会わせて、D.J.
『真夜中の酒場へようこそ。今から素敵な夢をみる君にも、まだまだ夜を楽しみたい貴方にも〈ミッドナイト・バー〉。静かな夜のひと時を私と一緒に、…当Barのマスター、高梨亨です』
耳障りのいい音楽と共に、高梨の柔らかい声が聴こえる。まるでこの間の口調は夢か聞き間違いだったのかと思う程、耳に届くその声はしっとりと包み込むように艶っぽい。
「―全然違う…」
圭太の小さな呟きに、腕の中でまどろみかけていた杜吾が、顔を上げた。
「高梨の事? 俺も最初は驚いたよ。あのもの言いだろ、もしかして別人じゃないかと何度も確かめた位なんだ」
まだ眠そうな目を、いたずらっぽく細める。
「高梨さんとは、何処で知り合ったの?」
そう言えば、この間それは聞かなかったな、と思いながら、圭太は杜吾を胸に抱き寄せた。
「んー。確かシノと同じバーだと思うけど」
「えっ、NYのゲイバー?」
驚く圭太に「うん」と杜吾は頷く。
「って事は、高梨さんも…ゲイなのか?」
「さぁ、それはどうだろう。別に男だけって訳でもないみたいだけど。―大体、高梨から恋愛の話は聞いた事ないんだ」
「そうなんだ…」
圭太は、溜息のような声を出した。
「気になる?」
もうすっかり目覚めた杜吾が、腕の中でクスクスと笑う。長めの前髪が圭太の厚い胸板をくすぐって心地いい。
「いや、気になるって言うか、高梨さんの恋人になる人って、何か想像も出来ないなと思って」
「そう? まぁ確かにあの口撃に耐えられる人じゃないと無理っぽいかな。そう言う意味じゃ、シノといい勝負なんだけど」
「確かに―」
いい勝負だった、と圭太は深く頷く。あの篠原に全然負けてないのだから。
それにね、と杜吾はふわりと頬を柔らかく和ませた。
「高梨はああ見えて、凄くDJの仕事を愛しているんだ。シノが言っていただろ? 高梨はプロだって。それは勿論口調の事もあるけど、DJを続ける為に、自分を厳しく節制しているからなんだ」
「え?」
「高梨が酒を呑まないのは、まぁあまり強くないと言うのもあるけど、ボイスケアを考えて刺激物はあまり口にしないんだよ。冷たい物も殆ど飲まないし」
そう言えば、と圭太は思い出す。あの日高梨は、とうとう最後までホットウーロン茶以外のオーダーをしなかった。洗面所で空気が悪いとうがいをしていたのも、喉の保湿だったのかも知れない。
「その徹底ぶりは、さすがのシノが煙草を吸わない位だからね」
にこっと笑う杜吾に、圭太はあっ、と口の中で声を殺した。ヘビースモーカーと言っていい篠原が、高梨が現れた後は一本も口にしなかった事に、今更ながらに気付いたからだ。
「ゲイバーに来ていたのだって、そこで喋っていたクラブDJのテクを盗みに来たんだって、シレっとした顔で言うんだ。あそこに行って、アバンチュールそっちのけでBGMを気にする奴なんて、高梨くらいだよ」
―俺がね、とそこで杜吾は一旦言葉を切った。コトンと圭太の裸の肌に、小さな頭を寄せて来る。
「俺が、高梨の声を支えにしていたのは、あいつのそういう強さに励まされたからなんだ。多かれ少なかれ違うフィールドに行くと、上手く行かない事に当たるものだろ? だけどあいつは…高梨は、異国でも日本でも変わらない。何処に居ても、自分に正直でブレない生き方が出来る奴なんだ。俺にはその強さがなかったから…」
―だから、あのMDを残していたのか。
圭太は心の中で、そうひとりごちた。
気にしてないと言えば嘘になる、自分によく似た声。
でも会ってみて分かった。
乱暴で荒々しい口調を、魔法のように心地よい喋りに変えてしまう男は、やはり世界でただ一つの、魅力あるオリジナルなんだと。
耳を澄ませば、高梨の優しいトークが続いている。
心を惹きつけて離さない絵を描く杜吾も、依頼を受ければ本業以外の役割ですら完全にこなす篠原も、そして努力の跡すら見せずに鮮やかに喋る高梨も、みんなプロだ。本物なんだなと圭太は改めて思う。
「杜吾…」
胸の中の恋人の髪を、圭太はゆっくりと撫ぜた。
「俺も…俺も頑張るから―」
もっともっと、杜吾の本物になれるように。
何を? と杜吾は聞かなかった。
ただ、蕩けるように甘いキスをしてくれた。心から幸せそうに、笑いながら。
<END>

