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XPS装置の管理&利用

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◆ Youtube動画:
◇ PHI5600
・XPS: https://www.youtube.com/watch?v=83NlvPQO_jY&list=PLYoIKHKPkcsGHGcOl29r99RGRo_zJ-4V6

◇ PHI5600 + UV source (prevac)
・UPS: https://www.youtube.com/watch?v=crLMGcnh4BU&list=PLYoIKHKPkcsHeV-jgiyKoZtdKCDTXWq1C

Fig. PHI5600 + UV source (prevac)を用いて得られたArイオンスパッタ後のCuのフェルミ端近傍の電子状態密度分布(DOS)
 300 Kではフェルミディラック(FD)分布(KBTに関係する)のエネルギー幅が約100-200 meV近くになるので、常温での測定ではPass Energy (PE) = 5.85で良い。それ以上PEを小さくしてもFD分布でのエネルギー幅が約100-200 meVなのでPEを小さくする意味がない。PE=2.95はS/N比も悪いので再測定の必要がある。各データは概ね8時間測定しているが、PEが低くなるほど得られる強度が弱くなっているだけでなく、徐々にPEを下げて行くように測定していたのでPEが小さいデータは光源が汚れて光が弱くなっている可能性がある(PE=11.75では綺麗だったビューポートがPE=2.95では真っ黒で紫外光が見えていない)。


Fig. Cuの価電子帯のDOS
 常温ではPE=2.95はフェルミディラック分布の点からから考えると、あまり意味がないのであるが、測定中に明確なノイズの影響を観測したので示している。約0.7 eV近傍に明らかなピークが見える。これは同じ部屋で使っているレーザーフラッシュ装置のレーザーを照射したときに見られたものである。レーザー照射時に音がなる仕組みなので原因が判明した。その他、部屋の直ぐ外に設置してあるコンセントを利用してアークをすると、そこから発生するノイズでMCPがオーバーフローを示す。このような結果から、XPSやUPSの装置の利用においては、外部からのノイズの低減が非常に重要であるということが言える。ノイズが1割でも減れば、測定時間は1/(1.1*1.1)=0.83倍、つまり2割短縮される。
 UPS光源を安定に利用するのは難しいが、XPSならば帰りに測定をかけて一定時間後に自動で測定を止めることも可能であるため、ミッドナイトの測定を試みるもの良いだろう。ただし、長時間の測定をすると装置が熱くなるため、装置の温度と部屋の温度が高くならない様に注意して欲しい。
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◆ XPS測定の情報
・チャージアップは各位置で異なることもある
・チャージアップした試料の信号強度の面積は同じ
・試料が汚れているとAl KalphaではB.E.=1400 keVでバックグラウンドが高くなっていかず、逆に低くなっていくことがある
・作製した試料でClが検出されてる場合は、試料作製に用いた電気炉を王水で洗うと無くなることがある
・Cl, Na, S, Kなどは人体からの物である可能性もある。KClを使っている場合はそういった試料作製プロセス由来であることを考慮することが必要
・表面の凸凹がはげしいと強度が弱く、BGが上がる
・粉末を扱うには、薬包紙に「インジウム 2-3mm, 99.99%, 粒、 ニラコ」を挟んで潰して円板にし、さらに、そのインジウムの上に測定する粉末を載せてプレスする。表面の余分な粉は薬包紙にくっつく
 TMPでシンク引きし、温度を200℃程度まで上げてからXPS装置に入れる。そうしないと10^-8 Pa台にはなかなか入らない。
 粉体を上記のように扱わないと、シールを破壊してしまうし、トランスファーロッドも動きが悪くなる(ガリガリする)。
 インジウムは強度が強いことも覚えておくと良い。In2O3として信号が検出されることも
・Si 2p3/2とSi 2p1/2のエネルギー差は0.6 eVなので注意。ピーク分離をする場合にはこのことを考量することが必要。
・導通には銅テープ[星和電機 E13CA 1020, SP11025002]を用いると良い。ガスの出も小さい。ファラデーカップの中心の穴を避けて、その周りに金、銀、銅、Siの板をこの銅テープで貼り付け、アナライザーの位置出しや仕事関数、エネルギー校正に用いればよい。
・C60を用いたスパッタはは有機物の試料に対して有利(ポリエチレンなどでガラスの変質が防げる)であるが、利用には前日から準備が必要
 C60入れる > 250℃(2h) > 350℃(2h) > 380℃(2h):イオン化 > スパッタ
 1週間は250℃保持はOK, 350℃だと1日が限界
・モニタはピントが合っているところが明るく、ピントが合っていないところは暗い
・プロファイル(深さ分析)はエッチングレートを出すために40 cycle必要であると言われる
 強度が50%になるところを界面とする
・SiO2 25nm, 100nmのものが販売されている
・Arイオンスパッタの条件
 自然酸化膜:約3min, 0.5kV, 2x2mm, 30-40秒
  4 kV, 2x2 nm, 数nm-数十nm/minとなる
 通常は、2kV(深さ分析), 0.5kVも良い
・Arイオンスパッタでは、Ni, Fe, Cu, Tiの金属の酸化物はスパッタで変質する
 表面のハイドロカーボンはすぐなくなる
 Zala機構があるとよいスパッタは良くなる
・Work Functionの調整は、年に1回、メーカーにまかせている
・部屋の温度は20℃±5℃、25-26℃くらいで良い
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◇ 検出深さ
 検出した全信号強度の90%, 95%に相当する深さはそれぞれ非弾性平均自由行程の2.3, 3倍になり、かなり深くからの信号もとらえていることがわかる。また、このような全信号強度のうちのある割合を与える深さを情報深さということがある。
日本表面科学会「X線光電子分光法」丸善株式会社
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◇ JISに基づく真空(圧力P)の分類についてふれておく。
低真空:10^2 Pa < P < 10^5 Pa
中真空:10^-1 Pa < P < 10^2 Pa
高真空:10^-6 Pa < P < 10^-1 Pa
超高真空:10^-9 Pa < P < 10^-6 Pa
極高真空:P < 10^-9 Pa
 XPS装置では電子分光器をはじめとして要素部品各種が超高真空(10^-6 - 10^-8 Pa)で作動している。この理由として以下の項目があげられる。
@試料表面から放出された光電子が分光器に到達するまでに、残留ガス分子との衝突による散乱を受けないようにするため。
 試料面から放出された光電子は分光器で分光される。真空度が不十分な場合には光電子と残留ガスとの衝突の確率が増加し、光電子は分光器に到達するまでに散乱され軌道が変化する。軌道の変化は、入射レンズの焦点のぼけなどの原因となる。
A試料表面への残留ガス分子の付着による表面汚染を抑えるため。
 XPSは表面敏感な分析手法であるため、分析室の残留ガス分子の付着による表面汚染は深刻な問題となる。真空中での残留ガス分子は無秩序に飛行しており、真空槽内壁だけでなく試料表面に衝突する。衝突したガス分子は吸着、脱離により平衡状態になるが、吸着したガス分子が表面汚染となる。一般に、残留ガス成分の試料表面への付着量は圧力と時間に比例する。例えば、付着確率が1のガス分子の圧力が1.33x10^-4Paのとき、1秒間の付着率は1分子層程度になる。これらの関係はlog(Pa)対log(sec)やlog(Pa)対log(分子の入射頻度)で直線になる。

日本表面科学会「X線光電子分光法」丸善株式会社
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◇ 磁場遮蔽の必要性
 分光器を正常に作動させるためには、電子の軌道で磁場がゼロになっていることが望ましい。よく知られているように、電子は磁場中でその軌道が曲げられる。磁場により分光器に入るまでの光電子の軌道がずれた場合、分光器側からみると光源(光電子の放出点)の移動あるいはぼけとなる。この結果、エネルギー位置のシフト、感度の低下、エネルギー分解能の低下などの悪影響が生じる。また、分光器ないでも電子の軌道がずれるためエネルギー位置のシフトや分解能の低下などを引き起こすことになる。XPSでは100eV以下の低エネルギー電子も観測することになる。例えば100eVのエネルギーをもつ電子の場合、1x10^-7Tの磁場中で50cm飛行する間に約0.7mm軌道がずれる。地磁気の水平成分が約350x10^-7Tあることを考えると、分光器を含めた分析室の磁場遮蔽は必要不可欠となる。一般的な装置では分析室内の磁場を遮蔽するために、強磁性体を用いた磁気シールド材で分光器および分析室全体を覆ってしまう方法がとられている。よく使用されるシールド材は、μ-メタル(JIS規格のPC材など)や4-79パーマロイなど、透磁率の大きなNiベースの合金である。この方法は比較的安価で技術的に簡便である反面、加わる磁場の強さと所望の減衰率から磁性材料の材質、厚さを選定し、部品や装置の形状に合わせて磁気遮蔽体を設計しなければならない。例えば、真空ポンプの排気口や電流導入端子の導入口などの部分に工夫を要する。
 実際の装置で使用される遮蔽体の構造は複雑であり解析は難しいが、無限長の円筒で中心軸に直角に外部磁場が作用する場合や球状遮蔽体にはWillsの式が用いられる。磁場遮蔽度は円筒の透磁率に比較して大きくなるが、円筒の肉厚と半径の比(t/r)にも依存する。多層の場合には円筒間の隙間を多くとることにより効果を上げることができる。
◇ 実験室のバックグラウンド磁場(x10^-7T)
地磁気(屋外): 350
地磁気変動: 0.35
実験室(交流磁場): 2.5-10
都市交流磁場: 0.15
トランジスタケースから10mm: 0.6
3A通電中の配線から3m: 2

※ XPS装置のある部屋の直ぐ外の電源でアーク溶接をされたときに、MCPがoverflowを示して驚いたことがありました。近くの電源からのノイズの対策も必要かと思われます。

