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小説:真・恋姫無双 双璧の番

序章
その七

ルート分岐 螢と御使い






「嫌! 止めてください!」

「へへっ、大人しくしてくれりゃあ痛くねぇからよぉ」

広野に、嫌がる少女の悲鳴と、男の声が響く。

その男は少女の腕を掴み、周りにいる男達はさりげなく少女の退路を絶つように、周囲を囲んでいた。

「嫌です! 離してください!」

パシッ

捕まれた手を引き離そうと、少女が捕まれた腕を回すと、それが運悪く男の顔に当たる。

「っ! …大人しくしやがれ! このくそ女!」

「いたっ!」

それに逆上した男は、少女の腕を逆手に取り、ギリギリと締め上げる。

「おい、おめぇら! めんどくせぇから…」

「殺っちまえ! …って?」

「な! なにもんだ、てめぇ!」

男の死刑宣告を遮ったのは、腰に手を当てて笑う螢だった。

「なにもんって…。あんた等みたいなクズに名乗る必要なんてあるの?」

手を翻しながら男達を挑発する。安い挑発だったが、男達はものの見事にはまって、腰に差した剣を構える。

「てめぇ…なに言ってんのか、わかってんだろうなぁ?」

「分かってるから言ってるんだよ。雑魚の癖にうるさいよ」

背に背負った朧月夜に手をかけながら殺気を放出させる。

「っ! て、てめぇ、本当になにもんだ!?」

螢の殺気に恐怖を覚えながらも、言葉を発する男。それ以外の二人は、恐怖のあまりに腰を抜かしてしまっている。

「俺が何者だろうと、あんた達には関係ない。そうだろ?」

「くっ! …なめやがってぇー!」

しびれを切らした男が、螢に向かって切りかかる。

その動きを、螢は体を横に開いて避け、去り際に男の首に手刀を降り下ろす。手刀を食らった男は、呆気なく地面に倒れ、

他の男達の恐怖をさらに煽った。

「ひぃっ!」

「こ、殺される!」

腰の抜けたままそんな言葉を口走ると、這っているとは考えられない速度で逃げていった。

「…おーい、こいつ放置ですかー? しかも殺してないんですけどー」

逃げていった男達に、聞こえるはずもない愚痴を叩く螢。

「…ま、いいか。自業自得ってやつだし」

「…あ、あの、ありがとうございます」

「ん? ああ、怪我はない?」

「はい。おかげさまで…」

「そっか。あ、俺は燎濘(りょうねい)。字は孔伯(こうはく)だ。君は?」

「あ、私は香坂 雪(こうさかゆき)って言います」

自然と自己紹介が始まるが、少女の名前を聞いた時、螢が少し反応する。

「ん? 香坂が姓? 名は雪でいいの? 字は?」

「えぅ? 香坂が姓で、雪が名前で、字って言うのはないですけど」

「そっか…。じゃあ香坂でいい?」

「はい。じゃあ私は燎濘さんで」

「ん。…早速で悪いけど二~三質問していい?」

お互いの呼び名が決まった所で、螢が質問する。

「どうぞ」

「ありがとう。見た所、物凄くいい布、と言うか見た事の無い服を着てるけど、どっかの貴族の人?」

ごく真剣に螢が問いかけると、雪は頭に?を浮かべて首をかしげる。

「貴族? そんな人いるんですか? あと、これはただのポリエステルの制服ですよ? あ、聖フランチェスカのですね」

雪の言葉に、今度は螢が首をかしげる番だった。

「ぽりえすてる? ふらんちぇすか? なんだ、それ?」

「え? 知らないんですか? …結構有名だと思ってたんだけど…。あ、それよりここってどこですか? 明らかに東京じ

ゃないですよね?」

「ここは確か、幽州の琢郡だけど、とうきょうなんて地名は知らないな」

「幽州って…。じゃあ、今の皇帝は?」

「…誰だっけ? 確か漢王朝だけど…」

今度は二人の頭に仲良く?が浮かぶ。

お互いの意見が全く噛み合わない事に苛立ちを募らせる螢だが、雪の一言がその苛立ちを吹き飛ばす事になる。

「…私、タイムスリップしちゃった?」

「たいむ…なに?」

「タイムスリップ。つまりは時間跳躍ですね。えーっと、燎濘さんが始皇帝がいた時代に行くみたいな話になるのかな?」

「はぁ…。それはまた奇妙だな…」

「はい。そうなると私は、今から1800年ぐらい後から来た事になる…のかな?」

「いや、俺に聞かれても…。じゃあ、その服は1800年ぐらい後では普通なの?」

単純な疑問を螢がぶつけると、雪は服をつまみながら言う。

「普通、ではないですね。この服は結構特別ですから」

「あ、そうなんだ」

服を元に戻すと、急に不安な表情を見せ、俯いてしまう。

「…はぁ…。でもそれだと私、これからどうしたらいいんだろう…。明らかに話を聞く限りでは三国時代見たいな感じだし

…」

そのままぶつぶつと、地面にのの字を書く勢いで暗くなっていく雪。

そんな雪を見て、螢は少し思案した後、雪にこう声をかけた。

「ん? なら、一緒に来るか?」

「えぅ?」

「ま、もう一人いる奴に言ってみないとだけど。あいつ、先にこの先にある町に行っちゃったんだよ」

「…いいんですか? 私、何の役にも立ちませんよ?」

「いいんだよ。役に立つかどうかなんて分かんないし、人間誰しもが何かを成すために生きてるんだ。必ず役に立つ事が、

何かを成す事ができるはずさ」

「あ、ありがとうございます!」

「あ、あとそう言うお堅い言葉はいらないよ。そう言うの嫌いだしさ」

「はい…じゃなかった。うん!」

雪はその名にふさわしい、真っ白な偽りの無い綺麗な笑みを浮かべた。



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