USO TWITTER Part 6
Part 6
―ここはインタビュー室近くのワインバー。
今日番組に出演した作曲家が一堂に会している。
皆久しぶりに再会したので楽しい会話がはずんでいる―
ヨハン・シュトラウス2世「ねえねえ、知ってる?絶対音感を持っている作曲家が
晩年になって、音が半音高く聴こえる事が多いでしょう?
あれって前世での音感の記憶が蘇るからなんだって」
ブラームス「へえ そうなんですか。なるほどね。20世紀に入ってから
国際標準ピッチが定められましたからね。その時少し高くなった。有りえますね」
ヨハン・シュトラウス2世「でも原因はまだ不明らしいよ」
ブラームス「そりゃ困りましたね。君には分かる?デブッシ―君」
ドビュッシー「私はデブッシ―じゃありません。ドビュッシーです。
ローマ字式に読まないで下さい!」
ブラームス「分かった 分かってるって、デブッシ―君」
ドビュッシー「だから違うったら!もう、
それならショパンもチョピンって呼べっつーの」
パガニーニ「ロッシーニ君はこちらの世界でも相変わらずグルメだね」
ロッシーニ「ありがとうございます、どこへ行っても食事は楽しいですからね」
ヴェルディ「ロッシーニさんは近々グルメ本を出版されるとお聞きしましたが…」
ロッシーニ「出版の予定はあるが、グルメの本では無いよ。
調味料の『お酢』についての本だ。ちょっと内容的には固い感じの本になってしまった」
プッチーニ「へえ、何て言うタイトルの本ですか」
ロッシーニ「『癖なき酢』だ」
グスタフ・マーラー「皆久しぶりだね、今夜は親友のリヒャルト・シュトラウスも
呼んでおいたから、もうすぐ来るはずですよ」
ブラームス「リヒャルト・シュトラウスか!久しぶりだな、会うのが楽しみだ」
―そこへリヒャルト・シュトラウスが現れた―
リヒャルト・シュトラウス「皆さんお久しぶりです。お元気でしたか?」
ブラームス「リヒャルト・シュトラウス君 久しぶりだね」
リヒャルト・シュトラウス「本当にお久しぶりですね、ブラームス先輩の第4交響曲の
初演に参加できたのは、私にとって非常に有意義な出来事でした。
今でも鮮明に覚えています。楽しかったなあ」
ブラームス「そうだね。あれはいつの事だったっけ」
リヒャルト・シュトラウス「もう130年位前の事ですよ」
ブラームス「そうか、そんなに経つか。懐かしいなあ。
ところで、今日の番組の主役のベートーヴェン先生には、
こちらの世界で会ったのだろう?」
リヒャルト・シュトラウス「はい会いました。私が1920年代に録音した
先生の第5と第7交響曲の録音を非常に褒めて下さいました」
ブラームス「ほう、どんな風に褒められたんだい?」
リヒャルト・シュトラウス「ええ『さすが一流の作曲家だ、
こんなに不満足な録音なのに、作品の構造原理が明確に分かる。
是非この正しい解釈を後世にも伝えてくれ』と言って下さいました。
グスタフ・マーラー「僕も褒められたよ、先生の交響曲の僕の改訂版の事を御存じでね。
実はあの改訂版は『ロマン主義的なマーラーの主観による勝手な変更であって、
ベートーヴェンの意思に反すると』評価されがちだったのだけど、
曲が作曲された当時とは違う私が生きていた当時の楽器の性能や、
ホールの大きさを考えて改訂したのであり、
むしろ私の改訂版の方が原作者の意図に近いのだとちゃんと理解してもらえましたよ」
リスト「なるほど、ボクも褒められた。僕の場合は現世で、主にピアノの演奏を、
だけどね。やっぱり偉大な先輩に褒めてもらえるのは向こうの世界でも、
こっちの世界でも同じ様に嬉しいな」
スメタナ「そうですよね、やっぱりベートーヴェン先生は本当に音楽の本質を
理解していらっしゃる、偉大な方ですよ」
フォーレ「ところでそのベートヴェン先生は、今日いらっしゃらないのですか?」
リスト「いや、先に行っておくと仰ってたから、
とっくにここに着いているはずなんだか…」
ジョン刑事「あれえ、向こうがなんだか妙に騒がしいな…
あれっ、あの人ベートーヴェンさんじゃないですか?」
リスト「本当だ、ベートーヴェン先生だ、行ってみよう。皆も来るかい」
―リストがそう言うと、全員が立ち上がり、ベートーヴェンの居る方へ歩き出したー
―ベートーヴェンはと言うと、どうやら既にワインをたらふく飲んでいて、
すっかりできあがっている様である。
そしてまるで政治家の遊説の時の様に演説している-
ベート―ヴェン「ウ―イ、で私のイ長調交響曲はと言うと、今では、
現世で古今東西の交響曲の中でも大名曲と言われているのであります。
しかも、しかもですよ ヒック あの『音楽には全て曲名が付いている』
と思い込んでいる。また曲名がないと有名にならない。
そう 『カノン』を曲名だと思い込んでいる、
あのおバカてんこ盛りの、猿に近い人種日本人の間でも、あ い だ で も~
ヒック 今では良く知られているのであります。
(と言う事は 執筆者も日本人だから 私も猿に近いのが、WOW!)