日本表面科学会「X線光電子分光法」丸善株式会社
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◇ X線源
 XPSに用いられるX線管はX線回折XRD(X-ray Diffraction)や蛍光X線分析XRF(X-ray Fluorescent)に用いられるそれと原理的には変わりはない。XRDやXRFでは特性X線のエネルギーは数十keVと高いことが要求されるが、XPSでは得ようとする情報が表面に限定さるため数KeV以下の特性X線が使用されている。
 通常の装置では広いエネルギー範囲でかつ高い分解能で測定を行うことが要求されるため、Al KαとMg Kα線が一般的に使用されている。通常アノードは銅などの熱伝導性のよい材料で作成される必要がある。X線管に投入された電力のほとんどが
熱に変換されるため、アノードを水冷する必要があるためである。通常2種類のターゲット(デュアルターゲット)を備えており、それぞれのフィラメントを切り替えることにより発生する特性X線のエネルギーを使い分ける。AlやMgのターゲット材は一般に〜10μm程度の厚さで蒸着される。フィラメントはWにThを浸透させて仕事関数を小さくしたものが使用される。
 X線取出し窓には通常Alの薄膜が使用される。Al窓はX線管内部の電場形成だけでなく、試料を浮遊電子や熱から遮断する機能をも持ち合わせている。同時に、発生するX線、特に特性X線にとって十分な透過率をもつ厚さであることが要求される。
 透過率におけるエネルギー依存性において、1.5keV付近の段差はAlのK吸収端である。特性X線の透過率だけを考慮すればできるだけ薄い窓であることが好ましいが、一般に厚さ2μm程度の窓がよく使用されている。
 フィラメントから放出された熱電子はアノードとの間に印加された電圧で加速されターゲット材に衝突する。この場合、電子の運動エネルギーの大部分は熱に変換され、X線の発生効率ε(%)は次式で与えられる通り極めて小さい。
 ε≒1.1x10^-9 * Z * V
ここで、Zはアノード材の原子番号、Vは印加電圧(V)である。Alの場合、10kVの印加電圧のときの発生効率は約0.14%となる。
 X線管から発生するX線スペクトルは特性X線と制動X線(連続X線)の2種類に分類される。高速の電子がアノード材内部でエネルギーを失う過程で軌道電子を原子外にたたき出してしまう、いわゆる励起状態生じる。内殻準位の電子がたたき出されると空孔を生じ、原子は高い励起状態になる。例えば、K殻に空孔ができた状態をK励起状態という。この励起状態は非常に不安定なため、内殻空孔に外殻(例えば、L殻)の電子が遷移してい、より低い励起状態に緩和する。その準位間のエネルギー差が電磁波として放射される。これは特性X線とよばれ、元素固有のエネルギーをもつ。また、加速された原子がターゲット材表面から内部へ侵入していくときには、ターゲット材原子によって散乱され急激にエネルギーを失い減速される。このとき、制動X線と呼ばれる電磁波を放出する。よく知られているように、電子は固体内部で連続的に散乱されるため、制動X線は連続スペクトルとなる。印加電圧で特性X線の強度、および制動X線の強度分布が変化することがわかる。また、管電流に対しても依存性をもつ。X線管から発生する特性X線の強度Iは印加電圧、管電流に対して次式の関係にある。
 I=1.03 x 10^14 * u^1.76 * i (photons * sr^-1 * s^-1)
 u = V / V0 - 1
ここで、iは管電流(mA)、Vは印加電圧(kV)、V0は最低励起電圧(kV)である。最低励起電圧は内殻準位の結合エネルギーに等しく、Al, Mgではそれぞれ1.56kV, 1.31kVである。したがって管電圧がこれ以下ではKα線は発生しない。上式より、X線管から発生する特性X線の強度は印加電圧、管電流に対して以下の関係がある。
@印加電圧一定の場合、管電流に比例する
A管電流一定の場合、、印加電圧の1.67乗に比例する。なお、印加電圧が最低励起電圧の10倍程度まではこの関係が成立するが、それ以上の印加電圧ではX線強度は飽和に向かう
B負荷(出力:W)が同じでも印加電圧が高い方が強度は強い。
 制動X線の強度分布は印加電圧、すなわち電子のエネルギーと関係がある。最大エネルギーは印加電圧に等しい。これは、ターゲット材に入射した電子が1回の散乱で完全にエネルギーを失ったことによる。また、強度分布の極大値のエネルギーは最大エネルギーの3/2程度になる。印加電圧を高くするに従い高エネルギー成分が増加することになる。また、その強度は印加電圧の2乗および管電流に比例する。低エネルギー成分はAl窓で吸収されてさほど問題にならないが、高エネルギー成分はほとんど吸収されずに試料に照射される。高エネルギー成分は有機物試料などの照射損傷の原因となるため、闇雲に高負荷で使用すると弊害が出てくることがある。したがって測定の際には、試料の性格、測定の目的などを十分考慮して負荷を決める必要がある。
 デュアルターゲット型X線管を用いて測定を行った場合、観測された光電子スペクトルに励起X線以外の不純X線に由来するゴーストピークが観測される。ここで不純X線とは、励起X線の主線Kα1,2の他に、放射されるサテライト線、およびターゲット材に含まれる不純物が励起されることにより放射される特性X線をいう。X線管から放射される不純X線とその原因を以下に列挙する。
1) Kβ線
 Kα線と同様K励起状態の緩和による放射である。その違いは次の通りである。
 Kα線の遷移:K^-1(1s) -> L2,3^-1(2p1/2, 2p3/2)
 Kβ線の遷移:K^-1(1s) -> M2,3^-1(3p1/2, 3p3/2)
 MgおよびAlのKβ線のKα線に対するエネルギー差および相対強度(Kα線を100)はそれぞれ48.6eV, 0.7および70.8eV, 0.7である。
2) サテライトX線:Kα3,4やKα5,6など
 ターゲット材の電子線励起に伴い生じるシェイクオフ過程による多重励起状態の緩和による放射である。例えばKα3,4はK^-1l3^-1励起状態からKl2,3^-1状態への緩和による放射である。
3) 不純物によるもの:O Kα(524.9eV)
 Al, Mg金属の表面は非常に活性であるために酸化被膜で覆われている。この酸化膜の酸素が励起されることにより放射される。注意深くかつ十分なエージングを行うことにより発生量を減少させることができる。保守などで長時間大気中に曝した後は注意が必要である。また、酸化によってAlおよびMg Kαの線幅も増大するためターゲットの取扱には十分注意すべきである。
4) X線管の構造によるもの
 デュアルターゲット型X線管の内部構造にずれが生じたことにより、フィラメントからの電子ビームの一部が隣のターゲット材(Al使用時はMg)を励起する、いわゆる、電子ビームの交錯(クロストーク)により発生するX線である。内部の電場に歪みができたことが原因となる。X線管に極度な衝撃(機械的負荷による歪み)を与えたり、急激な高負荷作動(熱負荷による歪み)を行うことにより発生する可能性が高くなる。また、ターゲット、フィラメント効果時に軸ずれを起こすことがある。
5) ターゲット材の寿命によるもの:Cu Lα1,2(929.7eV)
 長時間使用することで、ターゲット材は徐々にではあるが昇華によりその厚さは薄くなっていく。ついには電子ビームがアノードのCuを励起することになりCu Lαが放射される。冷却が十分でなかった場合に発生しやすくなる。また、Mgは融点こそAlに近いがAlに比べて蒸気圧が高く熱伝導率も低いため、冷却不足による加熱には特に注意を払うことが必要である。

日本表面科学会「X線光電子分光法」丸善株式会社
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◇ 単色化X線源
 固定型X線管から放射される特性X線は0.8-0.6eVの自然幅をもっており、XPSで得られる1eV以下のケミカルシフト量を測定するには限界がある。このため、励起X線スペクトル幅を自然幅以下にせばめ、高分解能測定で電子状態の解析が可能な分光手段として、単色化X線源が用いられている。モノクロメーターにより単色化されたX線を照射することで、以下のようないくつかの特徴ある光電子スペクトルの情報が得られる。
@モノクロメーターで分光することにより、サテライト線、Kβ線などの不純物線および制動X線の成分を除去することができる。これにより、S/B(信号/バックグラウンド)比が大きく改善される。
A特性X線の自然幅を結晶の回折幅にまで小さくできるため、高分解能測定が可能となる
B二重収束型の湾曲結晶を用いることにより、X線ビームをラインあるいは点収束させることができる
C制動X線による照射損傷の影響が少ない
D線源と試料の間の距離が大きいため輻射熱、散乱電子の影響がないX線ビームをラインあるいは点収束させる二重収束型(Doubly Bent)モノクロメーターはHamosによって実用化されている。Hamosが実用化したモノクロメーターは水平方向(分散方向)と垂直方向での曲率は異なっているが、XPSで使用されるモノクロメーターでは、その近似としてConcave型あるいはSpherical型の疑似二重湾曲結晶を複数個組み合わせて用いている。Spherical型のモノクロメーターとしては無収差のJohanson型を用いるのが理想的であるが、製作上の困難さからJohann型が主に用いられる。Al Kα線の分光が可能な結晶にはα-SiO2(10-10)(石英), PET(002)(Pentaserithritol),ADP(101)(Ammonium Dihydrogen Phosphate)などがある。結晶の選択基準には、
@反射強度が大きいこと、
A分解能が優れていること、
BS/N比の大きいこと、
C温度、湿度の影響に対して安定なこと、
などがあげられる。これらの条件を総合してα-SiO2がXPS用モノクロメーターの分光結晶として採用されている。
モノクロメーターを設計する上で考慮すべき点は、
@X線焦点(光源)サイズ、
A結晶の大きさ、
Bローランド円半径R, などである。集中式光学系の分解能は光源の大きさΔx、結晶の完全さ(回折ビームの広がり)ωc,
集光誤差をbとすると分散能λ/Δλは、
 λ/Δλ = (2*R*tanΘ)/(Δx + R*ωc + b)
で与えられる。例えば、Δx=0.2mmのとき高分解能測定で必要とされるΔE=<0.2eVを得るためには、2*R >= 300mmとなる。分散能を上げるためには広角度で分光し、かつローランド円半径の大きい分光器を使用すればよい。
 一方、試料に照射されるX線の強度を大きくするためにはローランド円半径を小さくしなければならない。高分解能でかつ
強度の高い分光器は相反したものとなり、設計の基準が変わってくるため、これらのパラメーターを考慮して最適値を決めなければならない。最近、集光誤差bを小さくする新しい試みとして、結晶のカット面の傾きを考慮したモノクロメーターも開発されている。
 モノクロメーターで使用されるX線管に要求されるのは、有効焦点Δxの大きさである。試料上に照射されるX線の形はラインあるいは点状で、その面積は多くの場合0.01-2mm^2であるため、有効焦点はその形状に準じている必要がある。有効焦点はX線の取出し角を変えて調節する方法が一般的であるが、電子銃を用いて細く絞った電子ビームをアノードに照射することで有効焦点を最適化する方法もとられている。また、有効焦点の大きさはX線強度(X線管の出力)も左右する。固定型のX線管の場合、冷却上の問題で有効焦点を小さくすると出力を大きくとれない。X線んお輝度を上げるために数kVWの出力のとれる回転対陰極型X線管が実用化されている。

