新規の研究Q&A

 ここでは、学部4年生から大学院生M2及びD3までの方を対象に、新規性のある研究を行うためのQ&Aを記載していきます。(社会人でもOK)
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Q. 新しいタイプの相関交換項を作成したいのですが、どのようにすればよいですか?
A. CeperleyとAlderによる量子モンテカルロ法での数値計算結果[1]を基に、PerdewとZungerが相関項[2]を作成しています[3]。GGA[4]も理論的に知られている高密度極限などの漸近形を再現するような関数形を採用し、量子モンテカルロ法の結果に合うようにしています。この他、Becke[5]やC. Lee, W. Yang, R. G. Parrによる相関項[6]を混合させたBLYPなども提案されています。このような例を参考にして、新しい交換相関項を作成するのもよいでしょう。
※ 何を言っているんだ? と思われる方は文献[9]を参照してください。

参考文献
[1] D. M. Ceperley, B. J. Alder : Phys. Rev. Lett. 45 (7), (1980) 566.
[2] J. P. Perdew, A. Zunger : Phys. Rev. B 23 (10), (1981) 5048.
[3] 日本表面科学会編、表面科学の基礎と応用 : 日本表面科学会創立25周年記念、改訂版、エヌ・ティー・エス、(2004).
[4] J. P. Perdew, M. Ernzerhof and K. Burke : J. Chem. Phys., 105 (1996) 9982.
[5] A. D. Becke : Phys. Rev. A 38 (1988) 3098.
[6] C. Lee, W. Yang and R. G Parr : Phys. Rev. B 37 (1988) 785.
[7] A. D. Becke : J. Chem. Phys. 98 (1993) 1372.
[8] A. D. Becke : J. Chem. Phys. 98 (1993) 5648.
[9] 常田貴夫「密度汎関数法の基礎」KS物理専門書

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Q. LDAやGGAではバンドギャップが正しく評価できません。新しい相関交換項を考察する価値はあるでしょうか?
A. 3d電子系などの局在した電子を持つ系では、LDA+UやGGA+Uでの議論が行われています。その他には、GW近似やTDDFTといった手法がバンドギャップをより良く評価できる可能性があります。GW近似やTDDFTは既に実装されているコードもあるため、このような手法での新規性はかなり乏しいものとなってしまいます。しかしながら、これまでよりも高精度であるか、計算資源が少なくて済む、または短時間で計算が可能な交換相関項を作成できるということになれば、指導教官と相談の上、博士論文のテーマとして取り扱うことが出来るかもしれません。
 ちなみに、私の様な駄目人間の場合には、まだ原子配置及び電子構造が明らかになっていないなど新規性のある材料を題材にして、実験と理論(チューニングなどの改良)で議論して博士論文として纏めました。しかし、日々の食(職)にも事欠く有様の私の様な駄目人間にならないために、しっかりと学生の間に十分な実力を備えて下さい。私はそのような人間を増やさないためにこのHPを立ち上げました。

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Q. Grapheneに関する研究を行いたいのですが……。
A. Grapheneの研究には幾つかのテーマが考えられます。
a) ドープしたグラフェンの電子状態と触媒活性
バンド図を描いて、フェルミ端に状態が多くあるかを明らかにする
全エネルギーや結合エネルギーを議論して触媒や吸着を議論する
b) 酸化グラフェンとコンポジット材料の電子状態
バンド図を描いて、フェルミ端に状態が多くあるかを明らかにする
c) 官能基を付けたグラフェンの輸送現象
種々の官能基での輸送現象の影響を明らかにする
d) 単層グラフェンの輸送現象
空孔が存在するとフェルミ端の状態密度は増える(PRBで報告有り)
他の要因による欠陥(窒素など)と絡めての影響を明らかにする
e) 多層グラフェンの輸送現象
バリスティック伝導が可能な多層グラフェンは作製できるのか?
f) グラフェンシートの大きさと電子の有効質量の関係
多層グラフェンでの場合、系の大きさは有効質量にどのような影響を与えるか?
g) グラフェンのスピンデバイス
h) 触媒基板上のグラフェンの薄膜成長と電子状態、スピン偏極
触媒基板上でのグラフェンの構造やバンド図、EELS
i) Low-k膜(SiOCなど)上のグラフェン薄膜成長と電子状態
Low-k膜(SiOCなど)上のグラフェンの構造やバンド図、ギャップの有無
Low-k膜(SiOCなど)上のグラフェンの構造やバンド図及びEELS
wdWを入れた場合での計算結果を報告してみる価値がある
j) STMとSTSによるグラフェン端の電子状態
k) グラフェンの超高周波光・電子デバイス応用
l) グラフェンの超伝導近接効果
以上の他にもテーマが考えられますので、色々と取り組んで頂けましたら幸いです。

