X線反射率測定

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■ X線反射率

◇装置
 X線の全反射は、平坦かつ平滑でありさえすれば、どんな構造のどんな物質の表面でも生じるものであり、X線回折のように結晶構造には依存しない。しかし、X線反射率は、視射角と等しい出射角の位置に検出器を置いて角度走査をするような測定によって得られるのであるから、どことなくX線回折法の実験と似ていると感じられるのではないだろうか。実際、歴史的にも、標準的なX線回折ゴニオメーターに変更を加えたものがX線反射率計として使用されてきた経緯がある。
 X線回折の測定との大きな違いの第1は、扱う角度領域である。X線回折では20〜100°の広い範囲の回折角(2Θ)を扱うが、X線反射率の測定で対応する2Θ角は0.2〜6°と浅くかつ範囲も狭い。見た目にもX線源、試料、検出器がほとんど一直線上に並ぶような配置である。角度制御を非常に小さな角度で刻み単位として精密に行う必要があるし、また光軸調整も厳密でなくてはならず、試料回転中心、試料表面、X線光束中心の3者をミクロンオーダーで一致させるための調整機構を必要とする。違いの第2は、強度測定のダイナミックレンジである。標準的なX線回折実験における強度測定よりニアスケールであるが、X線反射率では通常5〜8桁に及びロングスケールになる。
 低角度の全反射域では入射X線の強度とほとんど同じ強度の極めて強い反射が観測されるが、高角度になると何桁も弱くなる。きわめて弱いX線と非常に強いX線を同じ装置で測定する必要があること。弱いX線もまた精度よく測定しなくてはいけないこと等がX線反射率の実験の特徴である。

◇データ解析
 X線反射率のデータ解析の歴史は非常に古く、X線の全反射を発見したComptonや初めて干渉縞の解釈を試みたKeissigの時代にまでさかのぼることができる。当時より、写真法によって記録した臨界角は表面や薄膜の密度んお決定に使うことが十分にできたと思われるが、有用性が注目を集めるのは、薄膜内部でのX線電場強度分布を見通し良く定式化した1950年代のParrattの研究の後である。反射率の式はこの頃に導かれた。これを受けて1960年代には干渉の振動機構の周期を直接読み取り膜厚を決定する試みもなされている。すなわち、第m番目のピークを与える角度位置Θmは、X線の波長をλ、膜厚をtとして、
 Θm = √(((m+1/2)*λ/2*t)^2+Θc^2)
または
 Θm = √(((m*λ)^2/2*t)^2+Θc^2)
で与えられる(薄膜と基板の屈折率の大小関係で前者と後者にわかれる)。この方法自体は、事実上薄膜1層の場合以外は適用困難であったが、その後、コンピューターが普及すると、先のParrattの理論に基づく各層の厚みや各界面の粗さをパラメータとするモデルに対する非線形最小2乗フィッティグが広く用いられるようになった。
 この背景には、1980年前後から、Nevot, CroceによるX線反射率による表面ラフネスの研究が進歩し、表面のナノスケールの形状を非破壊的に精密評価することへの期待感が高まったことが挙げられる。1990年代に入り、フーリエ解析法が用いられるようになり、各層の層厚をラフネスとは独立に精度良く決定することができるようになった。表面・界面ラフネスは、フーリエ解析法により求めた層厚を初期値に用いる非線形最小2乗フィッティングにより求められる。
 横軸を各層の臨界角で補正した散乱ベクトルに変換した後にフーリエ変換を行い、そのピーク位置から膜厚を求める操作を繰り返し、それらの値を初期値として使用するフィッティグによってラフネスを含む全パラメータを決定する。現在では、解析の簡便さ、迅速さから工業製品の品質管理にまで応用されるようになった。
 他方、1990年代には、X線反射率法だけでなくそれ以上に散漫散乱への関心が高まった。ラフネスの精密決定やナノ粒子やナノドットのような面内に不均一な構造を持つ系の解析等、深さ方向の散乱ベクトルにのみ注目する従来のX線反射率法では十分に扱えない問題を解決しようということでもあった。これには1988年のSinhaによるDWBA(distorted-wave born approximation)理論の導入および等方的なランダムな粗さを持つ表面についての散乱強度の定式化が非常に大きな影響を与えた。また、X線反射率法におけるラフネスは、理想表面に対するX線反射率への補正項として扱われてきているが、
その後、ガウス分布で単純に扱えないケースが多くあることも明らかになってきた。
 バルクよりも大きな密度を持つ層と不自然に大きなラフネスが求められるというミステリーは、機械的なフィッティング操作によってしばしば生じる。この問題は密度傾斜を考慮することによりある程度解決することができる。非対称なラフネスをキュムラント(Cumulant)展開で取り扱う研究もある。
 さらにこれまで必ずしも容易ではなかった特定界面のラフネスの反射率への寄与を抽出するのに、ウェーブレット変換(時間周波数解析)を用いる方法が提案されている。以上は、いわばモデルに対するフィッティグに過度に依存することへの警戒感からの軌道修正であり、今後はさらに踏み込んで層厚、拡散、ラフネスのようなパラメータを用いずに電子密度プロファイルを求める方法等の開発が進みそうである。

