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理論計算 理解への道1

 ここでは大学生及び社会人の方を対象とした理論計算への理解のための知識を参考文献を引用しながら紹介していきます。
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川添良幸、水関博志「第一原理シミュレーション計算による次世代デバイス設計」応用物理、74 (2005) 1033.
※ 上記の他、読んでおいた方がよいと思われる書籍を下記に示す。
上坦外修己、佐々木厳「入門 無機材料の特性」内田老鶴圃
竹内伸「結晶塑性論」内田老鶴圃
中村裕之「固体の磁性」内田老鶴圃
藤原毅夫「固体電子構造論」内田老鶴圃
水谷宇一郎、佐藤洋一「ヒューム・ロザリー電子濃度則の物理学」内田老鶴圃

2.理想的第一原理計算
 原子が集まって分子を構成するとき、どのようにしてその安定性が実現されるのだろうか? 現在市販されている教科書には、原子の周りに分布している電子が再配分されると説明されている。しかし、実は、原子が寄ってくると、電子同士は斥力を感じるが、電子が原子核により集中していくことで引力が増大し、系全体として安定化できるというのが正しい解である。こんなことはとっくに教科書に書いてあるはず? そうではなく、このような基礎的なことでさえ精密な数値計算がなされたことはない。確かに応用研究は進んでいるが、まだまだ基礎的な問題も数多く残されている。運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの比が-2であるというクーロン多体系の必須条件であるビリアル定理を満たす量子モンテカルロ法による精密な計算結果は、最近なされたばかりである。分子形成に際して、電子が原子核近くに集まってくるため系の運動エネルギーは増加し、ポテンシャルエネルギーはビリアル定理に基づいて減少する。一方、ハイトラー・ロンドンに始まり現在に至る広く流布している通常の第一原理計算では、系の全エネルギーだけで分子の安定性を議論するため、運動エネルギーが減少し、ポテンシャルエネルギーが増加するという、まったく自然の摂理に反する形で分子の安定性を議論するという大変な間違いを起こしている。
 フント則によれば、価電子が同一スピン状態をとり、系として高スピン状態のほうが安定になる。その理由として、スレーターの理論を基礎に、パウリの排他律により異なるスピン状態の電子のみは近寄れるが斥力が働いて損をするので、近寄れないほうの同一スピン状態をとるほうが得をすると説明されている。しかし、これは電子のみに注目したまったく間違った解釈で、本当は、原子から分子ができるときと同じ現象のためにフント則が成り立つ。つまり、同一スピン状態の方が、原子核周りにたくさんの電子が寄って系のエネルギーを下げることができるために、安定化するというのが正しい解釈なのである。(中略)
 しかし、第一原理計算とはいっても、実際にシュレーディンガー方程式を解く場合には、近似をたくさん使うのである。古来、三体問題は解けない問題の代名詞である。この話は、 実は三体系の特殊な配置を除き、一般的に解析解はない、という意味である。一方で、数値計算により、すでに百万単位の粒子系の時間発展を追跡できる、という意味では「解ける」問題なのである。別の例をあげると、物理学者や化学者が、分子軌道、原子の波動関数と呼んで何も疑問を感じないように育っているのは、標準的な教科書の最初に、電子の質量は原子核に比べて非常に小さく(陽子の約1800分の1)、断熱近似(adaiabatic approximation, Born-Oppenheimer approximation, BO近似)が成り立つ、と定義されているからである。しかし、これはきわめて危険である。もちろん、通常はほぼ正しいのであるが、特に軽い水素を含む系を扱う場合には、注意が必要である。反応過程はBO面をはるかに離れた状態を経由して起こることもあり、断熱近似は一般的に成立する条件にはなっていない。われわれは、H2+やLi2+H2のような小さい系に対してBO近似を外したシミュレーションを行い、これを確認している。

