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電子顕微鏡を扱う方向け(EPMA)

  ここではEPMAを用いて材料の分析をされている方に適したフリーソフトを紹介します。電子顕微鏡に関する関連情報も記載していきます。
 EPMAを行うなら”福島啓義「電子線マイクロアナリシス」日刊工業新聞社”と”木ノ内嗣郎「新訂版 EPMA 電子プローブ・マイクロアナライザー」技術書院”、装置のマニュアルは絶対に読んでおく必要がある。
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◆ EPMAおよび検出器・真空装置を行う方に適した参考書
 木ノ内嗣郎「新訂版 EPMA 電子プローブ・マイクロアナライザー」技術書院
◆ ZAF補正に大事なこと
 福島啓義「電子線マイクロアナリシス」日刊工業新聞社
 この本では、異常診断の方法も記載されているの読んでおく必要がある。
◆ EDXに関するブログ:http://edxforvendetta.blogspot.jp/2010/10/blog-post_9070.html
◆ 蛍光X線スペクトルの読み方について:http://www.process.mtl.kyoto-u.ac.jp/pdf/lecture/xRay/2006.pdf (非常に重要)特にLl (M1 ->L3), Lη (M1 ->L2), Ls (M3 ->L3)は覚えておいて欲しい。
◆ 設備機器利用者講習会:http://tri-osaka.jp/c/content/files/archives/EDX200503.pdf
◆ 自作の蛍光X線分析装置を作りたい場合(0.1%、予備濃縮と組み合わせた場合は0.1ppmでの定量分析が可能であるという):河合潤「蛍光X線分析装置」共立出版
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◆ EPMA software
QntMap: http://pmsl.planet.sci.kobe-u.ac.jp/~seto/?page_id=649
CalcZAF: http://www.probesoftware.com/Technical.html
Probe for Windows: http://epmalab.uoregon.edu/UCB_EPMA/software.htm
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◆ 測定精度
  検量線無し 検量線を利用した場合
EDS 約±5% 0.数%
WDS 約±1%(ZAF法) 50 - 100 ppm
(0.005 w%-0.010 w%)
※ EDS: エネルギー分散型X線分光器
※ WDS: 波長分散型X線分光器
※ 1万ppm = 1%
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◆ 光学顕微鏡(JEOLではOMモニタ、約x400倍で、xyでの小目盛りが10μmに相当)

 EPMAに用いられる波長分散型X線分光器は集光型であり、X線源すなわち分析点は、空間上のある限られた領域内に存在しないと正確な分析ができない。いいかえると、X線分光器の焦点深度はかなり浅い。分光器あるいは分光領域によって若干の違いはあるが、定量分析・状態分析のためのは所定の位置に対して数μm、定性分析のためには数10μmの範囲内に分析点がセットされるのが望ましい。
 光学顕微鏡は一般に焦点深度が浅いので(200-300倍なら数μm以下)、あらかじめ光学顕微鏡とX線分光器の焦点位置が一致するように調整されていて、光学顕微鏡の焦点位置に分析位置をもってくるなら、X線分光器の焦点深度領域内にセットされたことになり正しく分析される。
 なお、SEM像はX線分光器よりはるかに焦点深度が深く、また試料位置がmmオーダーでZ移動していても、電子光学系対物レンズ焦点距離を変えて試料面に焦点を結ぶことは容易であるので(これがSEM像の長所である)、SEM像の焦点があっているということが、X線分光器の焦点が合っているという保証にはならない。

 マイクロアナリシスでは、「どこ」を分析するかは非常に重要なことである。目的とする特異点、あるいは試料を代表する微小部の選定を的確に行うには、肉眼および肉眼と同じ特性を有していながら肉眼より高分解能の光学顕微鏡が有用である。また、「色」による判別はSEM像では行えないので、この点においても光学像が必要である。

 EPMA用光学顕微鏡は、倍率を対物レンズ(対物ミラー)の交換により変えることができないという問題をもっている。EPMAの試料近傍で光学顕微鏡に許された空間はそれほど広くないので、複数種類の倍率の対物ミラーを保有して真空外から交換するといったことができない。したがって分解能1μm程度、焦点深度数μm以下、視野数100μmφ、接眼レンズとの総合倍率x200-x400程度の範囲で固定のものを使用することになる。接眼レンズの倍率を変えれば倍率は変わるが、対物ミラーで決まる視野の大きさと分解能が固定なので、本質的には固定倍率と同じである。
 分析現場で必要性を感じるのは、どちらかというとより高倍ではなく、より低倍である。分析位置を探すために広視野・低倍の組み合わせが望まれる。

福島啓義「電子線マイクロアナリシス」日刊工業新聞社
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◆ 空間分解能と侵入深さ

 空間分解能は表面分析、微小部分析にとって重要な要素であるが、これは基本的には入射粒子・波の侵入領域、信号の発生領域および信号の脱出領域によって決まる(エネルギー依存性がある)。下記に概略を示す。下記の概略は他の測定手法においても有用な情報となる。
 エネルギー依存性はあるが、概略値として、電子線は十数Å、X線は1 μmと覚えておけばよいだろう。原子の大きさは大きくて3Å程度と覚えておくと表面から大体何層程度まで検出できているかが分かる。

◇侵入・励起領域の大きさ(値は概略値)
励起領域 横方向 深さ方向
X線 > 10 μm > 100 Å
電子 > 10 Å 10Å - 10 μm
イオン > 5000Å 10Å - 1 μm

◇発生・脱出領域の大きさ(値は概略値)
励起領域 横方向 深さ方向
X線 > 1 μm > 1 μm
電子 > 10 Å 10Å - 10 μm
イオン > 5000Å 10Å - 100 Å

※ 各エネルギーに対する電子の侵入深さは”木ノ内嗣郎「新訂版 EPMA 電子プローブ・マイクロアナライザー」技術書院”に記載されている。

福島啓義「電子線マイクロアナリシス」日刊工業新聞社
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◆ 換算式

L[mm] = (R / d) * λ
E[keV] = 1.239 / λ = 1.239 * 2R / ( 2d * L)
ここで、Lは検出位置(試料から分光結晶までの距離)、Rはローランド円半径[mm]、dは結晶の面間隔[nm]、λはX線の波長[nm]


・JEOL JXA-8230での分光結晶の種類と面および面間隔
分光結晶 TAPJ
TAPH
PETJ
PETHS
LIF
LIFHS
LDE1
LDE1H
LDE2
LDE2H
結晶と使用格子面 TAP
(100)
PET
(002)
LIF
(200)
超格子 超格子
2d[nm] 2.5757 0.8742 0.40267 約5.8-6.2 約9.5-10.5
標準的なスリットの設定 300 - 550 μm 300 - 550 μm 300 - 550 μm    
※ Hと付くものは、他の分光器より強いX線強度が得られる(専用の分光器、検出器を使用)。Hが付いていないものと比べて約2-3倍の強度が得られる(MgとAlはあまり強度が変わらない)。JEOL JXA-8230ではCH3とCH4がH型になる。
・ローランド円半径[mm]
 XCE型:140, H型:100
・X線取出し角αは40°
・検出器の前にある標準的検出器のスリット
 XCE型:300 or 500 μm, H型:500 μm
※ TAP(酸性フタル酸タリウム)、PET(ベンタ・エリスリトール)、LIF(フッ化リチウム)

JEOL JXA-8230:右モニタ上の表示(V)> 分光器表示単位 > ミリメートル[mm]をエネルギー[keV]に変えればよい。全ての表示が変換されるのでXPSやXAFSの測定に慣れている人はエネルギー範囲を絞りやすくなる。

参考:JEOL JXA-8230のマニュアル
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◆ 分光結晶の分解能

”木ノ内嗣郎「新訂版 EPMA 電子プローブ・マイクロアナライザー」技術書院”に記載されている。
図表から読み取ると概ね下記のようになる。
分光結晶 分解能僞/E エネルギー範囲E[eV] (僞/10の値)
PET 0.0010-0.0044 1532 – 6443 8 μm – 80 μm
(私は1
0 μm)
LDE2 0.05-0.03 136 – 571 318 μm – 454 μm
(私は100 μm)
LIF 0.0030-0.0050 3590 – 10015 24 μm – 120 μm
(私は5 μm)
TAP 0.0050-0.0060 562 – 1562 61 μm – 92 μm
(私は50-60 μm)
※ STEやLDEは計測時間を延ばすとよい。状態分析においては、全ての分光結晶について、スペクトルが滑らかになるS/√Nを調べて測定時間とするのが良い。
※ 話は変わるが、詳細な電子ビームの侵入深さは”木ノ内嗣郎「新訂版 EPMA 電子プローブ・マイクロアナライザー」技術書院”に記述されている。
※ ステアリン酸鉛 STE(累積膜): 2d=100Å、LDE1(コーティング膜):  2d=59-61Å
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◆ 基本的な分析条件

 具体的な分析条件についてはあとの各分析手法の実例のところで述べる。ここでは設定条件がよくわからないときは取りあえずこのようにする、という条件を記しておく。

◇ 表面観察
a) 加速電圧:SEで高分解能を出すには高め(25 kV)が良く、試料の密度小さいときやごく表面層などを観察するときは低め(5-10 kV)が良い。BSEは高い方が効率が良く、10 kV程度以下であると感度が落ちる。AEはSEとBSEの中間である。
b) 試料電流:SE 10-12 - 10-10 A, BSE 10-10 - 10-8 A
(高感度半導体検出器使用では10-11 - 10-9 A)、AE 10-9 - 10-8 Aが適当である。低倍SEでは電流を多め(10-10 A)にする。
c) 観察撮影はSE -> AE -> BSEの順に行うのがよい。なぜなら、コンタミネーションの影響をこの順で受けやすいからである。走査線は1000本以上で、x100倍程度以下では2000本が望ましい。
※ SE(2次電子)、AE(吸収電子)、BSE(反射電子)

