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小説:真・恋姫無双 双璧の番

序章
その八

ルート分岐終了 螢と嵐の行き先




「…貴様、何の用だ?」

嵐の突然の発言に、愛紗と呼ばれていた少女が怪訝な声を上げる。

その気配は、今にも襲い掛かりそうな殺気を滲ませるものであったが、嵐はそんなものを意に介さずに話を続ける。

「え? 今からあなた達三人で賊を潰しに行くんでしょ? だったら混ぜて欲しいなーって」

「構わないのだ! でもお姉ちゃん強いのかー?」

鈴々と呼ばれていた赤毛の少女が一旦承諾したものの、すぐに疑問が浮かぶ。

「強いと思うよー? 未だに螢に勝てた試しは無いけどねー」

「そうなのかー?」

「うん、そうなのー」

ニコニコと二人だけの世界へと入っていく嵐と鈴々。

だが、引き込まれていく義妹を義姉が黙ってはいなかった。

「鈴々! いい加減にしろ! …貴様、我々の話を聞いて助太刀しようと言うのか?」

愛紗がその眼光を鋭く光らせながら問い詰める。

「おー、怖い怖い。助太刀? そんなんじゃないよ。ただ、賊ならさっき潰してきたからまだいるのかなーって」

「え? 賊を潰したって、ついさっきですか?」

桃香と呼ばれた少女が、嵐の言葉に反応して驚きの声を上げる。

「うん。ついさっき螢と一緒に、えーっと、あっちの方角に在った砦にいた賊を潰してきて、今この町にいるの」

「それでは我々が聞いていた砦の賊を潰したと言う事ではないか」

「そうなのだ。女将さんに聞いた話と一緒なのだ」

「えー、じゃあ賊退治できないじゃんか。つまんないのー」

本当につまらなさそうに呟き、踵を返そうとする嵐。そんな嵐を、桃香が呼び止めた。

「あの! 私、劉備。字は玄徳って言います。あなたは?」

突然の自己紹介に嵐は目を見開くが、螢の言葉を思い出して自らも自己紹介する。

「(螢が言ってたっけ。名乗られたら名乗り返せって。失礼だから何とかだった気がするけど…ま、いっか)私? 私の名前

は栖憐(せいれん)。字は愁哭(しゅうこく)だよ」

「じゃあ栖憐さん。あなたはなぜつまらないと思ったんですか?」

桃香が言いたいのはなぜ賊討伐に対して、『人殺し』をつまらないと言ったのか、だろう。

だが、嵐にはそんな事は分からない。ただ、自分の本心を口にする。

「だって、お金も少なからず入るし。自分の強さの証明もできる。…でも、やっぱり螢に誉めて欲しいからかな」

顔を赤らめながら、恥ずかしい言葉を口にする嵐。

そんな嵐に当てられたのか、桃香もほんのりと顔を赤くしながら問いかける。

「えと…。じゃああなたはその人のために戦っているんですか?」

「そうなる…のかな? 私に生きる意味を与えてくれたのは螢だから」

「そうですか…」

「カッコいいのだ! 鈴々と愛紗もお姉ちゃんのために戦ってるから、仲間なのだ!」

「え? そうなの?」

「当然なのだ! 鈴々達は姉妹の契りを交わした最強の三姉妹なのだ!」

鈴々が胸を張って誇らしげに語る。

それに呼応し、補足をつけながらだが愛紗が言葉を次ぐ。

「力の無い民草を守るため、も入るがな。…先程は失礼した。なにも知らずにあのような態度をとってしまって」

頭を下げて謝る愛紗。

先程の理由を聞いて、ただの英雄気どりの人間ではないと気づいたからだろうが、嵐はひどく狼狽していた。

「ちょっと! 止めてよ! なんとも思ってないし、こういうの恥ずかしいから!」

「む。そうなのか?」

「うん…。だってこういうのは基本螢の役目だもん…」

「ん? 俺がどうかしたか?」

「うわひゃ! ほ、螢? 急には止めてよ、ビックリするじゃん」

「悪い悪い。嵐が他の奴と話してるなんて珍しいなーって思ってさ。ちょっと眺めてた」

「むー!」

「あはは、悪かったって」

ポカスカと螢の胸を殴る嵐を、軽く笑いながら受け止める螢。

他の三人は、突然現れた螢に三者三様の思いを抱いていた。

「(ほぇー…。優しそうな人だなー)」

「(あの男……あの男が栖憐殿の戦う理由か…)」

「(あのお兄ちゃん、結構強そうなのだ。戦ってみたいのだ…)」

桃香は螢の嵐に対する態度を見て、愛紗は嵐の話を思いだし、鈴々は武人としての勘を大いに働かせていた。

「ああ、そう言えば自己紹介しないとな。嵐が喋ってると思うけど、燎濘だ。字は孔伯。あ、あとついさっき旅の友になっ

た香坂だ」

「あ、香坂雪です。よろしくです」

「私は劉備。字は玄徳。よろしくね?」

「我が名は関羽。字は雲張。よろしく頼む、燎濘殿。香坂殿」

「鈴々は張飛なのだ。字は翼徳。よろしくなのだ!」