日本表面科学会「X線光電子分光法」丸善株式会社
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◇ X線源の使用上の注意
1) エージング
 ターゲットを交換した直後などターゲットが新しい場合、X線管のエージングが必要となる。この場合、電子励起によりターゲットから大量のガスが放出され、放電による破損の危険性がある。エージングは、負荷Wを徐々に上げていく方法で行うことが望ましい。その場合、印加電圧を先に上げてから管電流を上げていくようにする。多量のガスが放出される場合があるため、エージング中は真空度に十分注意する必要がある。
2) 印加電圧-管電流の限界
 低電圧で大電流を流そうとすると、フィラメントが異常に加熱され破断する危険性がある。時には制御電源も破損する場合がある。印加可能な電圧-電流特性が取扱い説明書に明記されていない場合は、製造元に問い合わせる必要がある。また、最大負荷Wの限界を超えると、放電やターゲットの破損につながるため、注意しなければならない。
3) 衝撃を与えない
 X線管に過度な衝撃を与えると、内部構造に歪みが生じ、特性が大きく変化する危険性がある。これによって、不純X線の発生の原因にもなる。また、単色化X線源ではモノクロメーターのずれが生じる危険性がある。
4) Al窓
 X線管のAl窓の厚さは2μm程度と非常に薄いため、長時間使用すると散乱電子の衝撃によりピンホールができることがある。ピンホールができると、散乱電子および制動X線の寄与が大きくなり、観測されたスペクトルのS/B(信号/バックグラウンド)比が悪化する原因となる。定期的にスペクトルのS/B比をチェックすることを心がけるようにする。S/B比が悪化している場合には、Al窓にピンホールができている可能性が高いためメーカーに問い合わせる必要がある。分析室を暗くする(例えば、真空ゲージのフィラメントスイッチをOFFにする)などしてフィラメントを点灯させると視覚的にチェックできることもある。大気圧から真空に引く場合にもAl窓が破損する場合があるため注意を要する。この場合には完全に破れることもある。また、エージングが十分でない場合など、放電によっても破損する場合があるため注意を要する。また、単色化X線源と分析室の間の真空隔壁としてAl窓が使用されている装置もある。これが破損した場合、分析室の真空度が悪化する原因になるため注意を要する。破損の原因は大気圧から真空をひく場合が最も多い。
5) ゴーストピーク
 ゴーストピークは、デュアルターゲット型X線管の電子のクロストークに起因して発生する不純X線による光電子ピークである。通常、ゴーストピークの強度は1-2%以下であることが望ましいが、それ以上になると微量成分のスペクトルと重なった場合、定量性に大きな影響を及ぼすこととなる。長時間の使用により、ゴーストピークの強度が増大することがある。定期的にAg3dスペクトルなどで強度チェックを行うようにする。強度が1-2%以上になった場合には、アライメント調整の必要がある。
6) モノクロメーター(単色化X線源)のずれ
 単色化X線源のモノクロメーターは高い機械精度が要求される。衝撃や熱歪みはモノクロメーターの幾何学条件のずれの原因となる。ベーキングによる熱歪みには十分注意すべきである。振動は長期的に影響を及ぼすため、装置の近くには振動を発生するものはできるだけ設置しない方が望ましい。幾何学条件にずれが生じると、観測されたスペクトルの強度の低下や分解能の悪化、エネルギー位置のずれといった弊害が出てくる。定期的にAg3dスペクトルなどで強度および分解能、エネルギー位置のチェックを行うことを心がけるようにする。モノクロメーターの調整は一般に結晶の位置、角度、あおりなどで行うことになるが、光源(X線管)の位置調整を行う装置もあるため、取扱説明書に沿った調整方法を適用すべきである。
7) 冷却水
 冷却水の流量が少ないとターゲット材の温度が過剰に上昇し、蒸発する危険性がある。最悪の場合にはターゲットに穴があいて水漏れを起こすことになる。通常冷却水の流量はセンサーで監視されているが、過信は禁物である。また、
水温の上昇にも注意しなければならない。ターゲットを正の高圧で使用する冷却水は、絶縁のため純粋が使用される。冷却水の伝導度が低下すると放電や電源のトラブルの原因になるため、定期的に伝導度をチェックすべきである。

日本表面科学会「X線光電子分光法」丸善株式会社
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◇ 分光器および検出器
 X線励起により試料表面から放出された光電子、オージェ電子のエネルギーを測定する分光器(アナライザー)はXPS装置の最も重要な部分である。電子のエネルギーを測定する最も基本的な分光器は円筒鏡型アナライザーCMA(Cylindrical Mirror Analyzer)および同心半球型アナライザーCHA(Concentric Hemispherical Analyzer)の2種類がある。XPSでは元素の化学結合状態の違いを観測するために、スペクトルの測定は高分解能かつ高明度で行う必要がある。特に分解能については、測定される全エネルギー領域で絶対分解能が変化しないことが重要である。
 CMAは主にオージェ電子分析装置に用いられており高い透過率を持ち合わせている半面、XPSで必要な高分解能を維持しながら高い明度を得ることが困難である。CHAは高い絶対分解能を維持しながらの測定が可能である。このような理由から一般にはXPSではCHAが広く用いられている。

日本表面科学会「X線光電子分光法」丸善株式会社
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◇ 分光器および検出器の使用上の注意
1) 環境
 外部磁場は電子の軌道に大きな影響を及ぼす。したがって、装置、特に分光器の近くに磁場を発生するものを設置しないように注意しなければならない。装置を設置する部屋の温度、湿度にも注意を払う必要がある。温度の変動が大きいと温度ドリフトの影響で試料位置のずれやモノクロメーターのずれが生じる。湿度は高圧電源に悪影響を及ぼす。特に埃が多いと絶縁破壊の原因となる。装置の設置場所は空調されていることが望ましい。
2) 検出器の寿命
 検出器の寿命は計数寿命と破損による寿命が考えられる。計数寿命は検出器が計数したトータルの電子数で決まり、一般的には〜10^14counts程度といわれている。通常は穏やかな経時変化を示すが、寿命が近づくと急激なゲインの低下が見られるようになる。
 破損の原因は真空によるものが多いと考えられる。真空度が悪いと放電の原因となり、最悪の場合には検出器が破損する。また、残留ガスのイオンも検出器に入射することとなり、寿命を縮める要因となる。時には検出器自身がガスの放出源になり得るため、ベーキングを十分に行うことが重要となる。特に、検出器を交換した場合には注意を要する。
3) レンズの汚れ
 試料のスパッタリングなどにより、入射レンズの入口などに汚れが付着してくる。長時間の使用により付着量は多くなってくる。この汚れは最悪の場合レンズ内部にまで拡大し、絶縁不良を引き起こすことがある。絶縁不良はレンズの動作不良を引き起こし、分析面積の変化やエネルギー軸のずれの要因となり得る。また、レンズ電極に絶縁物の汚れが多量に付着した場合、レンズ電極表面にバリア層が形成され、レンズポテンシャルが変化する原因となる。エネルギー軸の補正定数(関数)が大きく変化した場合など、レンズの汚れが原因の一つと考えられるためメーカーに問い合わせる必要がある。

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◆ XPS

◇ 表面分析に必要な真空の条件
 表面分析に用いられる電子分光装置は、なぜ真空中で動作しなければならないのであろうか。理由は二つある。一つは、試料から放出された電子が分光器に到達するまでの間に、ガス分子と衝突しないようにするため、つまり電子が散乱されずに分析できるようにするためである。この要求を別ないい方で表すと、電子の平均自由行程が分光装置の大きさよりもずっと大きいことを意味している。このことは、実際に要求される到達真空度に特に厳しい条件を課すものではない。というのは、10^-5 - 10^-6 Torrで十分だからである。
 ところが、二つ目の理由が、実際の到達真空度に厳しい条件を課すことになる。XPSもAESもともに分析を対象としている深さが、一般に2-3原子層と極めて表面だけに限定された技術であることは第5章の図5.5で詳しく述べられている。
 エネルギー分析される電子の大部分は、表面第1層または第2層から放出される。このように、極めて表面に限定されていることは、単原子層の0.5%台という検出限界とあいまって、この分析法がいかなる原因の表面汚染に対しても非常に敏感であることを意味している。実際の実験においては、完全に清浄になっているか、もしくは他の非常に安定した状態にあり、特性のわかっている表面から始める必要がある。また極めて微量な汚染物質が、実験に大きな影響を及ぼすこともあるので、その蓄積量が実験による変化量に比べて無視できるような条件下で実験する必要がある。主な汚染源は真空系の残留ガスである。どの気体分子運動論の教科書にも記述されているように、表面に衝突する分子が試料面にすべてとどまった場合(付着確率が1の場合)十分よい近似でいえることであるが、室温、10^-6 Torrにおいて、1.5秒で衝突ガス分子はその単一層で表面を覆ってしまう。表面分析に一般的に必要な条件として、汚染が30分間に0.05原子層以下であるとした場合、付着確率1とすると気体分子運動論から残留ガス圧は4x10^-11 Torr以下であることが要求される。実際には、付着確率は1にならない場合がほとんどで、大部分の実験においては、10^-10 Torrの到達圧力で十分である。このような真空は超高真空(UHV)と呼ばれている。