耳障りのいい音楽と共に、高梨の柔らかい声が聴こえる。まるでこの間の口調は夢か聞き間違いだったのかと思う程、耳に届くその声はしっとりと包み込むように艶っぽい。
「―全然違う…」
圭太の小さな呟きに、腕の中でまどろみかけていた杜吾が、顔を上げた。
「高梨の事? 俺も最初は驚いたよ。あのもの言いだろ、もしかして別人じゃないかと何度も確かめた位なんだ」
まだ眠そうな目を、いたずらっぽく細める。
「高梨さんとは、何処で知り合ったの?」
そう言えば、この間それは聞かなかったな、と思いながら、圭太は杜吾を胸に抱き寄せた。
「んー。確かシノと同じバーだと思うけど」
「えっ、NYのゲイバー?」
驚く圭太に「うん」と杜吾は頷く。
「って事は、高梨さんも…ゲイなのか?」
「さぁ、それはどうだろう。別に男だけって訳でもないみたいだけど。―大体、高梨から恋愛の話は聞いた事ないんだ」
「そうなんだ…」
圭太は、溜息のような声を出した。
「気になる?」
もうすっかり目覚めた杜吾が、腕の中でクスクスと笑う。長めの前髪が圭太の厚い胸板をくすぐって心地いい。
「いや、気になるって言うか、高梨さんの恋人になる人って、何か想像も出来ないなと思って」
「そう? まぁ確かにあの口撃に耐えられる人じゃないと無理っぽいかな。そう言う意味じゃ、シノといい勝負なんだけど」
「確かに―」
いい勝負だった、と圭太は深く頷く。あの篠原に全然負けてないのだから。
それにね、と杜吾はふわりと頬を柔らかく和ませた。
「高梨はああ見えて、凄くDJの仕事を愛しているんだ。シノが言っていただろ? 高梨はプロだって。それは勿論口調の事もあるけど、DJを続ける為に、自分を厳しく節制しているからなんだ」
「え?」
「高梨が酒を呑まないのは、まぁあまり強くないと言うのもあるけど、ボイスケアを考えて刺激物はあまり口にしないんだよ。冷たい物も殆ど飲まないし」
そう言えば、と圭太は思い出す。あの日高梨は、とうとう最後までホットウーロン茶以外のオーダーをしなかった。洗面所で空気が悪いとうがいをしていたのも、喉の保湿だったのかも知れない。
「その徹底ぶりは、さすがのシノが煙草を吸わない位だからね」
にこっと笑う杜吾に、圭太はあっ、と口の中で声を殺した。ヘビースモーカーと言っていい篠原が、高梨が現れた後は一本も口にしなかった事に、今更ながらに気付いたからだ。
「ゲイバーに来ていたのだって、そこで喋っていたクラブDJのテクを盗みに来たんだって、シレっとした顔で言うんだ。あそこに行って、アバンチュールそっちのけでBGMを気にする奴なんて、高梨くらいだよ」
―俺がね、とそこで杜吾は一旦言葉を切った。コトンと圭太の裸の肌に、小さな頭を寄せて来る。
「俺が、高梨の声を支えにしていたのは、あいつのそういう強さに励まされたからなんだ。多かれ少なかれ違うフィールドに行くと、上手く行かない事に当たるものだろ? だけどあいつは…高梨は、異国でも日本でも変わらない。何処に居ても、自分に正直でブレない生き方が出来る奴なんだ。俺にはその強さがなかったから…」
―だから、あのMDを残していたのか。
圭太は心の中で、そうひとりごちた。
気にしてないと言えば嘘になる、自分によく似た声。
でも会ってみて分かった。
乱暴で荒々しい口調を、魔法のように心地よい喋りに変えてしまう男は、やはり世界でただ一つの、魅力あるオリジナルなんだと。
耳を澄ませば、高梨の優しいトークが続いている。
心を惹きつけて離さない絵を描く杜吾も、依頼を受ければ本業以外の役割ですら完全にこなす篠原も、そして努力の跡すら見せずに鮮やかに喋る高梨も、みんなプロだ。本物なんだなと圭太は改めて思う。
「杜吾…」
胸の中の恋人の髪を、圭太はゆっくりと撫ぜた。
「俺も…俺も頑張るから―」
もっともっと、杜吾の本物になれるように。
何を? と杜吾は聞かなかった。
ただ、蕩けるように甘いキスをしてくれた。心から幸せそうに、笑いながら。
<END>

プロフィール

- アマネ ニコ
- こんにちは。のんびりオリジナルBL小説を書いています。マイペースですが、よろしくお願いします。
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