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電子回折を扱う方向け

 ここではLEEDやRHEEDを用いて材料の分析をされている方に適した第一原理計算コード及びフリーソフトを紹介します。
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 SADまたはCBEDを行うものは 田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版 を参照することをお勧めする。
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■ 電子回折、電子回折図形の名称について
 電子回折、電子回折図形は、それぞれ英語ではelectron diffraction, electron diffraction patternです。時々、X線回折やTEM像と混同して、電子線回折図形や電子線回折像という間違った表記を目にすることがあります。線(beam)は粒子で回折にはそぐいません。電子の波の性質が回折を起こしているのです。回折図形は逆空間のものであって、実空間の像ではありません。ちなみに、X線回折はX-ray diffraction、中性子回折はNeutronで、rayは光、光線の意味でbeamとはニュアンスが違います。
田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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■ 電子回折のパターンと指数について
 電子回折のパターンの解釈の仕方が、進藤大輔ら「材料評価のための高分解能電子顕微鏡法」共立出版株式会社 に記述されているので、この本は手元にあった方が良いと思う。
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■ 関連ソフト
 金属材料を扱う方々では、第一原理分子動力学法や第一原理バンド計算法などによる構造最適化の後に、LEED及びRHEED像のシミュレーションを行われるかと思います。下記には参考となるHPのアドレスを記しておきます。これらを参考にして、色々な材料でのシミュレーションを行ってみて下さい。

a) 構造最適化
ABINIT : http://www.abinit.org/ 
PWscf : http://www.quantum-espresso.org/ 
CPMD : http://www.cpmd.org/ 
Phase : http://www.ciss.iis.u-tokyo.ac.jp/dl/ 
BigDFT : http://inac.cea.fr/L_Sim/BigDFT/ 
GPAW : https://wiki.fysik.dtu.dk/gpaw/

b) 電子回折像のシミュレーションソフト
Prof Michel A. Van Hove : http://www.icts.hkbu.edu.hk/vanhove/#Download_software
LEED Calculation Home Page : http://www.ap.cityu.edu.hk/personal-website/Van-Hove_files/leed/leedpack.html
九大総理工 水野研究室: http://leed4.mm.kyushu-u.ac.jp/
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◆ソフトウェア
1. VESTA

2. Recipro (http://pmsl.planet.sci.kobe-u.ac.jp/~seto/?page_id=19
 運動学回折理論によるSAD図形のシミュレーションを行います。他にも、菊池図形のシミュレーションや回折図形の指数付け、結晶構造の表示など多くの機能があります。
 電子線の入射方位をマウス操作でなめらかに変更できるので、試料をゴニオメーターで傾斜したときどのように回折図形が変化するかが実感できます。Windows上で動作します。

3. EDA (http://www-gbs.eps.s.u-tokyo.ac.jp/kogure/EDANA/EDA/EDANA.htm
 Reciproと同様に、運動学回折理論によるSAD図形のシミュレーションや回折図形の指数付けを行います。Windows上で動作します。

4. webEMAPS (http://emaps.mrl.uiuc.edu/ このページは表示できません)
 Bloch波を用いた動力学回折強度計算、SAD図形、CBED(HOLZ)図形の運動学的シミュレーションなどの機能を持ちます。ソフトウェアをPCにインストールすることなくweb上で計算が実行できます。

5. MBFIT (http://www.tagen.tohoku.ac.jp/labo/terauchi/personal/tsuda/mbfit.html
 Bloch波動力学回折強度計算と、それに基づくCBED図形を用いた結晶構造パラメーター精密化のためのソフトウェア。分散面およびBloch波の電子密度分布を表示する機能もあります。ANSI-Cで書かれたテキストベースのソフトで、windows, MacOS, Linux上で動作します。MBFITは電子線結晶学パッケージEDMにも一部含まれています。

田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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■ 各種の電子回折法
 SAD法では制限する視野の最小値は、加速電圧200kVのとき約0.1μmΦです。回折斑点の広がりは10^-5 - 10^-6 radです。試料が結晶の場合は方位合わせのために試料傾斜装置を使います。
 SAD法のほかに、次のような電子回折法があります。

・高分解能電子回折(High-resolution electron diffraction)
 高分解能回折法では、得られる回折斑点(又は回折環)が非常にシャープになるように平行度の高いビームを試料に照射します。試料は特別のホルダーを使って結像系の下に装填します。この方法では、微小領域からの回折図形や試料の拡大像は観察できませんので、制限領域は数10〜数100μmΦとなります。回折斑点の広がりはSAD法より小さく10^-6 - 10^-7 radで、よりシャープな回折図形が得られます。これとは別に、試料の表面層からの回折図形(反射回折図形)を観察するときもこの位置に試料を挿入して行います。

・収束電子回折(Convergent-beam electron diffraction: CBED)
 CBED法を用いると、試料を照射する電子線の収束角が大きいために回折斑点ではなく回折ディスクになります。この方法では他の電子回折法では得られない角度分解能をもった回折図形が得られます。CBED図形を解析すると、試料の厚さ、格子定数、結晶の対称性(点群・空間群)、格子欠陥の同定が行えます。制限領域は<10nmΦとなります。

・マイクロビーム回折(Micro-beam diffraction)
 マイクロビーム回折という名前をよくききますが、これはCBEDと同じといってよいものです。ただ、10μmΦ程度の小さなコンデンサー絞りを使うために、回折点はディスクというよりスポット近くになります。得られる回折図形の強度は弱くなり、長時間の露光が必要になります。

