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二次イオン質量分析計(SIMS)

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■ 二次イオン質量分析(SIMS)

◆ 緒言
 二次イオン質量分析法(secondary ion mass spectrometry; SIMS)は、固体表面の微量分析法として、優れた特徴を有しているが、特に、ppmからppbの感度で深さ方向の元素分析が可能であることから、半導体デバイス中のドーパントの深さ方向分布分析に広く利用され、半導体デバイスの発達に大きなインパクトを与えるほどの成果を数多くあげてきた。また半導体に限らず金属、セラミックス、有機物などの幅広い材料の評価が可能であるため、現在では、先端材料の開発や製品の現場では最も有力な評価解析装置の1つとして確固たる地位を占めるようになっている。
 このSIMSの歴史をたどると、1910年のJ. J. Tomsonによる二次イオン放出現象の発見にまでさかのぼることができる。実際に、市販のSIMS装置が広く使われるようになったのは、1960年代後半であるが、SIMSに著しい発展と栄光をもたらした半導体中のドーパントの深さ方向分析への応用は1970年代より始まった。このような深さ方向高感度分析を行う測定モードはダイナミック(dynamic)SIMS(以降D-SIMSと略す)と呼ばれているが、より表面に敏感な測定モードでるスタティック(static)SIMS(以降S-SIMSと略す)の研究もD-SIMSに少し遅れて1970年前半より始まっている。
 1980年代になると、D-SIMSでは、超高真空技術やコンピュータ技術の進歩に伴う装置の発展により、精度が高く、かつ再現性のある情報の引き出しが可能になった。また、かならずしも固体とイオンとの相互作用について十分に明らかにされたわけではないが、関連するデータの蓄積が著しく進み、信頼度の高い定量値も得られるようになってきた。
 1970年代から1980年代までのSIMSの発展と成果はほとんどD-SIMSによってもたらされたといっても過言ではないが、1980年代後半からは、飛行時間型(time of flight: TOF)質量分析計の飛躍的な発展により、S-SIMSをとりまく環境も大きく変化してきた。すなわち、高感度、高質量分解能で広い質量範囲を同時計測可能なTOF型スペクトロメーターの特徴を生かし、従来は、ほぼ有機物表面の解析に限られていた測定対象も、今後は半導体やセラミックス材料などへの応用に広がっていくものと期待されている。
 また、最近のポストイオン化技術に対する期待の高まりに並行して、スパッタ中性粒子質量分析法(sputtered neutrals mass spectroscopy: SNMS)の研究も活発になってきた。特に、TOF型SIMSと近年のレーザー技術の発展をとり込んだレーザーSNMS法への発展は、SIMSがもつ定量化の問題の解決に光明を与え、更に、SIMSの究極到達目標である、多様な試料の表面、界面、粒界において微小領域での極微量化学種の3次元高感度定量分析の実現に向けての発展の可能性を秘めているといえよう。

◆SIMSの原理

◇イオンと固体との相互作用
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  固体表面に高速(1〜20 keV)のイオン(一次イオン)を照射すると、イオンビームによる衝撃により、表面になる固体構成元素が放出される。放出された粒子の大部分は中性粒子であるが、放出された粒子の一部(通常は1%以下)は正または負にイオン化されており、二次イオンと呼ばれる。この現象をスパッタリングという。スパッタリングと同時に、イオン励起により二次電子や光子が放出される。一次イオンの一部は固体表面で反射するが、他は固体内に侵入し、固体構成原子との衝突を繰り返し、周辺の原子に運動エネルギーを与える。その運動エネルギーが結晶格子のポテンシャル壁(金属では5〜25 eV)を超えるに十分なときには、原子は格子点からはじき出される。これをノックオン効果という。一方、ノックオン効果により変位を受けた原子のうち表面近傍の原子は外部に放出される。これもスパッタリングである。逐次エネルギーを失いつつ試料中に侵入した一次イオンは、試料内でそのエネルギーを失い、一次イオンのエネルギーに対応した一定の深さがで止まる。SIMSでは、中性粒子放出、二次イオン放出現象を利用して組成解析を行う。
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  SIMSは、一次イオンを固体試料に照射して、試料から放出される二次イオンを質量分離して試料表面の構成成分を元素分析するものである。数百eV〜30keV程度のエネルギーをもったイオンビームを固体表面に照射すると、一部は表面原子によって反射するが、残りは固体内に侵入し、固体内原子と衝突を繰り返し、ある深さで停止する。また一次イオンに衝突された固体内原子も、更に他の固体内原子との衝突を繰り返す。これを衝突カスケードと呼ぶ。この衝突カスケードによって固体内の原子の一部が試料表面より飛び出す。これをスパッタリング現象と呼ぶ。一般にスパッタ粒子の多くは中性粒子であるが、一部は正または負の電荷をもったイオンである。このイオンを質量分析するのがSIMSである。したがって、SIMSを原理的に理解するためには、一次イオンと固体原子との衝突や二次イオン放出現象について考える必要がある。
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◇一次イオンの固体内への侵入
 イオン照射を受けて固体内に形成されるイオンと固体構成原子の衝突挙動は、原子間ポテンシャルを仮定したモンテカルロシミュレーションにより計算できる。
(省略)シミュレーションから入射Arイオンの侵入深さは数nm程度であり、入射イオン1個あたり数十個の固体構成原子が叩き出され、そのうち数個の原子が1nm程度ということができる。ただし、(省略)イオンの照射点から数nm離れた箇所からも粒子は放出される。