◇ 点分析(定性分析)
a) 電圧:検出X線強度が極大値になる電圧より低い値に設定する。ごく表面や小さな析出物の場合は低め、大きな領域の平均分析では高めが良い。通常重元素(波長5Å以下)は20-30 kV、軽元素(波長5-15Å)は15-20 kV、超軽元素(15Å以上)は10 kVである。種々の元素が共存し、同時分析したいときは15 kV。
b) 電流:X線強度は試料電流に正比例するので、検出感度を上げるために試料が破損しない範囲で多くする。対象物が小さい(3μm程度以下)のときは少なめにする。
c) 大雑把な定性の場合はtime const.を小さく(0.5 sec程度)して波長送りを速く*(1-10Å領域では0.1Å, 10-100Å領域では1 Å/min)、微量成分はtime const.を大きく(2-5 sec)して波長送りを遅くする(1-10Å領域では0.02Å/min程度、10-100Å領域で0.1 Å/min)。さらに精度を上げるには、波長を半値幅の1/10ずつステップで送り、各波長位置におけるX線分布強度(10-20 sec)をプロットしていく。
d) チャート速度は40 mm/min。
* 感度の良い分析器では、1-10Å領域をtime const. 0.01-0.1 sec, 波長送り速度1-4 Å/min程度で高速スキャンしても0.1%以上の濃度を検出できる。

◇ 線分析
a) 分析領域が200 μmを超すなら試料駆動方式、100-200 μmなら電子線走査方式でもよいが、量的精度は良くない。3 μm程度以下の微細組織の所定の位置を線分析するときは電子線走査方式が良い。
b) 電圧・電流は上記の点分析(定性分析)に準ずる。
c) 多元素同時分析のときは、最適の条件がそれぞれの元素によって異なることがあるので、そのときは重要な元素、微量な元素に条件を近づける。微量な元素を検出するために必要な電流を流したとき、多量な元素のX線強度が3万cps程度を超えるなら、より弱い特性X線(Kαの代わりにKβあるいは高次線といったもの)を使用するとよい。
d) 試料送り速度は、1 μm単位で分析したいときは10 μm/min, 10μm単位なら50 μm/min、100 μm単位なら200 μm-400 μm/min.
e) チャート速度は20 mm/min が標準的。

◇ 面分析
a) 電圧、電流は上記の点分析(定性分析)に準ずる。
b) 走査面積は300μm程度以下でないと、周辺部はX線の分光条件からはずれて強度低下、すなわち暗くなる。
c) 露出は必要な強度(明るさ)が単走査で得られるように単捜査の時間を設定するのが原則であるが、単走査に十分長い時間がかけられない装置、または破損しやすい試料の場合は、速い走査で何回も重ね走査する。
 10000-1000 cpsの信号では60-80秒
 1000-500 cps信号では100-150秒
 500-100 cps信号は3-5分
 100-30 cps信号は10-15分
 10 cps程度以下の信号のX線像は通常は無理
d) 不安定な元素、コンタミネーションの影響を受けやすい元素(カーボンなど)、もしくは微小電流で撮影可能な元素から撮影する。

福島啓義「電子線マイクロアナリシス」日刊工業新聞社
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◆ 点分析(定量分析)

a) X線波長、分光結晶、検出器
 ひとつの元素に対して測定可能な特性X線が複数ある場合、どれを用いるかは次の事項の総合判断による。
1) ピーク強度とS/N比
 S/√Nで評価して値の良いほうを取るのが原則であるが、微量元素の場合はS/N優先。なぜなら、ピーク強度は電流、積分時間で大きくできるが、S/N比は変わらないからである。
2) 他元素ピークから離れているほうを選ぶ。
3) 補正計算に必要な定数の精度の高い方を選ぶ。一般にM線よりL線、L線よりK線のほうが精度が高い。
4) 同時分析でひとつの分析器にぶつかるときは、微量元素、重要元素優先。
5) 微量元素と多量元素を同時測定するとき、微量元素に条件を合わせるために、多量元素の強度が強すぎて不感時間が問題になり、多量元素の強度を減らすためわざとβ線や高次線を用いることがあるが、一般的には定量のときは利用しないほうが無難である。

b) 電圧
 吸収・励起効果は加速電圧が小さい方が小さいので低めの電圧が良いが、あまり低いと装置の安定性の点やX線強度が小さくなりすぎることから良くない。
 原子番号補正は低加速電圧のほうが誤差が大きい。また、補正を必要とすると構成元素は同一電圧で測定しなければならないので、結局、ZAF法では軽元素を含む場合は15 kV,20 kV, 重元素のみでは20 kV, 30 kVに落着く。また、Bence-Albee法とSEF法では全元素15 kVである。
 検量線法の場合は補正計算しないのでこの限りではない。なお、トヨタの読み取り表を利用するなら、20 kV, 30 kVである。

c) 電流
 装置の安定性、試料の破損を考慮の上で多めにする。1 nA( 1.00 x 10-9 A)以下では試料電流読み取り精度が良くない。また、X線強度が大きいときは不感時間(試料電流値に対する直線性)に注意すること。

d) ビーム径
 標準試料と未知試料を同一ビーム径にすること。200 μm以上大きいビーム径にしても平均化の意味はない(周辺部は分光条件からはずれる)。より大きな領域の平均化なら場所を変えて、あるいは試料を動かしながら積分する。

e) 積分時間・回数
 同じ場所を何回も繰り返し測定しても、それほど意味があるわけでもない。同種組織ならどんどん場所を変える方が良い。1回の積分時間は10-30秒程度で、これ以上の積分時間が必要なら、時間ではなしに回数を増やす方がよい。

福島啓義「電子線マイクロアナリシス」日刊工業新聞社
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◆ ZAF法の適用範囲

 ZAF法はEPMA分野で独自に発展してきた定量法であり、EPMA用の他の各種定量法に対しても、その理論的背景を示すものである。またこのZAF法は、自動測定やコンピュータによる定量補正計算が最も進んでいるので便利であると同時に、black box化も進んでいるといえる。このため、逆にZAF法の適用が許されない試料にまで適用されてしまい、思想的にも実用的にも誤りをおかすことがある。ZAF法が検討され始めたころに比べて多くの進歩があったので、すでに金属以外の酸化物、電気的絶縁物、あるいは軽元素・超軽元素への適用はかまわない。しかし、以下に示すような試料に対してはZAF法の利用をやめるか変則的な利用を考える必要がある。

・薄膜、微粒子
 これらの試料で重要なのは、いかなる寸法をもって薄い、小さいというかであるが、これは試料内でのX線発生量が深さに対して直線的であり、しかも吸収効果が無視できるほど小さいことをいう。”直線的”な寸法は入射電子の拡散に関するKanaya and Okayamaモデルに示されているrange R1やSoezimaのモデルにあるrange Rs1である。実用的な立場ではRs1のほうが直線性がよい。吸収効果が無視できるかどうかは、質量吸収係数とmass thicknessから判断である。さてこのような寸法の試料の定量は、各構成元素のX線強度を純物質からの強度と比較し(k値とする)、全元素のk値の和が100%になるように比例配分すればよい。なお、特性X線波長近くの連続X線強度を標準試料のそれと比較し、この値で特性X線強度比を除いたものをk値とすると精度が向上する。

・焼結体など
 異なった組成の微粒子の集合体の場合は、全元素による一括ZAF補正は明らかに考え方として間違っている。多量の測定と計算を各粒子毎に行って集計するという労力をかけるか、ZAF効果の比較的少ない条件(たとえば加速電圧15 kV)で得た平均の一次測定値の和が100%になるように比例配分したものを定量値ととするといった方法が取られるべきである。

福島啓義「電子線マイクロアナリシス」日刊工業新聞社
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◆ 測定法

1) 定時間法か定電荷法か
 信号強度を積分で測定するとき、一定時間積分する定時間法と、試料電流が一定電荷量になるまで積分する定電荷法の2種類がある。
 通常は定時間法である。そうでないと原子番号効果が補正できなくなる。しかし、比較試料の主成分組織がほとんど同じで、チャージアップや試料破損などによる電流不安定がないときで、微量成分の検量線法による定量なら、定電荷法が精度が高い。

2) バックグラウンドの測定
 バックグラウンドは3つの定義、測定法がある。すなわち、
a. 単純に波長をずらして測る
 S/N比が十分大きいとき以外は良くない
b. 長短量波長側にずらした値から、ピーク真下の値を求める
 両側の波長位置を等分に取ったり、チャートプロファイルから接線を引いて求めるなど、細かく手法を区別することもある。この手法が最も万能である。
c. A元素を含まないで相手元素のみで構成される試料上でのA元素ピーク波長位置の強度をバックグラウンドする
の3つである。いずれにしろ、スペクトルの様子を確認すべきである。

3) 電流安定のチェック
 測定中、一定のビーム電流に保たなければならないが、試料電流は試料組成が異なれば変化して当然なので、試料電流で安定性をチェックしにくい場合が多い。さらに試料電流は、試料のわずかなチャージアップや試料の上げ下げ・移動・コンタミネーションなどで微妙に変化する。電流チェックの試料を決め、時々どの試料に戻して試料電流とX線強度の再現性をチェックすべきである。
 電流安定のチェックには、電子線通路にファラデーカップを挿入してビーム電流を測定する方法や、対象絞りに流れ込む電流(モニター電流という)を測定する方法などがある。前者はファラデーカップと試料間にビーム不安定要因があると気付かないことになる。また後者は試料信号を測定中にもモニターできるので、良い方法ではあるが試料電流が最大値付近では利用できない。いずれにしろ、電子光学系をよく整備し(特にフィラメントの軸調整)安定性を高めておくのが重要である。 

