゃ損だろ?」
どこか狂気を孕んだソルバの言葉。
その言葉に、圭椰は背中に冷や汗が伝うのを感じた。
「使わなきゃ損って、何考えてんだ」
「なにもくそもないぜ。ただ、俺は人を殺せる。まあ、なんだ、今からおまえでも殺してやろうか?」
着ている服をはだけさせ、ソルバは首にかかるネックレスに手をかける。
一切の輝きのない真っ黒なネックレスを見た圭椰は、先ほどの言葉を思い出し少しソルバから距離を取った。
「っ!」
「冗談だよ。あんまり体固くすんなって」
そんな圭椰の様子を楽しむかのように、ソルバは笑う。
皮肉的な笑みではなく、嗜虐的な笑みで。
「言っていい冗談と悪い冗談があるぞ……」
「ま、冗談なんかじゃないんだがな。俺は、これまでも人を殺してる。楽しいぜぇ? 人を殺したときのあの感覚は。人を殺す快感って言うの? 俺、それにどっぷりはまっちまったんだよ。ついで言うとな? 殺したことは全部国が揉み消してくれる、試合の中じゃ治外法権、どれだけ殺しても罪にはならない。殺し放題ってわけだ」
人として崩れてきている笑みで、ソルバは挑発を開始する。
「ああ、別にこれを録音して持って行ってもいいぜ? でも、明日の試合は滞りなく行われる。なんたって国にもメンツがあるからな、腐った政治家だらけでも、世界には勝てないってこと分かってるんだよ。でも、俺達には力がある。そうだよな帷 圭椰? ま、明日は楽しもうぜ? 俺に、殺されてくれよ? 楽しく、な?」
「あ、おい!」
最後まで狂気を孕んだ瞳とその声で、ソルバは去っていく。
その後ろ姿を見ながら圭椰は叫んだ。圭椰にとっては理解不能な少年の言動を、もう一度確かめるために。
だが、圭椰のその声にソルバは一切反応しなかった。もう終わったと。やりたいことを、言いたいことを言って帰ったのだ、彼は。
「あ、圭椰。終わったの、話?」
「………」
その事に気づいた圭椰が拳を握りしめて立ち竦んでいると、その圭椰に一乃からの声がかかる。
しかし、圭椰には一乃の言葉は聞こえていなかった。ただ、頭の中に流れるのはソルバの最後の台詞。
『ま、明日は楽しもうぜ? 俺に、殺されてくれよ? 楽しく、な?』
「……あいつ、殺す殺さないとか言って、結局は自分が楽しむために言ってるだけじゃねーか……」
「圭椰? どしたの? なんか、すごく怖い顔してるけど……」
「あ? ああ、一乃いたのか?」
完全に意識をソルバの言葉だけに向けていた圭椰は、一乃の存在にたった今気づく。
無視されていたことに気づいた一乃は、圭椰に向かって拳をポコポコとぶつけながら、駄々っ子のように言う。
「いたよー! 何そのセリフ、あたし怒っちゃうぞ!」
「痛い痛い。って、それにもう怒ってるじゃん」
「そりゃ怒るよ! せっかく心配してあげたのに、ぶつぶつ言って何も聞いてないんだもん。それに『ああ、一乃いたのか?』ってあたしはそんなに存在感がないかー!」
一乃の怒りの右ストレートが圭椰の胸に突き刺さる。
「いって! だ、誰もそんなこと言ってないだろ!」
「言ってないけど! ほら、訓練しよう! 明日なんだからね! 昨日みたいなのは許さないんだから!」
「……分かってるよ」
渋々と言った様子で、圭椰は殴られた胸を抑えながら一乃に言葉を返す。
言葉が返ってきたことに、一乃は一瞬満足そうな表情を見せるも怒っていたことを思い出したのか、直ぐに頬を膨らませた。
そして、そのまま圭椰に声をかける事はせず自らは練武館の奥へと消えて行く。
「………」
一乃のその姿を見送りながら、圭椰はもう一度拳を固く握りしめる。
「……あいつに、そんなことさせねー。人を、楽しんで殺すなんて……。そんなこと、絶対に間違ってる」
拳を握りしめ、独白のように呟く圭椰。
《マスター》
「……エッジ?」
《いえ、なんでもありません》
「? 変な奴だな。いつもは必要な時しかしゃべらないのに」
《この場にいるのはマスターと私だけですから》
「あっそう……」
エッジの屁理屈のような台詞に、圭椰は呆れた声を上げる。
《それはそうと、早く向かいませんと訓練が出来ませんよ? ちなみに、時刻はただ今5時30分です。練武館の使用が許される時間まであと30分ですね》
「げ! そんなに話し込んでたのか? 俺!?」
エッジから言われた時刻に驚きを隠せない圭椰。
だが、どんなに足掻いても時間は戻りはしない。圭椰は、一度溜息を吐いた後一乃のもとへと急いだ。
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