「私は…って、香坂さん以外は知ってるね。栖憐だよ。字は愁哭。よろしくね、香坂さん」

「………」

「ん? どうした? 香坂。具合でも―――」

桃香の自己紹介辺りから急に百面相を初め、今は黙り込んでしまった雪。そんな雪を心配して螢が声をかけると、突然雪が

大声をあげた。

「えぇーー!! あ、あの蜀の大徳劉備が!? あの軍神関羽が!? あの燕人張飛が!? …みんな女の子ーー!!?」

物凄く驚いた顔で、力一杯に叫ぶ雪。しかも、その台詞に含まれた言葉は、未来の知識、後に天の知識と呼ばれるものが含

まれていた。

「蜀? しかも私が大徳?」

「わ、私が軍神などと…」

「なんかかっこいいのだ!」

雪の言葉に驚きを隠せない三姉妹達。唯一鈴々だけは目を輝かせていたが。

「ねぇ、螢。香坂さんって何者? 見た所すごくいい服を着てるけど…」

誰もが抱いていた疑問が、ようやく嵐の口から発せられた。

「ああ、香坂は未来人なんだってさ。なぜか分かんないけど、今から1800年後ぐらいの頃から時間跳躍したんだって。あと

、あの服はぽりえ……なんとかって言う素材でできた服だと」

「燎濘さん、ポリエステル。ポ・リ・エ・ス・テ・ルだよ」

「そうそれ」

「ふーん…。変なの」

「ずいぶんバッサリ言ったな…」

「だってその通りでしょ。キラキラしてる服なんてないよ? 普通。これじゃ噂の『天の御使い』―――」

そこで言葉を区切り、先程の雪のように黙り混む嵐。そんな嵐に、嫌な予感がしながらも話しかけてしまう螢。

「ど、どうした嵐…」

「あーーー!!!」

「「「「「っ!」」」」」

「『天の御使い』だよ! 絶対そうだ!」

「な、何でそうと…」

「そ、そうだよ…。何で…?」

耳を押さえながらだが、螢と雪が嵐に問いかける。声の上がらなかった三姉妹はと言うと、いまだに耳を押さえてうずくま

っていた。

「いや、そうじゃなくても御輿ができるよ! だって、あんな説得力のある服なんて無いもん!」

「いや、確かにそうだが…。本人の意思がだな…」

「…私は別に構わないよ? 御輿になってもいい」

「え? いいのか?」

「うん。だって燎濘さん言ったよね? 『人間誰しもが何かを成すために生きてるんだ。必ず役に立つ事が、何かを成す事

ができるはずさ』って」

「まあ、言ったけどさ…」

「だからね? それが私の成す事、成さなきゃならない事なのかなって」

「そっか…。うん、いい覚悟だ」

決意を秘めた雪の言葉に、螢は深くうなずく。

何かを成すためには覚悟を決めなければならない。その覚悟は柔なものではいけない。しっかりと芯の通ったものでなくて

は折れてしまうからだ。

「あの……私たちも、いいですか?」

「ん?」

雪の言葉を聞いていた桃香達が声をあげる。

しっかりと芯の通った覚悟のある顔で。

「私は、この世の中を、みんなが笑って暮らせる、そんな世界にしたいんです」

桃香が自らの思いを口にする。

「我らはこの乱世を憂い、苦しめられる民たちのために戦ってきた」

「ずっとずっと、戦ってきたのだ…」

愛紗と鈴々も桃香の言葉に続くように、自らの言葉で思いを語る。

「誰もが笑っていられる世界。甘い考えだという人はたくさんいます。でも私はこの世界をそんな世界にしたいんです!」

桃香の声が熱意を帯びて発せられる。その目はとても真っ直ぐで、淀みの無い目だった。

「…劉備さん。こんな私でよければどうぞ使ってください。私ものいた世界も、平和な所は平和だけど、争っている所は争

っていました。だからこそ、劉備さんのいう世界が、みんなが笑える世界が、見てみたいです」

雪が桃香の思いに応え、その手と手を重ね合わせる。握りあった手は固く、固く握られた。

「…カッコいいねー。ねぇ、螢? 私たちも手伝ってみない? みんなが笑える世界を作るのをさ」

「笑える世界…ね」

誰もが笑って、幸せでいられる世界。世迷言というかもしれない。でも、全ての平和を目指す者が辿り着く先はそこなのだ

。民が笑い、幸せに暮らす。全てがそうなれば争いなど起こらないのだ。

だが、そこに至る過程の道のりは険しい。王道や覇道。さまざまな道があり、さまざまな分岐点があるのだ。

「まあ、確かに見てみたい気持ちもあるよな…。劉玄徳が作る世界。…いいんじゃないか?」

「だよね! じゃあ決まり! ねぇ、私たちも混ぜて?」

「おい! 待てって!」

「いーや! 待たないもん!」

嵐は無邪気な笑顔で螢の腕を引っ張る。腕を引っ張られた螢は、体制を崩さないようにしてついて行くが、その顔は意外と

晴れやかだった。

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