◇超高真空材料
 XPSとAESは、超高真空領域で行わねばならないとすれば、装置を構成する材料がどうあるべきかを述べておく必要がある。気体分子運動論からは、実際の大きさのチャンバー、配管、ポンプを考えると真空系の到達圧力は、吸着しているガスが室温において真空系の内側表面を脱離する速さにより決定されていることを知ることができる。このガス放出速度は、表面の化学的状態や前処理、さらにはチャンバーの履歴や吸着ガスの種類によっても異なる。しかしながらどんな良い条件でも、すなわちどんな低いガス放出速度でも、装置内部表面の温度が室温より高い状態を経なければ、分光装置の超高真空は達成されないか、少なくとも長時間達成されない。実用的な時間で超高真空を達成するには、通常よりずっと速い速度で吸着ガスを取り除く必要がある。そこで分光装置の温度を数時間およそ200℃に上げること、すなわちベーキングをすることが行われる。分光装置が再び室温に戻ると内側表面からのガス放出速度は数桁下がり、ポンプは超高真空を達成・維持することができる。
 このように、分光装置はベーキングをする必要があるので、使用する材料に制約がある。ベーキングは分光装置の耐用期間中、超高真空を維持するために定期的に繰り返されるので、温度を上げた場合に分解したり、ガス放出が異常に多くなったり、強度の劣化する材料を構成部分に用いることはできない。以上の理由から、例えばバイトンのようなエラストマー(高分子弾性材料)を超高真空と大気との間のシール材に用いることは適当でない場合がある。エラストマーは、酸化してもろくなるだけでなく、ベーキングすることで多孔質になり、拡散によりガスを通してしまうからである。したがって、分光装置の構成部分の接続部に用いるシール材は金属でなければならない。ベーキングの温度は、通常200℃まで上げるので、他の用途には有用な材料であるインジウム(融点156℃)は使用できない。一般的に用いられる金属シール材は金と銅である。特に銅のほうがよく使われている。通常、金は、焼鈍した金線がシール材として用いられる。信頼性のあるシール材だが、一方で、縦に位置しているフランジに正しく金線シールを置くのが難しかったり、使用後に取り外せなくなってしまうことがあり、かつ高価であるなどの欠点がある。現在最もよく使用されているシールは、上下が平らな環状の銅ガスケットが、二つの相似のフランジを合わせた時にできる凹みにぴったりはまるようになっている。それぞれのフランジ面には、テーパーをつけたナイフエッジが加工されている。フランジを合わせ、ボルトで締め付けると、相対するナイフエッジは銅製のガスケットに食い込み、シール部分の銅はナイフエッジに施されたテーパーによって外径方向に押し出される。銅製ガスケットは、内径には特に制限はないが、外径は、合わせたフランジの凹みにぴったりはまるようになっているので、フランジを締め付けた際に銅製ガスケットに大きな力が蓄えられる。銅製ガスケットとフランジのナイフエッジの外側の面との間に非常に効果的なシールができ、何回となく繰り返されるベーキングによる温度サイクルにも十分耐えられるようになる。
 ここで真空シールについて解説した意図は、シール(”ナイフエッジ”、”銅シール”、”コンフラット・フランジ”などと呼ばれている)に用いられる材料は、硬くて、ベーキング中でもその硬度を維持し、容易に酸化しないことが必要であることを明らかにするためである。超高真空の他の用途ではよく用いられるアルミニウムやアルミ合金は、ナイフエッジには柔らかすぎて超高真空容器の材料としては不向きである*。
 超高真空容器の製作に用いられる材料は、ほとんどステンレス製である。唯一の例外は、エネルギー分析器周りなどの磁気遮蔽が必要な場合で、その場合には、ステンレス製の代わりにミューメタルを使用するメーカーもある。超高真空と大気の間にバイトンエラストマーを用いるべきではないが、ある程度の注意さえ払えば超高真空系内においても使用することはできる。例えば、使用するバイトンリングを脱脂しあらかじめ別の真空排気系による脱ガスをすることや、バルブのシートに用いた場合には、バルブを閉じた状態では絶対にベーキングしないといった注意を払う必要がある。バイトンは、圧縮された状態で繰り返しベークした場合には弾力性を失い、バルブがよく閉まらなくなってしまう。
 ステンレス鋼や銅のほかにも、超高真空と大気の間に安全に使用できる材料は数種類ある。しかし、それらは主要部分の材料としてではなく、いろいろな目的に応じて分光装置に取り付ける構成部品に用いられる。ステンレス製の真空系が一般的になるまでは、ほうけい酸ガラスがよく用いられていた。このガラス材は、いまでもガラス-金属-溶着シールを用いてフランジに取り付けられ、覗き窓として広く用いられている。石英もまた窓材として利用されている。このほかよく利用されているセラミックスはアルミナである。分光装置の電流導入端子部や電気絶縁材料としてよく用いられている。
 分光装置内に使用する材料は、室温においてもベーキングの際にも到達圧力が上昇せず、さらに揮発したり内側に付着したり汚染を引き起こす成分を含んでいない材料ならば、どんなものでもかまわない。例えば、蒸気圧の高い亜鉛をかなり含んでいる真鍮は使用すべきでないし、また普通の高分子材料も使用すべきではない。しかし、高品質であれば、超高真空室中の装置の結線にPTFE(テフロン)被膜線を用いることはできる。超高真空中のあまり大きくない構成部品、例えば、特殊な試料台、試料加熱部、電気結線などには、銅、ニッケル、白金、モリブデン、タンタル、タングステンがよく用いられる。また、分光装置を実際に使用する場合に、これらの金属の線材や箔を用意しておくと便利である。

*現在では、アルミニウムやアルミ合金も主要な超高真空容器の材料として用いられている。例えば、アルミニウム製のガスケット、エッジの部分に特殊な硬化処理やコーティングをしたコンフラット・フランジが実用化されている。また、ステンレス鋼の容器と比較した場合には、軽量なばかりでなく、例えば熱伝導性の優れた特性をいかしてMBEなどの装置に利用したり、放射化したときの減衰が速い特性をいかして加速器にも利用されている。

◇設計と製作
 超高真空装置を作ろうとするとき、設計することと製作することは相互に密接に関連している。超高真空に用いるすべての構成部品の設計にあたっては、その大小を問わず、構成上の制限や要求を十分に理解することなしに良い設計はできない。常に注意を払わなければならないことは、例えば、フランジとフランジの相互関係やフランジ取り付け位置と真空容器の外面との関係である。ボルトの挿入や締め付けに必要なすき間を確保し、溶接の準備と溶接自体に必要な作業空間も確保しなければならない。このような事柄は、一般には研究者よりも実際に製造するメーカー側の問題であるが、研究者自身で特別な真空チャンバーを設計したり、既存の装置を改造するような場合には、以上に述べたようなことを研究者自身が考慮しなければならない。
 超高真空だけでなく真空装置の設計におけるもう一つの重要な点は、排気する容器のどんな場所においても適切な排気速度が得られるように設計することである。残念ながら、専門の機器メーカーにもよくある誤りは、チャンバー(真空容器)が空であったり何も取り付けていないような場合には完璧な分光装置用の超高真空排気系を設計しておいても、実際に付属機器をチャンバー内に据え付けたり、ポートに取り付けると、それらの大きさや形状のために、機器周辺の排気速度が大きく制限されてしまうような小さな隙間しかなくなっていることである。このことが、分光装置によってはベーキングによる超高真空の到達に、かなり時間を必要とする主な原因となっている。真空チャンバー内の構成機器の相対的な位置関係は、設計段階で、分析の観点ばかりでなく、真空の観点からも考慮すべきである。同様に、チャンバーのポートに取り付けられる付属機器についても考慮されなければならない。後者の場合、必要ならば、排気速度を上げるために主排気ポンプ系へバイパス排気ラインを付加する。補助ポンプを取り付けるような場合もある。コンダクタンス、いいかえると場所に応じての排気速度は、分子流領域における気体分子運動論に基づくいろいろな公式からある程度まで算出することができる。真空の物理に関する本にもこれらのことは記述されているので、ここではとりあげない。
 真空チャンバーやその他の構成部分を製作するにあたっては、すでに標準技術となっている不活性ガスアーク溶接が用いられる。しかし、超高真空の場合には、特別な溶接上の注意が必要であり、このことを考慮してはじめて超高真空を達成することができる。注意すべきことは、チャンバー内壁から真空側へ通じる細い管のようになった空間を作らないことである。このような空間は、チリやガスを含んでいて、実際のリークと同様な汚染源となる。この空間を作らないために基本的なことは、すべての溶接部が真空側にあり、溶接部は連続していなければならないということである。すなわち、溶接を開始するにあたっては、十分に長い溶接棒を用意しなければならない。例えば、円形継手の溶接を行う場合には、一端溶接が開始されたならば、再び出発点にもどるまで中断することなく連続して行わなければならない。空間を作ることなしに溶接することができるのはこの方法のみである。このような溶接はすべて真空中において電子ビーム溶接することが理想的であり望ましいが、真空中での電子ビーム溶接は時間がかかり、超高真空容器の内側でよく見かける複雑な形状に適していない。
 製造過程の最後の作業は内面の表面仕上げと洗浄で、この作業が効果的に行われているか否かは、その容器または構成部分のその後の真空に質に影響する。現在用いられている仕上げ処理の方法は、細かなガラスビーズを吹き付ける方法である。この方法は、溶接部とその周辺からスケールなどを取り除くだけでなく、表面領域を冷間加工の効果で不働態化する。さらに、表面の凹凸が顕微鏡スケールで滑らかになるので、汚染の付着する危険は少ない。電解研磨処理が広く用いられ始めて間もないが、用いないことが望ましい。表面が物理的に取り除かれてつやが出てくるが、特に溶接部が電解されやすく、割れ目や小さな穴が現れてくるからである。ガラスビーズを吹き付ける処理をした後は、ガラスビーズのかけらは、最終的には摺動部分に入り込み、故障の原因となる。
 上記の処理後洗浄し、良質の溶媒で脱脂すれば、高真空に用いる場合には、さらに処理をしないでも使用できる表面状態が得られるが、超高真空で用いる場合には、最終段階の処理、すなわち組み上がった全体のベーキングをする前に初期ベーキングが必要である。初期ベーキングの目的は、内側表面に残っている脱脂の際に用いた溶剤を取り除くためで、補助の真空排気系において、個々の構成部分を実際の分光装置のベーキングに用いる温度よりも高い温度でベーキングすることである。この最終作業以降は、組み立てに必要となるまでの間、清浄に保管するために、構成部分はきれいなプラスチック製シートで包むか、プラスチック製の袋の中にいれておくことが望ましい。あらためていうまでもないが、ガラスビーズ吹付け処理後のどの段階においても、構成部分は素手で取り扱ってはならず、手袋の使用は不可欠である。さらに、初期ベーキング処理を行う作業や使用するまでの部品の保管、組み立て作業を行う場合には、ほこりのない囲いのなか、すなわちクリーンルーム内が望ましい。