田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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■ 制限視野回折法(SAD)の実際
 通常、SAD図形の透過スポットは周囲の回折スポットや回折環よりもかなり強度が高いので、ビームストッパーで透過スポットをカットして回折スポットに適した露光をし、次にビームストッパーを除いて、短時間露光(二重露光)すると、透過スポットによるハレーションの少ない明瞭な回折図形が得られます。
 分解能の高い(シャープな)回折図形を得るには電子線の平行度を上げて撮影します。具体的には、第2集束レンズの励磁をBRIGHTNESSつまみでかえて、透過スポット以外のスポットやリングが見えない程度まで暗くします。
 透過スポットがDIFF FOCUSつまみを可変してシャープになったことを確認して、30-60秒の長い露光時間で撮影します。
田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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■ カメラ定数(L・λ)の測定
 装置の使用加速電圧における電子の波長λ、カメラ長L, 結晶の面間隔dおよび回折図形の透過スポットから回折スポットあるいは回折リングへの距離Rとの間には、
 L・λ = d・R
の関係が成り立ちます。この式でL・λ(またはd・R)をカメラ定数といいます。面間隔の既知の標準試料(金、アルミ等)を用いて、L・λを求めます(このとき、レンズなどの条件は未知の面間隔を測定する実験のときと同じに設定します)。正確を期する場合には測定しようとする試料に標準試料を蒸着し、1回の測定(1枚のフィルム)でL・λを求め、そのフィルム上で測定したRを用いてdを求めます。
田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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■ 誤差
 カメラ長Lは次のように表されます。
 L = f0 * MIL1 * Mp
ここでf0は対物レンズの焦点距離、MIL1は第一中間レンズの倍率、Mpは第二中間レンズから投影レンズまでの総合倍率です。
 カメラ定数L・λの変動は次のように表されます。
 Δ(L・λ)/L・λ = Δf0/f0 + ΔMIL1/MIL1 + ΔMp/Mp
通常、Δλ/λ 〜 10^-6です。MIL1、Mpについては、標準試料と未知試料に対して変更せず同じ値に設定すれば、その変動はΔMIL1/MIL1 〜 ΔMp/Mp 〜 10^-5です。f0の変動Δf0/f0はさらに小さく〜1x10^-6です。したがって、これらの変動におyるカメラ長の誤差は無視できる程度のものです。カメラ長の誤差はこれらの変動によるものでなく、試料交換時にSA MAGモードとDIFFモードの切り替えにともなうレンズの励磁のヒステリシスによって起こります。
 投影レンズの値を変えることはまずありませんが、対物レンズ(f0)やDIFF FOCUS (DIFFモード)はいじりがちです。
 最近の装置では、対物レンズのC-O条件を優先しているのでf0は固定して使います。しかし古い装置(JEM200CXなど)では、試料をゴニオメーターのユーセントリックな位置に置くことを優先していますので、試料の像が制限視野絞り上にできるように、対物レンズの焦点を合わせなおすのが普通です。そのとき、f0が変化しますので、カメラ長に変化が生じます。
 f0の変化によるカメラ長変化をなくすためには、試料交換後必ず試料位置をZコントロールのみで調整して制限視野絞りの上に結像させ(焦点を合わせ)、ILの焦点合わせツマミ(DIFF FOCUS)をいじらないことです。これを変えますとMIL1が変化してカメラ長が変わります。
 対物レンズへの供給電圧、つまりf0を変えてカメラ長を測定すると、JEM2010の規準の対物レンズの電圧は6.86Vですが、これが5%変化するとカメラ長は10%ほど変化します。
田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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■ カメラ長の誤差
 電子顕微鏡の加速電圧やレンズの励磁電流の変動によるカメラ長の誤差は無視できる程度のものです。
 カメラ長の誤差は、主に、
1. 対物レンズの励磁電流の設定値
2. レンズの励磁電流のヒステリシス
3. DIFF FOCUS(第1中間レンズの励磁電流)の設定値
に起因します。ここでは、実験において気をつける事項を紹介します。
1. 最近の装置では、対物レンズの励磁を固定して使いますので、ここではそれを前提とします。対物レンズの励磁電流の設定方法は電子顕微鏡ごとに違いますが、ワブラ(wobbler)をオンしてビームが1つになるように励磁電流を調整することが多いと思います。励磁電流値がモニタに表示されている場合は、その数値を基準値に合わせます。実験途中に調整を確認することが重要です。これにより、上記の要因1は取り除けます。
2. 実験をはじめる際、Low-Magモード(対物レンズOFF)、Magモード(対物レンズON)、Diffモード(Magモードに比べ第1中間レンズの励磁が大きく異なる)を、相互に複数回切替えを行うことでヒステリシスを小さく抑えることができ、上記要因2をある程度取り除けます。
3. 要因3に関しては、DIFF FOCUSの調整時に使用する対物絞りのサイズをいつも同じにし、絞りのエッジの見え方を同じにすることで、DIFF FOCUSの設定値が一定になるようにします。カメラ長の値はいつでもできる限り同じ値で使用する慣習にします。こうすることで、異なる日に撮影した回折図形どうしをそのまま比較できるようになります。
 格子定数が既知の試料で実験する場合は、面間隔が既知(指数が既知)の回折スポットが回折図形に含まれる条件(結晶方位)で実験を行うことができれば、そのスポットを参照してカメラ定数を正確に決めることができます。何も参照すべき回折スポットが無い場合は、例えば、マイクログリッドのアモルファス膜のハローリングのパターンを撮影しておくことで、精度は十分でなくとも普通の実験条件から大きく外れていないkとを確認することができます。
 最近の電子顕微鏡では、対物レンズの試料近傍のスペースが小さいため、回折図形のできる位置(後焦点面)からずれた位置に対物絞りが入るように設定されている場合があります。対物絞りの位置が回折図形の位置からずれていると、SADIFFモードで対物絞りを使って回折スポットを選ぶとき、選んでいない回折スポットが入り込むことがあります。この状態でMAGモードに切り替えたとき(明視野・暗視野)、選んでいない回折スポットからの像が重なるために像にボケが生じ、像の解釈を妨げます。正確な回折図形の位置(後焦点面)を知りたい場合は、試料上に電子ビームを収束させた条件でDIFFモードに切り替えて菊池図形を観察し、菊池線が最もシャープに見えるようにDIFF FOCUSを調製します。このとき、正確な回折図形(後焦点面)を観察していることになります。
田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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■ SAD法の精度
 10〜20μmΦの小さな絞りを制限視野絞りとして挿入し、対物レンズの倍率を100倍とすれば試料面上で0.1〜0.2μmΦに視野を制限したことになります。この制限視野領域を不精確にする原因として、対物レンズの球面収差と焦点のズレがあります。対物レンズの球面収差による電子線の回り込み、すなわち絞りで制限された視野と実際にSAD図形を与えている視野との差は試料上でCs*α^3で与えられます。Csは球面収差係数、αは回折角でα=2Θ、Θはブラッグ角です。最近の分析電子顕微鏡では加速電圧200kVで球面収差係数はCs=1mm程度です。
 金属試料の最低次の回折(反射)(d〜0.2nm)ではα〜13 mrad程度であり、球面収差による回り込み量は
 Cs*α^3 = 1 x 10^3 x 0.013^3 〜 0.002μm = 2nm
程度です。2次の反射ではαの値は2倍になるので、回り込み量は8倍つまり16nmになります。対物レンズの焦点のズレによる制限視野の回り込みはD*αで与えられます。Dは焦点のズレ量です。いまD=0.1μmとするとD*α=2nmとなります。中間レンズの制限視野絞り上への焦点合わせのズレ量をD'=1μmとすると回り込みはD'*α=20nmとなります。全回り込み量Yは、1次の反射ではY1=√(2^2 + 2^2 + 20^2) 〜 20.2nm、2次の反射ではY2=√(16^2 + 4^2 + 40^2) 〜 43.3nmとなります。
 絞りによって制限された視野の近くに異種の物質が有るときは、回り込みの効果に注意する必要があります。
 粒状性の試料の場合には異なる粒子からの回り込みをなくすために分散をよくすることが望まれます。
田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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■ 電子顕微鏡(TEM)像とSAD図形の間の回転角
 試料からのSAD図形を解釈する際、その試料像の結晶学的方位を調べる必要が生じます。例えば、Siなどの積層欠陥が析出物(extrinsicと呼ばれる)から成っているのか、あるいは空孔(intrinsicと呼ばれる)からできているのかを判別する際に、欠陥のバーガース(Burgers)ベクトルの向きが[111]か[-1-1-1]のどちらであるかを判別する必要があります。
 電子顕微鏡の場合に、回折図形と像の観察スクリーン上への結像を、単純に幾何光学的に考えますと、対物レンズによる試料の結像を見ると、対物絞り(対物レンズの後焦点面)にできている回折図形の向きは試料の向きと変わりません。他方、制限視野絞り上にできている像は試料に対して逆向きすなわち180°回転しています。この関係は、結像系の中間レンズおよび投影レンズの段数(枚数)が回折図形と像に対して同じであれば、観察スクリーンでの回折図形と像の間でも保たれます。
 実際には、電子は磁界レンズによって回転を伴って結像されるので、そう単純ではなく、回折図形と像の間の回転角は180°からずれています。
 SAD法では、試料の制限視野像とSAD図形との切り替え時に第1中間レンズの電流を変えるので、その変化分に応じて制限視野像とSAD図形の間で回転が生じます。JEM2010などではこの回転を他の中間レンズで補正しています。補正の誤差はJEM2010で±2%以下です。
 補正のない古いタイプの装置(JEM200CXなど)ではこの回転角の測定が必要です。現在の市販の電子顕微鏡では、結像レンズ系は多くのレンズで構成(多段構成)されています。多段結像系レンズの励磁を連動して変化させて、倍率変化に対して像回転を起こさないようにするのが一般的です。つまり、多段のレンズを使用しているため、回折図形と像の間の角度は、任意に設計することが可能になっています。日本電子製の電子顕微鏡では制限視野回折モード(SADIFF)と制限視野像モード(SAMAG)(倍率約1〜10万倍)の間での回折図形と像の回転角は、倍率によらず180°になるように設計されています。これ以外のMAGモード、STEMモードでは、回転角が180°になるようには設定されていません。
 さらにメーカーが違えば設定も違うと思われますので、必要に応じて、電子顕微鏡ごとに、また使用モードごとに回転角を調べる必要があります。
 回転角の測定法の実例を示します。測定用試料として手軽に準備できるものとして酸化モリブデン(通常、大気中でモリブデン線を通電加熱して、その際に出てくる煙を支持膜を張ったメッシュで捕獲する)を用いて、制限視野像とそのSAD図形を二重露光して一枚のフィルムに撮影します。これを一連の倍率について行います。SAD図形は、対応する像の倍率を変えても回転しないことに注意してください。
 制限視野像とSAD図形は、レンズの光学的な性質によって常に180°回転しています。ここでいう回転角は180°を基準として、そこからのズレの角度です。
 そして、SAD図形を基準にして像が時計方向に回転している場合を(-),反時計方向を(+)とし、ネガは乳剤面を上(蛍光板と同じ方向)にして測定します。
 ただし、印画紙に焼き付けた像は左右あるいは上下が反転しているので、蛍光板上で時計まわり方向30°といった場合は、印画紙上では反時計方向30°となります。
田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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■ 晶帯軸と晶帯面
 1つの方向に平行な面の群を晶帯(Zone)といい、その方向を晶帯軸(Zone axis)といいます。晶帯面というのはある晶帯軸に平行な全ての面のことをいいます。特に重要なのは[100],[110],[111]などの低次の晶帯軸dす。これらの軸に沿って電子線を入射させると、それぞれの晶帯軸に属する晶帯面がほぼ反射条件を満たすようになりますから、回折図形にはそれらの晶帯面の回折スポットが現れます。このような入射方位では数多くの回折スポットが現れ、しかも極めて特徴的な配列をした図形が現れます。これらの入射での各回折スポットの指数付けは重要です。
田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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■ CBEDからわかること
 CBED法によって結晶性試料を調べると、次のことを明らかにすることができます。
1) 試料の厚さの精密測定
2) 結晶の格子定数(格子歪)の精密測定
3) 結晶の対称性(点群、空間群)の決定
4) 結晶構造解析
5) 格子欠陥の同定