◇二次イオンの生成
 二次イオン化率は、一次イオン照射によって、固体表面から放出された全原子数の中で、二次イオンとなった個数の割合として定義される。
 一次イオンを照射する場合、酸素イオンは正イオンのイオン化効率を増大させるが、逆にLiやCsなどのアルカリ金属は正イオンの生成を減少させるとともに負イオンの生成を高める。したがって、正イオンの分析にはO2+やO-が一次イオンとして用いられ、負イオンの分析にはCs+が用いられる。酸素イオンビームが高い正イオン強度が得られる理由は、定性的には、酸素の注入で試料表面が酸化されることにより、仕事関数が増加し、放出される正イオンへの電子遷移確立が減少するため、イオンが中性化せずに放出されると考えられている。また、負イオン生成に関しては、表面にアルカリ金属が付着すると仕事関数が低下するため、負イオン生成が生じやすくなるとされている。(省略)
 イオン強度は元素の種類に依存し、6桁以上に及ぶ変化を示す。正イオン強度と負イオン強度は相補的な関係になっており、両者の検出法を組み合わせることにより、大部分の元素を高感度に検出することができる。一般に、電気的陽性元素(Li, B, Mg, Ti, Cr, Mn, Te, Ni, Ta)などを分析するときは一次イオンにO2+やO-が用いられ、電気陰性度の高い元素(H, C, N, O, Si, As, Te, Auなど)を分析する場合は一次イオンとしてCs+を用いる。
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 二次イオンの生成過程を議論するには、一次イオン照射によるスパッタリング過程とイオン過程の両方を考量する必要がある。実際には、このイオン化過程はスパッタリング過程と同時に起こるのか、あるいは事後に起こるのかの議論があり、現時点(1995年)でははっきりしない。イオン化過程を扱ったモデルも数多く提唱されているが、いまだに多くの実験結果を統一的に説明できるものはない。
いずれにしても、イオン照射によるスパッタリングは破壊を伴った過程として考える必要があり、完全な結晶モデルを想定した固体のバンド理論を用いたものでは不十分であるといえよう。
提唱されたモデルとしては、
@摂動モデル(perturbation model)
A表面励起モデル(surface excitation model)
Bボンドブレーキングモデル(bond breaking model)
C分子モデル(molecular model)
D脱離イオン化モデル(desorption ionization (DI) model)
などがある。
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◇スパッタリング
 一次イオンによるスパッタリングは、一次イオン種、一次イオンエネルギー、一次イオン入射角度、ターゲット(試料)の種類、温度、スパッタリング中の雰囲気などに大きく依存する。一例としてアルゴンイオンを400eVで各種純物質に照射した場合のスパッタリング収率(原子数/イオン)を見ると、周期的な元素依存性を示している。
 スパッタリングに関するモデルは、従来主として純物質からの原子状粒子(atomic species)の放出を念頭に置いて組み立てられてきた。スパッタリング現象の起こるタイムスケールから整理すると次の4つに分類することも可能である。すなわち、
@高速衝突スパッタリング(prompt collisional sputtering:ダイレクトな衝突過程により高エネルギー粒子が発生する: t=10^-15 - 10^-14s)
A低速衝突スパッタリング(slow collisional sputtering)(一次ビームの電流密度が低いときの過程であり、SigmundのCollision Cascade Modelで扱われる領域:t=10^-14 - 10^-12s)
B熱スパッタリング(thermal sputtering)(一次ビームの電流密度が高いときの過程であり、気化、サーマルスパイクなどが起こる。導電性試料には当てはまるが、絶縁性試料には当てはまらない:t=10^-13 - 10^-10s)
C電子的相互作用によるスパッタリング(electronic sputtering)(最近の説であり、絶縁性試料にも適用できる)などである。
 最近では、スパッタリングモデルに立脚した計算機シミュレーションで、スパッタンリング収率と実験結果との整合性をもたせることができるようになってきた。しかしながら、実際のSIMS分析の見地からは、スパッタリング収率、スパッタリング速度などの評価は、イオン照射によって生じたクレーターの深さの実測に頼らざるをえないのが現状である。
 スパッタリングに伴う現象として、選択スパッタリング、スパッタコーン形成などによる試料表面の形状変化にも注意する必要がある。この形状変化は、試料の種類、使用イオン種により異なる挙動を示すが、一般に、化学的に不活性なイオンあるいは不活性なターゲットを用いる場合に顕著に現れることが多い。
 またスパッタンリグが深く進むほどこの形状効果は増幅される傾向が強いため、数μm以上の深い領域にまでおよぶ測定では、このことを考慮したデータの解釈が必要となる。
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 スパッタリング率は、入射一次イオンの数に対する全放出粒子数の比として定義される。
 スパッタリング率は、一次イオンの種類、エネルギー、照射条件、試料組成に大きく依存する。
 スパッタリング率の一次エネルギーに対する一般的な傾向を見ると、一般に30〜80 eV以上でスパッタリングが可能となり、数百eVあたりで入射エネルギーに比例してスパッタリング率は増大する。さらにエネルギーが上昇すると、10〜30 keVでスパッタリング率が飽和し、その後急速に減少する。
 スパッタリング率の入射角Θ(Θ=0を垂直入射とする)による変化を見ると、Θの増加に伴いスパッタリング率はcosΘの逆数に比例して増加している。これは試料表面からの一次イオンの侵入深さcosΘに比例して減少し、垂直入射に比較して表面近傍で高密度な衝突が生じるためである。
 Θが70°を超えるとスパッタリング率が急速に小さくなるが、これは試料表面での一次イオンの反射が多くなるためである。
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◆ 装置の構成
 装置は大きく分けて一次イオン照射系と二次イオン質量分析系により構成されている。
 一次イオン照射系ではイオン源からのイオン引き出し、質量分析器によるイオンの選別、静電レンズによるイオンビームの細束化および偏向器によるビームのX,Y走査などが行われる。
 二次イオン質量分析系では二次イオンの質量分離器へのとり込み、エネルギー分離、質量分離およびイオン検出などが行われる。また試料室には試料観察用顕微鏡が備えられており、一次イオン照射位置の確認などができる。
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 ・走査型では一次イオンビームを収束して試料表面に照射し、走査位置に対応する二次イオンシグナルを検出・表示する。走査型の空間分解能はSEM同様一次イオンのビーム径で決まり、実用レベルでは1-10μmである。発生した二次イオンは引出電極、レンズ系によって静電アナライザーに導かれ、エネルギーを選別した後、質量分析器を通過したものが検出器で検出される。通常、検出器には電子増倍管が用いられ、二次イオンを電子パルスに変換してパルス計測を行う。
・投影型では二次イオン光学系がイオンに対するレンズとして作用し、試料表面から発生した二次イオンは質量分析されると同時に検出器の位置で実像を形成し、二次イオン像として直接観察することができる。二次イオン像の分解能は二次イオン光学系の収差で決まり、およそ1-5μmである。
・SIMSの質量分析器としては磁場型質量分析器、四重極型質量分析器、および飛行時間型質量分析器が用いられる。ダイナミックSIMSでは磁場型質量分析器と四重極型質量分析器が多く用いられ、一方、スタッティクSIMSでは四重極型質量分析器と飛行時間型質量分析器が多く用いられている。
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◇質量分析法
 生成したイオンの質量と、それに対応した数を測定することがSIMSの基本である。生成したイオンはアナライザーによってM/qに応じて分離される。ここで、Mはイオンの質量、qはイオンの電荷である。
a) 単収束磁場型(セクター型)
 扇形磁場の持つ法則性を利用するもので、イオンの加速電圧をV, 速度をv,磁場の強さをH, 軌道半径をrとすると、エネルギー保存則およびローレンツ力と遠心力のつり合いの条件から、
 (1/2)*M*v^2 = q*V
 q*v*H = M*v^2/r
の関係が成立する。上式から、
 M/q = r^2 * H^2 / (2*V)
となる。したがって、一定の大きさ(r)の磁石を作り、その磁場の強さを走査しながらイオンを分離し、出力されるイオン電流を測定することにより、スペクトルを得る。磁場は60°、90°の扇形磁場が用いられるが、質量分解能(M/ΔM)は1000以下であり、市販の装置には通常は使われない。
 磁場型と称されるのは、次に述べる二重収束磁場型が普通である。
b) 二重収束磁場型
 二重収束型は、電場と磁場を組み合わせて質量を分離するものである。電界により一定のエネルギーのイオンを取り出した後、磁場を用いて質量分離する。この方式は質量分解能(M/ΔM)が高く10000程度である。
c) 四重極型
 四重極型質量分析器は、4本の丸い棒状電極が平行に取り付けられている。これら4本の取り囲む空間にいわゆる四重子電場(断面が直角双曲線になっている変動電場)を作るには、これら4本の棒状電極は円形ではなく直角双曲線の形をしたものでなくてはならないが、これを円柱で近似して四極子電場を作ることができる。この電極構造の一端にイオン源、他端にコレクターがある。四重極型質量分析器は四重極に適切な変動電場を印加して、イオンが電極空間を通り抜けられるかどうかにより質量分離を行う。イオン検出は、イオン電流が十分大きければファラデーカップで直接イオン電流を計測することにより、イオン電流が小さければ二次電子増倍管で増幅して電子電流として計測することにより行う。左右の2電極と上下の2電極間に-(U+V*cos(ω*t))の電圧を印加する。ここで、Uは直流電圧、Vは高周波電圧、ω=2*π*f (fは高周波の周波数)である。このような高周波電圧をかけると、M/ZとU, V, ωがある条件を満たしたときに運動は安定となり、イオンは軸の周りで安定に振動しながら、軸方向に沿って運動する。したがって、U/Vとωを一定に保ちながら、Uを変化させる(VもU/Vの比に従って変動させる)ことにより、通過するイオンの質量を分離することができる。四重極型の質量分解能(M/ΔM)は2Mである。
d) 飛行時間型
 ある瞬間に発生したイオンを電圧Vで加速したときに、パルス状のイオンは、次式で決まる速度vで飛行する。
 q*V = M*v^2/2
したがって、距離Lのところに、イオン検出器をおけば、検出器に到達するまでの時間tは次式により求められる。
 t = L * (M/(2*q*V))^(1/2)
すなわち、同時に各種の質量Mのイオンが発生したとすると、検出器には質量に対応した種々の時間にパルス状にイオンが到達する。例えば、イオン源から検出器までの距離を1mとし、印加電圧を1 keVとすると、質量数1と質量20の1価のイオンの到達時間は上式から求まり、それぞれ2.28μs,16.10μsである。すなわち、到達時間により質量を分離できる。
 イオンはある時間幅(Δt)を持ったパルスとして発生させる。この時間幅が、質量の異なったイオンが到達する時間差よりも小さければそのイオンを分離して計測することができる。これが飛行時間型質量分析器の質量分解能を決定する基本である。しかし、現実には同じ質量をもったイオンが同じ初速度で発生するわけではなく、初速度にはばらつきがあり、質量分解能を劣化させる。これを防止するために、飛行行路の終端で電界をかけてイオンの飛行の方向を反転させ、飛来してきた方に戻す(すなわち、行路が2倍になる)ことにより、飛行行路を長くするとともに、電界による減速の効果で初期速度のばらつきの影響を小さくする方法がある。(省略)市販の飛行時間型質量分析の装置はほとんどがこの型の質量分析器で、質量分解能(M/ΔM)は10000程度である。(省略)磁場型質量分析器と四重極型質量分析器を比較すると、磁場型質量分析器は高い質量分解能が得られるため、妨害イオンの除去が容易であるという点で優れている。一方、四重極型質量分析器はコンパクトで装置を超高真空化するのに適しており、試料室内の残留ガス成分に起因するバックグラウンドを低くすることができるということが大きな特徴といえる。飛行時間型質量分析器は、最近のイオン光学系の進歩などにより実用化されるようになった。飛行時間型質量分析器は高分解能、高感度であるため、特にSIMSと組み合わせて使われることが多い。