◇真空ポンプ
 一般に生産されている分光装置には、4種類のポンプがいろいろな組み合わせで用いられている。4種類のポンプとは、すなわち拡散ポンプ、スパッタ―イオンポンプ、ターボ分子ポンプ、チタンサブリメーションポンプであり、各装置メーカーごとに異なった組み合わせで用いられている。各装置メーカーで一致している唯一の点は、チタンサブリメーションポンプを超高真空用の主排気に用いるのではなく、補助ポンプとして使用している点である。
 拡散ポンプは、使用する油の種類が得られる到達圧力を左右するが、広い圧力範囲で用いることができる。拡散ポンプを超高真空に用いる場合には、油の蒸気圧が10^-9 Torr以下で、揮発性物質を発生することになる劣化に対して強く、また、表面をはわないことが必要である。ポリフェニル・エーテルがここ数年用いられ、良い結果が得られている。さらに特性を改良した油も最近利用され出している。拡散ポンプ自身は比較的安いが、ポンプとUHVの間には効率のよい液体窒素トラップが必要であり、このトラップが実際にはポンプよりもコスト高となる。運転するのに必要な、液体窒素、冷却水、電力の長期にわたるコストも考慮に入れると、その安さは表面上だけである。これに対して、後で解説するポンプと比較して、拡散ポンプの主な利点は非常に安定していることである。加熱された油に反応しないガスならばほとんどすべてのガスを排気することが可能で、使用法をまちがえない限り、保守点検することなく長期間使用することができる。
 スパッタ―イオンポンプは多くの利点を有する。液体を必要とせず、冷却水も液体窒素も必要としない。かつ電力もあまり必要とせず、トラップなしでチャンバーを直結することができる。特別なフォームアップなしにスイッチを入れるだけで始動でき、同様に簡単に切ることもできる。コントロールユニットが必要なので割高ではあるが、トラップなども必要とせず、冷却のための費用もかからない。長期的に見れば拡散ポンプよりも運転費用は割安である。しかし、超高真空に用いる主ポンプとしては、欠点がこれらの利点を上回っている。原理的に、このポンプは排気するガスの種類と量に制約がある。ガス種が窒素、炭素、二酸化炭素のような普通の残留ガス成分の場合には問題はない。最近の改良されたイオンポンプでは、希ガスに対しても圧力が10^-6 Torr以下ならば、また、あまり長い時間でないならば、ある程度の速さで排気することができる。しかし、ヘリウムはチタン材のカソードの中に拡散し、あまり多量のヘリウムを取り込むとカソード割れの原因となる。したがって、多量のヘリウムをイオンポンプで排気することは避けるべきである。同じことは水素にも当てはまる。水素の場合には、カソード材であるチタンが水素ガスと反応して、一連の固溶体と化合物を形成するという面倒なことになり、そのため水素を長時間排気すると、カソード破壊の原因となる。水蒸気はポンプの放電領域において、水分子が水素とヒドロキシイオンに解離し、続いてチタンとの反応が生じる。このため水蒸気を多量に排気することは、水素の排気と最終的に同じ結果を引き起こす。イオンポンプのもう一つの欠点は、装置の履歴効果である。例えば、前にも述べたように、ヘリウムまたは水素もカソード材のチタンへの溶解によって排気されるので、ヘリウムまたは水素の含まれるチタンは、その後のスパッタ―により、これらのガスを再発生させる結果になる。この問題はポンプを高温(〜500℃)にベーキングすることにより、ある程度、解決することができるが、この作業は控えめにみても便利とはいえない。さらに、イオンポンプは、炭化水素を効果的に排気できるが、炭素はチタンと結び付き、他のガスと再結合して汚染源となりうる。このように、イオンポンプ系では、残留ガススペクトルには、一つ二つ、しばしば三つの炭素原子を含む分子が必ず存在する。特にメタンは10^-9 Torr以下の圧力においては、水素とともに主要成分となる。同じ理由で、イオンポンプに純粋な酸素を導入すると一酸化炭素の分圧が上昇して、実験の遂行に重大な影響を及ぼす結果となる。結論として、イオンポンプは大気と同じ成分を排気するのに適しており非常に便利であるが、それ以外に用いるような場合には、多くの問題が生じる。ターボ分子ポンプも便利さの点で魅力的である。
 ターボ分子ポンプは、原理的には、大気圧から超高真空までの間で(もちろんベーキングした場合)使用することのできる唯一のポンプであるが、いつもそうするとポンプに過大な負荷をかけることになるので、実際には決してそのような使い方はしない。どんなガスでも排気するが、排気効率はガスの分子量に比例して低下し、そのため水素とヘリウムの効率がよくない。したがって、超高真空での残留ガスは主として水素となる。排気するガスの性質に対する唯一の制約は、低真空側に使用している潤滑油と反応する可能性、または回転翼が腐食される可能性である。実用上はこのいずれも問題にならない。ターボ分子ポンプは、拡散ポンプのようにトラップやバッフルを必要とせず、イオンポンプと同様に拡散ポンプより長期の場合の運転費用は安価である。10^-10 Torr以下の圧力をターボ分子ポンプだけで達成できるかどうかについてはまだ若干疑問がある。というのは、いつもチタンサブリメーションポンプと共用される傾向にあるからで、同じことは拡散ポンプを使おうと、サブリメーションポンプの助けをかりないで10^-10 Torr以下の到達真空を保証しないであろう。初期のターボ分子ポンプの難点の一つは騒音であったが、現在のものはかなり静かである。分光装置にもっと多く使われていない理由は、もっぱら振動の問題と、これも過去の経験によるものだが、信頼性に対してついてまわっている不信感である。
 チタンサブリメーションポンプは、超高真空ポンプの中で最も簡単でしかも安いポンプで非常に広く使われているが、前にもふれたように、分光装置の主ポンプとしては決して使われない。10^-6 Torrという高い圧力から使うことができ、また実際に使われている。しかし電子分光装置とその他の超高真空系ではその目的は10^-10 Torr以下の到達真空を達成しようとする場合に、必要な最後の桁またはその近傍の圧力減少を達成することである。最高排気速度をうるにはチタンを液体窒素で冷却した表面に昇華させるべきであるが、一般的な分光装置でそのような設備をもったものはないし、また、液体窒素を導入しなければならないとしたら、操作が簡単だという利点の多くが失われてしまう。しかし少なくとも水冷はすべきであるが、残念ながらそれすらあまり行われていない。サブリメーション用チタンフィラメントの最初の操作、すなわち、初めてフィラメントを加熱する場合には、かなりのガス放出が起こるので、慎重に行わなければならないが、脱ガスが終われば次回からは加熱電流を一気に最大まで上げられる。通常、サブリメーションポンプの排気は、コントロールユニットでタイミングをとってあるので、チタンを無駄に使うことはない。おおよその目安として、5x10^-10 Torr前後の圧力では2-3時間ごとにわずか1回2分間ポンプを作動させるだけでよい。サブリメーションポンプは、”ゲッター作用”、すなわち、蒸発チタンと反応ガスとの反応によって作動するので、主な大気中成分や水素、炭化水素には優れたポンプであるが、希ガスはまったく排気しない。さらに、イオンポンプのカソードとは異なり、チタン膜は後になって乱されず、履歴効果はほとんどない。
 以上の見解に基づき、もっとも故障の少ない排気系は、拡散ポンプまたはターボ分子ポンプにチタンサブリメーションポンプを併用して作動する系である。上記の理由からイオンポンプは主ポンプとして奨励されない。しかし、希ガスを導入しない小さな補助的な容量を排気する補助ポンプとして、または時に主ポンプの故障、または補修のための停止の際の”保持”
ポンプとして使われる。

◇試料準備
 加熱された試料台からの熱伝導による加熱方法の気になる点の一つは、試料台表面、もしくは試料台中にある不純物が、加熱することで移動しやすくなり、結果として試料を汚染させる危険があることである。もし、このような現象が実際に生じるならば、実験結果は、明らかに真実と異なる。したがって、加熱試料台を初めて使う場合には、試料を取り付けない状態でかつ実際に使用する温度で長い時間使用し、試料台自身のきれいさを調べておくべきである。汚染種が現れて、なかなかなくらならない場合には、イオンスパッタ―で取り除くとよい。加熱とイオンスパッタ―を繰り返して、汚染種が加熱しても現れなくなるまで行う。すなわち、最初の加熱においては、試料台をあたかも分析試料として扱い、あらかじめ試料台を洗浄化すべきである。
 単結晶のような非常に純度の高い材料を用いる基礎実験においては、上記のような試料加熱方法は適さない。いかなる試料以外からの材料による汚染の可能性もあってはならないし、また試料はできるだけ均一に加熱しなければならない。加熱する方法は試料の形、厚みや物理特性に応じて試料に直接電流を流す方法、試料台からの熱伝導による方法、近接した熱フィラメントからの熱輻射による方法や、フィラメントからの電子衝撃による方法もある。試料を保持する台は、試料と同一の材料か、同じ純度を有するか、もしくは、使う前に十分に高温で清浄化することができるタングステン、またはモリブデンのような耐熱金属でなければならない。850℃までの温度測定は、試料の端にスポット溶接した熱電対、もしくはそれが可能でない場合には、試料にできるだけ近い所に取り付けた熱電対により測定する。使用する熱電対の種類は貴金属熱電対、例えば白金-白金10%ロジウムの方が、一般によく利用されるクロメル-アルメル熱電対よりも良い。クロメル-アルメル熱電対の場合は、熱電対からの汚染の危険が貴金属熱電対と比べてずっと高いからである。850℃以上の高温では試料が熱電対の材料と反応する可能性が大きくなるので、非接触式のオプティカル・パイロメーター(光学式高温温度計)を使用する方がよい。もちろん、パイロメーターの読みは、試料の放射率(emissivity)および試料観察用の窓材の吸収率による補正が常に必要であることを忘れてはならない。試料の取り付け法によっては、試料を取り付けるために用いる線の抵抗値の温度依存性を利用して試料温度を測定することも可能である。