福島啓義「電子線マイクロアナリシス」日刊工業新聞社
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◆ EPMAによる定量分析の基礎的背景
 濃度未知な試料と既知な試料(標準試料)中のある元素の重量濃度をそれぞれCunk, Cstdとすると、同じ条件下で得られた特性X線強度Iunk, Istdとの間には、基本的には比例関係が成立する。すなわち、
 Cunk / Cstd = Iunk / Istd
しかし、実際に計測されるX線強度はさまざまな要因で比例性がくずれており、正確には次のように表される。
 Cunk / Cstd = Iunk / Istd * f(ZAF) * f(other)
ここで、f(ZAF) と f(other)は未知試料と標準試料の試料性質が異なることにより生ずる因子で、試料状態や分析条件で変化する。まずf(ZAF)はZ:原子番号効果(atomic number effect)、A:吸収効果(absorption effect)、F(fluoresence effect)によるものである。Zは入射電子のX線発生寄与率、Aは試料自身によるX線の吸収度合、Fは試料内で発生した他のX線による励起の度合を表し、これらが未知試料と標準試料で異なることを補正する補正率がf(ZAF)である。
 f(ZAF)は多くの人々によりかなり詳しく検討・提案されており、理論、実験、経験を織り込んだ計算式、あるいは読取り図ができている。定量理論あるいは定量補正理論といわれるもののほとんどは、このf(ZAF)に関するものである。
 次にf(other)は、次のごとくotherであるが、f(ZAF)以外の因子の意味である。ただし、装置の不安定さや操作ミスによるIunkやIstdの測定誤差は除く。具体的には、次のような因子が含まれている。いずれも数値を理論計算することは非常に難しい。

a. 試料表面形状
 凹凸・局部的傾斜によるX線強度変化、不定形凹凸によるものは計算による補正はできない。傾斜の場合は傾斜角がわかれば計算も不可能ではない。

b. 密度効果(ポーラス性)
 ここでいう密度とは、いわゆる質量密度のことではなく、試料に微小な孔や隙間が多数あり、入射電子から見れば試料内に多数の不定形表面があるかのような場合である。触媒、粉末を固めたもの、歯骨などの試料はこれに相当する。歯骨は、生の状態では空間があるのではなく有機物が詰まっているが、有機物層は電子やX線の通過に対して比較的透明なので同様の現象と見なされる。

c. 析出効果
 ZAF補正理論は、入射電子の固体内でのふるまいを数学的に取り扱うことから導かれている。そしてこのふるまいは、試料が均質であるとの前提に立って論じられている。この「均質」というのは、入射電子の拡散領域と特性X線の発生領域および脱出経路が100Å程度まで均質であること、すなわち100Å程度以上の大きさの析出・偏析がないということを意味する。もし析出層があると、界面現象が生じ、原子番号効果が乱れ、同時にX線の発生量や吸収に体積比あるいは面積比の因子が入っている。析出効果の補正法についていくつかの提案(大別すると平均化の考え方とモンテカルロ法による順次計算)があるが、(1985年当時)まだ確立したものあるいは一般化したものになっているとはいえない。

d. 水素H、ヘリウムHe、(リチウムLi)の存在
 特性X線の発生原理上、HとHeのX線はないので直接分析ができない。ZAF補正理論はたとえ一部の特定元素の定量がしたい場合であっても、全構成元素の1次測定値がないと成立しない。したがって、HやHeの存在(実際の固体試料ではHが問題になる)を材料的に予測して、何らかの方法で1次測定値に相当するものを仮定しなければならない。これは当然、不確定誤差になる。
 Liは特性X線が存在するので理屈のうえでは直接定量が可能であるが、現時点(1985年)では装置側の性能として実用的検出感度が全くないのに等しいので、実質上H, Heと同じ扱いになってしまう。
 以上のほかにもf(ZAF)でないものに、コーティングの影響、試料ダメージ、コンタミネーションなどがあるが、これらはむしろInuk, Istdの誤差であり、大半が分析技術で大幅に低減できるので、f(other)に入れない。
 Cunk = Iunk / Istd * Cstd * f(ZAF) * f(other)
  = k * f(ZAF) * f(other)
となるが、ここでIunk / Istd * Cstd = k を1次測定値といい、このkの精度は装置性能と分析技術にかかっている。装置の基本性能は別として、安定良く動作するように調整・操作するkと、f(ZAF)やf(other)が1に近づく条件、すなわちkがCに近づく条件を選ぶこと、kの不確定誤差を小さくすること、などが分析者の務めである。

福島啓義「電子線マイクロアナリシス」日刊工業新聞社
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◆ 定量法の種類と特徴

a.検量線法
 未知試料の組成に似通った成分をもつ数点の標準試料を準備し、成分濃度とX線強度の関係を示す検量線をあらかじめ作成しておき、原則として内挿法により未知試料元素の成分濃度を求める方法である。
 この方法によれば、未知試料と標準試料の近似性から、吸収効果、原子番号効果、蛍光励起効果などの諸効果はすべて無視することができ、補正計算を行う必要がなくなるので便利である。ただし、未知試料のおおよその成分があらかめじめ予想できるものでなければならず、また、たとえ標準試料ができても試料全体についての成分濃度の均一性が問題になることがある。
 鉄鋼試料中のC, P, Sのように濃度が低いときや、ガラスのように均一な標準試料の入手・作成がそれほど困難でない場合によく用いられる。

b. ZAF法
 最も中心的な方法である。1点の標準試料(できるだけ純物質、そうでなければできるだけ単純物質)との比較により得たk値に対してZAF補正を行うものである。通常はf(other)は1と見なせる場合に限られる。
 あまり微量成分に対しては適用しないほうが無難である。標準試料と未知試料の濃度が2桁以上も離れると誤差が大きくなりすぎる。
 このZAF法にはいろいろな計算式や亜法が提案されている。またB, C, N, Oの直接定量の精度向上やLi, Hなどが含まれる試料に対する定量法の検討も進んでいる。
 解析では、A -> Z -> F -> A -> Z -> F ... と各補正を行っていくの一般的である。なぜなら、補正量は、Zが10%程度以下のことが多く、Fも10%以下であり、無視できることも多い。Aは10%を超えることが多く、数10%も珍しくなく、数100%になることすらあるためである。

c. Bence-Albee法(Bence and Albee)
 一般に、酸化物試料と金属試料とは、試料内部における電子線のふるまいが異なるであろうためや、酸素の直接定量の難しさのため、純元素を標準試料とする定量分析法を適用すると、精度の向上が難しい。
 A. E. BenceおよびA. L. Albeeは酸化物、特にケイ酸塩について実験的な補正係数を用いることによって、かなり高い精度で定量分析ができることを提唱した。
 現在では酸化物分析においては最も精度の高い定量法として評価され、また補正法自体についてもZAF法に比べるとはるかに簡便である。しかし、α係数といわれる補正係数は、オリジナル論文ではX線取出し角52.5°、加速電圧15 kVに対して固有のものであり、他のX線取出し角、他の測定条件には適用できない。また、α係数はNa2Oなど約10種類の単純酸化物に限られている。
 この方法は、ZAF法の適用がやりにくいことから、特定の試料と条件に対して実験的な因子を用いたのであるが、現在では他の試料・条件に対しても、計算で求めた因子を用いて適用するようになっている。これは思想的には疑問もないではないが、手段としては現実に役立っており、良い結果が得られている。

d. 標準感度法(SEF, Soezima法U)
 SEF法とは、Standard Sensitivity and Experimental Factorのことである。この方法は、すべての固体試料、すべての元素に対して何らかの量的表示を簡便な手法で得ようとするものである。f(ZAF)とf(other)を合わせたトータルファクターfTを経験、実験あるいは計算を組み合わせて求めておくとともに、標準試料からの信号強度(標準感度)を装置の固有値として特性表にしておく。未知試料の信号強度だけを測定して、この標準感度とfTから濃度を求める。もちろん、精度は期待できない。通常の方法(上記のa,b,c)では定量がほとんど不可能な場合や、手間をかければ精度の高い値が得られはするが分析目的がそれほど高い精度を必要とせず、できるだけ簡便にざっとした値が欲しい場合に適する。現時点では、X線取出し角52.5°、加速電圧15 kVに対してfT値を得ている。

f. トヨタ補正図表法
 内容的にはZAF法そのものである。実用的にでてくる大半の2元系試料について、ZAFトータル補正係数(原子番号効果の補正係数*吸収効果の補正係数*蛍光励起効果の補正係数)の計算結果を図表にしたものである。利用者は1次測定値にこの値を乗ずるだけでよい。X線取出し角30°、40°、52.5°、加速電圧20 kV, 30 kVが用意されている。3元系以上の試料の場合でも、この2元系の補正係数より比較的簡単な計算で補正係数を求めることができる。
 