それで え―と 最近あの曲が取り上げられたマンガは何だったかな?ヒック。
あっ そうそう思い出した 『なだめカンタービレ』!」
周りの若いお客さん「違いまーす」
ベート―ヴェン「えっ!違う?えーと、『な』の次は『に』… と…」
周りの若いお客さん「うん」
ベート―ヴェン「その次は『ぬ』」
周りの若いお客さん「うん」
ベート―ヴェン「さらにその次は『ね』だから…」
周りの若いお客さん「うん、うん」
ベート―ヴェン「分かった『ねだめカンタービレ』!」
周りの若いお客さん「違いまーす。惜しい!」
ベート―ヴェン「えっ! あっ ごめんごめん『さだめカンタービレ』だった!」
周りの若いお客さん「違いまーす。ははは」
一人の女性客「いやだ、もう」
一人の男性客「からのー」
ベート―ヴェン「えっ え―と ペットボトル!」
周りの若いお客さん「からのー」
ベート―ヴェン「弁当箱!」
周りの若いお客さん「からのー」
ベート―ヴェン「お前らの脳みそ!」
周りの若いお客さん「ハハハハ」
シャミナード「うける、超うける」
バダジェフスカ「うざっ こいつら 馬鹿か!」
リスト「あーあ ベートーヴェン先生、あんなに酒癖悪かったかな?」
チェル二―「いやいや そんな事無かったと思うよ。
こちらの世界に来てからじゃないかな?」
フォーレ「それにしても、あんなに飲んで大丈夫かな?」
スメタナ「何言ってるんだ、こちらの世界じゃ大丈夫に決まってるだろう」
フォーレ「あっ そうか すっかり忘れてた」
全員「はははは」
―皆が笑っていると、突然明るい光が差し込んできた―
サン・サーンス「うわっ 眩しい」
ブラームス「あっ あの人は ミューズ神様!」
―突然現れたミューズの女神は、歩いてベートーヴェンに近づく―
ミューズ「ベートーヴェン、ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン!」
ベートーヴェン「えっ 誰? あっ ミューズ?」
ミューズ「そうよ、覚えてる?」
ベートーヴェン「覚えてます。覚えてますよ。覚えてますとも」
ミューズ「あなたは生前ワインの飲み過ぎで耳の病になったのよ。
それだけじゃない、最終的にはワインが原因で寿命を縮めてしまったの。
分かってんの?」
ベートーヴェン「分かってますよーだ」
ミューズ「だったら どうして今でもワインを飲み続けるの?」
ベートーヴェン「だってこっちの世界じゃ、
何をいくら飲んでも病気になんないじゃん」
ミューズ「そりゃそうだけど、あなたの今のその醜態な何?みっともないわよ」
ベートーヴェン「いいえ、みっともある。ありますよーだ」
ミューズ「あなた、ふざけてるの?」
ベートーヴェン「ふざけてません。ふざけてませんとも。
ふざけてませんよーだ。みゅーうータン」
ミューズ「みゅ、みゅうタン?」
ベートーヴェン「そう、君はみゅうタン、そうだ挨拶を忘れてた。
おっひさー、おげんこー」
―と言ってベートーヴェンはミューズ神に近づき、抱きつこうとする―
ミューズ「離れなさい、このド変態」
―ピシャ! ミューズの平手打ちがベートーヴェンの頬に命中―
ベートーヴェン「殴ったね。はははは」
ミューズ「馬鹿にしてんの?もう一発欲しいの?だったら行くわよ」
―ピシャ! ミューズの平手打ちがベートーヴェンの頬に再度命中―
ベートーヴェン「2度もぶった。親父にもぶたれた事無いのに。
はははは はーはははは。マチルダさーん」
―そう言うとベートーヴェンはもう一度ミューズに近づこうとするー
ミューズ「『マチルダさん』じゃないでしょう。うーん もう いい加減にしなさい」
―グワシャ! バキッ! ミューズ神の見事な右ストレートがさく裂―
それを顔面にまともに食らったベートーヴェンは我にかえり、
ミューズの前に跪き、首を垂れる―
ベートーヴェン「どうもすいません」
ミューズ「やっと酔いが醒めた?」
ベートーヴェン「はい、なんとか」
ミューズ「ところでルートビヒ・ファン・ベートーヴェン
あなたは以前生まれ変わった時の事を覚えていますか?」
ベートーヴェン「はい。覚えています。
私は自分のクラヴィ―ア作品の正しい解釈を現世に伝えたくて、
アルトゥール・シュナーベルとして生まれ変わりました」
ブラームス「そうか、知らなかった、どうりでシュナーベルは
ベートーヴェン先生の作品の解釈に優れていた訳だ」
ベートーヴェン「そして、自分のクラヴィ―ア・ソナタ全曲の世界初の
レコーディングを実現できました。感謝致しております」
ミューズ「しかし、ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン、
今の音楽界ではあなたが伝えようとした正しい解釈が行き渡っていますか?」
ベートーヴェン「いいえ、残念ながら本当に理解しているのは
ごく一部の音楽家のみです」
ミューズ「それと 優れた作曲家は背出していますか?」
ベートーヴェン「全くいないのが現状でしょう」
ミューズ「そうね、ではなぜ、何が原因で正しさが伝わらないのでしょう?」
ベートーヴェン「人間の本性でしょう、個人的な都合だけで自分は正しいと、
どうしても言いたい、そして皆私利私欲に満ちている」
ミューズ「それだけ?」
ベートーヴェン「音楽家の怠慢も原因の一つだと思います、勉強だけして、
『感じる』事をすっかり忘れている」
ミューズ「では、もう一度あなたが生まれ変わって音楽界を正しく導きなさい」
ベートーヴェン「ええっ また? では今度も、
ドイツ語圏のオーストリアかドイツですか?」
ミューズ「いいえ、違います」
ベートーヴェン「では、先祖の国オランダ? イギリス? フランス?
まさかロシア?」
ミューズ「いいえ、それも違います。東洋です」
ベートーヴェン「東洋?あんなところに生まれ変わって何をせよと仰るのですか?