◇スペクトルの解釈
・全反射臨界角度
 試料薄膜の全反射臨界角度や基板の全反射臨界角度が現れる。X線は全反射臨界角度よりも高い角度で入射すると試料中に染み込んでいく。全反射臨界角度は膜の密度に比例する。
 例えば、シリコン基板上に有機膜を堆積させた試料でのX線反射率(XRR)スペクトルでは、低角度側の全反射臨界角度は有機膜の密度を反映し、高角度側の全反射臨界角度はシリコン基板のそれを反映していると言える。また、2つの全反射臨界角度の間に存在するXRRスペクトルの振動は、有機膜の膜厚干渉縞。
・スペクトル全体の傾斜
 これは試料表面および界面のラフネスに起因する。このスロープ(傾斜)をフィッティングすることにより試料中のラフネスの評価が可能になる。
・膜厚干渉縞
 基板上に堆積した膜の膜厚に起因する干渉縞が現れる。この周期は膜厚に反比例します。この周期をフィッティグすることにより膜厚を求めることが可能になる。
・シミュレーションと実測値で膜厚干渉縞の振幅が大きく異なっている場合
 装置光学系におけるX線の発散(広がり)のために生じている干渉縞振幅の現象をシミュレーションが正確に再現していないことが原因である。この装置におけるX線の発散は、Gaussの値を増減することで調整可能になる。
 低角度領域の振幅から装置のX線の発散を決定するのは、高角度側の振幅が装置のX線の発散だけでなく、表面や界面のラフネスを反映しているためである。そのため、高角度領域の振幅を用いて装置のX線の広がりを求めてしまうと、ラフネスが正しく評価できないということになる。
 残差二乗和が=<0.5*10^-2であればフィッティングは良好といえる。

◇応用例
 X線反射率の応用範囲はきわめて広く、ほとんどの薄膜、基板が測定対象になりうる。
 ミュンヘンのPeisl教授のグループは、表面のマルテンサイト変態をX線反射率法により解析した。電解研磨で得られたNi62.5Al37.5(001)表面のX線反射率を、試料を冷却しながら測定した結果である。同一試料のバルクの変態温度である85Kより高い90Kで、0.14°近傍に屈曲点が認められた。この温度で表面緩和が生じているため、平滑さが失われ、0.1〜数ミクロンオーダーの変形が起きているためと考えられる。興味深いことに、加熱過程では異なる温度依存性が得られる。
(省略)
 X線反射率法では、表面の下にある「埋もれた」界面の情報を非破壊的に得られる点が他の表面分析の方法よりも優れている。Co/Cu多層膜(Si(111)基板上に[Cu(22.8nm)/Co(2.1nm)]20jをバッファ層(Co3.8nm),キャップ層(Cu2.5nm)とともに蒸着したもの)のX線反射率を測定することも可能である。
 改造したマグネトロンスパッタ装置を用い、アルゴンイオンの量と平均エネルギーを独立に制御できるようにし、ここでは、イオン衝撃のエネルギーの違いによる効果を見ようとしている。結果は、エネルギーが大きくなるとブラッグピーク位置がシフトし、すなわち周期層厚が薄くなっていることがわかるが、これはアルゴンイオンのエネルギーに対応して成長中の膜からの再スパッタ率が変化することに対応している。
 また、解析の結果、界面ラフネスに分布があり、表面に近づくほど平滑になっていること、それはイオン衝撃のエネルギーが大きいほど顕著であることが明らかにされた。
(省略)
 面内方向のナノ構造に敏感な散漫散乱や回折法と組み合わせれば、ドットのサイズやドット間の距離や分布、ビラミッド型のドットの方位や歪みの分布についてのデータも得ることができる。表面より100nmの深さにある構造であるため、通常の表面分析ではチェックすることが非常に困難であるが、このようなとき、X線反射率は大変便利に利用できる。
これらの試料は、あるプロジェクト研究の共通研究試料だり、電子顕微鏡やSTM, AFM等による検討と並行して行われたが、X線反射率法は試料受領後、わずか30分程度で解析結果を出すことができ、他の方法に比べて極めて迅速であるとの印象を強くした。
 X線を用いる手法は非破壊的であるので、まずX線反射率で評価を行ってから、他の先端的な手法による詳細な検討を行う、という手順はナノ材料研究の実際的な進め方としてかなり有望である。

◇いろいろな物質の全反射臨界角
物質名 臨界角
(mrad)
物質名 臨界角
(mrad)
石英ガラス 3.79 6.97
シリコン 3.90 モリブデン 7.58
アルミニウム 4.11 7.65
チタン 5.17 ルテニウム 8.19
ガドリニウム 5.94 ロジウム 8.33
クロム 6.50 タンタル 8.86
6.69 タングステン 9.55
コバルト 6.87 9.63
ニッケル 6.94 白金 10.11
X線エネルギー8.04keV(波長0.154nm), CuKα1線

[1] 宝野和博ら「金属ナノ組織解析法」アグネ技術センター
[2] Bruker AXS manual
測定や解析方法の詳細は上記参考文献を参照すると良い。
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