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小説:真・恋姫無双 双璧の番

序章
その四

討伐戦 終わり





「おー、張り切ってるなー、嵐の奴」

嵐が円の外に飛び出した後、螢はまだ動きを見せないでいた。ただ、手に持った剣を揺らしながら賊を睨み付けている。

「てめぇら! 何やってる! さっさとぶっ殺せ!!」

中々動きを見せない手下達に、苛立ちのこもった声で怒鳴る頭。その怒号に呼応して一気に円が狭まり、中にいる螢を潰そ

うとする。

「…はぁ!」

ドウッ!

気合一声。

声と共に振り上げられた剣が、擬似的な竜巻となって賊を蹴散らす。

その異常なまでの剣速に巻き上げられた体は、無数の裂傷を体に刻みながら舞い上がる。

そして、竜巻の目となった螢は、そのまま移動を開始する。ゆっくりと歩きながらだが、その刃は確実に賊を捉え、屠って

いく。

「っ!」

そんな単調とも取れる動きをしていた螢の頬を、一本の矢が掠める。頬からは一筋の血が流れ、見るからに痛々しい雰囲気

を醸し出す。

だが、螢は痛みなど感じていないように、矢の出所を確認した後、剣を腰だめに構え直す。

動きの止まった螢に、容赦のない矢の雨が降り注ぐ。

「せいっ!」

腰だめの構えから、溜めていた力を解放させるように、一気に剣を振り抜く。

蒼の軌跡を残す気の刃は、螢に向かう矢を一掃し、そのまま矢を放った者達の首を刈り取る。

そして、剣を新たな構えへと構え直す。今までの脇に剣を引き寄せた構え方から、地面すれすれになるまで剣先を落とした

構え方に。

「嵐の奴が張り切ってやってるんだ。俺も頑張んないとな!」

横目に嵐の活躍ぶりを見ながら、眼前の敵に向かって殺気を滲ませる。小さいが濃密な殺気に、賊達の体は萎縮して動けな

くなった。

そして、賊達に生まれた僅かな隙に、すかさず螢は動く。

動けなくなった賊達の間を駆け抜ける速さは、神速。ただの一介の賊が見切れるものではなかった。

螢が駆け抜けた後に残るのは、体の一部がなくなった骸達。その数の多さが、螢の強さを物語っていた。

「ふぅ…。嵐の方も終わったみたいだな」

螢が敵を一掃し嵐の方を見ると、ちょうど最後の一人の首が飛んだ所だった。

「螢ー、こっち終わったよー」

「うん。こっちも終わって、後は…」

チャキッ

「ひぃっ!」

「…この禿げ頭だけ」

逃げようとする頭の男に剣先を突きつけ、逃げられないように脅しをかける。

「手下が死んだら何もできないの? 滑稽だねー」

「ねぇー、さっさと殺しちゃおうよー」

手に持つ斧をくるくると回しながら、嵐は螢に許可を得ようとする。

「んー。ま、それもそうか。あ、嵐。先に双頭龍取ってきなよ。後からだと抜けにくくなるよ?」

「あ、それもそうだね」

剣を油断なく向けながら、螢は嵐に向かって指示する。

その指示を受けた嵐は、トトトと言う擬音がぴったりの歩き方で自らの得物を回収しに行った。

「さて…。お前にちょっと質問がある」

先程までの雰囲気とは一変。冷たい印象を与える目をしながら螢は問い詰める。

「な、なんだ?」

「お前らの服装で共通して、どこかに黄色い布を着けていたな? これはつい最近にも他の賊の一団でも着けていたんだ。

…何か関係あるのか?」

「し、知らねぇよ。俺らはただ、仕事がなくてこんな野党紛いの事をしてるだけだよ」

「ふーん…」

頭の言葉に、何か引っ掛かるものがあったらしく、顔を少し歪ませる螢。

「は、話はそれだけか? なら…」

「螢ー! 斧が刺さって抜けなーい! 手伝ってー!」

頭の男が何か言おうとした所に、嵐の悲鳴にも似た声が上がる。

よく見ると、刺さった部分をグリグリと抉っているため、新たな血が流れて滑る悪循環になっている。

「はぁ…。分かったよ、今行くからー」

頭に手を当てながら、やれやれと言った風に答える螢。

「じ、じゃあ俺はこれで…」

「うん、いいよ。…ばいばい」

口では優しいことを言いながらも、その手に持った剣で頭の首を飛ばしていた。

「うー…えいやっ!」

ズボッ!

頭の首を飛ばした後、螢が嵐の所に向かうとちょうど斧が死体から抜けた所だった。

そして、斧に付いた血を払ってから螢の元へと向かう嵐。

「螢、禿げ頭の人殺しちゃったの?」

「うん。聞きたいことも聞けたし、用がなくなったからね」

「そっか。これからどうするの? また歩くの?」

「そうなるかなー。同じ街に何度も行くつもりはないし…」

次の行動を決めるため、顎に手を添えながら思案する。

「ま、とりあえずこんな血生臭い所からは出ようか」

「そうだね。服に匂いが付いちゃうよ」

二人は同意すると、砦からそそくさと脱出する。

砦から出てしばらくすると、嵐が唐突にこんな事を喋り出した。

「そういえばさ、前にいた町で変な噂が流れてたんだけど…」

「噂? どういう類のやつ?」

「なんかね? 『天の御使い』がどうこうって言う噂。ものすごーく腰の曲がった御祖母ちゃんが言ってたよ?」

「あー、なんか聞いたことあるな。『天の御使いがこの地に舞い降りる時、乱世は終結し人々に平安が訪れるだろう。その

者、太陽のごとく輝く衣を纏い、限りない優しさで世を照らす光となるだろう』だっけ?」

「んー? 多分そうだったんじゃないかな?」

「まあ、こんな腐った時代じゃ噂なんてものに縋りたくなる気持ちも分かるけどね」

漢王朝の力は衰退し、帝も名ばかりの存在となりつつある現在。噂と言うものに縋るものはたくさんいる。

先ほどのような賊も増え、連鎖的に乱も起こる。そうなれば、民草たちや力のない者たちはそういうものに縋るものなので

ある。

さらに、その『天の御使い』の噂については、大陸一(自称)の占い師、管路が予言したこともあって大変な人気を誇ってい

るのだ。

「でもさー、そんな人が現れるんだったら、見てみたい気持ちもあるなー」

「ま、良く分からないさ。今の時代、神輿にして終わり、って話も簡単だからさ」

肩をすくめて、嵐の意見を一蹴する螢。

螢の言う通り、そういう類の噂を利用する輩はたくさんいる。

理由としては、単純に扱いやすいからだ。『天の御使い』も利用しやすい。名乗ればそれで終わりのようなものでは簡単す

ぎるが、使いやすい。まあ、ばれた場合は死が待ってはいるが。

「というか、螢。どっちが多く殺したの?」

「ん? あー、そう言えば数えてないや。とは言っても、俺の場合ほとんど真っ二つにしちゃってるし」

「えー、じゃあご飯はどうするのよー」

頬を膨らませ、不満顔をあらわにする嵐。そんな嵐を見て、螢は嵐の額を突く。

「いいじゃんか、どっちが勝ってもさ。それに、嵐も数え切れてないだろ?」

「うー。私は三百ぐらいまでは数えてたもん!」

「『までは』だろ? …はぁ。飯ぐらいなら奢ってやるからさ」

「ほんと!? わーい!」

両手を挙げて大喜びする嵐。そんな嵐を見て、螢は苦笑しながらも温かい目で見守っていた。




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