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会わせて、D.J.


 高梨さんに、会わせて欲しい。
 そう言った時、恋人は少し困ったような顔をした。

 画商に勤める鳴海圭太(なるみ けいた)は、担当する人気画家の宇谷杜吾(うたに とあ)と、仕事だけではない特別な関係を持っている。
 盗作騒ぎで長らく休筆していた杜吾には、新作を描き出した途端、世界中からオファーが殺到した。先頃開いた個展では、オークション形式を取らなかったにも関わらず、高値で絵を奪い合う競り合いが起きた位だ。
 その結果、独占販売を果たした圭太の勤務先であるヴェルニ社は、莫大な利益を得て一躍名前を上げた。
 その後も国内外の有名ギャラリーや美術館からひっきりなしに、個展開催や制作依頼が舞い込んで来る。だけどその全てを断って、杜吾は日本に留まる事と、ヴェルニ社のみの契約(コントラ)を望んだ。
 それもこれも、杜吾が圭太の恋人だからだ。
 ようやく騒ぎが収まった最近、杜吾は以前住んでいた高級マンションとは比べ物にならない程小さな家を買って、アトリエを構えた。
 十畳にも満たない、アトリエ兼居間に置かれたオリーブグリーンのソファーの上で、杜吾は圭太の膝枕でスケッチをしている。
 以前したこのスタイルが気に入ったのか、杜吾はよく圭太をソファーに座らせた。勿論恋人に甘えられて、圭太が嫌な訳がない。
 気持ち良さそうに、鉛筆を走らせる杜吾を見ながら、圭太はこの間から知りたかった事を、思いきって切り出してみた。
「前に会いに行くと言っていた知人って、高梨享(たかなし とおる)さんの事だよね? その、俺も高梨さんに会いたいんだけど」
「…どうして?」
 ピタリと杜吾の手が止る。見上げて来る美しい瞳が、ゆっくりと揺らめいた。
「あ、違うんだ。高梨さんに会いたいのは、声の事じゃなくて、ただ単にどんな人なのか興味があって…」
 それ以外に他意はないから―と、圭太は慌てて首を振った。
 知り合ったきっかけとなった自分の声が、人気DJの高梨享と似ていると知って杜吾を責めたのは、そう前の事ではない。好きだと言う想いが通じ合った、喜びの絶頂での出来事だっただけに、その事では杜吾を酷く傷付けてしまった。
 それが誤解だったと分かった今でも、杜吾の口から高梨の名前が出た事はない。それだけに、圭太のこの提案は彼を不安にさせるのだろう。
「…実は俺、家では高梨さんの放送を聴いているんだ。俺が言うのも変な話だけど、 あの人の声って本当に良いよね。夜の番組なんか沁み入るようなトーンで、心が落ち着くと言うか」
 勝手にライバルだと思い込んで、敵愾心を燃やしつつ聴いた高梨の番組は、今では圭太のお気に入りになっていた。FMβの看板DJとして何本もレギュラーを持つ高梨の、深夜の放送が特にいいと思う。
 番組を酒場に見立てた構成で、高梨はマスターに扮して音楽とトークを繰り広げている。
 時間が遅いせいか、溜息混じりの高梨の声は、そこはかとなく艶っぽく耳をくすぐってくる。そんな趣向のゆったりとしたプログラムが好きで、自宅アパートに帰った時は、寝る前に聴く習慣が出来てしまった位だ。
 杜吾の家に泊まる時は、出来ないけど―。
 そう照れて笑う圭太に、杜吾は驚いたように、預けていた身体を起こした。
「高梨の事、嫌じゃないのか?」
「うん…あれは俺が全部悪かったんだし」
 改めてごめん、と頭を下げる。そんな圭太に、杜吾は柔らかく微笑んだ。
「…圭のそういう処が、好きなんだ」
 深く澄んだ瞳で覗き込んでくる杜吾の細い身体を、圭太はぎゅっと抱き締めた。
 好きなのはこちらの方だ。傍に居たいと願った時。なかなか想いが伝えられなかった時。そして誤解で決別しそうになった時―。
 あの頃はまさかこんな幸せな日々が待っているとは思わなかった。
「…ぁ…」
 形のいい杜吾の顎に手を掛けると、圭太はそっと唇を重ねた。直ぐにお互いの舌を絡めて、吐息までも奪い合う。
「まだ早いけど…ベッドに行く?」
 そう耳許で囁くと、杜吾は圭太の逞しい首筋に腕を回して、にっこりと頷いた。



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アマネ ニコ
こんにちは。のんびりオリジナルBL小説を書いています。マイペースですが、よろしくお願いします。

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