芸術文化なんて未だに全く浸透していないでしょう?」
ミューズ「いいですか、ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン、よくお聴きなさい。
芸術も文化も時間がたてば、やがて形骸化し、どんどん本質が失われて行きます。
ですから もし今ドイツやオーストリアで生まれたら、
あなたは成長期に周囲の形骸化した価値観に
影響され、かえって芸術の真実が見えなくなります。
アルトゥール・シュナーベルとして生まれ変わった時は、
まだ形骸化がさほど進んでいなかった。
そして母国語がドイツ語である事も必要条件だったのです。分かりましたね」
ベートーヴェン「分かりました。仰る事を受け入れるしかありませんね。
では東洋のどの国に?」
ミューズ「あなたが言った『おバカてんこ盛りの、
猿に近い人種』が住んでいる日本です」
ベートーヴェン「日本!まさかあの日本」
ミューズ「そうです」
ベートーヴェン「あの、未だに個人主義のかけらもない日本?」
ミューズ「そうです」
ベートーヴェン「年功序列の日本?」
ミューズ「そうです」
ベートーヴェン「事なかれ主義の日本?」
ミューズ「そうです」
ベートーヴェン「全体主義の日本?」
ミューズ「そうです」
ベートーヴェン「いやだいやだ、あんな国に生まれたって、私は自分の
能力を発揮できる訳がない」
ミューズ「いいえ、あなたならできます、困難を克服するのも修行です。
お行きなさい」
―そう言うとミューズは手を大きく動かした―
ベートーヴェン「うわーっ 助けてくれ」
ブラームス「ああ、どうしよう。ベートーヴェン先生飛ばされちゃった」
スメタナ「また辛い一生を送るのかな?今度は耳の病気にはならない様に
してくれたのかな?」
リスト「いくらなんでもひどいな。よし私が掛け合って来る
今ならまだ間に合うかも知れない」
―そう言うとリストは急ぎ足でミューズに近づく―
リスト「ミューズ、ミューズ」
ミューズ神「あらフランツ、あなたここに居たの?」
ブラームス「なんだい、あの言葉づかい? あの二人随分親しそうだな」
リスト「久しぶりだね、寂しかったかい?」
―そう言ってリストはミューズを抱きしめる―
ミューズ神「ううん、ちっとも、だってこっちの世界じゃ100年や200年、
人を待つのは普通ですもの。それにしても相変わらず良い男ね、
女神である私を虜にできるイケメンは、神々の世界でも誰もいないわ、
人間のあなただけよ」
リヒャルト・シュトラウス「イケメンはどんな世界でも持てるんだな。
僕は恐妻家だったからな、あんな光景を見ると羨ましいよ」
ブラームス「私は失恋もしたし、生涯結婚はできなかった。全く彼が羨ましい」
リスト「ところでミューズ、今ベートーヴェン先生を現世に飛ばしただろう」
ミューズ神「そうよ。もう一度生まれ変わって修行してもらおうと思って」
リスト「それなんだけど、やりすぎじゃないかな?生まれ変わるとしたら
今度はベートーヴェン先生にとってもう三回目なんだろう」
ミューズ神「何それ、どう言う意味?」
リスト「良く考えてみてくれ、もし先生のこちらでの素行が悪くて修行させるのなら、
リヒャルト・ワーグナーの方がよっぽど問題が多いんじゃないか?」
ミューズ神「何よそれ、何が言いたいの」
リスト「君も知っているだろう?リヒャルト・ワーグナーは借金を踏み倒して
国外へ逃亡した。人様の女房を寝取った事もある。それだけじゃない、
政治犯として指名手配されていた事もあったんだ。
今の世の中じゃ犯罪者だぞ。修行させるのなら、
むしろワーグナーの方を選ぶべきじゃないかな?」
ミューズ神「じゃあ あたしの判断が間違ってるって言うの?」
リスト「いや、そうは言ってない、もう一度良く考えてから行動しても
良かったんじゃないかと言ってるんだよ」
ミューズ神「やっぱりあたしの事非難してるじゃない!あんたって最低!」
―と言ってミューズ神は突然姿を消した―
ブラームス「リストさん、やられましたな」
リスト「いやあ まいった 女神さまも人間の女の子とちっとも変らないな、
神であれ、人間であれ 女の子ってのは本当に扱いにくい」
ブラームス「でもリストさんは、生前恋愛に関してはかなり奔放だったと
聞いていますよ」
リスト「でもねえ、現世とこっちの世界とではなんだか勝手が違うんだよな」
チェル二―「まあともかく、ベートーヴェン先生じゃなく、
ワーグナーを修行に行かせるべきだと考えたのは、私も正しいと思うよ」
リスト「いや実はね、娘のコジマを寝取った事がどうしても許せなくてね。
それで代わりにワーグナーにもう一度辛い修行をしてもらいたかったんだ」
リヒャルト・シュトラウス「ええそれが本音?」
リスト「しかしあいつ、現世の時と同じで、こっちでも逃げ足が速いんだよな」
ブラームス「なかなかうまくいかないものですね」
―そこへヨハン・セバスチャン・バッハがワインバーに入って来た―
バッハ「ごめんごめん。送れちゃった。おや 皆さんお取り込み中の様ですな」
ブラームス「あっ 大バッハ先生!どうぞどうぞこちらへ」
バッハ「一体何があったんだい」
リスト「それが、ベートーヴェン先生が もう一生まれ変わって修行せよと、
ミューズ神様に現世へ飛ばされてしまったのです」
リヒャルト・シュトラウス「ふふつ 『ミューズ神様』だって
さっきは『ミューズ』なんて呼び捨てにしてたくせに」
ブラームス「しっ 声が大きすぎるぞ」
―リストがバッハにワインバーでの出来事を詳しく話した―
バッハ「なるほど、にベートーヴェンは言葉づかいが悪く、酒に酔っていた訳だが、
それだけなら確かに犯罪ではない、しかしワーグナーが現世で犯したことは
犯罪の近いと言いたいのだね」
リスト「その通りです」
バッハ「しかしこんな事があった。よく聞いてくれ、もう200年以上も前の事だ。
私はヨハン・セバスチャン・バッハとして人生を終えたあと、私の作品に対して
ドイツ人がどのような評価をするか静観していた。しかしだ、
いっこうに良い評価は得られす、『単なる数学に過ぎない』
などと酷評されてばかりだった。それがくやしくて、『もう一度生まれ変わって、
自分で作品を再評価し、世の中に認めさせたい』
と思い、ミューズ神に懇願したのだ」
ブラームス「それで、上手く行ったのですか」
バッハ「いやあ、なかなか大変だったね、何せ『マタイ受難曲』を復活再演するには
相当お金がかかる、だから金持ちに生まれる必要があった。
そこでメンデルスゾーン家を選んだのだ」
スメタナ「えっ するとフェリックス・メンデルスゾーンさんは
大バッハ先生の生まれ変わり!