◇ SIMSの特徴
 SIMSの最大の特徴は表面分析の中で最も感度が高いことであるが、そのほかにも表面分析法として特徴をいくつか持つ。
*は飛行時間型質量分析計を用いた装置において顕著に見られる特徴である。
・長所
@高感度である
A深さ方向分析ができる
B水素からウランまで全元素の分析ができる
C2次元(3次元)元素分布を得ることができる
D同位体分析ができる
S-SIMSで強調されるべき長所
E表面化学構造情報を得ることができる
F表面第1層の情報を得ることができる
G化合物の直接同定、分子量・重合量の決定が可能*
H単原子スケールの深さ方向分解能で深さ方向分布測定が可能*
・短所
@破壊分析である
A定量分析が複雑である
B二次イオン発生の機構に関する知見が不十分
C電子をプローブとする分析法に比べ面分解能が劣る

◇ 得られる情報と特徴
・微量元素の種類と量の情報が高感度で得られる
・深さ方向の元素の分布が得られる
・2次元(3次元)元素分布が得られる
・表面化学構造情報が得られる
・表面第1層の情報が得られる
・水素からウランまで全元素の分析ができる
・同位体分析ができる
・化合物の直接同定、分子量・重合度の決定ができる
・破壊分析である

◇適用材料
・半導体、金属、セラミックス、有機物などの真空中におけるものほとんどすべて
・通常数nmから数cm角程度の大きさに調整する
・試料表面は平坦が望ましい
・ 主成分の化学構造情報が重要な有機材料の分野では、S-SIMS法が有効に用いられる例が多い

◇測定条件
・高真空内に試料を置いて分析するのが一般的である

◇感度
・元素やマトリックスによって異なるが、100μmφ程度の領域を分析する場合、一般的にはppmからppbの感度が得られる。ただし分析領域が小さくなるにしたがって感度は低下する

◇実験の難易度
・一次イオン照射系および質量分析計の調整には経験が必要である。さらに調整済みの装置でも再現性のあるデータを得るためには経験が必要である。
・データの解釈には、マススペクトル分析ではスペクトルパターンの知識、深さ方向分析ではマトリックス効果の理解などが必要であり、経験が必要である。

◇市販部品
・高感度分析を目的とした専用装置が市販されている
・他の表面分析装置との複合装置も市販されている
・一次イオン源(照射系を含む)、質量分析計(主に四重極質量分析計や飛行時間型質量分析計)なども市販されている。ただし、部品を組み合わせてppmオーダー以上の高感度な装置を製作するのはかなり難しい。

◇他の元素分析法との比較
・オージェ電子分光法:感度はSIMSより低いが定量性にすぐれる。また最小面分解能も小さい
 (SIMSは、AESよりも高い感度で単分子層の完成とそれ以下の被覆率での表面分析が可能)
・RBS:感度はSIMSより低いが、非破壊であり、定量性に優れる

◇XPS情報とS-SIMS情報
 表面の化学構造情報は、従来主としてXPSを用いて取得されてきたが、XPSは注目元素に隣接した、いわゆるミクロな化学結合情報しか与えないのに対し、S-SIMSではよりマクロな化学結合状態に関する知見が得られる。
 一般に、XPSでは、化学状態の差異に起因する化学シフトのダイナミックレンジが小さく、直接化学状態を同定するのはむずかしいとされているが、この意味で、S-SIMSはより直接的な化学結合情報を与える場合がある。また、XPSでは、測定の空間分解能が乏しいこと、表面感度が劣るなどの点もあげられるが、反面、S-SIMSのマススペクトルの解釈も多くの場合、複雑であること、定量性に劣るなどの問題があるため、総合的な表面化学状態の解析にはXPSとS-SIMSを組み合わせて用いることが有効だといえる。

◆ 走査モードと投影モード
 走査モードでは、一次イオンビームを細束化して試料上を走査し、走査位置に対応する二次イオンを検出することによって二次イオン像を得る。一方、投影モードでは面内に一様に一次イオンビームを照射し、二次イオン光学系によって試料上での二次イオンの放出位置を検出器に投影することによって二次イオン像を得る。
モード 面内分解能の決定要因 分析時間 質量分析計の透過率
走査モード 一次イオンビーム径 面内分解能を小さくするにしたがって長くなる 面内分解能に依存しない
投影モード 二次イオン光学系の性能 面内分解能に依存しない 面内分解能を小さくするにしたがって下がる

◇質量分析計の特徴
  四重極 磁場型 飛行時間型
質量分解能 2M 10,000 10,000
質量範囲 <1000 <500 <10,000(∞)
透過率 0.5〜5% 〜30% 〜90%
全質量同時検出 不可 不可(ただしマッターフ型では可能) 可能

◇定量分析
 SIMSは非常に有効な表面分析法として広く利用されてきているが、以下に示すような欠点も持っている。
@元素間の感度差が大きい(〜10^5程度)
A同一元素でも存在状態の違いにより感度が大きく異なる(マトリックス効果)
BダイナミックSIMSは基本的に破壊分析である
以上の欠点をふまえた上で定量分析を行うことが重要である。
 SIMSにおける元素Mの同位体Miの二次イオン強度IMiは、一次イオン強度Ip、母材のスパッタリング収率S, 元素Mの濃度CM(全濃度に対する比)、同位体Miの存在確率αi、元素Mの二次イオン化効率βM、および質量分析計の透過効率η(検出器の検出効率も含む)とすると
 IMi = A*Ip*S*CMi*αi*βM*η
ここで、Aは二次イオンの検出面積である。ここで、Sやηは実験的に求めることができる。SIMSではマトリックス効果が大きいため、高精度な定量には材料と元素の組み合わせごとに標準試料による感度校正が必要である。標準試料には、対象元素を均一にドープした試料を他の手法で定量したもの、あるいは既知量のイオンを注入したものを用いる。