名称 検量線法 ZAF法 Bence-Albee法 収斂法 標準感度法 トヨタ補正図表法
特徴と対象分野 ・線検量線用の標準試料が作製可能なものすべて
・微量に向く
・金属をはじめとする全分野
・微量、および超軽元素領域では精度が落ちる
・酸化物(鉱物、ガラス、セラミックス)
・α因子が求められている元素に限られる
・ZAF、検量線でできないもの(未知試料と標準試料でマトリックスが大きく異なるもの、標準試料が1点しかないもの) ・他の方法で測定不可能なもの。特に生体、高分子など。
・短時間で大まかな定量を行うとき
・金属、合金類、一部半導体
加速電圧 任意 任意 15 or 20 kV 任意(変化させる) 15 kV 20 or 30 kV
測定に関する要点 B. Gが試料によって変化しない場合、B. Gの測定がいらない 未知試料/標準試料の比を測定 未知試料/標準試料の比を測定 各加速電圧で未知試料/標準試料の比を測定 未知試料のみ 未知試料/標準試料の比を測定
補正に関する要点 検量線の作図のみ、補正はいらない 吸収・原子番号・蛍光励起ほ補正、計算機が必要 α, β, Wファクターを用いた計算、計算機が必要 収斂曲線の作図のみ、補正はいらない 補正はいらない 2元系は図で求められる。
多元系は計算機必要
1元素だけ定量したいとき 1元素のみの測定でよい 全元素の同時測定が必要 全元素の同時測定が必要 1元素のみの測定でよい 1元素のみの測定でよい 全元素の同時測定が必要
定量精度
(相対誤差)
主成分±1%以内 ±1% ±1% ±2-5% ±5-50% ±2-5%


福島啓義「電子線マイクロアナリシス」日刊工業新聞社
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◆ 1次測定値の測定

 いかなる定量法を取ろうとも、未知試料、標準試料におけるX線強度Iunk, Istdの測定精度が最終的な定量精度を決定する。すでに述べたようにf(ZAF)は本質的に数値表示でき、f(other)の大半は一応、分析者と装置の責任外のものである。したがって、分析者の最大の任務は、Inuk, Istd値が再現性良く測定され、不確実なあるいは不安定な誤差が入らないよう努めることにある。
 さらには、f(ZAF)やf(other)ができるだけ1に近くなるような諸条件を整えられる者がうまい分析者ということになる。
コンピュータ利用による自動分析が進歩しているので、分析者の個人差的誤差が取り除かれつつあるが、試料作成、試料セットは人の側の問題であり、分析手順、分析条件をプログラミングするもの人である。定量結果の妥当性を論ずる立場においても、Iunk, Istdの測定にどのような要因でどれほどの誤差が入りえるかを知っておくべきであろう。

福島啓義「電子線マイクロアナリシス」日刊工業新聞社
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◆ 検量線法の実際

 試料の調整、分析の手順、諸注意などは、「1次測定値の測定」に従うが、内容上異なるところは、原則としてバックグラウンドの測定が要らないことである。
 検量線は、普通3点以上の標準試料を用いて測定を行うわけであるが、このときの標準試料と未知試料は、できるだけ組成の似通ったものでなければならない。
 鉄鋼ならば同一の鋼種(たとえばSUSならSUS, SKならSK)であることが望ましく、そうでない場合には結果の信頼性に問題をきたす。ステンレス鋼中のカーボン定量の標準試料にLow Alloyを用いるというようなことは原則として許されない。やむなく同種の標準試料が入手できない場合は、それぞれの試料ごとにバックグラウンドの測定とピークの重なりの判定が必要である。また、この作業を行っても精度に問題が残るのは避けられない。

◇測定
 最も大切なのは、すべての試料を可能な限り同一条件で分析するということにつきる。したがって、短時間に分析を完了するとともにコンタミネーションなども考慮して、各試料平等にビームを照射するように配慮することが必要である。
標準試料A, B, C, D、未知試料Uを各5回計数するとして、Aの測定を5回終えてしまってからB, 次にC、というふうにせず、A 2回 -> B 2回 -> ... -> U 2回、次にU 2回 -> D 2回 -> ... -> A 2回、最後にC -> D -> U -> A -> B各1回といったような順番の平等化も考えるとよい。こうすると、最初のA2回と次のA2回の測定値が再現するかどうかによって、条件の安定性や試料の場所のバラツキもわかる。
 感度の良い装置Aと悪い装置Bとでは、検量線の勾配が異なる。コンタミネーションその他によるバックグラウンドが変化する場合には、検量線全体が上下にシフトする。微量カーボンの定量ではコンタミネーションのカーボンが直接影響を及ぼすが、コンタミネーションの付着が各試料間で差のない方法を取れば、直接関係が変わらず、精度を落とさずに定量できるわけである。
 標準試料による検量線を作成しておいて、後日、未知試料の測定をするような方法は、高精度を必要とする時は取らない。標準試料の測定後未知試料の測定までに他の多様な分析手法や分析条件が割り込んでいると、試料のコンタミネーションや分光器の微妙な設定の違い、試料電流の読み取り設定誤差などによって、検量線法に求められる高い精度が保証できなくなるからである。

◇結果の評価
 縦軸にカウント数、横軸に元素の濃度を取り、各標準試料の測定値をプロットしていくと、その点は1本の直線上あるいは滑らかな曲線上に乗る。この線を検量線というが、もし測定点が大きくばらつくようなら、測定ミスや標準試料の不良が考えられる。
 主成分の検量線は、マトリックスによる蛍光励起を大きく受ける元素では上に凸の曲線、逆に吸収効果を強く受ける元素では凹のカーブとなる。しかし、濃度が10%以下なら、たいていの場合、直線とみなしてさしつかえない。
 検量線を引くとき、測定点に対してどう引くかというのは最小2乗法が用いられるのが基本である。コンピュータのによる自動分析のときはこの方法による。しかし人間が行うときは、目分量で各測定点を平等に結ぶやり方でかまわない。目分量というのは案外正確である。それに、目分量と最小2乗法による結果が大きくずれるよな検量線では、どのみち精度はよくないものである。

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◆ 点分析(状態分析)

a) 分光結晶は標準的EPMA用の場合、B-NはPb SD(ステアレート)、O-Naおよび25-10ÅのL線はRAP(またはTAP)、10-8ÅはADP、8-5ÅはADPまたはPET。
b) 電圧は5-10Åでは20-15 kV, 10-25Åでは15-10 kV、25Å以上では10 kV。比較する波形は必ず同じ電圧で測定する。
c) 電流は多めにする。ADP, PETでは0.05-0.1μA、RAP, Pb SDでは0.1μA。波形解析であるので、ピーク検出さえできればよいというわけにはいかず、β線やサテライト線波形の記録のために多めの電流が必要。ただし、試料損傷・変質が大きな誤差になるので特に注意を要する。

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◆ 状態分析の対称元素

 状態分析はその原理上、どんな試料でも可能というものではないということはいうまでもない。分析が成功する条件を整理してみると、
1) 状態変化に対応したスペクトル変化が生じていること
2) 軟X線、β線、サテライト線など強度の大きくないX線が波形解析できるほどの強さで検出されること。したがって、原則的には主成分が分析対象であり、通常は%オーダー以上含有していないと無理である
3) 真空中で電子線照射しても試料変質が無視できること、あるいはそのような試料セットができること
4) 解析に必要な標準試料が用意されていること、あるいは分析経験が積まれていること
といったことがあげられる。
 
分光結晶 エネルギー領域[keV] 元素 備考
LIF 3.591 - 10.015 △K, △Ca, △Ti, ×V, ×Cr, ×Mn Kβ線
PET 1.532 - 6.443 ◎Si, ◎P, ◎S, ○Cl, △Ag, △Cd,△K, △Ca, △Ti Kβ線
TAP 0.562 - 1.562

◎O, △V, ○Cr, ○Mn, △F, ◎Fe, ○Co, ○Ni, ○Cu, ○Zn, ×Na、◎Mg, ◎Al, ◎Si 

Mg, Al, SiはK線のサテライト
B, C, N, O, F, NaはK線、他はL線 
Lig.   △Be, ◎B, ◎C, △N, ×Ti TiはLl、他はK線
※ ◎印は良く分析されており成功率も高い、○印も実績が多い、△印は試みる価値がある、×印は不可能ではないが種々の難しい問題がある、という目安である。あくまでも目安である。この表に出てこない元素は、たまたま分析経験がほとんどなかったということであり、状態分析の対象外を意味するものではない。
福島啓義「電子線マイクロアナリシス」日刊工業新聞社

◆ ケミカル・シフト
 化合物から発生する特性X線は、化学結合状態の違いによって僅かには波長が変化する。これをケミカル・シフト(chemical shift)という。例えば、O Kα線スペクトル(TAPを利用)を見ると、個々の酸化物によって波長が変化して、その形状も異なっている。この変化は酸化物の化学結合状態を反映しており、スペクトルの波長と形状から化合物の結合状態を知るkとが可能になる。これを状態分析法という。
 具体的には、軽元素のBe-FはKα線、Na-Clの元素はKβ線、Kより重い元素はL線、そして重元素になるとM線に、価電子帯の電子エネルギーの変化がケミカル・シフトとして現れ易い。しかし、ケミカル・シフトとして現れるスペクトルの変化は僅かなので、変化の観察はX線分光器の波長分解能に大きく依存している。
 ケミカル・シフトでは、ピーク・シフト(peak shift)のほかに、α線とβ線の強度比、半値幅、スペクトルの形状、サテライト線の有無などに変化が見られる。
(木ノ内嗣郎「新訂版 EPMA 電子プローブ・マイクロアナライザー」技術書院)

◇ ピーク波長
 X線の波長は電子が遷移した軌道間のエネルギー差で決まる。物理的・化学的要因(化学結合の要因が大きい)によって軌道のエネルギーが変化するのでX線の波長が変わる。これがピークシフトである。
 外殻軌道のほうが他の原子や外部状況の影響をより受けやすいので、外殻軌道に関連した波長の長いX線のほうが変化が著しく現れる。X線の種類でいえば、K線よりもL線、L線よりもM線のほうが化学結合の差による影響がでやすい。このことは、ピークシフトに限らず以下に述べるX線スペクトルのすべての要素について言えることである。
 この波長シフトは、内殻電子間の遷移による発射スペクトルのいても生ずる。これは、価電子の変化にともない外部遮蔽効果が変化するからと考えられる。この変化は酸化度の違いにおいて特に顕著である。