1) については、CBED図形のロッキングカーブを二波近似動力学回折の式を用いて解析することからサブナノメーターの精度で試料の厚さを決定できます。
2) については、HOLZラインの相対的な位置関係から格子定数を精密に測定できます。 格子定数の精密測定は、半導体等の多層膜の界面付近での歪み解析に威力を発揮しています。
3) は結晶学的にとって極めて大切なことで、32個の点群がすべて曖昧さなく決まるということです。運動学的回折を基礎にしているX線回折では、結晶に極性があるかないかの判定が簡単にはつきません(放射光X線で異常分散を利用すれば判別可能です)。そのために、中心対称を持つ11個の点群(Laue群という)しか判別ができません。中心対称があるかないかはほかの物理的性質、圧電性や集電性を調べなければわかりません。CBED法の場合には動力学効果のために結晶の表と裏が判別できます。すなわちI(hkl)≠I(-h-k-l)(フリーデル則の背反)となるからです。その結果、結晶が中心対称を持つかどうかを判別でき、32個の点群すべてが一義的に決定できます。
 空間群については映進面と鏡映面、らせん軸と回転軸の違いを動力学効果を使って判別できます。これも運動学的回折からは期待できないきわめてユニークな特徴です。これらのことから、ほとんどの空間群が一義的に決定できます。未知の結晶の空間群をCBED法を用いて正しく決めた後、X線で構造解析をするということが行われるようになっています。
4) については、CBED図形の中に現れる強度分布を多波動力学理論計算とあわせることから、原子座標、原子変位パラメーター(等方、非等方)、低次結晶構造因子を決定して構造解析をしようとするものです。無機材料の構造に視点を置いているCBED法による構造解析はab intioな構造解析ではなく、構造精密化refinementです。材料系の構造解析では基本的な構造は既に分かっている場合がほとんどですので、構造の精密化が重要です。
 構造精密化を具体的に実行するには、解析に耐えられる良質のデータが必要です。電子線が結晶に入射すると、弾性散乱と非弾性散乱が起きます。非弾性散乱電子による強度は弾性散乱による強度に重なり、弾性散乱の強度データを不明瞭にしてしまいます。理論計算は弾性散乱だけを扱います。
 非弾性散乱を取り込んだ計算は膨大なものになり、非弾性散乱に対するいろいろな仮定も入れなければならなくなり、実際的ではありません。そこで実験的に非弾性散乱を取り除くことが必要になってきます。
 ZOLZ反射とHOLZ反射の両方に対して、つまり低角散乱から高角散乱まで、同時に非弾性散乱を除去できるような電子顕微鏡(電顕)は永らくありませんでした。ZOLZ反射とHOLZ反射の両方に対して、同時に非弾性散乱を除去できる電顕が1999年に開発され、この装置を用いることによって信頼性の非常に高い構造精密化が可能になりました。もう一つの問題はCBED図形の解析に必要な多波動力学計算に時間がかかることでしたが、コンピューターの進歩によって、並列計算のできるコンピューターが手に入るようになり、この問題はほぼ解消されました。電子回折の特徴として、低次の結晶構造因子がX線回折によりよりいっそう精密に決定できるという利点があります。このことを利用するとより信頼性の高い電子密度分布が得られますし、電位ポテンシャル分布も同時に得られます。
5) につきましては、そもそも電子顕微鏡が固体物理や材料科学のための研究手法になったのは、1960年代に英国のHirschグループによって転位の観察が電顕で可能になったことから始まりました。転位、積層欠陥、双晶などの性質を決定できるようになったことで格子欠陥の研究は大きな進歩を遂げました。これらの研究は電顕像(TEM像)を使って行われてきました。TEM像を撮るということは、試料位置の関数としての回折強度I(r)を得ることです。ここでrは試料上の位置を表しています。Hirschたちの与えた不完全結晶に対する回折強度式は、試料位置の関数であるのみならず回折角の関数でもあります。しかし、TEM像の解析では湾曲(角度変化)のない試料を用意して、格子欠陥からの像強度を位置の関数として解析してきました。
 CBED法、とくに大角度CBED(LACBED)を用いると、回折強度を位置と角度の関数I(r,Θ)として得ることができます。
したがってLACBED法を用いるとTEM像を用いるより多くの情報が得られ、格子欠陥についてより曖昧さのない定量的な解析ができます。点欠陥がある場合の歪みを検出する試みも行われています。