◆ D-SIMSとS-SIMSの分類
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  SIMSは表面お組成分析を全元素にわたり、最も高感度で行えるというのが最大の特徴であり、
@マススペクトルを得ることによる組成解析
Aデプスプロファイルを取ることによる表面あら数十μmの深さまでの付加さ方向の組成分布解析
B二次イオン像をとることにより数μm-数百μmの表面領域の組成分布
に関する情報が得られる。SIMSは一次イオンの照射条件によって、ダイナミックSIMSとスタティックSIMSの二種類に分類される。一次電流の密度が大きく、スパッタリング速度を大きくし、主として深さ方向の組成分布解析に向いているが、ダイナミックSIMSと呼ばれる方法である。スタッティクSIMSは、イオン電流密度を下げて、スパッタリング速度を小さくして、主として極表面層の組成解析をする方法である。
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 D-SIMSとS-SIMSは一次イオン照射条件によって分類される。
 D-SIMSでは、電流密度として一般に10μAcm^-2以上が用いられ、加速エネルギーは深さ方向分解能を上げる場合を除いて、10 keV前後が用いられ、スパッタリング速度が数nm-数十nms^-1となる条件が用いられることが多い。一方、S-SIMSでは”スタッティク”の語が示すように、”ソフト”な一次イオン照射条件で、かつ低ドーズの内に測定を完了させる必要がある。一次イオンの照射条件としては、加速エネルギーで-4keV以下、電流密度としては1nAcm^-2以下の希ガスイオン(Ar+, Xe+)が用いられるケースが多い。一次イオン照射に伴う変化については、例えば、0.1nAcm^-2の一次イオン電流密度の場合、1時間以内の測定(イオンドーズ量で2x10^12個cm^-2)では、単原子層の1%以下のダメージしか受けないことを意味している。
 このことは、現実にはS-SIMS測定で用いられる10^8-10^13個cm^-2のドーズ条件では表面の1(-2)原子層のみからの情報を得ていることになり、S-SIMSモードが表面に非常に敏感であると同時に、生じる二次イオンは、それ以前のビーム照射ではダメージを受けていない表面から放出されていると考えることができる。
 このことは、S-SIMSでは実質的には「非破壊に」表面化学構造情報が得られることを意味している。

◆ ダイナミック-SIMS(D-SIMS)
 ダイナミックSIMSは深さ方向の好感度分析を行う分析方法であり、SIMS分析の基本である。ダイナミックSIMSでは一次イオン電流密度として10μAcm^-2以上が用いられる。加速エネルギーは通常10 keV前後が用いられ、スパッタリング速度が数nms^-1 - 数十nms^-1となる条件が用いられる。
 ダイナミックSIMSでも、マススペクトルを取得して、試料の構成成分や不純物成分を解析することは不可能ではないが、多価イオンや同位体イオン、残留ガスとの化合物イオンなどが同時に検出され、複雑なスペクトルとなり、一般的には困難である。したがって、マススペクトルを用いての定性・定量分析は、あらかじめ存在が予測されている元素について行うことが普通である。
 ダイナミックSIMSの最も一般的な使い方は深さ方向分析である。特定の元素(特定の質量数)に着目して、その強度がイオン照射時間(スパッタリング時間となる)に対してどのように変化するかを測定し、縦軸を特定の質量数に対応する検出された二次イオン強度、横軸を照射時間(スパッタリング時間)として描いたグラフをデプスプロファイルという。なお、二次イオン強度は指数関数的に変化するので、縦軸のスケールは対数で表示するのが普通である。(省略)
 縦軸のイオン強度は、標準試料を用いた測定を別に行うことにより、濃度に変換することができる。なお、濃度の単位はatoms/cm^3が良く用いられる。また、横軸の照射時間は段差膜厚計や表面形状測定計などを用いて深さを実測することにより、表面からの距離に変換することができる。(省略)特定元素の表面のどの部位に存在しているかを視覚的に示す方法として、二次イオン像を撮ることがある。一次イオンの照射時間とともにその二次イオン像の変化の様子を記録すれば三次元分布像も得ることができる。二次イオン像を撮るためには、細く絞った一次イオンビームで表面を走査する走査型と、面内に一様に一次イオンビームを照射し、二次イオン光学系で二次イオンの放出位置を検出器で感知する投影型がある。
 ダイナミックSIMSでは表面の分析領域をサブミクロンまで絞ることは現状では難しい。表面上の特定の箇所を分析するために、一次イオンビームを一点に集中させると、あまりにも速く(例えば1分間に10μm)スパッタリングされるし、逆にスパッタリング速度を遅くしようとして、一次ビーム電流量を小さくすると高感度分析ができなくなる。したがって、現状では表面のサブミクロン領域の分析はオージェ電子分光法の方が有利である。
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 磁場型質量分析計と四重極質量分析計が多く用いられる。
 磁場型質量分析計と四重極質量分析計を比較すると、磁場型質量分析計は高い質量分解能が得られるため、後で述べる妨害イオンの除去が可能になるという点で優れている。一方、四重極質量分析計はコンパクトで装置を超高真空化するのに適しており、試料室内残留気体成分に起因するバックグラウンドを低くすることができるということが大きな特徴といえる。また一次イオンに対する影響という観点からは、試料に数kVの電圧を印加する磁場型質量分析計の方が、数百V以下である四重極質量分析計より、一次イオンが偏向されたりひずみを受けたりする程度が大きい。特に、深さ分解能を上げるための、1keV程度の低エネルギー一次イオン照射は磁場型質量分析計ではむずかしく、四重極質量分析計を使った装置の方が容易である。また、磁場型質量分析計では、一次イオンの試料付近での偏向により、一次イオンの入射角が、一次イオンのエネルギーと試料に印加される電圧の極性と絶対値によって変わる。一次イオン入射角は、スパッタイールド、深さ分解能、試料表面の一次イオン種濃度つまり二次イオンイールドを決める重要なパラメーターであるため十分注意が必要である。また四重極質量分析計では、透過率が磁場型質量分析計に比べて低いことが大きな欠点となっており、現用の装置では質量数が大きくなるにつれて透過率が低下するということにも注意が必用である。
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◇ D-SIMSで得られる情報としては、
@マススペクトル
Aデプスプロファイル
B2次イオン像
などである。
 D-SIMSで得られるマススペクトルは、通常横軸にM/eをとり、縦軸はダイナミックレンジを広くとるためにlogスケールでイオン強度を表示することが多い。マススペクトルの解析を行うことにより、原理的には試料の構成成分、不純物の定性・定量が可能なはずであるが、一般にマススペクトルの情報は複雑であり、慎重な解釈を必要とする場合が多い。
デプスプロファイルは表面から内部に向かって注目する元素がどのように分布しているかを示すものであり、D-SIMSで最も頻繁に用いられる測定モードである。
 横軸はスパッタリング時間または測定深さを、また、縦軸は二次イオン強度あるいは濃度を、対数表示する場合が多い。測定深さの校正には段差膜厚計や表面形状測定計などを用いて得られる実測データを基に、また濃度に関しては、適当な標準試料を用いた校正が行われる。また広いダイナミックレンジのデプスプロファイルを得るために、一次イオンによるスパッタリングによって掘られるクレータの側壁の影響をとり除くことができるエレクトリックゲートなどの特徴的な測定技術が用いられる。
 二次イオン像は試料のある深さにおける注目元素の2次元的な分布を示すものであるが、分布状態を視覚的に把握することができるため、非常に有用である。また、特定の深さにおける各元素の二次イオン強度データをすべて蓄積し、適切なデータ処理により試料中の3次元的な組成分布を知ることが可能であるが、最近ではコンピュータ技術の向上により、二次イオン像だけでなく、断面濃度分布、線分布、特定部分におけるデプスプロファイルなど、多様性に富むデータを得ることができる。