そうか、知らなかったなあ」
バッハ「いかにも、しかしメンデルスゾーン家に生まれる為には、
交換条件が必要だった」
ブラームス「交換条件?と言うと?」
バッハ「短命であると言う事だ」
リスト「どうしてそれが交換条件なんですか?」
バッハ「金持ちに生まれるとどうしても優遇されがちな人生になる。
ヨハン・セバスチャン・バッハの作品の再評価に成功したら、
良い事づくめの人生になる可能性が大きいからな。その代償が『短命』なのだよ」
ブラームス「それでご自身はどうなんです?良い人生でしたか」
バッハ「ああ、満足だ。何せ私はヨハン・セバスチャン・バッハと
フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディと言う二人の偉大な作曲家の人生が
経験できたのだからな。もうこれ以上何も望まない」
ブラームス「それは良かった!」
バッハ「ミューズ神は印象と違って本当は心の優しい神なんだ。
私は自分の経験を通してそう思ったよ。
だからリスト君、先ほど君はミューズ神の判断は間違っていると言っていたが、
それは正しくないかもしれないぞ」
リスト「えっ それはどう言う事ですか」
バッハ「『もしかすると』だが、ベートーヴェンにはまだやっていないと言うか、
作曲家として現世でやり残した事があるのじゃないのかな?」
チェルニ―「さあ どうでしょう ないと思いますが…」
バッハ「いや多分本当はあるのだ。ミューズはそれを感じ取り、
『音楽界を正しく導け』、と一緒に
『やり残したことを成し遂げろ』と言いたかったのではないかな?」
リスト「なるほど、可能性はあるかも知れませんね。
しかし大バッハ先生は本当に心優しい方ですね」
バッハ「当然だ、このページの執筆者は日本人、日本語で書かれている。
従って読むのは殆どが日本人。
日本人ってのは何でも許す寛大な心を持った人物が好きだからな
それにどんな人でも善人にしたがる。だからさ」
リスト「ええっ!そんな理由ですかあ?」
リヒャルト・シュトラウス「ふふつ 好好爺を演じるんだったら
ハイドンさんの方が適役だと思うけどな」
ブラームス「しっ 小声でしゃべれったら」
バッハ「ところで皆聞いてくれ、ベートーヴェン君は、
つい先ほど修行の為に現世へ旅立った。
これから生まれ変わって人生を歩むのも困難が多いだろう。そこで君たちの中の誰か
いつもベートーヴェン君のそばで手助けしてみないか?」
スメタナ「手助け、と言うとまた誰かがベートーヴェンの近くで
生まれ変わるのですか?」
バッハ「違う違う、生まれ変わるのではない。
今のままの状態で行って良いのだから、
その気になればいつでもこちらへ戻ってこられるさ」
リスト「そうか、では私が行きます。何と言っても私はベートーヴェン先生に
褒められた事があるし、先生が生まれ変わってからも、
ピアノの演奏では苦労しない様に、いつでもそばで手助けします」
バッハ「良い心がけだ」
ブラームス「私も行きます。ベートーヴェン先生はドイツ人です。
どの国に生まれても伝統と誇りを忘れずに、ドイツの作曲法に根差した作品を
作って頂きたい。私もおそばでお手伝いします」
バッハ「なるほど、確かにそれも良いだろう。私も賛成する。
ところで二人だけか?他にいないのか?」
シューベルト「あの~」
リスト「うわっ! びっくりした! シューベルトさんじゃないですか。
いつからいらしたのですか?気が付きませんでした」
シューベルト「えーと 番組が始まった頃かな」
ブラームス「番組が始まった頃! もう2時間位前ですよ!
どうして何もお話し下さらなかったのですか?」
シューベルト「いやなんだか恥ずかしいと言うか、その あの」
ブラームス「我々の大先輩なんだから、もっとしっかりしてくださいよ」
バッハ「まあ良いじゃないか。人はそれぞれだ。ところで
シューベルト君もベートーヴェンを手助けしたいのだね?」
シューベルト「はい。ベートーヴェン先生は必ずしもメロディーを作るのが
得意ではありませんでした。だから今回は良い機会ですので、
いつも先生のおそばにいて、メロディーを作るのに苦労なさらない様に
お手伝いしたいのです」
バッハ「なるほど。それは大変良い心がけだな。是非君も行きたまえ」
リスト「では二人とも、用意は良いかな?では大バッハ先生 我々は今から出発します」
―そしてリスト、ブラームス、シューベルトの三人は姿を消した―
チェルニ―「あーあ 行っちゃった
でも三人ともすぐこっちに戻ってこられるから良いか」
バッハ「さあて、私もこれで失礼するか」
マーラー「ええっ もうお帰りですか?久しぶりにお会いできたのに。
もっとお話ししましょうよ」
バッハ「残念ながら、そうはいかない、私も忙しいんだ。リヒャルト・ワーグナーを
探し出したいのでね」
リヒャルト・シュトラウス「リヒャルト・ワーグナー!また どうして?」
バッハ「あの男は 自分の著書でユダヤ人を非難した。それだけでは無い
メンデルスゾーンの作品さえも貶したんだぞ」
ジョン刑事「え―と、調べてみますね…。あ本当だ。こりゃひどいな」
バッハ「あいつは、現世にいた時も逃げ足が速かった。
しかしこちらの世界に来たらきっと変わるだろうと高を括って待っていたら
とんでもなかった。捕まらないのなんの」
チェル二―「じゃあさっき遅れてこのワインバーにお見えになったのも…」
バッハ「お察しの通り!ワーグナーを探していたのだよ。
100年以上探しても捕まらない」
スメタナ「100年!また100年かい!」
マーラー「そう言えばさっきリストさんも同じ事を仰ってましたね
『ワーグナーは逃げ足が速かった』とか」
バッハ「ふふ、しかしワーグナーを捕えるのはリストでは無い!この私だ!
先にリストに捕まえられちゃ私も釈然としないからな。
だからあまり邪魔されないようにリストにベートーヴェンのそばへ行かせた。
ワーグナーは必ずこの私が捕まえる。
ああ 誰か霊界用のGPSを開発してくれ!開発してくれれば
それをあの男の頭蓋骨に埋め込んでやるんだが…」
リヒャルト・シュトラウス「待って下さい 大バッハ先生、さっきあなたは
『もうこれ以上何も望まない』と仰ったじゃありませんか」
バッハ「確かに何も望まない。しかし恨みはある」
マーラー「うわあ これが大バッハ先生の本性?こわいなあ」
リヒャルト・シュトラウス「じゃあ本当に『好好爺』を演じていらしたのですね?」
バッハ「そうだ、当然演じていた。今のが本音だ。
君たちは私の演技を見抜けなかったのか?修行が足りないな。
一体こちらの世界に来て何年経つ?
お望みとあらば、あのじゃじゃ馬女のミューズ神に頼んでやるぞ」
マーラー「じゃ、じゃじゃ馬女?」
バッハ「あの女はじゃじゃ馬だ、本当は優しさのかけらもないぞ。どうだ君たち、
もう一度現世へ行って生まれ変わると良い。せいぜいまた辛い人生を送るんだな」
マーラー「そ、それだけはご勘弁を」
リヒャルト・シュトラウス「では、私たちはこれで帰ります」
ジョン刑事「やっぱり人間っていくら天才でも生まれ変わらないと、
こんなに恨みが残るんだ。さ、さようなら」
―Part 7へつづく―
2015年8月7日
このページ全体または一部の無断転記及び転載を禁じます
―ここはインタビュー室近くのワインバー。
今日番組に出演した作曲家が一堂に会している。
皆久しぶりに再会したので楽しい会話がはずんでいる―
ヨハン・シュトラウス2世「ねえねえ、知ってる?絶対音感を持っている作曲家が
晩年になって、音が半音高く聴こえる事が多いでしょう?