◇ピーク強度
 あるX線ピークがどのような強度で観測されるかは、装置的条件や性能を抜きで考えれば、すなわち他のピークとの相対的強度で考えれば、状態密度と遷移確率の積で表される。状態密度というのは、いわば、そのエネルギーのX線が発生し得る軌道間エネルギーになるような電子状態にどの程度なっているかであり、遷移確率というのは、実際に正孔が生じたとき目指す電子がうまくそこへ遷移していく確率である。この考えに基づいて、自由電子模型で近似できる軟X線では、KおよびL発射帯の低エネルギー側(長波長側)の強度の立ち上がりは、
 IK(E) ∝ E3/2
 IL(E) ∝ E1/2
となるといわれている。また、短波長側はフェルミ準位に対応する鋭い立ち上がりとなると考えられている。しかし実測されるスペクトルは、これだけでは説明が付かない形をしているのも事実である。たとえばtail(裾)といわれるものもその一つである。これは長波長側に上式で予想されるより長いtailが観測されることをいうのであるが、これについては次のように説明されている。
 内殻正孔に価電子が結合して光子(X線)を放出すると、今度は価電子帯に正孔が生ずる。このとき価電子帯底部の電子が内殻正孔に遷移したとすると、価電子帯底部に生じた正孔へ価電子帯上部の電子が遷移し、これにより生じたエネルギーで他の価電子がフェルミ準位に励起される、といった現象が次々と起こる。これは多電子効果といわれるものであり、価電子帯の各準位の寿命は短く準位の幅は広がる。すなわち低エネルギーの裾が広がる。

◇半値幅
 軌道の幅について見ると、内殻軌道は原子核に近いので比較幅が狭く変化が小さいが、外殻軌道は結合の相手原子の電子状態に大きく作用され、その幅も変化が大きい。たとえば、金属状態では自由に動ける電子のエネルギー幅が広いが、酸化物になると非常に限られた範囲でしか電子が自由に動くことができなくなる。この軌道の幅は、X線スペクトルの広がりに直接影響を与え、ピークの半値幅となって現れる。典型的な例として銅のCu L線がある。
 純銅(Cu)、酸化第一銅(Cu2O)、酸化第二銅(CuO)はそれぞれ電気の良導体、半導体、絶縁体であり、Cu Lα線の半値幅はこの順で狭くなっている。

◇対称性
 内殻間の電子遷移によって生じるX線(たとえば少なくともM殻以上の外殻のある元素のKα線)の波形(ピークの形)は、一般に最大強度の両側に対称的な強度分布を持っている。この強度分布は次のローレンツの放射減衰式に従うとされている。この場合の波形をローレンツ型という。
 I = I0 / (1+僞/W1/2)2
I0:最大強度
I:最大強度を示すエネルギー位置(波長位置)より僞だけエネルギーが離れた位置における強度
W1/2:最大強度の1/2の高さにおけるスペクトルの幅の1/2
 (half width at half maximum: 半半値幅)
 外殻電子が関与するX線、すなわち軟X線(特にKβ線やLβ線)では非対称になることのほうが多い。また、内殻間の場合でも遷移金属のKα1, Kα2線がわずかに非対称であることが知られている。非対称になる原因としては多重遷移過程と非図表線が考えられる。多重遷移自体が非図表線の原因の一つと考えられるので、両者をあえて区別する意味はないが、前者の考え方は次のようになる。ピーク強度のところで述べた多電子効果と共通のものである。すなわち、励起の初期状態においてひとつの軌道電子の空席ができると、その空席へ他の軌道電子が遷移するわけであるが、単純にひとつのエネルギー準位への遷移による1本の線ではないと考えられる。遷移の結果として別の空席ができて励起状態にもなれば、同じ軌道の他の電子のエネルギー準位が変位する。また、他軌道電子も、たとえば遮蔽効果により変位するといったさまざまな励起状態になる。valence lectron configuration(価電子配置)、bound ejected electron(束縛解放電子)などといわれている。これら多くの励起状態への遷移による多数の線の集まりとして観測される。このモデル(Parrattによる)は現在(1985年)はまだ定性的なものであり、定量的裏付けがないのであるが、実際のスペクトルを解析する現場手法としては便利なので本書でも利用している。また、初期状態での正孔とフェルミ面電子との相互作用とする考え方もある。

◇サテライト
 非図表線という言い方は、モーズリーの図表によってX線発射スペクトル起源を説明することのできない線が観測されたために生まれた。非図表線の成因については固定的な考え方が確立しているわけではなく、いつかの考え方によりそれぞれの非図表線に説明が付けられている。先のtailや非対称の問題も非図表線の表れとして見ることができる。
遷移金属に対しては具体的説明があるので次に転載しておく。
 Kβ'線の起源は遷移金属の不完全な3d殻の不対電子と、X線の発射により生じた内部電子殻3pにできた不対電子の交換相互作用によるものであるとした。すなわち、Kβ1線とKβ'線はそれぞれ終状態の全スピンがS+1/2とS-1/2であるような遷移によって発射されるものである。ここにSは遷移元素の不完全な3d殻の全スピンであり、そして1/2はKβ線の発射により、完全であった3p殻から1s殻へ電子が遷移した結果3p殻にできた空席のため不完全殻となった3p殻のスピンである。その結果、Kβ1線とKβ'線のエネルギー差はS+1/2とS-1/2をもった状態のそれぞれの交換相互作用のエネルギー差に等しく、このエネルギー差僞は、
 僞 = J * (2*S + 1)
で与えられる。ここにJは3pと3d準位の交換積分であり、Sは3d準位のスピンである。またKβ'とKβ1線の相対強度比I'/Iは
 I'/I = S / (S + 1)
となる。
 同じような交換相互作用の効果は当然遷移金属の不完全な3d殻の不対電子と、Kα線の発射により生じた2p殻の不対電子との間にも起こると考えられる。これはL2準位とL3準位それぞれが2つの状態に分かれることを意味する。そしてその結果としてKα1線、Kα2線はそれぞれが2本の線からなり、その2本の分離が小さいため明瞭に分離せず重なり合って、あたかもそれぞれが1本の非対称な線のようになる。この場合は、上式のJとして3dと2pの交換積分を用いればよい。
 軟X線発射スペクトルにも一般にサテライトが存在する。一番顕著なのは軽元素Kα線の高エネルギー側(短波長側)に出現し、主発射線と類似の形で、強度は10%以下である。
 低エネルギー側(長波長側)に出現するものにプラズモンサテライトがある。電子間の相互作用にプラズモンといわれる、電子ガス集団振動がある。価電子が内殻準位に遷移することにより軟X線が発射するが、遷移によるエネルギーの一部がプラズモンを励起することに費やされてサテライトとなる。
 軌道電子遷移によって特性X線が発生する効率を蛍光収率ωで表し、1-ωがオージェ電子の収率になる。発射されたオージェ電子のエネルギーの一部が光子(X線)の発生につながることがある。こうして発射したX線のエネルギーは当然オージェ電子エネルギー以下であり、したがって主発射X線の長波長側のサテライトとなる。このサテライトは強度が小さく幅はかなり広い。
 非対称性にも大きな影響力を持ち、状態変化の大きなサテライトにKβ'線がある。このKβ'線は遷移金属や第3周期元素(Mg, Al, Si, P, S)のKβ'線の長波長側に出現し、強度がKβ1線の30%ほどもあり、相対的に他のサテライトより大きい。

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◆ 簡単な状態分析と判定法

 EPMAによる状態分析は決して簡単な分析手法ではなく、手間と労力をかけたからといって必ずしも成果がでるとは限らない。しかし、中には標準試料も要らず、たいして注意も払わずに、スペクトルを記録してその形を見ただけで判断できるものもある。代表的な例をあげておく。
a) Mg, Al, Siが金属か酸化物か?
 ADP結晶を用いて(SiはPETでも可)Kサテライトα3とα4を測定する。両者の強度がほぼ同じなら酸化物、α3がα4よりはっきりと大きければ金属である。
b) Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Znが金属か酸化物か?
 RPAまたはTAP結晶を用いて10-15 kVでLαとLβを測定する。Lβの強度がLαの1/5程度以下なら金属、1/3程度以上あれば酸化物である。
c) CuがCu2OかCuOか?
 RPAまたはTAP結晶を用いてO K線を測定する。半値幅が0.15Å程度以下ならCu2O, 0.2Å程度もあればCuOである。
d) Sが単体か金属硫化物か硫酸物か?
 ADPまたはTAP結晶を用いてS Kβ,β'を測定する。対称性から判断できる。
 単体の場合は非対称性(長波長側が広がる)
 金属硫化物(FeS, ZnS)の場合は対称
 硫酸物(SO3, CuSO4など)の場合は分離(長波長側に小ピークがでる)

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◆ 一般的なこと

◇ 信号強度
 信号強度とS/Nはともに良いほうが良いのはいうまでもないが、総合判断するときは、S/√Nで評価すればよい。半値幅が小さいことも必要であるが、必ずしも小さければ小さいほど良いというわけでもない。波長分解能が問題になるのは、Cr Kβ-Mn Kα、Ti Kβ-V Kα、Ti Ll-N Kαなどで、それほど多いくみあわせがあるわけでなく、これらのピークの必要にして十分な分離は考慮されなければならないが、必要以上に半値幅を狭くすると焦点深度が浅くなり、低倍のX線像において周辺強度が劣化する、電子線走査による広範囲のline profileができない、試料Z位置調整を厳密にしなければならない、分光器再現性が定量精度に及ぼす影響が大きいといった問題が生ずる。
 状態分析の立場からも半値幅が問題になるが、状態分析に利用する波長領域やピークは一般分析とは異なることが多いので、同一視することはできない(たとえばCr Kβ-Mn Kα分解能はMnの定性・定量分析には重要でも状態分析には無関係である)。