以上、CBED法でできることについて手短に述べましたが、CBED法は完全結晶に対してのみならず、不完全結晶に対してもその構造解明のための強力な研究手段になっております。

・点群は巨視的な対称性ともいわれ、マクロな物理的性質つまり電気的、磁気的、光学的性質を支配している対称性です。
らせん軸や映進面は特定な回折斑点の消滅を引き起こすので極めて重要です。
・消滅則は"International Tables for Crystallography", Vol. Aに各空間群ごとに載っています。
田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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■ 零次ラウエ帯(ZOLZ)反射と高次ラウエ帯(HOLZ)反射をもとに用いる結晶構造精密化
 ZOLZ反射とHOLZ反射をともに用いる結晶構造精密化手法は、X線・中性子回折による結晶構造解析と比較して、次のような特徴を持っています。

1. 局所領域の回折強度データが得られる
 CBED法での試料のナノメーターサイズの局所領域から回折強度データが得られる点は、X線・中性子回折にはない大きな特徴です。このため格子欠陥等を避けて完全結晶の領域を選択できます。また、局所的な構造変化がある場合は平均構造でない局所構造情報を取り出すことができます。局所構造の解析の例として、多層膜半導体の界面での歪み解析に応用されています。

2. 動力学回折効果を用いる
 電子回折では、動力学回折効果のために各反射の位相の情報が最終的な強度に反映されます。これは、1回目の回折が起こってその波が引き続いて2回目の回折を起こすときに、強度としてではなく回折の位相情報を保った(複素振幅の)波として回折されるためです。このため、回折強度をフィッティングすることで位相情報も利用していることになり、
原子位置を精確に決めることができるのです。
 CBEDでは動力学回折理論に基づいて解析を行うので消衰効果に対する補正が必要ありません。
 X線・中性子回折では、動力学回折効果により低次反射の回折強度が運動学回折理論の計算値(結晶構造因子の二乗)よりも小さくなることがあり、消衰効果と呼ばれています。低次反射の結晶構造因子の値を正しく求めるためには、この効果を経験的な式を用いて補正(消衰補正)しますが、低次反射の結晶構造因子の測定精度を下げる原因となります。
 特に電子密度分布を求めるときには、低次反射の結晶構造因子の精度は価電子密度の分布に大きい影響を及ぼします。

3. イオン価数に敏感
 X線回折の原子散乱因子は電子密度分布のフーリエ変換です。例えば、原子番号Zの原子が電子を1つ放出してイオン価数が+1になると、散乱角0での原子散乱因子の値は電子の個数に比例してZからZ-1に変化します。これに対して、電子回折の原子散乱因子は静電ポテンシャル分布のフーリエ変換です。静電ポテンシャルは、正電荷を持つ核からの寄与と負電荷をもつ電子からの寄与でできています。
 イオン価数が0から変化すると、電子回折の原子散乱因子は散乱角0では無限大になり、低次の原子散乱因子にも大きな変化が現れます。
 つまり、電子線に対する低次の結晶構造因子の値は、原子のイオン化によって大きく変わるので、イオン価数を高い精度で決めることができます。

4. 原子位置・原子変位パラメーターに敏感
 CBED法では高散乱角領域にあるHOLZ反射は原子位置・原子変位パラメーターに敏感です。われわれの使用している
 エネルギーフィルターを搭載した透過型電子顕微鏡JEM2010FEFでは、加速電圧100kVのとき散乱角2Θが0°から10°を超える高角まで反射強度データが得られます。これは、面間隔でほぼ0.2Åまでの反射をカバーし、放射光X線や中性子の高分解能粉末回折と遜色ない測定範囲になっています。

◇ 解析の流れ
1. CBED回折強度データの取得
 エネルギーフィルターを搭載した透過型電子顕微鏡を用いて、非弾性散乱(主にプラズモン損失)によるバックグラウンド強度を取り除いたCBED図形を撮影します。強度の記録はイメージングプレート(IP)、CCDもしくはCMOSカメラ等を用いて行います。
2. 撮影したCBED強度データの前処理
 電子顕微鏡のレンズおよびエネルギーフィルターによって生ずる回折図形の歪を補正して各反射ディスクの回折強度分布(2次元回折強度分布)データを取り出します。歪みが大きくなる高散乱角のHOLZ反射の歪み補正は特に重要です。引き続いて、現状のエネルギーフィルターで除去できない熱散漫散乱による弱く単調なバックグラウンド強度を、各反射ごとに散乱角に対して線形に変化すると仮定して、反射ディスク外の強度を参照して取り除きます。これらの処理によって、理論計算と比較し得る各反射ディスクからの2次元の強度分布データを得ます。
3. 実験と計算のフィッティング
 上で求めた強度データと、結晶構造モデルを用いて行う動力学回折強度計算とを、非線形最小二乗法を用いてフィッティングし、以下のパラメーターを精密化します。MBFITというソフトウェアでは、パラメーターとして原子位置、原子変位パラメーター、低次反射の結晶構造因子(低次結晶構造因子)を精密化できます。この他に、実験強度と計算値の絶対強度を合わせるための因子(スケール因子)、試料厚さ、 CBED図形の歪み補正もパラメーターとして精密化します。動力学回折強度計算ではシュレーディンガー方程式を解くため大量の計算が必要ですが、PCクラスター計算機を利用して、CBEDディスク内の各ピクセルの強度計算を並列に行うことで大幅な高速化が図られています。
4. 静電ポテンシャル分布および電子密度分布の計算
 精密化した低次結晶構造因子と、精密化した原子位置および原子変位パラメーターから計算した高次の反射の結晶構造因子を用いて、フーリエ合成によって静電ポテンシャル分布が得られます。さらに、静電ポテンシャルからPoisson方程式を用いて電子密度分布が得られます。
 
CBED法による原子位置・原子変位パラメーターの精密化は、CdSM h-BaTiO3などに適用されており、さらに原子位置・原子変位パラメーターに加えて電子密度分布の精密化は、Siの共有結合電子の可視化、スピネル型酸化物FeCr2O4におけるFe3d電子の軌道秩序の可視化などに適用されます。

計算時間の例:
 Siでのパラメーター精密化の例では、PCクラスターの並列計算機(96コア)を使って、1回の非線形最小二乗法による精密化にかかった時間は1時間弱でした(このとき、入射方位を少しずつ異なる9枚のCBED図形を同時にもちいて、低次結晶構造因子の14個のパラメーターを精密化しました。その際、動力学回折強度計算に取り入れた波の数は約400波、各回折ディスク内の計算点数は300点程度で、非線形最小二乗計算のサイクル数4回で収束しました)。これを並列化ないで計算すると数10時間必要になります。
 計算機の高速化はさらに進んでおり、動力学回折強度計算にかかる時間は、今後大きな問題ではなくなっていくでしょう。
田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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■ 結晶の点群・空間群の決定
 CBED法による点群・空間群の決定の標準的な方法は、次のような流れになります。
1. CBED図形の撮影
2. CBED(図形の対称性から回折群を決定
3. 回折群から点群を決定、晶系の確認
4. 運動学的消滅則から格子型を決定、ブラベー格子型の確認
5. 動力学的消滅則から空間群を決定