あれって前世での音感の記憶が蘇るからなんだって」
ブラームス「へえ そうなんですか。なるほどね。20世紀に入ってから
国際標準ピッチが定められましたからね。その時少し高くなった。有りえますね」
ヨハン・シュトラウス2世「でも原因はまだ不明らしいよ」
ブラームス「そりゃ困りましたね。君には分かる?デブッシ―君」
ドビュッシー「私はデブッシ―じゃありません。ドビュッシーです。
ローマ字式に読まないで下さい!」
ブラームス「分かった 分かってるって、デブッシ―君」
ドビュッシー「だから違うったら!もう、
それならショパンもチョピンって呼べっつーの」
パガニーニ「ロッシーニ君はこちらの世界でも相変わらずグルメだね」
ロッシーニ「ありがとうございます、どこへ行っても食事は楽しいですからね」
ヴェルディ「ロッシーニさんは近々グルメ本を出版されるとお聞きしましたが…」
ロッシーニ「出版の予定はあるが、グルメの本では無いよ。
調味料の『お酢』についての本だ。ちょっと内容的には固い感じの本になってしまった」
プッチーニ「へえ、何て言うタイトルの本ですか」
ロッシーニ「『癖なき酢』だ」
グスタフ・マーラー「皆久しぶりだね、今夜は親友のリヒャルト・シュトラウスも
呼んでおいたから、もうすぐ来るはずですよ」
ブラームス「リヒャルト・シュトラウスか!久しぶりだな、会うのが楽しみだ」
―そこへリヒャルト・シュトラウスが現れた―
リヒャルト・シュトラウス「皆さんお久しぶりです。お元気でしたか?」
ブラームス「リヒャルト・シュトラウス君 久しぶりだね」
リヒャルト・シュトラウス「本当にお久しぶりですね、ブラームス先輩の第4交響曲の
初演に参加できたのは、私にとって非常に有意義な出来事でした。
今でも鮮明に覚えています。楽しかったなあ」
ブラームス「そうだね。あれはいつの事だったっけ」
リヒャルト・シュトラウス「もう130年位前の事ですよ」
ブラームス「そうか、そんなに経つか。懐かしいなあ。
ところで、今日の番組の主役のベートーヴェン先生には、
こちらの世界で会ったのだろう?」
リヒャルト・シュトラウス「はい会いました。私が1920年代に録音した
先生の第5と第7交響曲の録音を非常に褒めて下さいました」
ブラームス「ほう、どんな風に褒められたんだい?」
リヒャルト・シュトラウス「ええ『さすが一流の作曲家だ、
こんなに不満足な録音なのに、作品の構造原理が明確に分かる。
是非この正しい解釈を後世にも伝えてくれ』と言って下さいました。
グスタフ・マーラー「僕も褒められたよ、先生の交響曲の僕の改訂版の事を御存じでね。
実はあの改訂版は『ロマン主義的なマーラーの主観による勝手な変更であって、
ベートーヴェンの意思に反すると』評価されがちだったのだけど、
曲が作曲された当時とは違う私が生きていた当時の楽器の性能や、
ホールの大きさを考えて改訂したのであり、
むしろ私の改訂版の方が原作者の意図に近いのだとちゃんと理解してもらえましたよ」
リスト「なるほど、ボクも褒められた。僕の場合は現世で、主にピアノの演奏を、
だけどね。やっぱり偉大な先輩に褒めてもらえるのは向こうの世界でも、
こっちの世界でも同じ様に嬉しいな」
スメタナ「そうですよね、やっぱりベートーヴェン先生は本当に音楽の本質を
理解していらっしゃる、偉大な方ですよ」
フォーレ「ところでそのベートヴェン先生は、今日いらっしゃらないのですか?」
リスト「いや、先に行っておくと仰ってたから、
とっくにここに着いているはずなんだか…」
ジョン刑事「あれえ、向こうがなんだか妙に騒がしいな…
あれっ、あの人ベートーヴェンさんじゃないですか?」
リスト「本当だ、ベートーヴェン先生だ、行ってみよう。皆も来るかい」
―リストがそう言うと、全員が立ち上がり、ベートーヴェンの居る方へ歩き出したー
―ベートーヴェンはと言うと、どうやら既にワインをたらふく飲んでいて、
すっかりできあがっている様である。
そしてまるで政治家の遊説の時の様に演説している-
ベート―ヴェン「ウ―イ、で私のイ長調交響曲はと言うと、今では、
現世で古今東西の交響曲の中でも大名曲と言われているのであります。
しかも、しかもですよ ヒック あの『音楽には全て曲名が付いている』
と思い込んでいる。また曲名がないと有名にならない。
そう 『カノン』を曲名だと思い込んでいる、
あのおバカてんこ盛りの、猿に近い人種日本人の間でも、あ い だ で も~
ヒック 今では良く知られているのであります。
(と言う事は 執筆者も日本人だから 私も猿に近いのが、WOW!)