◇ローランド円半径
 分光器の性能にローランド円半径が関係する。一般にローランド円半径を小さくすると信号強度が強くなり、半径を大きくすると半値幅が小さくなる。S/N比は一概にいえない、ということになり、もし全く同じ材質で同じ大きさの分光素子を同じ加工技術で製作したとすると、半径のほぼ2乗に反比例して強度が変化し、半径にほぼ比例して分解能が変化する。しかし実際には加工技術が大きく支配するので、実測してみないと何ともいえないのが実情である。
 分光器の調整によってきょづを増大させることは本質的にできないが、半値幅は、たとえば検出器スリットでかなり制御できるので、どちらかというと強度の大きな分光器のほうが有利である。EPMAでは4-6インチ(100-150mm)程度のものが使われている。
 なおS/N比はノイズ、バックグラウンドの測定法によって、見かけの値が大きく変わってしまうので注意を要する。S/N比は本来はピークとその波長でのバックグラウンドから測定されなければならないが、同じ波長でのバックグラウンドが測定しにくいので、波長をずらして測定することが行われている。このときPHA(波高分析器)を使用すると、見かけ上のS/N比が良くなることに注意すべきである。見かけ上S/N比が改善されたようになるが、実際はPHAの使用前とほぼ同じである。

◇X線の取り出し角度
 試料に電子線が直角に入射したとき、X線を検出する方法が試料面と成す角度をX線取出し角度(X-ray take off angle)といい、EPMAにおいて装置的にも分析技術・データ解析的にも重要な値である。取出し角度が関与する項目は大変多い。
・凹凸のある未知試料のデータの信頼性はX線の取り出し角度が高いほど大きい。
・水平性、傾斜角が変化したときの測定X線強度の変化(誤差)は、取出し角度が高いほど小さい。
・測定される波長誤差は取出し角度が低いほど大きい。
・X線は試料表面から少し内部で発生し、試料自身による吸収を受けて脱出してくる。取出し角度が低くなるほど試料内のX線通過距離が長くなり、測定X線の強度が減衰する。
・定量分析において補正量が大きいほど誤差も生じやすくなる。補正量は加速電圧や質量吸収係数、X線取出し角度依存性があり、これらの値の誤差や変動が補正量の誤差、すなわち定量精度に反映する。
・取出し角度は原子番号効果には影響を与えないが、吸収効果と蛍光励起効果に影響を与える。
・取出し角度が低いほど吸収効果による補正量が大きくなる。取出し角度が高いほど蛍光効果があり、その補正量は数%から数100%に及ぶ。蛍光効果は特定の重元素間においてのみ生じ、その補正量は0-30%程度である。したがって、総合的には取出し角度が高い方が補正量が小さい。
・試料エッジでは、吸収の現象により見かけのX線強度が増加する。
 これをエッジ効果(edge effect)というが、取出し角度が低いほうがエッジ効果が強くなり、エッジ付近の分析精度が低下する。
・X線発生深さが深ければ深いほど脱出する時に大きな吸収を受けるが、取出し角度が低いほどより大きな吸収を受けるので、検出X線強度の深さ分布が表面付近に片寄る。したがって、見かけの付加さ分解能は取出し角度が低い方が良い。
・隣接した組織との分解能は当然ながら、取出し角度が高い方が良い。

福島啓義「電子線マイクロアナリシス」日刊工業新聞社
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◆ 試料ダメージ

◇ 電圧
 電子が試料に衝突するというふうに考えると、加速電圧が高いほど試料ダメージが大きいように思われるが、電子の試料は小さく、試料を構成する分子・原子が直接飛ばされるというようなことはまれである。入射電子のエネルギーが数eVまで小さくなると表面吸着層の電子離脱というのが起きるが、数kV-数10kVのPEMA領域では電子衝突による直接ダメージは考えなくてよい。しかし、電圧が高くなると熱の発生領域が大きくなり、単位体積当たりの発生量増加には直接ならないし、試料表面付近では入射電子エネルギーが高すぎて試料との相互作用が小さく、熱発生はむしろ小さい。
 以上により、多くの試料では試料ダメージと加速電圧の間に直接的な関係はそれほど顕著ではない。しかし、K, Naなどのアルカリ金属を含む酸化物において、電子線照射によりK, Naの特性X線強度が劣化することが良く知られているが、この劣化の様子には加速電圧依存性がかなり認められている。

◇ 電流
 試料電流値と試料ダメージの関係はかなり明瞭である。これは、試料ダメージの大半が試料温度上昇のためであり、試料温度上昇と試料電流値は直接的な関係があるとことから当然である。しかし単に試料電流値として見るより、ビーム径を合わせて考えるべきである。すなわち、電流密度のほうがダメージとの関係が深い。試料温度は供給される単位体積当たりの熱量と放熱状態によりバランスする。また、試料はある温度まではダメージを受けない。したがって、電流密度を上げていくと、あるところでダメージが起き始める。

◇ ダメージの判断と実験条件
 ダメージが起きたかどうかは簡単に判断が出来ない場合が多い。照射中に光学顕微鏡で観察して変化がなければ、まずダメージを受けていないと見てよいが、変化が認められたからといって分析結果に問題があるほどダメージを受けたとは限らない。必要に応じて実験により確認すべきである。実験に当たっては電流密度が十分小さい条件での測定も必要である。測定条件の中にダメージがほとんど生じていない場合が含まれていないと実験にならない。

福島啓義「電子線マイクロアナリシス」日刊工業新聞社
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◆ コンタミネーション

 コンタミネーションは、電子線照射時間とともに炭素が主成分となって試料表面に付着していくものである。したがって、C K線の測定のときはX線強度は順次増加し、他のX線の測定の場合は、コンタミネーションの層でのX線吸収のために、逆に強度が減少する。
 たとえば、長波長から短波長へ分光器を波長走査する場合、ピーク位置は、コンタミネーションのないときと比較すると、C K線では短波長側へ、他の元素のX線の場合は長波長側へずれる傾向がでてくる。測定スペクトルがたまたまC K線の吸収端にひっかかるようなときには、さらに複雑な変化を示すであろう。

※ コンタミネーションの増加はビームが当たってるところで増加するので、ビーム径をあまり絞り過ぎないようにすると良い(絞り過ぎると特にそこに集中して炭素が増加する、逆もまたしかり)。ビーム径とコンタミネーションの成長の仕方は”木ノ内嗣郎「新訂版 EPMA 電子プローブ・マイクロアナライザー」技術書院”に掲載されている。JEOLのマニュアルにビーム径が20 μmとしてあるのはこのことを考慮していると考えられる。

福島啓義「電子線マイクロアナリシス」日刊工業新聞社

◇ コンタミネーションの防ぎ方
  コンタミネーションの主成分は炭素であり、電子電流密度によって堆積状態が異なる。時間の経過と共に堆積が厚くなるので、特性X線の吸収に注意する必要がある。とくに炭素による吸収を受けやすい軽元素、特に窒素や酸素の特性X線は影響が大きい。このようなコンタミネーションを防ぐには、まず試料表面を有機溶剤のエチルアルコールやアセトンによって十分に洗浄することである。また、真空蒸着やスパッタリングの際に、ベルジャーの中に長時間にわたって放置させないことである。とくに油回転ポンプでの粗引き状態では油が付着しやすいので注意を要する。また、分析時においては、電子プローブ径を広げることで、液体窒素を利用したコールド・トラップによってコンタミネーションを抑えることができる。

木ノ内嗣郎「新訂版 EPMA 電子プローブ・マイクロアナライザー」技術書院
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◇ 比例計数管のエスケープ・ピーク

 X線検出器のガス・フロー型比例係数管では90%Ar+10%CH4ガス(これはPRガスと呼ばれる)、ガス封入型比例計数管ではXeガスが使われている。これらの比例計数管は、入射X線による不活性ガスのイオン化作用を検出に利用しているが、入射X線のエネルギーが不活性ガスの吸収端エネルギーより高い場合には、ガスのK殻をイオン化して特性X線を励起する。特性X線の発生に寄与してエネルギーを失ったX線は、さらにガスをイオン化してピークとして検出される。このピークをエスケープ・ピーク(escape peak)と呼んでいる。エスケープ・ピークのエネルギーEesc(keV)は、入射X線エネルギーEからAr Kα線のエネルギー(2.9577 keV)を引いた値となる。
 Eesc = E - 2.9577
ArガスのにKα線によるエスケープ・ピークは、主ピークに対しての割合は約5%程度である。XeガスのL吸収端によるエスケープ・ピークは、無視できるほど小さい。

◇比例計数管のガス吸収端
 ガス・フロー型比例計数管のArの吸収端は3.20290 keVにあり、この前後で入射X線の吸収量が変化する。

◇ エスケープ・ピークの例
 ガスフロー型のPRガスでFe Kα線を検出する場合には、Fe Kα線のエネルギーが6.404 keVであり、ArのK吸収端の3.203 keVより高いのでエスケープ・ピークが生じる。このときのエスケープ・ピークのエネルギーは、ArのK殻の臨界励起エネルギーが2.958 keVなので3.446 keV(=6.404-2.958)となる。また、封入型比例計数管のXeガスでFe Kαを検出した場合には、励起されるXe Lα線のエネルギーが4.110 keVなので、エスケープ・ピークのエネルギーは2.294 keV(=6.404-4.110)になる。