◇D-SIMSの定量方法
 D-SIMSによる定量分析には、
@二次イオン生成モデルに基づいて理論計算から行う方法
A標準試料を用いて検量線を作成して行う方法
がある。前者の代用的な方法としては局所熱平衡プラズマ(local thermodynamic equilibrium: LTE)モデルが挙げられる。しかしながら膨大な計算を必要とするわりには定量精度が劣るため、現在ではほとんど使用されていない。したがって精度のよい定量分析を行う場合、後者の方が一般的である。標準試料としては、不純物濃度が一定のバルク標準試料や、厳密には検量線法とはいえないがイオン注入試料などが用いられる。
 イオン注入試料を用いた場合の相対感度係数RSFは次式で求められる。
RSF = Ndose / ((Σ[Ijp(Z)-Ibg/αp]*ΔZ) / (Imq/αq))
ここで、
Ndose: ドーズ量
Ijp: 元素jの同位体pの二次イオン強度
αp: 同位体pの存在確率
Ibg: バックグラウンド二次イオン強度
Imq: マトリックス元素mの同位体qの二次イオン強度
αq: 同位体qの存在確率
z: 深さ
なおイオン注入の場合、質量分離によってある特定の1つの同位体が選択されており、αp=1になることが一般的である。このRSFの決定は、マトリックスごと、不純物ごと、装置ごとに行わなければならない。また、日間誤差が大きいために、測定ごとの校正が望ましい。
 定量値Cjsは、このようにして求めたRSFを用いて次式で求められる。
Cjs = RSF*( (Ijps - Ijbg)/αp) / (Imqs/αq) )
ここで、
Cjs: 被検試料sにおける元素jの定量値
Ijps: 被検試料sにおける元素jの同位体pの二次イオン強度
αp: 同位体pの存在確率
Imqs: 被検試料sにおけるマトリックス元素mの同位体qの二次イオン強度
αq: 同位体qの存在確率
Ibg: バックグラウンド二次イオン強度
 このように求めた定量値の信頼性は、以上に述べたように、標準試料自体の濃度の信頼性にも依存することに注意する必要がある。つまりバルク標準試料を用いる手法では、化学分析値の正確さや不純物原子の試料内での分布の均一性に依存し、イオン注入試料を用いる手法では、注入数する不純物元素(ドーズ量)の正確さに依存している。
 わが国で行われたGaAs中の不純物の定量分析に関する共同実験の結果、信頼性の保証された化学分析値が既知のバルク標準試料を用いれば、数〜十数%の精度で定量分析が可能であることが分かっている。
 しかし現状では、試料内に不純物原子が均一に分布したバルク標準試料を得るおとは比較的困難であり、一方、任意の母材に任意の元素をイオン注入することは比較的容易にできるため、イオン注入試料を標準にすることが多い。

◇D-SIMSの検出下限
 SIMSの最大の特徴は検出感度が高い点にある。検出感度のより高い分析をするためには、二次イオン強度を大きくするか、もしくはバックグラウンドを小さくすればよ。SIMSのバックグラウンドは、検出元素に依存しない、いわゆる白色雑音ではなく、一般に検出元素ごとにいくつかの原因により生じており、個々の元素種の検出に対応したバックグラウンド低減策を講じる必要がある。
 バックグラウンドの原因としては、
@検出対称元素と同じ元素によるもの
A検出対称元素以外の元素の分子イオンや多価イオンによるものに分類することができる。
 @は試料室の真空中に残留する分子の成分元素、装置を構成する材料元素あるいは試料周辺の電極の汚染成分元素によるものがある。いずれも試料外の粒子が分析面上に吸着して検出されるために生じる。試料室の真空中に残留する分子(H2, H2O, O, ハイドロカーボン分子)は水素、炭素、酸素などの元素を分析する場合のバックグラウンドになる。この場合、検出下限はいうまでもなく試料近傍の真空度と質(成分分子の分圧)に大きく影響される。Si中の水素を分析する場合の例を見ると、試料室のH2Oの分圧に水素のバックぐらうんどレベルが比例していることが分かる。このように、バックグラウンドの原因となる分子の分圧が下がるほど検出下限は下がるため、最近では装置の超高真空(UHV)化は不可欠となっている。またこのバックグラウンドは、一般にスパッタリング速度にも比例する。すなわちスパッタリング速度を高くして分析を行うと、試料中の原子の単位時間当たりの二次イオン量は増加するのに対し、残留分子の二次イオン量は一定であり、相対的にバックグラウンドが下がることになる。Si中にイオン注入された水素、炭素、および酸素の分析において、一次イオンビーム走査範囲を狭くすることによりスパッタリング速度を高くして検出下限を下げた例がある。しかしながら、高いスパッタリング速度は深さ方向分解能を悪くするため、試料の状態により適切な条件を選ぶ必要があることはいうまでもない。
 Aは分子イオンや多価イオンの質量数が、検出対象元素の質量数とほぼ同じになることによるものである。この場合は、原理的には高質量分解能測定により両者を分離することによって解決するはずであるが、現状の市販のSIMS装置では高質量分解能測定する場合に、一般に質量分析計の透過率が低下する。したがって高質量分解能測定によりこのバックグラウンドを避けるか、あるいは妨害イオンのないほかのイオン種を検出する方法や、あるいは検出イオンと妨害イオンの二次イオンエネルギー分布の差を利用してオフセット電位法を用いるなどの方法を選択する。実際には、まずオフセット電位法を試し、効果が現れない場合に高質量分解能測定を行うのが一般的である。オフセット電位法によるSi中のAsの分布を見ると、75Asの妨害となる75(29Si30Si16O)が除去されて75Asの正確な分布が得られている。この方法は一般的に単原子イオンに比較して、分子イオンの方が狭いエネルギー分布を示すことを利用しているが、高いエネルギー領域の二次イオンを検出するように質量分析計のスリット位置を設定して、単原子イオンに対する分子イオンの割合を少なくするものである。この質量分析計の設定方法が試料印加電圧にオフセット電圧を加えることであるため、この手法はオフセット電位法と呼ばれる。
 単原子イオンと分子イオンのエネルギー分布の違いを示す例として、Siから得られる各種イオンのエネルギー分布を見ると、Si+単原子イオンが広いエネルギー分布を持つのに対して、Si2+, Si3+などの分子イオンは順次狭いエネルギー分布を示している。高質量分解能モードでSi中のリンの分布を測定した例を見ると、質量分解能(m/Δm)3950以上の設定を行うことにより31P(m=30.97376)の妨害である31(30SiH)(m=30.98158)を除去することができる。しかしながら、試料室の真空中に残留する分子(H2, H2O、炭化水素分子)が少なくなると、上記の2例における妨害イオンは減り、検出下限は下がる。したがってこの場合にも装置の超高真空(UHV)化は不可欠であることが分かる。
 検出下限を下げるためのもう一つの手段として、二次イオン強度の高い分子イオン種を選んで測定することも日常的に行われている。代表的な例としてはSiN+(セシウム励起によるSi中の窒素の分析)、ZnCs+(セシウム励起によるGaAs中の亜鉛の分析)、ArCs+(セシウム励起によるSi中のアルゴンの分析)などがあげられる。このような分子イオンを用いることにより、単体イオンを検出するよりも2-3桁も低い検出下限が得られることもある。標準条件の測定で得られるSi中の不純物の検出下限を示したものを見ると、(省略)多くの元素については、1E16 - 1E14 atoms cm-3程度の検出下限が得られることが分かる。空間分解能、深さ方向分解能を上げた測定では、検出感度は当然これよりも悪くなる。

◇D-SIMSの深さ分解能
 深さ分解能に影響を与える因子としては、
1) 表面原子のノックオン(knock-on: 表面に存在する原子が固体内部にたたき込まれること)と混合(Atomic-mixing)効果
2) 不均一スパッタリング(選択スパッタリング、表面凹凸の成長)
3) イオン照射誘起拡散
などがある。(省略)
 深さ分解能の一次イオンエネルギー依存性を調べると、一次イオンエネルギーが高くなるにしたがって深さ分解能は低下する。高い深さ方向分解能を得るためには、できるだけ一次イオンエネルギーを低くすればよいことは明らかである。しかしながら、通常のダイナミックSIMS装置では、低いエネルギーの一次イオンを高い電流量で得ることは難しく、深さ方向分解能と検出感度のいずれかを犠牲にするか、あるいは両者の妥当なレベルでの測定を行うかを選択する必要がある。