◇ CBED図形の撮影
・Whole pattern (WP、全体図形)
 晶帯軸に平行に電子線を入射して得られるCBED図形で、透過ディスク(000反射)を中心として全ての反射ディスクからなる図形です。
・Bright-field pattern (BP、明視野図形)
 上のWPのうち透過ディスクのみの図形です。
・Dark-field pattern (DP、暗視野図形)
 晶帯軸からわずかに入射電子線の方向を傾けて、回折波(+G)の中心がBragg条件を満たすようにしたときの反射ディスクの図形です。
・±G Dark-field pattern (±DP)
 上の+G反射のDPに加えて-G反射のDPを撮影し、これら2つの図形を晶帯軸をはさんで両側に対称的に並べた図形です。
 ±DPを見るためには2枚の写真が必用です。これら2枚は試料の同じ領域から撮影する必要があります。
こらら4つのパターンを調べるためには3枚の写真が必要になります。

◇ CBED図形の対称性
 CBED図形の(WP, BP, DP, ±DPに表れる対称性について説明します。
 WP, BPの対称性は、2次元点群の記号(1, 2, m, 2mm, 4, 4mm, 3, 3m, 6, 6mm)で表せます。WPには、電子線の入射方位と平行な軸または面に関する対称性が現れます。この対称性は直感的に理解しやすいと思います。
 BPの対称性はWPの対称性よりも高くなることがあります。
(省略)

◇ 回折群の決定
 4つのパターン(WP, BP, DP, ±DP)の対称性を総合してわかるのは、点群そのものではなく、回折群(diffraction group)と呼ばれるものです。回折群とは平行平板試料の持ち得る10種の対称要素でできる点群のことで、全部で31個あります。1つの入射方位でのCBED図形のWP, BP, DP, ±DPの対称性の組み合わせが、ある1つの回折群に対応しています。
WP, BP, DP, ±DPの対称性の組み合わせと回折群の関係を示したのが”田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版”の表5.2に示されています。
 DP, ±DPには複数の対称性が表示てあるところがありますが、これは異なる方位にある反射をBragg条件に励起したときに、異なる対称性が現れるためです。WP, BP, DP, ±DPの対称性を読み取ってこの表を参照すると、(その晶帯軸についての)回折群が決定できます。
 投影回折群(projection diffraction group)について説明しておく必要があります。HOLZ反射が弱くZOLZ反射ディスクの中にHOLZラインが見られないとき、CBED図形には、結晶を晶帯軸方向に投影したときの対称要素のみが現れます。このときは、全31個のうち10個のみの回折群が現れます。これを投影回折群と呼びます。”田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版”の表5.2の一番右側のコラムに示してあるのがそれです。
 複数の回折群が1つの投影回折群に対応しています。投影回折群では、3次元的な対称性は失われ、試料の表面に平行な鏡映面/mが加わります。CBED図形の対称性で言えば1Rという記号が付け加わります。
 投影回折群しか得られない場合、CBED図形から1つの回折群に絞ることができず複数個の候補が残ります。
 なお、WP, BP, DP, ±DPに現れる対称性を決定する上記の方法とは別に、多波対称励起(Symmetrical Many Excitation: SMBE)の条件で撮影したCBED図形を用いて試料の対称性を決定する方法があります。
 この方法では、より少ない枚数の写真で回折群を決定できる可能性があります。

◇ 点群の決定
 回折群と点群の関係が”田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版”の表5.3に示されています。
 この表を用いると回折群から点群を求めることができます。表5.3では1つの点群に1つもしくは複数個の回折群が対応しています。
 これは、電子線の入射方向に依存して観察される対称要素が変わるために、得られるCBED図形の対称性が異なります。そのために1つの結晶点群から異なる複数の回折群が得られることを意味します。得られた1つの回折群からただ1つの点群にたどり着ける場合もありますが、普通は複数の点群の候補が残ります。そのときは、もう1つ別の入射方位を選んでCBED図形を撮影して回折群を求め、両方の回折群を与える共通の点群を求めて可能な点群を絞り、1つだけ残ったものが求める点群です。
 CBED図形の入射方位がわかっているときは回折群から点群を決めるのに便利な表もあります。
 点群がわかると、晶系がわかります。

◇ 格子型の決定
 点群から晶系が決まると結晶軸の取り方が決まります。そうすると反射の指数が付けられ、反射の消滅則がわかります。格子型による運動学的消滅則は”田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版”の表4.6に示されています。これを使って反射の出方から格子型が決まります。
 運動学的に消滅する(禁制になる)反射のうち、映進面とらせん軸による禁制反射は、動力学的回折(多重散乱・多波回折)効果によって強度を持ちます。
 しかし、格子型によって消滅する反射は、動力学的回折効果によっても強度を持つことはありません。これは、格子型によって消滅する反射への多重散乱(遠回り反射)の経路が存在しないためです。

◇ 空間群を決定
 最後に映進面(glide plane)とらせん軸(screw axos)の有無を調べれば、空間群が決定できます。
 これには動力学的消滅と呼ばれる効果を利用します。これら映進面およびらせん軸によって消滅する反射は、ブラベー格子型による消滅とは異なって、動力学的回折効果(多重散乱・多波回折)で強度を持つようになります。
 しかし、特定の入射方位では、多重散乱(遠回り反射)した波同士の打ち消し合いが起こって、これらの反射の一部が消滅し、反射ディスク内に暗線を作ります。これが動力学的消滅(Dynamical extinction)です。
 特にCBED図形では、ある角度範囲にわたるロッキングカーブをディスク内に見ることができるので、このような暗線を見るのにきわめて好都合です。

 ”International tables for Crystallography”, Vol. Bに動力学的消滅則の表も含めて掲載されています。このような動力学的消滅則の表を参照することで空間群の候補を絞ることも可能です。
 なお、動力学回折効果を利用すると、非中心対称結晶の極性の決定を行うこともできます。