◇ サム・ピーク
 試料内で約1μs以下の間隔で発生した二つのX線量子は、X線検出器に連続して入射することがある。このような場合には、双方のイオン化により生じたパルスが結合して、二つのX線量子エネルギーの和に相当した波高のパルスが生じる。このような現象をパイル・アップといって電気的な方法(pile-up rejection)によって除去されるが、除去しきれないピークがサム・ピーク(sum peak)として現れる。
 Fe Kα線のエネルギーが6.40384 keVなので、サム・ピークはFe Kα + Fe Kαで12.80768 keVの位置に現れる。他のサム・ピークの組み合わせにはKα + Kβ, Kβ + Kβなどがある。
 パイル・アップの確率は計数率が上がるにつれて増加する。

木ノ内嗣郎「新訂版 EPMA 電子プローブ・マイクロアナライザー」技術書院
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※ 下記はユーザーが直すために必要だからという意味で掲載しているのではない、異常を早期に”認識”して、管理者に伝えるために役立ててほしい。

◆ オペレータが行う装置の診断と調整
 明らかに装置が故障しているという場合でなくても、「どうも不安定だ」、「視野がずれる」「ビームが絞れない」、「X線の感度が下がってしまった」「電流が取れない」といったことにでくわすことはまれではない。また、装置の性能がこんなものなのか、もっと良くなるのかの判断を必要とする場合もあるであろう。このようなとき、据付や修理の専門技術者に依頼するまでもなく、良いデータを早く安く得るためにはオペレータ自身が対処することが求められる。
 診断方法や調整方法は装置によって異なるので、具体的な手順はそれぞれの装置メーカーの説明にゆだねるとしても、EPMAの共通の原理・構造における主要部が各性能にどのように関係するかを十分理解しておくことは大切である。良いデータを得るために最重要な構成要素である電子光学系とX線分光系について、各種異常現象との関係を述べる。なお、調整作業を行うに当たっては次のことを厳守しなければならない。さもないとより悪化する恐れがある。
a. 調整箇所に手をふれる前に、「どのような現象に対して何をしようとしているか」を再度自分にいいきかせる。このことは経験を系統的に積み重ねるために大切であり、調整能力向上の早道である。
b. 現在の設定値・設定位置を確実にメモする。
c. ある調整箇所をいじってみても目指す現象の改善がされない場合は、その調整箇所を必ずもとの値・位置に戻してから次へ移る。
 特にcの項が大切である。触ってみても改善されないので、関係ないと思ってついほったらかして次の作業に移ってしまうと、他の目的の調整箇所を変えてしまったことになるわけで、別の分析や分析条件のときに異常現象を招くことになりかねない。実はオペレータのミスオペレーションにより装置の調子が悪くなる最大の原因がこれである。以下に述べられることは、異常現象があるときどこを調べれば原因が早く発見できるか、どこを調整すれば効率良く改善されるか、の立場での記述であり、完璧な性能・限界性能を得るためには各部すべての完璧な調整が必要なのはいうまでもない。
※ 上記ことは普段の操作についても言えることなので、是非覚えておいて欲しい。私はJASRIにいたときこんなことさえできておらず、普段の操作で分光系の設定を変えてビームが得られず、真夜中に上司である管理者を呼んで、管理者や装置を利用していたユーザーの方々に大変なご迷惑をおかけした。装置の立ち上げ段階でいつも様子を見ていたからと甘く考えていたのだと思う。深夜ではとくに疲れていて普段見ていた操作のボタンを押し間違えていた可能性も否定できない。また装置の条件の変更を反映するのにタイムラグがあったのかもしれない。いずれにせよ、上記のことができていれば防げた事故だった。研究者はぜひこのことを心にとどめておいて欲しい。私のような失敗を繰り返さないために。普段から頑張ってきた信頼だって揺らいでしまうかもしれないのだ。尊敬できる人に信頼してもらいたいのは誰でも同じだから、絶対にこのことは覚えておいて欲しい。

◇ 電子光学系の異常の診断と調整
 EPMA用の電子光学系つまり電子ビームに要求される性能は、
@よく絞れる(低加速電圧、大電流でも良く絞れる)
A任意のビーム径に設定できる
B任意の電圧・電流に設定できる
C条件を変えたときの軸のずれ(最終的には試料上でのビーム位置)が少ない
D長時間ビーム径が安定している
E長時間ビーム電流が安定している
F長時間ビーム位置が安定している
等々である。これらをグループ分けすると、どうやってビームを小さく絞るか、どうやって電流密度を大きくするか、どうやって安定させるのか、の3つになる。そこで電子光学系の各部がこの3つに対してどのように関係するかを見ていく。

・電子銃
 安定性に一番関係する。特に長時間の安定性いわゆるドリフトはフィラメントとウェーネルトの位置関係、フィラメントの変形、フィラメントの加熱状態(フィラメント加熱電圧)などが一番の原因となる。短い周期、速い立上がりの変動は電子銃内の放電や高圧ケーブルのソケットの接触不良が考えらえる。高圧電源の安定性はもちろん重要であるが、実測するには一般に特別な測定法・測定器が必要であるのでメーカーに相談することになる。装置によって、あるいは調整法によっても異なるが、最大ビーム電流(試料電流)を得ようとしてコンデンサ電流を下げていったとき、ビーム電流が増加していったのに急に下がってしまうときは、コンデンサレンズに対する電子銃の位置調整をすると多くの場合回復する。ビームが全然絞れないとか、条件によって軸が大きくずれてしまうといった現象に対しては、電子銃をいじってもあまり効果はない。なぜなら電子銃の軸ずれや非点はレンズによって縮小されて試料上に反映するからである。

・コンデンサレンズ
 コンデンサレンズの性能は、SEM条件での分解能や大電流での分解能や安定性に大きくかかわっているが、調整ということからはあまり関係するものではない。つまりビームが絞れない、安定性が悪いからといってコンデンサレンズをいじくりまわしても改善はあまり期待できない。ビーム電流を変化させたとき、すなわちコンデンサレンズのレンズ電流を変化させたとき、試料上でのビーム位置が大きくずれるような現象に対しては、対物レンズに対するコンデンサレンズ位置が影響する。このずれの度合いは対物レンズの極性を変えられる装置では、レンズ出力を同じままで極性を変えたときにどれだけずれるかによって判断できる。ところでコンデンサレンズの性能は装置によって決まっているとはいっても、ユーザーの取扱いによって劣化してしまうことがある。クリーニング等の目的で電子光学系を分解したとき、コンデンサレンズのポールピースを取り外すことがあるが、誤って落としたりぶつけたりしないよう細心の注意を払わなければならない。また、クリーニングのためにポールピースのビーム通路近くをこすってキズを付けたりすることは厳禁である。もしピールピースに歪み(内部応力歪を含む)やキズを付けると、軸がどうにも合わない。非点が取れないといったことが生じやすい。、こういうときは正常なポールピースと交換するしか解決法はない。

・対物レンズ
 多くの装置で対物レンズは定点となっている。すなわち対物レンズの位置は固定されていて、これに対して他の構成要素を動かすようになっている。したがって対物レンズの調整といったことはないといってもよい。

・絞り
 分解能に大きな影響を与える。絞りにはコンデンサレンズ絞りと対物レンズ絞りの主要な2つ以外にも、補助絞りや散乱防止絞りなど多数が用いられているが、電子光学系の特性に直接影響を与えるのが前2種である。コンデンサレンズ絞りは通常コンデンサレンズのポールピース中心にセットされているが、この絞り位置は一般に外部からは(真空外からは)調整できない。しかしこの絞りがポールピース軸からずれていると、電圧・電流を変えたときの軸ずれの原因となる。また、最大電流が取れなくなったり、最高分解能が得られなくなる。絞りの役割のひとつにレンズ収差(特に球面収差)の影響を小さくする作用があるが、絞りの位置(特に横方向位置)がずれるとこの効果が弱まり、結果として最高分解能が得られない。コンデンサレンズポールピース口径は小さいのでずれの影響も大きい。したがってコンデンサレンズポールピースとコンデンサレンズ絞りを分解したときは、光学顕微鏡で確認する精度で中心合わせの組み立てをしなければならない。一方、対物レンズ絞りは対物レンズポールピース部より上方(試料とは逆方向、コンデンサレンズ側)にセットされている装置が多くあるので、対物レンズ絞りと呼ばずに対物絞りということが多いが、対物レンズポールピース口径が比較的大きいので、少しぐらいずれてもビームの絞れ具合が極端に悪くなることはない。しかし最高分解能をえるためには完全に中心に合わせなければならない。対物絞りの水平位置は外部から調整可能になっているので次のような判定法により調整する。対物レンズ出力を変化させると試料上のビーム径が変化するが、このとき同心的に変化するなら正常、そうでないなら、最小径のときの位置に中心がくるようにビーム径が大きいときの状態で絞り位置を調整する。最小ビーム径条件では、絞り位置が変化しても試料上ビーム位置はほとんど動かない。コンデンサレンズ絞りも、対物絞りも、絞り孔の真円性はたいへん重要で、真円性を乱す如何なる状態(形状が真円以外になるとか、小さなキズが付いているとか、小さなゴミが付着しているとか)も許されない。特に対物絞りの形状は最高分解能に大きく影響する。対物絞りは、口径の異なる複数個を外部から交換する装置と1種固定(もちろん位置調整は行う)の装置がある。レンズ特性が一定のもとでは口径の異なる絞りを交換使用することにより、微小電流時のビーム径と大電流時のビーム径の関係を改善することができる。つまり小さい口径の絞りを使用すると収差が小さくなり、微小電流時には最小ビーム径にとっては有利であるが、ビーム電流を増加させたときは縮小率が悪くなり、かえってビーム径が大きくなってしまう。大口径絞りではこの特性が全く逆になる。これらの特性はレンズによっても、電子光学系全体構成によっても異なるので、特性をよく心得て分析目的に適した絞り径にして交換しなければならない。一般的に対物レンズポールピース口径が小さくなるとこの傾向が大きい。すなわち対物レンズポールピース口径が小さい装置では絞り億巻の必要性が高い。なお、絞り交換型では交換時には大なり小なり軸調整が必要である。一種の絞りで全特性が得られたら操作性や安定性の立場から好都合であるが、装置設計製作上は簡単ではない。対物絞りが対物レンズ上方にあると、コンデンサレンズの出力に応じて口径が変化したのとある程度同じ効果をだせる。