3. 標準的第一原理計算
 (省略)
 現在の標準的第一原理計算には2種類が存在する。一つは化学の世界で標準的に用いられている分子軌道法である。この方法では、分子の波動関数(原子核は点電荷と考え、電子の波動関数のみを量子論的に扱う)を、原子の波動関数の線形結合で記述する。電子間の相関を何処まで取り込むかで計算量が大幅に変わるので、必要な精度と系の規模に応じた近似がなされる。有限個数の原子からなる分子の波動関数をきわめて精密に求める手法として高い精度を得るまでに至っており、最近の薬品の設計では、フィルターとして必ず実験以前に適用されている。有名なGaussianプログラムをはじめ、実空間の波動関数が基本である。もう一つが、結晶に基礎をおく、物性物理の基本であるバンド計算法である。無限に同じ構造が繰り返される結晶格子は、運動量空間では逆にきわめて限定された空間で表されるため、逆空間に基礎をおく。電子構造に対する通常の近似レベルは、局所密度近似(Local Density Approximation, LDA)である。スピンを考慮したLSDA(Local Spin Density Approximation)と最安定構造近くの密度の微分までを考慮したGGA(Generalized Gradient Approximation)もよく使われる。しかし、これらのすでにプログラムも市販され(なしは無償で提供され)広く使われているシミュレーション研究手法は、平均場近似の範囲である。すなわち、何と多体問題の本質は一切扱っていないともいえるのである。(1)電子は、他の電子の作る平均場の中を運動する、という局所密度近似は、カリフォルニア大学のコーン教授の大理論である密度汎関数法(Density Functional Theory, DFT)を基盤とし、そこで、「縮退のない基底状態」に対しては、この近似がきわめて精密な多体系の解を与えることが保証されているのである。交換相関相互作用に関しては、局所密度近似の適用が通例である。(2)また、分子軌道法は、ハートリー・フォック近似に基づいており、交換相互作用を正しく取り込んでいる。電子相関に関しては、理論的な扱いが困難で、さまざまな試みがなされている状況である。よく使われているのは配置間相互作用(Configuration Interaction, CI)の導入であり、計算機が無限に早ければ、full CIによって、完全解を求めることも原理的には可能である。しかし、通常レベルの打ち切りを適用したCI法では、相関エネルギーの60%程度しか求められないことが知られている。
 局所密度近似に基づく第一原理計算によって物質の電子状態を導出するという従来からの物性理論の研究方法は、完全結晶の基底状態の物性予測を可能とした。1985年のカー・パリネロ法の出現により第一原理分子動力学が現実的な研究手段になったため、物質の最安定構造およりその近くでの振動状態が、現在盛んに研究されている。構造最適化の実現は「場合の数の組み合わせ的発散により」きわめて困難であり、すべての場合を尽くしても調べることは、現状のスーパーコンピューターのパワーをもってしても十数原子程度が限界である。対応策として、tight-binding分子動力学法や古典分子動力学法を採用して最安定構造を決定し、その値を初期条件として、第一原理計算によってより精度のよい計算を行うという階層的な手法が採られている。
 LDAは系の安定状態のみを精密に記述する技法である。一方、実験では常に光を当てて励起するなどの方法を採るため、そのスペクトルを解析する必要がある。そのため最低必要になるがGW(Green function-Vertex)近似である。しかし、この方法は膨大な計算時間がかかるため、カリフォルニア大学のLouieたちのグループがSiなどの簡単な単結晶に適用しただけであったが、LDAではまったく説明できなかったバンドギャップ値を精密に求めることができる画期的な方法である。もちろん、近似のレベルはGW近似で終わりではなく、さらに上位の近似は「いくらでもある」が、CI法と同様に、計算量は指数関数的に増大する。ただし、最近の物理の一番の興味の一つである強相関の問題は、このように、クーロン力を基礎として、電子間の相関を精密に計算することによってのみ初めて定量的に可能となるのである。ハバード模型のUパラメーターの大きさによる強相関の議論はモデル計算にすぎず、予測能力はない。
 最近、計算機の高速化、大容量化により、GW近似の計算がより現実的な系に適用可能となってきた。われわれは、GW近似をより一般の格子系に適用するための方法論として、全電子混合基底法を採用し、クラスターに対する計算を行っている。特に半導体の研究には、GW近似の採用が重要である。現在のLDAでは、バンドギャップの値が実際の半分から2/3程度に過小評価されることは周知の事実である。つまり、緑色の発光素子が赤くなってしまうようなレベルであった。それが、GW近似によって抜本的に改善され、実験以前に、コンピューターシミュレーションによって、物質の発光色が正しく予言できるようになった。(正確に述べれば、LDAは基底状態に対する理論なので2/3とかいう値の根拠は経験則にすぎず、LDAではバンドギャップを求めることはできない、というのが正しい)。しかし、GW近似の計算量は、電子数の6乗に比例するため、本稿で対象とするような系に対する計算量は膨大である。
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