◇試料の導入
 ここ数年の間に、試料の出し入れに関して大きく改善された点の一つは、試料を大気から超高真空に挿入し、移動する方法である。試料導入の方法は、個々の製造メーカーの考え方により、二つの異なった方法がある。その一つの方法は、試料を取り付けた試料台を、非常によく研磨された長いシャフトまたはプローブの先端に置く。メーカーによって異なるが、このシャフトは、大気圧から予備室を通って超高真空系へ、バイトンまたはテフロン製の一連の密着封止リング内をグリースなしで摺動して移動する。予備室は、超高真空に通じるゲートバルブが開くまでに少なくとも10^-6 Torrまで排気される。いったん超高真空チャンバー側に挿入されたならば、シャフトは、試料台をカルーセルのあいている場所に持っていき、結合・固定されるまで決められた手順に従って前進する。その後シャフトは引っ込めることができる。試料を取り出す手順は、入れる手順のまったく逆を行えばよい。
 このようなシャフトによる導入方法は、速いし、また半自動的に取り扱えるという利点がある。また1回の操作で取り扱えるという利点もある。欠点としては、UHVチャンバーに挿入されるシャフトの一部が、予備室における予備排気は別にして、大気からベーキングや脱ガスなどを経ずに直接導入されることである。このことは、実際に試料や試料台にもいえることだが、しかしそれらの表面積は、導入するシャフトの表面積に比べるとずっと小さい。またどのような場合においても、試料台は実際に使用する前に、ある段階でベーキングする。シャフトにより試料導入中の超高真空チャンバーの圧力は、超高真空領域外に上昇するばかりでなく、再び10^-9 Torr以下に復帰するには若干の時間をようするのが普通である。
 事実、試料導入と取り外しを短時間に何回も繰り返した後では、ベーキングなしで10^-9 Torr以下に復帰させることはむずかしい。このような導入方法は、比較的不活性な表面のルーチン分析をする場合や、常に10^-10 Torr台に分析室を
保つことよりも試料の回転効率を必要とする用途には適している。
 もう一つの試料導入方法は、逐次移送法とでもいうことができる。この方法では、試料を乗せた試料台は小さな導入室に置かれ、5x10^-3 Torrまでトラップ付きの油回転ポンプで排気される。最初の導入室と2番目の導入室、もしくは予備室の間のゲートバルブが開き、試料台は真空に完全に入っている移送台に乗って、2番目の導入室に移動する。そこでベロ―シールで構成されたフォーク機構で、手動操作により予備室内の移送台に移され、最初の移送台は第1導入室に戻され、ゲートバルブが閉じられる。予備室は、第1導入室に比べてずっと大きい容積があり、大きな拡散ポンプで排気しているので、圧力はただちに〜10^-9 Torrに復帰する。そこで、予備室と分析室との間の第2のゲートバルブが開かれる。第2の移送台に乗った試料台は、分析室に移動し、再び手動操作によりマニピュレーターに移される。移し終わると、移送台は、予備室に戻され、第2のゲートバルブが閉じられる。試料台を移動している間の圧力は10^-9 Torr以下なので、分析室の超高真空を損なうことはない。
 明らかに、上記の移送方法は、先に述べたシャフト挿入法と比べて時間がかかり、移送中に、試料台を落とす危険性も少なからずあり、またこの方法を自動化させることはむずかしい。一方でこの移送法の利点を実験という観点からみると、ベーキングなどにより達成した10^-10 Torr付近に常に分析室が保たれるということである。もし、なんらかの理由で試料自身がガス放出源の場合には、放出ガスがなくなるまで、もしくは、分析に不適当であると判断される間は予備室にとどめておくことができる。
 しばしば、どのような段階においても大気にふれさせることなく試料を測定しなければならない場合がある。例えば、試料自身の材質が大気に含まれるガスと激しく反応する場合や、興味ある試料最表面の層が大気と反応することで損なわれたり、変化してしまう場合に、また、化学的に、もしくは放射能汚染している試料のように周りに四散するのがこのましくない場合である。試料を分析装置に導入する際に、試料が大気にふれることを最小限にするための方法がいくつか考案されている。最も簡単な方法は、大きなプラスチック製の袋で場合によりシャフトの導入口あるいは予備室の導入口を覆い、アルゴンのような不活性ガスをプラスチック袋の中に導入して、袋の中の圧力をわずかに高くして使用する。このような方法のとき、試料のセッティングは、袋の中において大気の逆流が生じないような小さな穴から手袋をした手を袋の中に入れて行われる。手は込んでいるが、効果的な方法は、分析装置の試料導入口に合わせて適当な封止画ができる口と封止したグローブを持ったグローブボックスを備え付ける方法である。先に述べた方法と同じく、グローブボックスの内側は、ガスにより圧力を大気よりわずかに高くして使用する。このような装置の利点は、実験に必要な活性な参照用の試料を後の検討のために保存でき、また、操作を非常によくみることができることである。
 分析装置に導入する活性な試料の保護のため、さらに手の込んだ方法は、グローブボックスの標準の試料導入口を通るように特別の目的に設計されたフラップバルブを有するトランスファーベッセルを用いる方法である。グローブボックス内を
不活性ガスで満たすと、トランスファーベッセルのバルブを開き試料を導入する。導入後、バルブを閉じる。トランスファーベッセルは、試料を不活性ガス雰囲気の状態でグローブボックスから取り外すことができ、分析装置の導入室に接続することができる。導入室を同様に不活性ガスで満たすと、トランスファーベッセルのバルブを開き、トランスファーベッセルと導入室の両方を、標準の試料導入に必要なだけ真空排気する。その後は、先の述べた同様の手順で、導入室の移送台ではなくトランスファーベッセル中の移送台により行う。

◇真空下における試料処理
 分光装置に導入された後の試料処理方法は、大きく分けて三つに分類することができる。すなわち、清浄な表面を準備すること、深さ方向分析と表面反応である。表面反応の中には、不純物を表面に偏析させるための加熱や、もし液体状態の金属が研究対象となる場合に試料を溶かす方法も含まれる。