・非点補正装置
 まさしくこれは分解能を左右するものであるが、非点補正装置が正常かどうかは専門技術者の判断によるべきレベルのものである。非点補正を動作させたとき視野が大きく変わる場合は、非点補正装置の軸やバランスがずれている可能性があるが、この調整はオペレータが行えるものと、そうでないものとがあるのでメーカーに相談すべきである。非点補正装置が正常に動作しているとすると、これを使って電子光学系の他の部分の非点に対する正常さをある程度診断することができる。非点補正は楕円成分に対してのみ行われるものなので、楕円以外の非点要因、たとえばゴミの付着やポールピースの欠陥などは完全には補正できないので、逆に非点補正不能の要因の有無を推定できる。このとき対物レンズ極性を逆転させたときに最適補正条件がどうなるか(非点補正の方向も逆転するかどうかなど)も判断基準のひとつである。

・軸調整用偏向装置
 条件変更にともなう軸ずれとなるが、大電流が取れなくなる現象と試料上のビーム位置ずれのどちからか、あるいは両方が生ずる。理想的な電子光学系では、すべての構成要素が完全に一直線に並ぶのであるが、このためにはすべての構成要素を外部から機械的に位置調整可能にしなければならず、これは現実的には無理である。また、たとえ理想に近い状態にセットされたとしても、地球磁界のためにビームのほうが曲げられるので、やはり何らかの軸調整が必要である。軸調整用偏向装置ではビームのほうを曲げるので、原理上加速電圧やビーム電流を変化させると軸もずれて、大なり小なりその都度再調整しなければならない。これはEPMAにとっては望ましいことではない。電子銃-コンデンサレンズ-対物絞り-対物レンズの相対的位置はなるべく機械的に調整しておき、ビーム偏向は補助的に使うべきである。機械的軸調整を行うに当たっては、ビーム偏向の出力を完全にゼロにしておかなければならない。なお、やむなくビーム偏向条件をしばしば変えて使用すると、絞りや電子線通路各部へのコンタミネーションが非対称になり、非点の原因にもなる。以上の主要素の調整不良以外にもさまざまな要因でビーム異常が生ずる。

◇ 波長分散型X線分光系の異常の診断と調整
 X線分析時の異常を分類すると、
 点分析モードにおいて、
@強度の劣化
A強度の短時間でのフラツキ
B強度の長時間での変動(ドリフト)
 線分析モードにおいて、
C強度のフラツキ
D強度のドリフト
E露出の片寄り(明るさのかげり)
等がある。これらの要因には下記のものが考えられる。
a. 電子光学系の不良、不安定
b. 分光結晶不良
c. X線検出器不良
d. X線分光器の調整不良、調整ずれ、波長設定
e. X線分光系全体のどこかの電気系不良
f. 分析試料
g. 分析条件の設定
があるが、aは上記の「電子光学系の異常の診断と調整」で確認対応し、fとgは応用編の領域であるのでb, c, d, eを主に述べる。
 分光結晶はその表面状態が環境に対して完全に安定なものではないので、徐々に(通常は年の単位)劣化していく、検出器は寿命の長いものではあるが、プラトー領域の変化、波高特性の劣化があるし、超軽元素用FPC(ガスフロー比例計数管)の窓はそれほど長寿命ではない。
 波長分散型X線分光器は機械系と電気系により構成され、その機械系は非常に精度の高い動きが要求されてくる。したがって正しく使用していても、ある程度時間の経過とともに最適調整位置がずれてくる。電気系は他の部分の電気系に比べて特に特殊なものが使われているわけではないが、検出器の特性変化や劣化と検出器高圧・プリアンプ・メインアンプ・波高分析(選別)器PHA(PHS)の異常が類似の現象を引き起こすので、機械系チェックのときに同時にチェックが必要なことも多い。

・分光結晶
 強度に一番影響する。強度はあまり変化していないのに半値幅やS/Nだけ大きく悪くなるようなことはほとんどない。ひっとうの分光結晶の波長範囲で特定のピークのみ性能劣化するということもまずない。また、突然性能が劣化するということは特殊な事故(真空や冷却水トラブルで表面が突然多量に汚れたとか、表面に大きなキズを付けたとか)がない限り起きず、徐々に劣化する。定期的に(半年に1回とか)チェックすることと、検出器性能の確認や分光器調整作業と合わせて判断する必要がある。ユーザーレベルでの結晶再生はできない。すなわち良品との交換が必要である。

・検出器
 強度不安定、強度低下、S/Nや半値幅の悪化を生ずる。X線が入ってきたのに信号パルスがでなくなるというようなことは検出器自身ではあまりないが、出力パルスが小さくなったり、波高特性(入射X線エネルギーに対応したパルス高、同じエネルギーのX線入射に対しては高さのそろったパルスが出力される)が悪くなることはあり得る。このため検出器高圧やプリアンプgainを高くしないと計数しなかったり、PHA(PHS)によるピーク分離能力の低下をきたす、検出器不良は交換するしかない。

・分光器
 強度、S/N、半値幅の性能にもちろん影響を与えるが、特徴的な異常は以下に述べるような強度の傾きである。波長は最大強度が得られる位置に合わせているのにもかかわらず、光学顕微鏡でピントの合っているZ位置から試料をずらしたときのほうが強度が増加する、ビーム走査による線分析のときプロファイルが右上がりや右下がりになる、X線像の明るさが画面の特定の方向のみ暗くなる、といった現象である。このようなとき、あるいはこのようなことになているか判断したいときは、次の手順で行う。
@) 1mmφ以上の面積で平滑で組成の均一な試料を用意する。チャージアップや試料変質などの余計な要因が入らないように金属試料が望ましい。
A) 上記試料を光学顕微鏡での焦点位置にセットする。試料の傾斜はあってはならない。
B) 加速電圧・試料電流は適当(標準的条件)で、ビーム径は2-3μm以下(最小径でなくてよい。非点などは関係ない)
C) 電子線走査部を点分析モード、ビームポジション(ビームシフト)は中心、倍率はx10000より高くする。
 点分析モードなら倍率は関係ないようであるが、多くの装置でビームシフト量が倍率に対応しているので(低倍のときのほうがシフト量が大きい)、低倍にしていると中心が少し動くかもしれないので、念のため高倍にしておく。このときCRT(ブラウン管、現在では液晶モニタ、一般的にはモニタ上の画像と認識すればよい)上では中心にCRTのビームがある。
D) X線分光器の波長を慎重に走査してペンレコーダにX線強度を記録しながら最大強度が得られる波長にセットする。セット後full scaleの70%程度にペン位置がくるように感度セットする。
E) 点分析モードのまま倍率をx300-x500に変える。もちろんこのときもCRT上のCRTのビーム位置は中心になっているはずである。
F) 試料Z位置をピント位置に対して少しずつ上下させてX線強度変化をチャート記録する。
G) D)ののちE), F)を行わずに、電気的ビームポジション(ビームシフト)ツマミを操作して、CRT上のX,Yの端から端へビーム位置を動かして、そのときのX線強度変化をチャート記録する。
H) 以上の結果、ビーム位置中心(XY中心)やピント位置(Z中心)でX線強度が最大を示し、しかも中心からのずらし量に対して概して対称的に強度減少を示すなら正常、ずらしたときのほうが強度が増したら異常である。ずらしたとき強度は増加しないが、片側へずらしたときはあまり変化しないのに、反対側へずらしたら大きく強度低下するのも異常である。対称性は大ざっぱでよい、理想的に調整されている分光器でも、原理構造上厳密な対称性は示さない。
 以上により異常と判断されたら調整をしないと、低倍X線像、ビーム走査による線分析、定量分析、状態分析、やむなく分析面の傾斜した試料などでは精度が悪くなる。
 調整法は装置メーカーの調整マニュアルに従うわけであるから、ここで述べる性質のものではない。ただ、ほとんどすべての装置に共通していえることは、上記のような現象はクリスタル調整(分光結晶のみを単独に外部から動かして、結晶へのX線の入射角を微調整する)によってかなり改善できる。そこで、次のように近似的に応急的に処置することができる。先のD)まで行ったのち、クリスタル調整を少し動かすと強度が増加するはずである。そこそこ強度が極大を示す位置にクリスタル調整値をセットし、今度は波長走査を再度行って最大強度波長位置に合わせる。この動作を2-3回行って強度が増加しなくなったら、E)-G)で確認する。
 分光器の全体調整が大きく狂っているときは、クリスタル調整のみでとりあえず異常を低減させた場合、ひとつの分光結晶の波長範囲内でも、元素ごとにクリスタル調整最適値が変わる可能性があるので、完全調整するか応急処置するかは総合的状況判断が必要である。

福島啓義「電子線マイクロアナリシス」日刊工業新聞社
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