それで え―と 最近あの曲が取り上げられたマンガは何だったかな?ヒック。
あっ そうそう思い出した 『なだめカンタービレ』!」
周りの若いお客さん「違いまーす」
ベート―ヴェン「えっ!違う?えーと、『な』の次は『に』… と…」
周りの若いお客さん「うん」
ベート―ヴェン「その次は『ぬ』」
周りの若いお客さん「うん」
ベート―ヴェン「さらにその次は『ね』だから…」
周りの若いお客さん「うん、うん」
ベート―ヴェン「分かった『ねだめカンタービレ』!」
周りの若いお客さん「違いまーす。惜しい!」
ベート―ヴェン「えっ! あっ ごめんごめん『さだめカンタービレ』だった!」
周りの若いお客さん「違いまーす。ははは」
一人の女性客「いやだ、もう」
一人の男性客「からのー」
ベート―ヴェン「えっ え―と ペットボトル!」
周りの若いお客さん「からのー」
ベート―ヴェン「弁当箱!」
周りの若いお客さん「からのー」
ベート―ヴェン「お前らの脳みそ!」
周りの若いお客さん「ハハハハ」
シャミナード「うける、超うける」
バダジェフスカ「うざっ こいつら 馬鹿か!」
リスト「あーあ ベートーヴェン先生、あんなに酒癖悪かったかな?」
チェル二―「いやいや そんな事無かったと思うよ。
こちらの世界に来てからじゃないかな?」
フォーレ「それにしても、あんなに飲んで大丈夫かな?」
スメタナ「何言ってるんだ、こちらの世界じゃ大丈夫に決まってるだろう」
フォーレ「あっ そうか すっかり忘れてた」
全員「はははは」
―皆が笑っていると、突然明るい光が差し込んできた―
サン・サーンス「うわっ 眩しい」
ブラームス「あっ あの人は ミューズ神様!」
―突然現れたミューズの女神は、歩いてベートーヴェンに近づく―
ミューズ「ベートーヴェン、ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン!」
ベートーヴェン「えっ 誰? あっ ミューズ?」
ミューズ「そうよ、覚えてる?」
ベートーヴェン「覚えてます。覚えてますよ。覚えてますとも」
ミューズ「あなたは生前ワインの飲み過ぎで耳の病になったのよ。
それだけじゃない、最終的にはワインが原因で寿命を縮めてしまったの。
分かってんの?」
ベートーヴェン「分かってますよーだ」
ミューズ「だったら どうして今でもワインを飲み続けるの?」
ベートーヴェン「だってこっちの世界じゃ、
何をいくら飲んでも病気になんないじゃん」
ミューズ「そりゃそうだけど、あなたの今のその醜態な何?みっともないわよ」
ベートーヴェン「いいえ、みっともある。ありますよーだ」
ミューズ「あなた、ふざけてるの?」
ベートーヴェン「ふざけてません。ふざけてませんとも。
ふざけてませんよーだ。みゅーうータン」
ミューズ「みゅ、みゅうタン?」
ベートーヴェン「そう、君はみゅうタン、そうだ挨拶を忘れてた。
おっひさー、おげんこー」
―と言ってベートーヴェンはミューズ神に近づき、抱きつこうとする―
ミューズ「離れなさい、このド変態」
―ピシャ! ミューズの平手打ちがベートーヴェンの頬に命中―
ベートーヴェン「殴ったね。はははは」
ミューズ「馬鹿にしてんの?もう一発欲しいの?だったら行くわよ」
―ピシャ! ミューズの平手打ちがベートーヴェンの頬に再度命中―
ベートーヴェン「2度もぶった。親父にもぶたれた事無いのに。
はははは はーはははは。マチルダさーん」
―そう言うとベートーヴェンはもう一度ミューズに近づこうとするー
ミューズ「『マチルダさん』じゃないでしょう。うーん もう いい加減にしなさい」
―グワシャ! バキッ! ミューズ神の見事な右ストレートがさく裂―
それを顔面にまともに食らったベートーヴェンは我にかえり、
ミューズの前に跪き、首を垂れる―
ベートーヴェン「どうもすいません」
ミューズ「やっと酔いが醒めた?」
ベートーヴェン「はい、なんとか」
ミューズ「ところでルートビヒ・ファン・ベートーヴェン
あなたは以前生まれ変わった時の事を覚えていますか?」
ベートーヴェン「はい。覚えています。
私は自分のクラヴィ―ア作品の正しい解釈を現世に伝えたくて、
アルトゥール・シュナーベルとして生まれ変わりました」
ブラームス「そうか、知らなかった、どうりでシュナーベルは
ベートーヴェン先生の作品の解釈に優れていた訳だ」
ベートーヴェン「そして、自分のクラヴィ―ア・ソナタ全曲の世界初の
レコーディングを実現できました。感謝致しております」
ミューズ「しかし、ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン、
今の音楽界ではあなたが伝えようとした正しい解釈が行き渡っていますか?」
ベートーヴェン「いいえ、残念ながら本当に理解しているのは
ごく一部の音楽家のみです」
ミューズ「それと 優れた作曲家は背出していますか?」
ベートーヴェン「全くいないのが現状でしょう」
ミューズ「そうね、ではなぜ、何が原因で正しさが伝わらないのでしょう?」
ベートーヴェン「人間の本性でしょう、個人的な都合だけで自分は正しいと、
どうしても言いたい、そして皆私利私欲に満ちている」
ミューズ「それだけ?」
ベートーヴェン「音楽家の怠慢も原因の一つだと思います、勉強だけして、
『感じる』事をすっかり忘れている」
ミューズ「では、もう一度あなたが生まれ変わって音楽界を正しく導きなさい」
ベートーヴェン「ええっ また? では今度も、
ドイツ語圏のオーストリアかドイツですか?」
ミューズ「いいえ、違います」
ベートーヴェン「では、先祖の国オランダ? イギリス? フランス?
まさかロシア?」
ミューズ「いいえ、それも違います。東洋です」
ベートーヴェン「東洋?あんなところに生まれ変わって何をせよと仰るのですか?