◇清浄な表面の作成
 本項において”清浄”とは、XPSやAESによって試料を構成する元素を除いて、それぞれの検出限界以上には、どんな元素からの特性スペクトルも検出できないような状態をいう。いいかえれば、もしさらに検出感度のすぐれた表面分析法によって、先に述べた定義によって”清浄”と判断される表面を分析すれば、おそらく不純物元素が検出される。いつものことながら清浄さは相対的な概念である。
 一見すると、最も単純な清浄化の手法は加熱処理である。シリコンや高融点金属を含むいくつかの物質は、それぞれの融点から数百度低い程度の十分高い温度に加熱することにより、上記の定義に基づき清浄化することができる。とういうことは、これらの表面は、高い温度に保持されている間は清浄である。この方法の問題点は、この清浄表面をそのまま室温に戻すことにある。というのは、試料が冷却されていく過程で、不純物が急速に偏析する温度範囲を通過するからである。
 同じような問題は、合金や化合物のような幾つかの元素から構成されている物質においても生じる。このような場合には、清浄な表面を得るのに十分な温度にまで高くすることができないので、加熱処理を実験の一部として受け取らなければならない。ある温度領域においては、バルクに存在する低レベルの不純物が表面に濃縮するすることがある。代表的な偏析物質は、硫黄、酸素および炭素である。また、特別な場合には、他の不純物元素として窒素や燐が多量に偏析することもある。
 試料を加熱する方法は、このように室温において清浄表面を得ようとする場合にはあまり効果的でない。加熱処理後の結果として表面に偏析した不純物あるいはもともと試料表面に存在する不純物を問わず、表面から物理的に不純物を取り除くための別の方法が必要である。通常、一般的に用いられている方法は、イオン衝撃法であり、原理的には非常に簡単である。500eVから5keV程度のエネルギー範囲の正の希ガスイオンを表面に照射する。その結果として表面と表面近傍の領域においてエネルギーの交換が行われ、表面の原子やクラスターが表面から分離するのに十分な運動エネルギーを与えられ、表面から取り除かれる。言い方をかえれば、表面が削られたことになる。ガス種として通常アルゴンが用いられる。これは原子量が高くなるに従い増加する物質の除去効率と液体窒素トラップを使用している場合には、液体窒素トラップにおける蒸気圧とのかねあいにより選択される。アルゴンより質量数の高い希ガスは低い温度では凝縮してしまうために、排気がむずかしくなるためである。表面をけずり取る過程はスパッタリングと呼ばれ、イオン源をイオン銃と呼んでいる。アルゴンをイオン銃に供給する方法は2通りある。分析室全体を、イオン銃が動作するのに十分な圧力までアルゴンを導入する方法と、アルゴンをアルゴン化室内に直接導入し、その領域のみが高い圧力となる方法である。前者の方法は静的な方法で、イオンポンプを使用している系では、アルゴンガスを連続して排気しないようにイオンポンプをバルブで隔離しなければならない。後者の方法は動的な方法で、イオン銃の引き出しアパーチャ―の径が、イオン化室内と分析室とを作動排気するのに十分なほど小さいので、分析室は拡散ポンプやターボ分子ポンプの排気により低い圧力に保つことができる。動的に排気するイオン銃の場合には、スパッタ―により放出された不純物などは取り除かれるので、再び汚染する可能性のある静的な系よりも、試料を清浄化する目的においてずっと効果的と考えられる。
 以上述べたように、イオン衝撃による表面の清浄化は原理的に簡単である。実際においてもそのとおりで、イオン衝撃のみによって表面を清浄化した例が多数発表されている。しかし多くの場合には、イオン衝撃によって、厚い汚染層が取り除かれることはわかっても、数原子%程度の微量な汚染原子は常に残ってしまう。一般的に炭素と酸素を完全に取り除くことが最も難しい。しかし多くの応用や分析目的においては、イオンを試料に照射し試料表面を覆っていた汚染層を取り除き試料を分析可能にすることを目的としており、低レベルの残存汚染物質は許容される。先に述べたような、本質的に清浄な表面を必要とする場合においてはいくつかの処理方法を組み合わせて使用する。たとえば、試料の加熱とイオン衝撃を交互に繰り返して行う方法が一般に用いられている。
 試料が薄く、例えば箔状の試料の場合には、そして、既にある程度の純度の高い材料の場合には、上記の手順に従って、適当な加熱温度とイオンの照射量を調整することにより、表面に偏析する不純物を完全に取り除くことが可能である。いったん試料がこのような状態になったならば、試料内部からの偏析による汚染がないので、必要とする時に1回のイオン衝撃もしくは加熱を行えば、清浄な表面を簡単に再現することができる。試料が厚い場合には、試料内部から表面に偏析してくるすべての不純物を取り除くことは明らかに不可能なことであるが、多くの場合は、加熱温度とイオン照射量を注意深く調整することにより、おそらく表面から1-2μm程度の領域において、不純物を取り除き、前に述べたのと同じ状態にすることができる。この状態は、引き続き要求される試料加熱温度が清浄化の目的で加熱した温度に近い場合には、明らかに安定とはいえないが、もしこれ以上加熱処理を必要としない場合や、加熱を必要としても、ずっと低い温度でよい場合にはこの方法は有用である。
 イオン衝撃は、試料を清浄化する目的で、単一もしくは加熱と組み合わせて広く用いられているが、使用する場合には、イオン衝撃におyって引き起こされる可能性のある表面構造の変化を知っておく必要がある。イオン衝撃により表面に化学的、形状的な変化のいずれかまたは両方が発生する。ここでいう化学的な変化とは、イオン衝撃によって生じる、合金や化合物の表面における主要構成元素の組成の変化や化学結合状態の変化(または両方の変化)を意味する。形状的な変化とは、一般的には、イオン衝撃により表面の粗さが増加することを意味するが、時には、統計的にひき起こされる表面粗さの変化も意味する。スパッター収率、すなわち、1個のアルゴンイオンに対してスパッタ―される原子の数はSeahによって示されているように、周期律表の上でかなり異なるので、2元素あるいはそれ以上の元素を含む物質においては、構成元素のうち、少なくとも一つはスパッター収率が高いために、選択的に取り除かれることになる。したがって、イオン衝撃を行った際の試料表面は、バルクもしくは化学量論的組成に対して元素の欠乏が生じる。欠乏は、イオン衝撃をさらに続けることにより進行し、表面の元素の原子数の比と相対スパッタ―収率との関係で平衡状態に達するまで進む。このことは、構成する物質間のスパッタ―収率の差の大きい合金系でよく観察される。もしマトリックス効果が無く、また、元素それぞれのスパッター収率がわかっているような場合には、スパッタ―を行う以前の状態もどって議論することはできる。同じように、イオン衝撃それ自身によって生じる、これまでに述べた以外の化学的変化も重大である。これには化合物の還元および”Knock-no”(ノックオン)効果によりいつまでたっても元素が取り除かれない現象も含まれる。前者においては、酸化物中の酸素、硫黄化物中の硫黄などのように揮発性の元素がイオン衝撃中に優先的に失われる。ただし元素単体としてのスパッター収率は、他の構成物質と同等かいくぶん低い場合であってもである。この損失には必ず金属酸化物中の”金属”の酸化数の低下がともなう。”knock-on”効果においては、その名が示すように、ある物質、特に軽元素の場合には、一次イオンが直接衝突したり、エネルギー・カスケードによる間接的な衝撃により、物質中にもぐりこむことがある。例えば、長い時間イオン衝撃を行っても、炭素が頑固に残るのはこの効果によるものである。これまでのところ、還元現象と”knock-on”がある場合に定量分析をしようとしてこれらの変化をシステマティックに考慮して取り扱う試みは成功していない。
 イオン衝撃によって表面の粗さが増加する原因はいくつかある。もし、一つのイオン源からイオンが常に一方向のみから試料に入射するような場合には、つまり、現在最も普通に用いられているような場合には、入射角が大きいほどスパッタ―効率が高いので、一般に表面の粗さは顕著になる。やがて平衡状態に達し、原子の量は、その場所におけるスパッタ―収率により平衡となる。もっと極端な状態が生ずる場合は、物質中に不純物が介在している場合で、そいの不純物のスパッタ―収率がその周りのマトリックス物質のスパッタ―収率よりもずっと小さい場合には、介在物は、介在物下方のマトリックス物質に対して、一次イオンをさえぎる役割を果たし、その結果、介在物を頂点とする円錐柱が形成されていく。この二つの影響を、取り除くとまではいわないまでも最小限にするためには、二つもしくはそれ以上のイオン源をいろいろな方向から同時に用いるとよい。さらによい方法としては、試料をイオン衝撃中に絶えず回転させることである。回転させると、入射角度に対する影響をなくすことができる。しかしながら、これらの方法を用いている装置はほとんどない。
 イオン衝撃は、試料表面を清浄化するのに、特に試料加熱と組み合わせた場合に確かに有効な方法であるが、一方で望ましくない側面もある。許容できるものもあるが、許容できないほどのものもかなり多い。しかし、イオン衝撃による清浄化は広く用いられ、しかもさらに用いらられることは確かである。したがって、イオン衝撃によって表面を清浄化する場合には、いかなる試料でも表面上の構造上の変化に留意することが必要である。

◇X線源
 強度の強い特性X線の光源を作るための線源は、XPSの出現よりもずっと前に、特にX線回折(XRD)装置に使用されている。しかし、XRDにおいては、特性X線のエネルギーは通常数十keVと高いことが要求されているが、XPSにおいては表面に限定された特性に由来して、わずか数keVの特性エネルギーを持った軟X線が使用されている。さらにXRDに用いられている線源は、一般的には陽極をアース電位にして、負の高電位にあるフィラメントから放出される電子による電子線衝撃により動作する。そのために、アース電位にある陽極以外のまわりの表面も同様に電子衝撃される。XPSにおいては、発生したX線光子は、線源側の真空系から分析室側の真空系へ、電子が汚染物質の遮断を目的とした薄い窓を通過しなければならない。もし、従来からと同様の構成にすると、この窓も電子衝撃を受けることは明白である。そのため、XPSに用いられる線源の構成は、フィラメントをアース電位の近くにし、陽極を正の高電位に位置するように逆転してある。
 XPS線源に用いる陽極の材料を選択するためには、まずはエネルギー分解能を考慮することが必要である。光電子と内殻準位との相互作用を記述するアインシュタインの関係式は、
EKE = hν - EB - eφ
EKE: 放出される光電子の運動エネルギー
hν: 入射X線の特性エネルギー
EB: 内殻準位の電子の束縛エネルギー
φ: 仕事関数
EKEの線幅が、種々の要因の中でもhνの線幅に依存することを示している(ここで線幅とは、場合に応じて、励起X線源の特性線、または放出された光電子ピークの半値幅を意味する)。XPSは、それぞれの元素のスペクトルの詳細な分析をすることによって化学的情報を得ようとする方法なので、最も正確な情報は、感度、すなわちS/N比を犠牲にしない範囲で最良の装置のエネルギー分解能で分析することによって得られる。実際には、以上のことにより執筆の時点では1.0-2.0eVの範囲のエネルギー分解能を用いることを意味しているが、ほとんどの場合は、先に示した範囲の中で高い数値よりも低い数値側で用いられている。したがって、使用するX線源の線幅によって分解能が制約されるのをさけるためには、明らかに、線幅が1.0eVよりも小さい陽極材を用いる必要がある。
 下記の表にいくつかの特性X線のエネルギーと線幅を示す。
エネルギー eV 幅 eV   エネルギー eV 幅 eV
Y Mζ 132.3 0.47   Mg Kα 1253.6 0.7
Zr Mζ 151.4 0.77   Al Kα 1486.6 0.85
Nb Mζ 171.4 1.21   Sig Kα 1739.5 1.0
Mo Mζ 192.3 1.53   Y Lα 1922.6 1.5
Ti Lα 395.3 3.0   Zr Lα 2042.4 1.7
Cr Lα 572.8 3.0   Ti Kα 4510.0 2.0
Ni Lα 851.5 2.5   Cr Kα 5417.0 2.1
Cu Lα 929.7 3.8   Cu Kα 8048.0 2.6
ここにあげた物質は、例えば、長時間の電子衝撃においても安定して使用できるなど陽極材として考慮されたものである。この表からもわかるように、X線の線幅は十分に小さい物質は非常に少ない。イットリウムとジルコニウムMξ線は、線幅が小さく、そして特殊な分野には使用されているが、これらの特性線のエネルギーは一般の用途にとってはとても小さすぎて、励起することの可能な光電子の線が、確実な分析をしようとするうえで不十分である。要求される条件を満たす上記以外のX線は、マグネシウム、アルミニウムとけい素のKα線だけである。けい素も同様に特別な用途には用いられているが、金属ではないのでその熱伝導度が低いことから陽極材として使用することは難しい。したがって、残ったのは、わずかにマグネシウムとアルミニウムのKα線である。実際においても、XPSで一般的に用いられているのはこの二つである。
 マグネシウムとアルミニウムそれぞれのKα線の特性エネルギーは、1250-1500eVの範囲にはあるものの、電子衝撃エネルギーと放出される線量の関係により、X線の効果的な発生のためには、それよりも一桁高い励起電子エネルギーを用いる必要がある。市販されている分光装置においては最高電圧は15kV程度で、この値は適当である。また得られるX線量が電子衝撃電流と比例することから、与えられたエネルギー分解能において、最良の感度を得るためには、線源が耐えられる、できるだけ高い電子衝撃電流を用いる必要がある。また、同様に感度を向上させる目的で強いX線量を得るためには、線源は試料のできるだけ近くに設置する必要がある。そのため、試料分析位置に近いところでの線源の構造をできるだけ小さくしなくてはならない。もちろん、試料に放射するX線量は、試料と陽極の距離の2乗に反比例する。以上述べた要求をすべて満たす結果として、このような構造となった。このような大きさの線源の場合には、適切な水冷が行われるならば、最大電力1kWまでは使用可能である。陽極が融けてしまう以前に、そこから熱を奪うための強制水冷の必要があり、これは陽極構成材料が熱伝導性のよい材料でなければならないことを意味している。すなわち、陽極を構成する材料と冷却水用の配管全体を銅で作る必要がある。また陽極材料それ自身は、通常は、銅製のブロックに陽極材の厚い膜を蒸着させるが、その厚さは銅ブロックからのLα放射を除去するのに十分な厚さと、熱をうばうのに十分な薄さという二つの要求の結果として、〜10μmの厚さが一般的である。一般的なX線源の制御系は、電子衝撃電流を、実際の値はメーカーによって異なるが、例えば、5mA, 10mA, 20mAのように固定した値を一組の切り替えスイッチによって選ぶことができる。また、通常X線源は2kV以下の励起電圧では動作が不安定であるが、0-15kVまで連続的に可変できる。
 大部分の市販のX線源は、電子衝撃用の二つのフィラメントと二つの陽極を有する。一方はマグネシウムで、もう一方はアルミニウムである。このような形式のものは、Mg KαからAl Kα放射に、数秒で外部から切り替えることが可能である。陽極が2種類あることが望ましい理由は二つある。一つは、二つのKαX線はそれぞれ異なった線幅を持っているので、Al Kα線は、マグネシウムの場合よりもいくぶん有用性が高いとはいうものの、マグネシウム本来の分解能の良い点が必要な場合も多い。もう一つの理由は、どのようなX線で励起された放出された電子スペクトルにおいても、光電子とオージェピークの両方が出現し、干渉の起こる可能性がある。こうした場合、光電子のエネルギーは励起する光量子のエネルギーに依存しているが、オージェ電子のエネルギーは線幅によって変わることはないので、X線のエネルギーを変えることで干渉を解決することができる。特別な目的のために、他の陽極との組合せも用意されている。例えばMg/ZrやAl/ZrはZrのLαX線を用いればアルミニウムやけい素の感度を増加させる目的において有用である。
 先に述べたように、薄い窓を陽極と試料との間に置くことは、試料を、浮遊(ストレー)電子や熱から、また線源により起こる可能性のある汚染から遮断するために必要である。窓材として使用される物質は、もちろん使用するX線源にとって十分な透過性がなければならない。Mg KαおよびAl Kα線に関しては、厚さが約2μmのアルミニウム箔を用いるのが便利で、また実用的である。この厚さを用いると、線量の減衰は、Mg Kα線に対しておよそ24%、Al Kα線に対して15%である。もし他の励起源を使う場合には、標準のアルミニウムに代えて適当な窓材を使うように注意しなければならない。例えば、151.4eVのジルコニウム Mξ線が必要な場合は、アルミニウムでは透過せず、そのかわりとしてはベリリウムもしくは炭素の窓が適当である。
 XPSに用いるX線源に関するこれまでの説明は、大部分”自然の”、正確には単色化していないX線について述べてきた。しかし、光電子スペクトルは、どのような物質からのものでも複雑で、種々の幅の特性線を持つ広い連続したバックグラウンド(Bremsstrahlung:制動放射と呼ばれる)と重なっていることを知る必要がある。アルミニウムに関してみると、制動放射によるX線は電子衝撃エネルギーの関数であり、窓を通過した後は、窓の厚さにもよるが、最大エネルギーの20-40%を持ち、したがって、これは主特性線よりも高いエネルギーにも広がっている。そのため特性線では、直接電子するのには深すぎる電子レベルからオージェ遷移を励起する場合には有用である。線スペクトルが複雑になるのは主要な特性線に関連して生じるサテライト放射によるものと、周期律表で原子番号が増加するに従って多重線となることによる。