田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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■ 指数付けの流れ(3指数を用いる場合)
1. 格子定数から、いろいろな反射指数の面間隔dを計算します。
2. 各回折波の000スポットからの距離を測定します。
 (最低、最も近い回折波から2つとります)
3. カメラ定数を用いて、各回折波に対応した面間隔を計算します。
 面間隔=カメラ定数/000スポットからの距離
4. 各スポットの確からしい指数hklを選び出します。
5. 角度の関係が正しいかどうかチェックします。
6. 入射方位[uvw]を計算します。
・精度を上げるために、測定にはなるべくシャープなスポットを選びます。透過スポットのような強度の大きいスポットは
ハレーションを起こして広がっていることが多いので避けるべきです。また隣り合うスポット間の距離を直接測定するよりも、例えば隣り合うスポットの4倍の距離を測定してから4で割るほうが精度が上がります。
・測定した距離とカメラ定数から面間隔が求められ、これを反射指数、面間隔のリストと見比べることで指数の候補を選びます。この段階で、ほぼ同じ面間隔を持つ複数の指数が存在してどれを選べばよいのか迷うときがあります。
(省略)
・結果の表示でも注意すべき点があります。(実空間の)方位は[uvw]のように鍵括弧、(実空間の)格子面の指数は(hkl)のように丸括弧で(逆空間の)反射の指数、すなわち逆格子点の指数はhklのように括弧なしで表す決まりになっています。
田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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■ SAD法による未知物質の同定
 試料が未知の物質である場合に、SAD図形から格子定数を測定してこの物質を同定する方法について簡単に述べます。
1. あらかじめ、格子定数が既知の標準試料を用いて、電子顕微鏡のカメラ定数を測定しておきます。
2. 試料を傾斜し、色々な晶帯軸入射でのSAD図形を取得します。
3. 得られたSAD図形の中から、逆格子におけるa* - b*面、b* - c*面およびc* - a*面と考えられるものを仮定します。
なるべく回折点が密に出ているものを選びます。
4. 仮定したa*, b*, c*に対応する反射の面間隔を、カメラ定数を用いて求めます。また各軸間の角度を測定します。
格子定数a, b, c, α, β, γを求めます。
5. この格子定数を用いて、全てのSAD図形の反射を指数付けします。整数でない指数が付くなどの問題があれば、
全ての反射が整数で指数付けできるようにa*, b*, c*を取り直して格子定数を再決定します。
6. 決定した格子定数と一致する物質を、結晶構造データベース(PDF COD, AtomWorkなど)で探します。
 この他、エネルギー分散型X線分析(EDS)を行って構成元素とその比を求めておくと、結晶構造データベースで目的物質を探す際に参考にできます。
田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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■ コンデンサー・オブジェクティブレンズ(C-Oレンズ)
 近年の電子顕微鏡では試料の高分解能像観察だけではなく、ナノスケールでの元素分析、電子状態分析が可能になっています。高分解能観察には、開き角〜10^-5radの平行な電子線を作ることが要求されます。他方、ナノサイズに電子線を絞るには、開き角〜10^-2radの収束電子線が必要になります。
 このように電子線の平行照射と収束照射を同時に実現するために、集光レンズ(コンデンサー、condenser)と対物レンズ(オブジェクティブ、objective)の両方の機能を併せ持ったC-Oレンズと呼ばれる対物レンズが使われています。
 試料は磁場が弱い位置にあります。磁場のほとんどは試料より下に分布しており、この磁場が対物レンズの働きをします。試料よりも上にある磁場は弱くレンズとしての集光作用はありません。そのために、試料上にナノサイズのビームを作ることができませんでした。他方、C-Oレンズでは試料が強い磁場の中ほどに位置しています。試料より下にある磁場は対物レンズの働きをします。試料より上にある磁場は十分強いため集光レンズの機能を果たします。試料のすぐ上に集光レンズがあることで照射レンズ系の縮小率が大きくなり、試料上でナノプローブを作ることができます。C-Oレンズを使って平行ビームを作るには、C-Oレンズの上の弱いレンズ(ミニレンズ)を置いてビームを開き、C-Oレンズの収束作用を打ち消して行います。このように、C-Oレンズは、1つのレンズでありながら集光レンズと対物レンズの両方の働きをするレンズです。
 C-Oレンズを使用するうえでの注意点は、TEM像のフォーカスを合わせようと対物レンズの励磁を変えると、集光レンズの励磁も変わってしまうことです。
 その結果、照射電子の角度やビームサイズが変化するだけでなく、照射レンズ系のビーム傾斜やシフトの調整条件が変化してしまいます。
 この使いづらさを回避するため、対物レンズの励磁を固定し、TEM像の大まかなフォーカス合わせを、試料の位置を機械的に上下させることで行うようになっています。
田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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■ エネルギーフィルター
 実際には、試料に入射した電子は、散乱によってエネルギーを失う場合(非弾性散乱)があります。
 非弾性散乱は大きく分けて3種類あり、フォノン散乱(損失エネルギー1eV以下)、プラズモン散乱(損失エネルギー5〜30eV)、内殻電子励起散乱(損失エネルギー50eV以上)です。したがって、通常のTEM像や電子回折図形には、弾性散乱電子と非弾性散乱電子が重なっています。
 フォノン散乱は広い角度にわたる散乱で、TEM像や回折図形に単調なバックグラウンドを作ります。
 TEM像や回折図形に弾性散乱と似た強度分布を与えます。内殻電子励起散乱はその散乱断面積が前の二者に比べて小さく、TEM像や回折図形への影響は小さくなっています。しかし、内殻電子励起は電子エネルギー損失分光(EELS)で
元素分析や電子状態分析に用いられます。また、エネルギー分散型X線分光(EDS)で元素分析に利用する特性X線が発生する原因となっています。
 結晶構造解析における「非弾性散乱によるバックグラウンド強度を除去するためのエネルギーフィルターを用いることが必要です」という記述は、定量解析が難しい非弾性散乱を取り除き、理論計算と比較できる弾性散乱の強度分布データを取得する必要があるという意味です。
 非弾性散乱を受けた電子を取り除くために必要な装置がエネルギーフィルターです。この装置は、エネルギーを分別(分光)するスペクトロメーターとエネルギーを選択して通過させるスリットの組み合わせになっています。スペクトロメーターは、レンズの一種で結像作用があります。電子レンズとの違いは、エネルギーの違う電子の像を異なる場所に結像する点です。
 これを色収差(エネルギーの違う像が一致しない)があるといいます。すなわち、スペクトロメーターは色収差の大きな電子レンズと言えます。
 エネルギーフィルターに利用されている主なスペクトロメーターには3種類あります。1つ目はセクター型で、透過型電子顕微鏡の観察室の下にアタッチメントとして取り付けられてます(ポストコラム型)。エネルギー分光をする磁石の部分が扇(セクター)型をしていることからこう呼ばれます。セクター分光器の後ろにスリットと多極子レンズを置くことで、ある特定のエネルギーの電子だけからなるTEM像や回折図形を得ることができます。2つ目は、電子顕微鏡の結像レンズ系に組み込まれるタイプ(インコラム型)で、オメガ(Ω)型と呼ばれるフィルターが代表的なものです。
 スペクトロメーターを通過する電子の軌道がΩの字を横にした形になっていることからこう呼ばれます。
 スペクトロメーターの後ろに置かれたスリットと結像レンズにより、ある特定のエネルギーの電子だけからなるTEM像や回折図形を得ることができます。
 これらのスペクトロメーターは、電子がフィルターの磁場によって電子の速度vすなわち運動エネルギーに依存する偏向(ローレンツ力F=-ev x Bによる)を受けることを利用してエネルギーを分光しています。3つ目として、磁場だけでなく電場も使うウィーン型と呼ばれるエネルギーフィルターは、電場を使うことから放電をさけるために、低エネルギー電子(<10 keV)のエネルギーフィルターとして使われています。
 このフィルターの名前は、フィルター考案者の名前に由来しています。
 CBEDで原子位置や原子散乱因子の精密定量解析をするためには、高い散乱角での回折強度の定量化が必要であり、オメガ型フィルターを用いた商用機があります。試料厚さや低次結晶構造因子の定量化など、低い散乱角での回折強度の定量化は、オメガ型だけでなく商用のセクター型でも可能です。
 精密定量解析には特に散乱断面積の大きいプラズモン散乱による非弾性散乱強度を取り除くことが重要です。
 プラズモン散乱によって5-30eVのエネルギー損失をうけた電子は、弾性散乱電子と似た強度分布を作り出しますが、色収差のために弾性散乱電子が作る像とは少しずれた位置に結像します。
 つまり、プラズモン散乱電子はTEM像や電子回折図形のボケを作り出します。このボケをフィルターによって取り除くことが精密構造解析には必要なのです。
田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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■ 固体電子論(バンド理論)と動力学回折理論
 固体のバンド理論では、対象としている電子は固体中の電子で、そのエネルギーは数10eVです。電子の波数 kに対する全エネルギーEを求めることが目的です。波数kとエネルギーEとは4次元空間で超曲面を作ります。考えている電子は固体内の他の電子と強く相互作用するので、その電子に対する結晶ポテンシャルは平均ポテンシャルから補正を受けます。バンド理論では正しいポテンシャルを導出することが目的の一つになっています。平均ポテンシャルとは、原子核+内殻電子+(全外殻電子-考えている1個の電子)の作るポテンシャルのことです。
 電子回折の動力学理論では、対象としている電子は外から入射する電子で、そのエネルギーは>100 keVです。外から入射する電子のエネルギーは一定なので、結晶内ではポテンシャルエネルギーが周期的に変化しているので、その変化に相応して運動エネルギー、すなわち対応する波数kが変化します。動力学理論では、変化する波数kの、試料の入射表面に平行な成分であるkx,yを与えて(入射の方向を決めて)kzを求めるのが目的です。求まった逆空間での分散面(kx,yの関数としてのkz)は等エネルギー面になっています。
 分散面は、バンド理論でのEとkの作る超曲面を、入射エネルギーE=一定の面で切った面になっています。これはバンド理論のフェルミ面に対応します。
 入射電子のエネルギーは結晶内の電子のエネルギーに比べて非常に大きく違うので、入射電子と結晶内の電子の間での交換を考える必要はありません。
 外から入射する高速電子に対する結晶ポテンシャルは、原子核+内殻電子+(全外殻電子)の作るポテンシャルとして十分です。
田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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■ハフ変換(Hough transform)
 画像の中のある位置を通る直線を1つの点に変換する手法です。この方法を用いますと、ある位置を通るHOLZラインがある点(座標)に変換されますので、実験で得られたHOLZラインとそのシミュレーションとのフィッティングは点の位置のフィッティングにもなり、コンピューターでの扱いが容易になります。
 ハフ変換を用いた格子歪みの解析例もあります。ただし、この場合、HOLZラインは直線であると仮定しますので、HOLZラインがカーブしている場合や、動力学効果で途中でずれ(分散)を起こしてしまっている場合には、誤差が大きくなることに注意してください。
田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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■ 3指数表示と4指数表示
 六方晶系および三方晶系では、通常の3指数hkl(Miller指数)による表示のほかに、1つ指数の多い4指数による表示をすることがあります。格子面に対するMiller-Bravais指数(HKiL)、結晶方位に対するWeber記号[UVtW]を使うと、対称性で等価な面および方位が明瞭になります。
 面指数における3指数表示と4指数表示の対応関係を以下に示します。
 H = h, K = k, i=-(h+k), L=l
----------
(hkl) |(HKiL)
(100) |(10-10)
(010) |(01-10)
(1-10)|(1-100)
----------
(hkl) |(HKiL)
(001) |(0001)
(1-20)|(1-210)
(-120)|(-12-10)
----------
(hkl) |(HKiL)
(110) |(11-20)
(101) |(10-11)
(011) |(01-11)
 3指数では(100)、(010)、(001)が等価のように見えますが、それらを4指数表示でみると、(001)が他の2つとは等価でないこと、および(-110)が(100)、(010)と等価であることが明らかになります。
 また(110)と(1-20)は3指数では異なるもののようにみえますが、4指数表示にすると等価であることがわかります。同様に、結晶方位も4指数で表示できます。
 菱面体格子は、しばしば六方格子に変換して取り扱われます。菱面体格子での(hkl)格子面を、六方格子(HKiL)で表すと、
H=h-k, K=k-l, i=-(h-l), L=h+k+lとなります。この時、-H+K+L=3kとなることから、(HKiL)で指数付けできた場合でも、この式が成り立てば菱面体格子だということになります。六方格子の指数(HKiL)から菱面体子の指数(hkl)を求めるには、h=(2H+K6L)/3, k=(-H+K+L)/3, l=(-H-2K+L)/3を用います。
 これはあくまでも表記法ですので、菱面体格子を六方格子で表記しても、対称性が3回の回転対称性しかないことは格子点の配置を見れば明らかです。
田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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■ 運動学的回折と動力学的回折
 運動学的回折(Kinematical diffraction)というのは、結晶に入射した電子がたかだか1回しか結晶面で反射されず、入射してそのまま透過していく電子線に比べて反射される割合が小さい場合をいいます。
 運動学的回折が起こっているとの仮定は、X線回折の場合は正しいのですが、電子回折の場合は本当は成り立っていません。というのは電子線の場合、X線に比べて約1064倍も反射され易いからです。
 例でいうと、加速電圧が200kVでAlとAuの111反射を考えますと、それぞれ厚さが30Åと10Åで入射線の10%が反射されてしまいます。ですから普通観察している1000Å位の厚さの結晶を考えますと反射線が100%以上になてしまい、おかしなことになります。つまり、これは1つの電子が1回しか反射されないとした仮定がいけないことになります。 SAD図形でみえている反射gの強度Igは運動学的回折から予想されるもの(Ig∝|Fg|^2, Fg:結晶構造因子)にならなくなります。
 電子回折の強度は、1つの電子が何度も反射されることを考えて計算しないといけません。
 このことを取り入れた考え方を動力学回折(Dynamical diffraction)といいます。
田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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■ CBED法による点群・空間群決定の実験と解析のTIPS
・CBED図形を撮影する際に気をつけるべきことは何ですか?
 まず、「入射電子線をきちんと試料上に絞る(フォーカスする)」ことが挙げられます。CBED図形は試料厚さに敏感なので、電子線の照射領域内で試料の厚さ変化があると、CBED図形の対称性が崩れます。電子線が試料の10nm程度以下の領域に絞れれば、通常の試料では照射領域内での厚さ変化を無視できる程度になります。