◇D-SIMSでの微小部分析
 走査モードによって微小部分析をする場合には、一次イオンを細束化すればよい。しかし対象元素の二次イオンの絶対量は、情報を得ようとする最小測定体積が小さくなるにつれて減少するので、検出感度の低下が生じる。細束イオンビームを得るためには、高輝度なガリウム、セシウム液体金属イオン源やエネルギー幅の小さいセシウム表面電離イオン源が用いられる。
 ガリウムイオンビームでは20nmにまで達するビーム径が得られているものの、O2、セシウムイオンほど化学的に活性でないため、主成分元素を対象としたイオン顕微鏡的な用途として用いられているにすぎない。これを補うため試料室に酸素ガスを導入する方法が試みられており、検出感度の1-2桁の改善が確認されている。また半導体デバイスの不良解析をする場合などでは、正確な分析位置決めるが必要となる。このため、電子ビームをイオンビームと同軸方向から照射できるようにして、電子ビーム走査像(SEM像)によって分析位置決めができる装置も開発されている。Si3N4とY2O3との焼結体をGa+イオンビームを用いて分析したときの60(SiO2)-イオン像を見ると、分析領域とビーム径の大きさはそれぞれ16x16μm^2,約100nmφである。この焼結体ではSi3N4の粒界にYSiO2Nが生成されることが知られており、60(SiO2)-イオンを検出するこによりYSiO2N領域を明瞭に観察できることがわかる。しかしながら、この種の分析ではマトリックス効果の影響を大きく受けるため、定量的な情報を得ることは難しい。また、試料表面の凹凸の影響(形状効果)や、多結晶の場合には結晶方位の影響も無視することはできない。このような問題は広い領域の測定でも生じる事柄であるが、測定領域が小さくなるにしたがって、その影響がより顕著になるために、とり扱いに十分な注意が必要である。

◇D-SIMSにおけるCsX分析
 通常、分析対象元素の濃度が%オーダーを超えると、二次イオン強度と濃度の間には比例関係が得られず、大きなマトリックス効果が問題となるためにSIMSによる定量分析は難しい。しかしながら、Cs+一次イオンを用いて、分析対象元素とCsが結合した分子イオン(CsX+イオン)を検出することにより、主成分元素でもマトリックス効果の小さい分析ができる場合があることが示された。
(省略)単体イオンの強度比では、InとAsの濃度比が10-1より大きくなると直線関係からはずれるのに対し、分子イオン強度比では、10-1を超えても十分な直線性が得られていることが分かる。このことは、今まで困難であったSIMSによる主成分の定量分析が可能であることを示している。更に従来、イオン化率が非常に低く分析がほとんどできなかった希ガスについても、CsX+イオンを用いた場合にマトリックス効果が小さくなる説明として、試料から放出されたCs+と中性粒子Xが、極表面で再結合するメカニズムが提唱されているが、SiO2中とSi中の不純物の二次イオン化率について、CsX+イオンを検出しても大きなマトリックス効果がみられるとの報告もあり、メカニズムの解明には今後の詳しい検討が必要であろう。

◇D-SIMSにおける諸問題
 半導体デバイスの超高密度化に伴い、基盤表面から浅い領域に接合が形成されるようになり、表面から10nm程度の浅い領域でのドーパントプロファイルの精密な測定が必要になっている。このドーパントプロファイルの測定には検出感度の高いSIMSの利用が不可欠である。しかしSIMSでこのような最表面の深さ分析をする場合には、注入される一次イオン量が平衡に達する(〜数10nm)までは、二次イオン化率が定常状態になく、精度のよい定量ができないという問題がある。この定常状態までの深さを浅くするために、分析条件としては一次イオンのエネルギーを下げたり、入射角を浅くしたりする工夫がなされる。
 Si中に均一にドープしたホウ素の表面近傍での濃度プロファイルを見ると、一次イオンのエネルギーが低いほど非平衡領域が小さくなることが分かる。
 この他にも、酸素導入(oxygen flooding)法による最表面の分析が検討されている。この方法は試料表面近傍に酸素ガスを吹き付けて、表面酸素量の平衡状態を強制的に作り出すものである。
 最表面の分析に用いられる他のユニークな方法として、ポリシリコンキャップ法(polyencapsulation; PC-SIMS)がある。この方法は、全反射蛍光X線分析法(TXRF)などと同様に、Si表面のクリーニングプロセスの評価などに用いられている。その特徴はSi試料表面にポリシリコンを堆積させて、分析対象表面を試料内部に移動させ、注入される一次イオン濃度が平衡に達した状態で測定して定量精度を向上させるものである。この方法は、Siウェハの最表面分析法として、実用的に効果的であり、プロセス評価に成果をあげている。

◇表面形状の変化による二次イオン強度変化
 深さ方向の分析中に、本来一定であるべき母材元素の二次イオン強度が突然変化するという現象が生じることがある。この二次イオン強度変化は、試料表面にさざ波状の荒れが生じるという表面形状変化によって起こることが分かっている。これまでにこの現象は、SiやGaAsを分析する場合で、一次イオンにO2もしくはCsのどちらを用いた試料でも、ともに確認されている。

◇絶縁物の分析
 SIMS分析において絶縁性試料を扱う場合は、試料のチャージアップが主な問題となる。
 一般的なチャージアップの軽減方法としては、次の5つの方法が挙げられる。通常は、これらの内のいくつかを組み合わせて用いられる。
1) 一次イオン電流を小さくする
2) 金、白金などの導電性薄膜をコーティングしたり、金属メッシュを使用する
3) 試料電位オフセット法を用いる
4) 電子線照射法を用いる
5) 一次イオン種にO-などの負イオンを用いる
 近年、電子線照射法の一種として、自己補正型電子銃が用いられ始めた。この方法では、従来試料に数keVの高電圧を印加する磁場型のSIMS装置では困難とされていた絶縁物の負イオン測定を行うことができるのみならず、試料表面上に等電位面を作り出すことにより、ほぼ完全にチャージアップの効果を補正することが可能となった。すなわち、表面近傍に低エネルギーの電子が高濃度に存在する正のチャージアップを自動的に補正することができる。

◆ スタティック-SIMS(S-SIMS)
  深さ方向分布の測定はSIMSに期待される最も大きな特徴である。しかし、固体表面の性質は主として最表面の単原子(分子)層の元素組成と構造によって決まる場合が多い。これらを調べる方法は、情報の深さが単原子層のオーダーであること、原子、分子、および同位体の検出ができること、感度が高いことが必要である。また、得られる信号が表面の状態をよく反映するためには、プローブが表面組成と構造を攪乱しないことが重要となる。
 照射一次イオン電流密度を十分に小さくすると、最表面原子層のごく一部しかスパッタリングされない。例えば、イオン照射量を1X10^13 ions/cm^2程度とすると、スパッタリング率を100としても、この照射量で一原子層がはぎ取られる程度である。したがって、これ以下の照射イオン量で測定を行うことで、イオン照射により損傷した試料からの情報を排除し、試料表面の化学組成に沿ったフラグメントイオンを検出することができる。これをスタッティクSIMSと呼ぶ。スタティックSIMSには、質量分析器に飛行時間型分析器(Time of Flight型: TOF)が用いられることが多く、これをTOF-SIMSと呼ぶこともある。スタッティクSIMSは最表面層の分析手法として注目されている。
 スタティックSIMSの基本情報はマススペクトルである。イオン照射量が非常に小さい条件では、1個の一次イオンによって損傷を受けた場所に、2個目のイオンが当たる確率はきわめて低い。このような条件では、固体を構成する原子や分子のイオン化以外に、表面に吸着された化合物分子内の比較的弱い結合が切れて脱離を起こす確率が高くなり、原子間結合を保ったままの分子イオンやフラグメントイオンが生成、放出される。したがって、スタティックSIMSでは、元素分析以外に、表面のきわめて浅い領域における分子や化学構造に関する情報が得られる。(省略)スタティックSIMSによる化合物のマススペクトルは化合物ごとに明瞭な特徴があり、これを一種の「指紋」として登録しておけば、特に有機物の同定には有効である。実際、多くの有機物について、このようなスペクトルデータはハンドブックとして出版されている。
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 四重極質量分析計と飛行時間型質量分析計が多く用いられる。
 四重極質量分析計が従来多く用いられてきた。D-SIMSの場合と比較して、S-SIMSでは有機物表面を測定対象とするケースが多いため、試料のチャージアップ補正が重要になる。
 チャージアップの補正のためには、数十〜数百eVの電子を照射することが有効であるが、このため、一般には試料電位を接地電位にとった方が有利である。試料電位を接地電位にとることが可能な四重極質量分析計はS-SIMSに適しているといえる。
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◇ S-SIMSで得られる情報
 通常S-SIMSで得られる情報としては第1にマススペクトルをあげることができるが、最近のTOF装置の進歩に伴い、二次イオン像も頻繁に使われ始めた。実際多くの有機物について、スペクトルデータはハンドブックとして出版されており、また、有機マススペクトロメトリーで得られている豊富なマススペクトルのデータも入手可能であるので、それらを参照することにより、典型的な化合物の同定は比較的容易に行うことができる。
 従来表面化学構造情報は主としてXPSを用いて取得されてきたが、XPSでは注目原子に隣接した、いわゆるミクロな化学結合情報しか得られないのに対し、S-SIMSではよりマクロな化学結合状態に関する知見を与えるといえよう。