◇X線の単色化
 サテライトによる干渉の除去、制度放射によるX線の除去によるシグナル/バックグラウンド比の改善、および通常は分離することのできない二重線の主線を分離することが、X線を単色化することにより達成できる。単色化を行う方法にはいくつかあるが、それらはすべて結晶での回折を用い、X線エネルギーの分散によっており、良く知られているブラッグの式によって表すことができる。
 n*λ = 2*d*sinΘ
ただし、
  n=回折次数
  λ=X線の波長
  d=格子面間隔
  Θ=ブラッグ角
 λ=0.83nmのAl Kα線の場合の一次回折の場合において、石英の結晶は、1010面の格子面間隔が0.425nmである。したがってブラッグ角は78.5°となり、非常に都合よいことが知られている。石英には多くの利点がある。すなわち、容易に弾性的に曲げたり、研磨することもできる非常に大きい完全な結晶を得ることができる。そして損傷や歪みを生じることなく高い温度でベーキングすることもできる。
 よく使われる0.5mモノクロメーターにおいては、その分散は1.6mm/eVであり、もっと大きい1mのモノクロメーターにおいては3.2mm/eVである。したがって、Al Kα線の自然幅よりもずっと小さい線幅、たとえば0.4 eV以下を達成するためには、0.5mのモノクロメーターを使った場合において、陽極上に収束する電子線を十分に細くして、分散面内の試料に
おける放射領域を0.6mm以下にしなければならない。
 モノクロメーターの機能は、全体のKα放射のうちから選択したごく一部分のみが試料に到達するようにするものなので、同じ電力を消費して得られる光子フラックスは、単色化していない線源と比べるとずっと少ない。例えば、アルミニウム陽極の場合は、1mのモノクロメーターを使った時の光子フラックスは、標準の線源と比較して1/40となる。このように実際の計数量はずと減るが、一方でシグナル/バックグラウンド(S/B)比の改善により検出能力が向上する。なぜならば、バックグラウンドがかなり取り除かれるからで、サテライトピークのないきれいないスペクトルと、優れた分解能を得ることができる。多くのメーカーはモノクロメーターを付属品として提供しているが、一般にかなり大型で、かつ高価である。

D. ブリッグスら「表面分析」(上下巻)アグネ承風社
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◇情報の得られる深さ
 情報の得られる深さは固体中での電子の非弾性平均自由行程(IMFP, λ)によって支配される。(省略)観測される光電子の信号の95%が3*λ*sin(α)の厚さの層から由来する(平面の表面の場合)。ここでαは表面に対する電子の脱出角度である。α=90-Θである。Θは表面の法線からの角度である。
 ポリマーに対するλの値は何が適当であるかについて議論が絶えない。これは主としてこれを決定する二つの異なった方が違う結果を与えたということと、また有機物質のラングミュア・ブロジェッド(LB)膜からの値が使えるとみなされたことに原因している。最近のLB膜のIMFPの研究はこうした仮定が正しくないことを強く示唆している。そこにはポリマーのIMFPの問題に関して優れた記述がなされており、ポリマーのλ値は典型的な金属や無機化合物と類似していることが結論されている。

◇ポリマーの内殻の束縛エネルギー
 過去10年間にわたってClarkや他の研究者達はこの研究課題に関して理論的な計算を伴った純ポリマーやモデル低分子の研究を通じて多くの報告をまとめている。そのうちの多くは最近Dilksによって紹介されている。これらのデータを簡単にまとめることができる。
・C1s束縛エネルギー
a) 炭素はそれ自身あるいは水素とのみ結合している場合は、混成軌道のいかんにかかわらずC1s=285.0 eVを与える(これがしばしば束縛エネルギーの基準に用いられる)
b) ハロゲン族元素は高束縛エネルギー方向へのシフトを引き起こすが、これは第一の置換基効果(すなわち直接結合した炭素原子への効果)と第二の置換基効果(隣の炭素原子への効果)に分解することができる。このような置換基1個あたりのシフトは近似的に下のようになる。
c) 酸素は1個のC-O結合当たり約1.5eVの高束縛エネルギー方向へのシフトを引き起こす(したがって、O-C-Oと>O=Oは同様なC1sの束縛エネルギーを与える、等々)。C-O-XにおけるXの二次的な影響は小さい(±0.4eV)っが、例外的にX=NO2(硝酸エステル)の場合は、0.9 eVのシフトが加わる。
d) 窒素を含んだ官能基は、置換基の性質に著しく依存する一次置換基効果を持っている。すなわち、-N(CH3)2, -NH2, -NCO, -NO2に対するC1sのシフトはそれぞれ、0.2, 0.6, 1.8, 1.8 eVである。-CH2-C≡Nの中では両方の炭素原子共〜1.4 eVのシフトを受ける。-ONO2によって引き起こされるC1sシフトは約2eVである。
・O1s束縛エネルギー
 ほとんどの官能基からのO1s結合エネルギーは533 eVの前後約2 eVの狭い範囲に入る。極端な場合はカルボキシル基や炭酸基でみられ、単結合した酸素はより高いバックグラウンドを持つ。
・N1s束縛エネルギー
 窒素を含む多くの一般的な官能基によって与えられるN1sのBE=399-401 eVの狭い範囲に入る。これには-CN, -NH2, -OCONH-, -CONH2が含まれる。-NH3+のような4級化だけが束縛エネルギーを自由なアミンより約1.5 eV増加させるが、これは多分に、対イオンの影響である。酸化された窒素を持つ官能基はかなり高いN1s束縛エネルギーを有する。-ONO2(〜408 eV),-NO2(〜407 eV), -ONO(〜405 eV)などである。
・他の内殻準位
 通常、ポリマーでみられるその他の異なった酸化状態を持つ原子は硫黄とシリコンくらいである。C1sに対する硫黄の一次的な効果は非常に小さい(ポリスルフォンで測られた値で〜0.4 eV)。しかし、S2pの束縛エネルギーは適当な範囲にわたって変化する。例えば、R-S-R(〜164 eV), R-SO2-R(〜167.5 eV), R-SO3H(169 eV)などである。
 Si2pの束縛エネルギーは報告例が少ない。ポリシロキサン構造-OSiR2O-を持つ典型的なシリコーンはSi2p(〜102 eV)を与える。
 ハイドライドイオンは共有結合したハロゲンと区別できることも注目されてよい。フッ素の場合、F-のF1sの束縛エネルギーはC-F(普通689 eV)より約4 eV低いし、Cl-のCl2pの束縛エネルギーはC-Cl(ふつう201eV)より約2 eV低い。

D.ブリッグスら「表面分析(上下)」アグネ承風社
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