芸術文化なんて未だに全く浸透していないでしょう?」
ミューズ「いいですか、ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン、よくお聴きなさい。
芸術も文化も時間がたてば、やがて形骸化し、どんどん本質が失われて行きます。
ですから もし今ドイツやオーストリアで生まれたら、
あなたは成長期に周囲の形骸化した価値観に
影響され、かえって芸術の真実が見えなくなります。
アルトゥール・シュナーベルとして生まれ変わった時は、
まだ形骸化がさほど進んでいなかった。
そして母国語がドイツ語である事も必要条件だったのです。分かりましたね」
ベートーヴェン「分かりました。仰る事を受け入れるしかありませんね。
では東洋のどの国に?」
ミューズ「あなたが言った『おバカてんこ盛りの、
猿に近い人種』が住んでいる日本です」
ベートーヴェン「日本!まさかあの日本」
ミューズ「そうです」
ベートーヴェン「あの、未だに個人主義のかけらもない日本?」
ミューズ「そうです」
ベートーヴェン「年功序列の日本?」
ミューズ「そうです」
ベートーヴェン「事なかれ主義の日本?」
ミューズ「そうです」
ベートーヴェン「全体主義の日本?」
ミューズ「そうです」
ベートーヴェン「いやだいやだ、あんな国に生まれたって、私は自分の
能力を発揮できる訳がない」
ミューズ「いいえ、あなたならできます、困難を克服するのも修行です。
お行きなさい」
―そう言うとミューズは手を大きく動かした―
ベートーヴェン「うわーっ 助けてくれ」
ブラームス「ああ、どうしよう。ベートーヴェン先生飛ばされちゃった」
スメタナ「また辛い一生を送るのかな?今度は耳の病気にはならない様に
してくれたのかな?」
リスト「いくらなんでもひどいな。よし私が掛け合って来る
今ならまだ間に合うかも知れない」
―そう言うとリストは急ぎ足でミューズに近づく―
リスト「ミューズ、ミューズ」
ミューズ神「あらフランツ、あなたここに居たの?」
ブラームス「なんだい、あの言葉づかい? あの二人随分親しそうだな」
リスト「久しぶりだね、寂しかったかい?」
―そう言ってリストはミューズを抱きしめる―
ミューズ神「ううん、ちっとも、だってこっちの世界じゃ100年や200年、
人を待つのは普通ですもの。それにしても相変わらず良い男ね、
女神である私を虜にできるイケメンは、神々の世界でも誰もいないわ、
人間のあなただけよ」
リヒャルト・シュトラウス「イケメンはどんな世界でも持てるんだな。
僕は恐妻家だったからな、あんな光景を見ると羨ましいよ」
ブラームス「私は失恋もしたし、生涯結婚はできなかった。全く彼が羨ましい」
リスト「ところでミューズ、今ベートーヴェン先生を現世に飛ばしただろう」
ミューズ神「そうよ。もう一度生まれ変わって修行してもらおうと思って」
リスト「それなんだけど、やりすぎじゃないかな?生まれ変わるとしたら
今度はベートーヴェン先生にとってもう三回目なんだろう」
ミューズ神「何それ、どう言う意味?」
リスト「良く考えてみてくれ、もし先生のこちらでの素行が悪くて修行させるのなら、
リヒャルト・ワーグナーの方がよっぽど問題が多いんじゃないか?」
ミューズ神「何よそれ、何が言いたいの」
リスト「君も知っているだろう?リヒャルト・ワーグナーは借金を踏み倒して
国外へ逃亡した。人様の女房を寝取った事もある。それだけじゃない、
政治犯として指名手配されていた事もあったんだ。
今の世の中じゃ犯罪者だぞ。修行させるのなら、
むしろワーグナーの方を選ぶべきじゃないかな?」
ミューズ神「じゃあ あたしの判断が間違ってるって言うの?」
リスト「いや、そうは言ってない、もう一度良く考えてから行動しても
良かったんじゃないかと言ってるんだよ」
ミューズ神「やっぱりあたしの事非難してるじゃない!あんたって最低!」
―と言ってミューズ神は突然姿を消した―
ブラームス「リストさん、やられましたな」
リスト「いやあ まいった 女神さまも人間の女の子とちっとも変らないな、
神であれ、人間であれ 女の子ってのは本当に扱いにくい」
ブラームス「でもリストさんは、生前恋愛に関してはかなり奔放だったと
聞いていますよ」
リスト「でもねえ、現世とこっちの世界とではなんだか勝手が違うんだよな」
チェル二―「まあともかく、ベートーヴェン先生じゃなく、
ワーグナーを修行に行かせるべきだと考えたのは、私も正しいと思うよ」
リスト「いや実はね、娘のコジマを寝取った事がどうしても許せなくてね。
それで代わりにワーグナーにもう一度辛い修行をしてもらいたかったんだ」
リヒャルト・シュトラウス「ええそれが本音?」
リスト「しかしあいつ、現世の時と同じで、こっちでも逃げ足が速いんだよな」
ブラームス「なかなかうまくいかないものですね」
―そこへヨハン・セバスチャン・バッハがワインバーに入って来た―
バッハ「ごめんごめん。送れちゃった。おや 皆さんお取り込み中の様ですな」
ブラームス「あっ 大バッハ先生!どうぞどうぞこちらへ」
バッハ「一体何があったんだい」
リスト「それが、ベートーヴェン先生が もう一生まれ変わって修行せよと、
ミューズ神様に現世へ飛ばされてしまったのです」
リヒャルト・シュトラウス「ふふつ 『ミューズ神様』だって
さっきは『ミューズ』なんて呼び捨てにしてたくせに」
ブラームス「しっ 声が大きすぎるぞ」
―リストがバッハにワインバーでの出来事を詳しく話した―
バッハ「なるほど、にベートーヴェンは言葉づかいが悪く、酒に酔っていた訳だが、
それだけなら確かに犯罪ではない、しかしワーグナーが現世で犯したことは
犯罪の近いと言いたいのだね」
リスト「その通りです」
バッハ「しかしこんな事があった。よく聞いてくれ、もう200年以上も前の事だ。
私はヨハン・セバスチャン・バッハとして人生を終えたあと、私の作品に対して
ドイツ人がどのような評価をするか静観していた。しかしだ、
いっこうに良い評価は得られす、『単なる数学に過ぎない』
などと酷評されてばかりだった。それがくやしくて、『もう一度生まれ変わって、
自分で作品を再評価し、世の中に認めさせたい』
と思い、ミューズ神に懇願したのだ」
ブラームス「それで、上手く行ったのですか」
バッハ「いやあ、なかなか大変だったね、何せ『マタイ受難曲』を復活再演するには
相当お金がかかる、だから金持ちに生まれる必要があった。
そこでメンデルスゾーン家を選んだのだ」
スメタナ「えっ するとフェリックス・メンデルスゾーンさんは
大バッハ先生の生まれ変わり!