・加速電圧はどう選べばいいですか?
 対称性の決定には、100kV程度の低めの加速電圧が適しています。低い加速電圧の方が、HOLZライン、HOLZ反射がより明確に観察できるからです。格子欠陥の観察には、格子欠陥を含む少し厚めの試料を観察するために、200kV程度の高めの加速電圧が便利です。

・入射電子線を正しく結晶方位に合わせるにはどうしたら良いですか?
 入射電子線を正しく結晶方位に合わせることは、CBED図形の対称性を正しく判定するために不可欠です。結晶方位の粗い調整は、通常のSAD図形を撮影するときと同じで電子顕微鏡の二軸試料傾斜機構を用いて行います。
 微調整には照射系のビーム傾斜機構を用います。このとき、CBED図形に回転対称軸があれば、この対称性を利用して方位を合わせることができます。HOLZラインが透過ディスク中に現れていればさらに正確にできます。
 このような調整はSAD法では不可能であり、CBED法の特徴であると言えます。対称性が何もないときには、反射ディスクの外に広がる非弾性散乱による菊池図形を利用します。

・DP, ±DPを撮るために注意すべき点は何ですか?
 DPを撮るためにには、反射ディスクの中心がBragg条件を満たしていることが必要です。逆格子ベクトルgを持つ反射ディスクのDPを撮影するときは、入射ビームを-g/2だけ晶帯軸から傾ければこの条件が得られます。
 ±DPをの対称性を見るためには、同じ試料厚さで撮影した+G反射と-G反射のDP同士を比較することが必要です。このためにはビーム傾斜機構の連動を正しく調整しておき、+G反射と-G反射とで照射領域がずれないようにします。
 この機構がない装置では絞りの位置を変えても同様にできますが、多少位置ずれは残りますので、なるべく厚さ変化の小さい試料領域を用いる必要があります。