◇ S-SIMSにおける表面敏感性
 AESよりも高い感度で単分子層の完成とそれ以下の被覆率での表面分析が可能であることが分かる。

◇ XPS情報とS-SIMS情報
 表面の化学構造情報は、従来主としてXPSを用いて取得されてきたが、XPSは注目元素に隣接した、いわゆるミクロな化学結合情報しか与えないのに対し、S-SIMSではよりマクロな化学結合状態に関する知見が得られる。
 一般に、XPSでは、化学状態の差異に起因する化学シフトのダイナミックレンジが小さく、直接化学状態を同定するのはむずかしいとされているが、この意味で、S-SIMSはより直接的な化学結合情報を与える場合がある。また、XPSでは、測定の空間分解能が乏しいこと、表面感度が劣るなどの点もあげられるが、反面、S-SIMSのマススペクトルの解釈も多くの場合、複雑であること、定量性に劣るなどの問題があるため、総合的な表面化学状態の解析にはXPSとS-SIMSを組み合わせて用いることが有効だといえる。

◇ S-SIMSにおけるイオンドーズダメージ
 S-SIMSにおいては、イオンドーズ量の低い状態での表面測定が行われるため、通常は非破壊分析とみなすことができる。5x10^12 ions cm^-2のAr+イオンビームの照射を行った後のSi(111)表面を走査トンネル顕微鏡で観察した画像を見ると、表面の大部分で清浄規則構造を示す7x7構造が観察されている。このことは、S-SIMS法で得られる情報は、ほぼ非破壊な表面構造に対応するものであることを実証している。しかしながら、イオンドーズ量が増していったとき、S-SIMSといえどもイオン照射に伴う試料表層の変質(イオンドーズダメージ)が無視できないこともしばしば見られる。特に、有機物に対するダメージは金属試料や半導体に比して100-1000倍といわれるために注意する必要がある。
 ポリスチレンのS-SIMSマススペクトル中のいくつかのピークについて、それらの時間変化をプロットしたものを見ると、各マスナンバーに対応するフラグメントイオン強度は、ドーズ量に応じて多様な変化を示す。このようなイオン照射に伴う試料状態変化はSIMS法に伴う本質的なものであるために、完全に避けることはできない。したがって、S-SIMSのデータの解釈による化学構造の解析には、ドーズ量をも考慮に入れて十分に注意を払う必要があるが、生じる変化に対する定量的な基準はほとんどないのが現状である。
 このほか、S-SIMSによる有機材料解析では帯電防止のために電子線照射によるチャージアップ補正を行うことが多いが、ある種の有機物については電子線励起の脱離が起こり、試料損傷を受けて測定精度の低下があるので、十分に注意して測定条件を選ぶ必要がある。

◇ S-SIMSによる表面評価の応用例
 主成分の化学構造情報が重要な有機材料の分野では、S-SIMS法が有効に用いられる例が多い。

◇膜厚の評価
 S-SIMSによる定量分析では、二次イオン強度の系統的な変化を注意深く評価し、適切な標準試料と、他の表面敏感な解析手法を用いたキャリブレーションが必要である。そのようにして行われた定量的評価の応用例として、ウインチェスタータイプのハードディスク表面に塗布される、フロロカーボン系潤滑剤の表面被膜膜厚の評価に適応した例を見ると、この種の潤滑剤からこの正イオンマススペクトルには特徴的にCF3+が検出されるが、標準試料からの、このイオンの強度とFT-IRならびにエリプソメトリーで校正した結果を見ると、二次イオン強度と表面被膜率(すなわち一次近似としては塗布膜厚)とはよい相関を示し、実用的に1nm以下の膜厚に対しても十分に適用可能であることを示している。

◆ 飛行時間型質量分析計(TOF-SIMS)
1)TOF型質量分析器のイオン光学系の高度化(二次イオン透過率の向上)
2)ナノ〜ピコ秒領域での短パルス発生技術
3)高精度TDC(time-to-digit-converter)
 飛行時間質量分析計は、四重極質量分析計や磁場型質量分析計と比較して、
1)イオン透過率が大きく高感度である
2)分析可能な質量範囲が広い
3)高い質量分解能(m/冦>10,000)が得られる
4)多元素同時測定が可能である
などの特徴をもつことから、特に広い質量範囲までの測定を必要とする高分子材料などの解析や、試料の最表面を低ドーズ(少ない一次イオン照射量)で高感度に測定する必要性が高いS-SIMSとの適合性がよい。またパルスレーザーを用いたポストイオン化(pot ionization: PI)技術との組み合わせにも有利にとなる。しかしながらパルス的に測定するため、D-SIMSのような連続的な深さ方向分析には適していない。

◇TOF-SIMSによる表面高感度測定
 TOF型質量分析器を使用したS-SIMS装置は、きわめて高い検出感度を実現しているので、10^8から10^10 ions cm^-2程度の照射量での測定が十分に可能であり、従来タイプの、表面化学構造解析手法としてのS-SIMS法にとどまらず、新たな総合的な高感度表面解析法への発展可能性を示しているといえよう。

◇TOF-SIMSによる表面評価の応用例
A. 広い質量範囲を利用した例
 TOF-SIMSでは原理的には無限大の質量数までの検出が可能であるが、実用的には〜10,000D程度がよく用いられている。このように広い質量範囲をカバーするマススペクトルは、分子量の大きい物質の分子イオン(M-H, M+Hイオン)、オリゴマーイオンなどを直接検出できるため、通常のS-SIMS情報に加えて、分子量の決定や重合度分布(オリゴマー分布)などの重要な知見を得ることが出来る。
B.高い質量分解能を利用した例
(省略)
C. 表面コンタミ成分の分析
 TOF-SIMS装置の高い感度を示す例として、表面の微量金属の高感度分析に応用した例を見る。従来この種の評価には全反射蛍光X線分析法(total X-ray reflection Fluorescence; TXRF)が用いられてきたが、これと比較してTOF-SIMS法は、
1) 水素を含む軽元素(B, C, O, F, Na, Mg, Al, ...)の高感度分析が可能
2) 汚染物質の面分析をミクロンオーダーの面分解能で観察できる
3) 化学構造を識別した上での定量、分布状態を知ることが出来る
という点には大きな特徴がある。
D. デプスプロファイル
 D-SIMSでは、デプスプロフファイル測定による不純物分布の高感度検出が最も有効な測定モードであり、半導体材料をはじめ多様な材料の評価に応用されてきた。しかしながら、一般にダイナミックモードでは深さ方向分解能が劣り、最表面近傍や非常に薄い薄膜の解析には多くの問題が残されている。一方、S-SIMSでは、一次イオン照射量が少なくスパッタリング速度が極端に小さいのと、検出感度の点でデプスプロファイル測定は現実的ではなかった。しかしながら、TOF装置の発展により、深さ方向へのスパッタリングを現実的な能率で行うことにより、デプスプロファイルデータが得られるようになった。深さ方向へのスパッタリングを効果的に行うためには、一次イオンビームをTOF測定用のパルスモードではなく、連続的なイオンビーム照射モードに切り替えたり、あるいは、スパッタリング用の別のイオン銃を併用することにより達成できる。
(省略)浅い領域でのデプスプロファイル評価においては、スパッタリングに伴うノックオン効果、選択スパッタ効果などがより顕著に影響してくると考えられるため、データの解釈には十分な注意が払われなければならないが、いずれにしても、表面下数層における各種元素の分布を知ることができる可能性が出てきた。
E. ケミカルイメージング
 従来S-SIMSにおける二次イオン像観察は希ガスイオン(〜30μmφ)を用いた表面ラスタリングにより行われてきたが、高感度なTOF装置を利用することにより、パルス化した一次イオンビームを用いて、より高い空間分解能、表面感度、非破壊性をもってケミカルイメージングを行うことが可能となった。一次イオンとしては集束特性のよいCs+, Ga+など(0.5〜0.2μmφ)に加えてO2+、Ar+などガスイオン源も用いることができる。