そうか、知らなかったなあ」
バッハ「いかにも、しかしメンデルスゾーン家に生まれる為には、
交換条件が必要だった」
ブラームス「交換条件?と言うと?」
バッハ「短命であると言う事だ」
リスト「どうしてそれが交換条件なんですか?」
バッハ「金持ちに生まれるとどうしても優遇されがちな人生になる。
ヨハン・セバスチャン・バッハの作品の再評価に成功したら、
良い事づくめの人生になる可能性が大きいからな。その代償が『短命』なのだよ」
ブラームス「それでご自身はどうなんです?良い人生でしたか」
バッハ「ああ、満足だ。何せ私はヨハン・セバスチャン・バッハと
フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディと言う二人の偉大な作曲家の人生が
経験できたのだからな。もうこれ以上何も望まない」
ブラームス「それは良かった!」
バッハ「ミューズ神は印象と違って本当は心の優しい神なんだ。
私は自分の経験を通してそう思ったよ。
だからリスト君、先ほど君はミューズ神の判断は間違っていると言っていたが、
それは正しくないかもしれないぞ」
リスト「えっ それはどう言う事ですか」
バッハ「『もしかすると』だが、ベートーヴェンにはまだやっていないと言うか、
作曲家として現世でやり残した事があるのじゃないのかな?」
チェルニ―「さあ どうでしょう ないと思いますが…」
バッハ「いや多分本当はあるのだ。ミューズはそれを感じ取り、
『音楽界を正しく導け』、と一緒に
『やり残したことを成し遂げろ』と言いたかったのではないかな?」
リスト「なるほど、可能性はあるかも知れませんね。
しかし大バッハ先生は本当に心優しい方ですね」
バッハ「当然だ、このページの執筆者は日本人、日本語で書かれている。
従って読むのは殆どが日本人。
日本人ってのは何でも許す寛大な心を持った人物が好きだからな
それにどんな人でも善人にしたがる。だからさ」
リスト「ええっ!そんな理由ですかあ?」
リヒャルト・シュトラウス「ふふつ 好好爺を演じるんだったら
ハイドンさんの方が適役だと思うけどな」
ブラームス「しっ 小声でしゃべれったら」
バッハ「ところで皆聞いてくれ、ベートーヴェン君は、
つい先ほど修行の為に現世へ旅立った。
これから生まれ変わって人生を歩むのも困難が多いだろう。そこで君たちの中の誰か
いつもベートーヴェン君のそばで手助けしてみないか?」
スメタナ「手助け、と言うとまた誰かがベートーヴェンの近くで
生まれ変わるのですか?」
バッハ「違う違う、生まれ変わるのではない。
今のままの状態で行って良いのだから、
その気になればいつでもこちらへ戻ってこられるさ」
リスト「そうか、では私が行きます。何と言っても私はベートーヴェン先生に
褒められた事があるし、先生が生まれ変わってからも、
ピアノの演奏では苦労しない様に、いつでもそばで手助けします」
バッハ「良い心がけだ」
ブラームス「私も行きます。ベートーヴェン先生はドイツ人です。
どの国に生まれても伝統と誇りを忘れずに、ドイツの作曲法に根差した作品を
作って頂きたい。私もおそばでお手伝いします」
バッハ「なるほど、確かにそれも良いだろう。私も賛成する。
ところで二人だけか?他にいないのか?」
シューベルト「あの~」
リスト「うわっ! びっくりした! シューベルトさんじゃないですか。
いつからいらしたのですか?気が付きませんでした」
シューベルト「えーと 番組が始まった頃かな」
ブラームス「番組が始まった頃! もう2時間位前ですよ!
どうして何もお話し下さらなかったのですか?」
シューベルト「いやなんだか恥ずかしいと言うか、その あの」
ブラームス「我々の大先輩なんだから、もっとしっかりしてくださいよ」
バッハ「まあ良いじゃないか。人はそれぞれだ。ところで
シューベルト君もベートーヴェンを手助けしたいのだね?」
シューベルト「はい。ベートーヴェン先生は必ずしもメロディーを作るのが
得意ではありませんでした。だから今回は良い機会ですので、
いつも先生のおそばにいて、メロディーを作るのに苦労なさらない様に
お手伝いしたいのです」
バッハ「なるほど。それは大変良い心がけだな。是非君も行きたまえ」
リスト「では二人とも、用意は良いかな?では大バッハ先生 我々は今から出発します」
―そしてリスト、ブラームス、シューベルトの三人は姿を消した―
チェルニ―「あーあ 行っちゃった
でも三人ともすぐこっちに戻ってこられるから良いか」
バッハ「さあて、私もこれで失礼するか」
マーラー「ええっ もうお帰りですか?久しぶりにお会いできたのに。
もっとお話ししましょうよ」
バッハ「残念ながら、そうはいかない、私も忙しいんだ。リヒャルト・ワーグナーを
探し出したいのでね」
リヒャルト・シュトラウス「リヒャルト・ワーグナー!また どうして?」
バッハ「あの男は 自分の著書でユダヤ人を非難した。それだけでは無い
メンデルスゾーンの作品さえも貶したんだぞ」
ジョン刑事「え―と、調べてみますね…。あ本当だ。こりゃひどいな」
バッハ「あいつは、現世にいた時も逃げ足が速かった。
しかしこちらの世界に来たらきっと変わるだろうと高を括って待っていたら
とんでもなかった。捕まらないのなんの」
チェル二―「じゃあさっき遅れてこのワインバーにお見えになったのも…」
バッハ「お察しの通り!ワーグナーを探していたのだよ。
100年以上探しても捕まらない」
スメタナ「100年!また100年かい!」
マーラー「そう言えばさっきリストさんも同じ事を仰ってましたね
『ワーグナーは逃げ足が速かった』とか」
バッハ「ふふ、しかしワーグナーを捕えるのはリストでは無い!この私だ!
先にリストに捕まえられちゃ私も釈然としないからな。
だからあまり邪魔されないようにリストにベートーヴェンのそばへ行かせた。
ワーグナーは必ずこの私が捕まえる。
ああ 誰か霊界用のGPSを開発してくれ!開発してくれれば
それをあの男の頭蓋骨に埋め込んでやるんだが…」
リヒャルト・シュトラウス「待って下さい 大バッハ先生、さっきあなたは
『もうこれ以上何も望まない』と仰ったじゃありませんか」
バッハ「確かに何も望まない。しかし恨みはある」
マーラー「うわあ これが大バッハ先生の本性?こわいなあ」
リヒャルト・シュトラウス「じゃあ本当に『好好爺』を演じていらしたのですね?」
バッハ「そうだ、当然演じていた。今のが本音だ。
君たちは私の演技を見抜けなかったのか?修行が足りないな。
一体こちらの世界に来て何年経つ?
お望みとあらば、あのじゃじゃ馬女のミューズ神に頼んでやるぞ」
マーラー「じゃ、じゃじゃ馬女?」
バッハ「あの女はじゃじゃ馬だ、本当は優しさのかけらもないぞ。どうだ君たち、
もう一度現世へ行って生まれ変わると良い。せいぜいまた辛い人生を送るんだな」
マーラー「そ、それだけはご勘弁を」
リヒャルト・シュトラウス「では、私たちはこれで帰ります」
ジョン刑事「やっぱり人間っていくら天才でも生まれ変わらないと、
こんなに恨みが残るんだ。さ、さようなら」
―Part 7へつづく―
2015年8月7日
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