・反射ディスクの大きさはどう調整すればよいですか?
 反射ディスクの大きさは、入射ビームの収束角を調整することで調整します。隣り合う反射同士が重なると対称性の判定がしにくくなるので、反射ディスクの大きさは隣り合う反射ディスクが接するようにするのが望ましいです。このためには、まず粗い調整として適当な大きさの収束レンズ絞りを選択します。微調整は、収束角をコントロールするための機能(αセレクターなどと呼ばれています)がついていれば、これを用います。この機能がない電子顕微鏡では、試料位置と対物レンズの励磁を変化させることで収束角を調整できます。なお、回折角による制限を超えて大きな角度のCBED図形を得たいときはLACBED法を用います。

・試料のコンタミネーション対策はどうしたらよいですか?
 CBED法では微小領域に絞った電子線を照射するため、ハイドロカーボンによるコンタミネーションの防止には十分注意する必要があります。
 今日の電子顕微鏡は普通ドライな真空計を持ち、十分クリーンな真空が実現されていますので、アンチコンタミネーショントラップが使用されている限り、主な試料汚染源は試料自身と試料ホルダーです。これらを清浄にしておくことが重要です。
 最近は酸素ガスを用いたプラズマクリーナーが市販されており、試料と試料ホルダーを同時にクリーニングできるので有効です。
 十分清浄でない試料を見る必要に迫られたときに最も簡便な方法は、ビームシャワー(強い電子線を広い領域に数分程度照射する)です。
 試料を真空中で150℃程度に加熱して30分ほど保つのも効果があります。試料の温度を問わないのであれば、試料加熱ホルダーで試料を150℃程度に加熱したり、液体窒素試料冷却ホルダーで試料を冷却すれば、ほぼコンタミネーションフリーで観察できます。

・点群・空間群決定のためにエネルギーフィルター電子顕微鏡は必要ですか?
 点群・空間群決定は、通常の電子顕微鏡で十分実行できます。ただ、エネルギーフィルターを用いて非弾性散乱をカットすることによって、弱い超格子反射などが見やすくなるという利点はあります。CBED図形の強度の定量解析にはエネルギーフィルター電子顕微鏡は不可欠です。

・HOLZ反射線を見やすくする方法がありますか?
 入射電子線の加速電圧を下げて、次数はより低く結晶構造因子が大きいHOLZ反射を起こすことと、試料を冷やすことが許される場合には、冷却ホルダーを使って試料を冷やすと、温度因子による結晶構造因子の減衰が抑えられて、高次のHOLZ反射でも明瞭に見られるようになることがあります。

◇点群・空間群の解析
・どの入射方位を選べばよいですか?
 点群・空間群の決定には、対称性の高い晶帯軸を選びます。対称性の高い晶帯軸では一度に多数の対称要素を検出できるので、少ない枚数のCBED図形で点群が決められることになります。対称性の低い晶帯軸では少ない数の対称要素しか見えないので、得られる情報が少なくなります。もう少し戦略的に点群決定に必要な入射方位を選ぶためには、”田中通義「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版”の表5.4が使えます。表5.4は、点群ごとにどの入射方位から見るとどういう回折群が得られるかを示してあるので、判別に必要な入射方位を予測することができます。また、空間群決定の段階でも、点群と格子型から限定される空間群の候補について動力学的消滅則の表を見れば、どの方位でのCBED図形の取得が必要か判断できます。

・どこに着目して対称性をみるべきですか?
 例えば構造相転移によりわずかに原子が変位して対称性が変化する場合、対称性の破れはごく小さいものになります。このような場合、どこに着目すれば対称性の破れを検出できるのかは極めて重要です。
 反射および入射方位についての一般的な傾向をまとめると次のようになります。
-ZOLZ反射よりもHOLZ反射が対称性変化に敏感です。結晶構造因子の位相因子exp(-2πig・r)を見ればわかるように、gベクトルが大きいほど原子位置rの変化に対して結晶構造因子の値が大きく変化するためです。CBED法ではsinΘ/λ=2Å^-1程度の高次反射が撮影できます。
-構造相転移の前後で単位胞の大きさが変化する場合には、相転移で現れる超格子反射に着目すると、相転移による対称性の変化がわかりやすくなります。超格子反射には相転移で変位した原子の寄与が直接反映されているためです。
-複数原子からの寄与が足し算になって現れる強度の大きい反射よりも、寄与が引き算になって現れる強度の小さい反射の方が対称性変化に敏感です。強度の大きい反射では小さな原子変位の影響が隠れてしまうことがしばしばあります。
-反射ベクトルgが原子変位の方向と平行に近くなるような電子線の入射方位で、CBED図形はその結晶構造の対称性に敏感になります。逆に反射ベクトルgが原子変位と垂直に近いときは対称性に鈍感です。これも結晶構造因子の位相因子exp(-2πig・r)から理解できます。原子変位の方向に注意しないと、対称性の変化がほとんど見られないことがあるので注意してください。
 この他、試料の厚さを変えるとCBED図形の各々の反射強度は動力学回折効果のために大きく変化するので、適当な厚さを選ぶことによって対称性変化を強調できることがあります。いろいろな試料厚さでCBED図形を撮影して対称性を見るとよいでしょう。

・WP, BP, DP, ±DPのセットが全部そろわないときはどうしたらいいでしょうか?
 4つのパターンを全て得るのが困難なことはしばしばあります。例えば、格子定数が大きくなると反射が密に現れるようになり、CBED図形の個々のディスクが小さくなってBPやDPの対称性の判断が難しくなります。このような場合でも、WPの対称性は回折群の決定に重要です。候補となる回折群の数を絞るためには、他の入射方位でCBED図形を得る必用があります。

・ZOLZ反射にHOLZラインは見えていないが、にHOLZ反射(HOLZリング)が見えているときは対称性はどう判断したらよいでしょうか?
 HOLZリングも含めて判断することで、WPからは投影回折群でなく通常の回折群の対称性がわかります。他のパターンBP, DP, ±DPについては投影回折群の対称性を適用します。

・動力学的消滅則のテーブルで動力学的消滅則が現れると書いてある反射では必ず暗線が観測されるのですか?
 動力学的消滅則のテーブルが意味するところは、遠回り反射が存在するときに動力学的消滅則が出現するということです。
 遠回り反射が弱いときには動力学的消滅則の暗線が見えにくくなります。暗線がよく見えないからといって動力学的消滅則がないと短絡的に判断してはいけません。
 よくあるのはHOLZ反射の強度が弱いとHOLZ経由の遠回り反射も弱くなって、HOLZラインでできる暗線が観測されにくくなることです。
 特にA3およびB3ラインのみが表れると書いてあるときには、HOLZ経由の遠回り反射が弱いとほぼ運動学的消滅則が成り立って、その反射全体の強度がなくなりますから注意が必要です。

・CBED法ですべての空間群が判別できますか?
 動力学的消滅則を使う方法だけでは判別できない組が23組残っています。これらは、42, 31(32)および62(64)らせん軸を持っており、動力学的消滅則を示さないもの、Handednessをなすもの、および消滅則ではまったく判別できない特殊なものの3種類に分けられます。
 このような組に対しても個別に空間群を判別する方法が提案されています。特に、コヒーレントCBED法を利用すると、結晶構造因子の位相関係を調べることができるので、23組のうち、多くの組が判別可能になります。

・CBED法でインコメンシュレート結晶や準結晶の空間群決定が可能ですか?
 CBED法は通常の(3次元)結晶だけでなくインコメンシュレート結晶(4次元結晶)、および準結晶(5・6次元結晶)の(超)空間群決定にも適用されています。

田中通義ら「やさしい電子回折と初等結晶学」共立出版
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