◇ SNMSへの展開
 SIMSの定量化という観点からは未解決な問題が多い。その主な理由は二次イオン収率が試料の多量成分の物理的・化学的性質に大きく依存するというマトリックス効果に影響されるからである。マトリックス効果をなくす、あるいは少なくするためには固体中や固体表面でのイオン化ではなく、スパッタリングされて真空中に放出された粒子を別の励起法を用いてイオン化する方法(ポストイオン化)が有効であると考えられている。このようにして実現される方法は一般にSNMS(Sputtered Neutral Mass Spectrometry)と呼ばれているが、これにより測定感度のマトリックス依存性は大きく改善され、定量性(もしくは半定量性)も著しく向上すると期待される。
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 D-SIMSおよびS-SIMSのいずれの測定モードにおいても、定量化という観点からは未解決な問題が多い。その主な理由は、既に何度も述べたように、二次イオン収率がサンプルの多量成分の物理的・化学的性質に大きく依存するという、マトリックス効果に影響されるからである。マトリックス効果をなくす、あるいは少なくするためには、固体中や固体表面上でのイオン化ではなく、スパッタアウトされて真空中に放出された粒子を別の励起法を用いてイオン化する方法(いわゆるポストイオン化、postionization)が有効であると考えられている。このようにして実現される手法は一般にSNMSと呼ばれているが、これにより、測定感度のマトリックス依存性は大きく改善され、定量性(もしくは半定量性)も著しく向上すると期待される。更にスパッタ粒子のうちの大多数は中性粒子であるために、もしこれらの中性粒子を効率よくポストイオン化することができれば、原理的には現在のSIMS以上の感度が得られる可能性もある。このような点を考慮し、SNMS法とTOF装置とを組み合わせることにより、非常に能力の高い測定手法が実現すると期待できる。
 中性粒子の効率的なポストイオン化にはレーザー光、電子、シンクロトロン軌道放射光(SR光)、イオンビームなどが用いられているが、TOF装置との組み合わせで最も期待できるのはレーザーを用いるものであろう。このようにして実現されるレーザーSNMSの利点は下記の様になる。
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1. TOF装置の利点をすべて備える
2. 定量性が高い
 マトリックス効果が小
 元素ごとの感度差が小
3. 検出感度が高い
4. 多様なレーザーイオン化法を利用できる
 表面分子構造に関する情報を与える
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 レーザーによるイオン化のモードとしては、共鳴イオン化と非共鳴イオン化、更に単光子励起過程および多光子励起過程など、検討の必要な事項も多いが、この内、未知元素の検出、多元素の効率的な検出、高精度な定量分析が可能などの理由から、非共鳴多光子イオン化法が最も注目され、いくつかの具体的な研究成果も報告されている。装置に関しては、すでに市販の装置も出されているが、レーザーとしてはUV光領域の発振が可能なNd:YAGレーザーやエキシマレーザーなどが使われている。今後、大出力化や高い繰り返し周波数のパルスレーザーの開発が強く期待される。

◇S-SIMSにおけるイオンドーズダメージ
 S-SIMSにおいては、イオンドーズ量の低い状態での表面測定が行われるため、通常は非破壊分析とみなすことができる。5x10^12 ions cm^-2のAr+イオンビームの照射を行った後のSi(111)表面を走査トンネル顕微鏡で観察した画像を見ると、表面の大部分で清浄規則構造を示す7x7構造が観察されている。このことは、S-SIMS法で得られる情報は、ほぼ非破壊な表面構造に対応するものであることを実証している。しかしながら、イオンドーズ量が増していったとき、S-SIMSといえどもイオン照射に伴う試料表層の変質(イオンドーズダメージ)が無視できないこともしばしば見られる。特に、有機物に対するダメージは金属試料や半導体に比して100-1000倍といわれるために注意する必要がある。
 ポリスチレンのS-SIMSマススペクトル中のいくつかのピークについて、それらの時間変化をプロットしたものを見ると、各マスナンバーに対応するフラグメントイオン強度は、ドーズ量に応じて多様な変化を示す。このようなイオン照射に伴う試料状態変化はSIMS法に伴う本質的なものであるために、完全に避けることはできない。したがって、S-SIMSのデータの解釈による化学構造の解析には、ドーズ量をも考慮に入れて十分に注意を払う必要があるが、生じる変化に対する定量的な基準はほとんどないのが現状である。
 このほか、S-SIMSによる有機材料解析では帯電防止のために電子線照射によるチャージアップ補正を行うことが多いが、ある種の有機物については電子線励起の脱離が起こり、試料損傷を受けて測定精度の低下があるので、十分に注意して測定条件を選ぶ必要がある。

◆ SIMSにおける二次イオン強度
・二次イオン強度基本式
 D-SIMSにおいて試料が電流Ipの一次イオン照射を受けたとき、試料に含まれる元素jからの二次イオン強度Ijは次式で与えられる。
 Ij = Ip*S*Kj*η*Cj
ここで、Sはスパッタリング収率、Kjは二次イオン化率、ηは二次イオン利用効率(装置関数)、Cjは試料中に含まれる元素jの濃度である。この式で、SおよびKjは一次イオン種、一次イオンエネルギー、一次イオン照射角、試料の種類および検出元素などによって決定される定数である。またηは装置によって決まる定数である。またSKjηで表される相対二次イオン強度は、既知濃度の試料に対して一次イオン電流と二次イオン強度を測定すれば、実験的に求めることができる。
(省略)相対二次イオン強度は、検出元素により最大5-6桁ほどの差があることが分かる。
 ある被検元素を高感度に分析するのに一次イオン種を選択するという観点から比較すると、一次イオンに酸素を用いることとセシウムを用いることは、相補的な役割を果たしていることが分かる。このため全元素種の高感度分析を目的とするSIMS装置には酸素とセシウムの2種の一次イオン源が用意されており、一般に電気的陽性元素(Li, B, Mg, Ti, Cr, Mn, Te, Ni, Taなど)を分析する場合には、一次イオンとして酸素O2+を用いて正の二次イオンの検出を行い、電気的陰性元素(H, C, N, O, Si, As, Te, Auなど)を分析する場合には、一次イオンとしてCs+を用いて負の二次イオンを検出することにより高感度分析を達成することができる。

◆ 二次イオン化率と一次イオン濃度の関係
 一次イオンにO2+, Cs+など化学的に活性なイオンを用いた場合、得られる二次イオン強度は、表面の一次イオン濃度に大きく依存することが明らかになっている。すなわち表面の一次イオン濃度が高いほど、高い二次イオン化率が得られる。このことを考慮してマトリックス効果を、マトリックスのスパッタリングイールドの違いによって説明しようとする試みが行われている。つまり一次イオン濃度がスパッタリングイールドの逆数に比例すると考えると、スパッタリングイールドが低いマトリックスほど方面一次イオン濃度が高くなり、二次イオン化率が大きくなるというものである。しかしながらスパッタリングイールドと二次イオン化率との定式的な関係は、一部の系統のマトリックスについては認められるものの、かならずしもすべてのマトリックスで成立することが確認されているわけではない。今後は、スパッタリングイールドが一次イオンの入射角に強く依存することに注意し、二次イオン化率のデータを一次イオン種別、入射角別に蓄積していくことが重要と考えられる。

[1] 大西孝治ら「固体表面分析T」講談社サイエンティフィック
[2] 吉原一紘「入門表面分析」内田老鶴圃
 (XPSでのシェイクアップ、シェイクオフについて現象の概念図とスペクトルとの対応関係が記載されている)
[3] D.ブリッグスら「表面分析:SIMS」アグネ承風社
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