参考文献
[1] 徳本 洋志 監修、『グラフェンの機能と応用展望』、シーエムシー出版、2009.
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Q. Carbon nanotube (CNT) に関する研究を行いたいのですが……。
A. Carbon nanotube (CNT)の研究には幾つかのテーマが考えられます。
  a) 不純物をドープした場合での熱伝導度などの評価
  b) 界面の評価
  c) etc
※ 原子構造には下記のHPのデータを参考にしてみるのもよい。
http://people.sissa.it/~smogunov/PWCOND/examples.html
※ QE-ABINIT.tar.gz ファイルの中の nano.abinit.in にCNTの原子位置が書かれている。

参考文献
[1] 小林 和夫 監修、『カーボンナノテクノロジーの基礎と応用』、リアライズ理工センター 、1998.
[2] List of band gaps : http://en.wikipedia.org/wiki/Band_gap
[3] 河野行雄、石橋幸治、『カーボンナノチューブ量子ドットによる超高感度THz波センサ』、応用物理、80 (2011) 226.
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Q. 熱電材料に関する研究を行いたいのですが……。
A. 無次元熱電変換性能指数ZT = ( (S^2) * σ / κ ) * T が基本になります。ここで、Sはゼーベック係数、σは導電率、κは熱伝導率、Tは絶対温度。Sはモットの計算式から求められる。
 S=((π*k)^2) * m * T / ( 3*(π^2)*n ) ^ (2/3) * (h / (2*π) ) * |e|  
ここで、nはキャリアー濃度、mはキャリアーの有効質量、kはボルツマン定数
a) スーパーセルを用いた不純物ドープでの性能の変化
b) 有機材料(導電性高分子や金属錯体高分子など)での探索
c) 有機-無機ハイブリッドでの探索
d) etc
参考文献
[1] http://sces.th.phy.saitama-u.ac.jp/~saso/lectures/Niigata02.pdf
[2] http://www.cybernet.co.jp/quantumwise/document/products/catalog/0801024stokbro.pdf
[3] http://ccmp1.phys.metro-u.ac.jp/~tatara/tatara/090611_kyoto/gf.pdf
[4] 戸嶋直樹、「化学」、67 (2012) 37.
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Q. 光触媒に関する研究を行いたいのですが……。
A. 様々な元素をドープした光触媒で、より高い活性を得る方法はまだまだ議論の余地があります。多くの元素で置換した場合に、どのようにすれば活性が上がるかを模索してみるのもよいですし、全電子数を制御してみるのも良いでしょう。下記に論文で議論されていることを纏めてみました。

a) スーパーセルを用いた不純物ドープでの性能の変化
1) TiO2やSrTiO3、NaTiO3、CaTiO3、BaTiO3、Ta2O5、TaON、Ta3N5などの電子構造を計算し、状態密度分布図中に H+/H2 と O2/OH- の順位を書き込む。
2) 不純物をドープして電子構造を、1)のものと比較する。ドープする原子の価数は参考文献[1]を参考にするとよい。
3) 活性の高そうな構造を探し、外の学会に発表するために、PWscfなどで構造最適化するか、XDRでのリートベルト法を用いて構造を決定して理論計算を行う。

b) UV-VIS と活性評価の議論 [2]
  1) 理論計算を用いて、DOSを描画し、ドープする前のバンドの底とバンドの中心部分、バンドの上の部分がどの元素の軌道から混成されて存在しているのかを示す。
  2) EF近傍にあるギャップの値を読み取り、それをバンドギャップとして、幾つか異なった元素をドープしたときの傾向を議論する。
  3) charge transfer upon photoexcitation がどの軌道からどの軌道へと起こるかを議論する。
  4) バンド分散の図も描き、その遷移は、直接遷移か間接遷移かを明らかにし、ギャップの大きさを、UV-VIS の結果と比較する。
  5) Photocatalytic activity の実験結果を計算結果と比較する。

c) PWscf で評価した論文での例1 [3]
  1) Defect formation energy (EfY)
    EfY=EY-doped - Eundoped - EY - EX
  Y: 元素置換される原子、 例えば、Na, Ca, Sr, Ba, Ti 等
  X: 元素置換する原子
    例、Al, Ca, Sc, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Nb, Mo, Ru, Rh, Ta, W, Ir, La 等
  EY-doped : ドープした時の全エネルギー
  EY :元素置換される原子のバルク金属における原子あたりのエネルギー
  Eundoped:ドープする前の全エネルギー
  EX:元素置換する原子のバルク金属における原子あたりのエネルギー
  例えば、ESrとETi, ENi, ELaでは、それぞれ Sr(Fm-3m)とTi(P63/mmc), Ni(Fm-3m), La(P63/mmc) での原子あたりのエネルギーを用いる。
    幾つかドープした系での結果を比較して、Defect formation energy (EfY) が小さいものを探す。Na, Ca, Sr, BaはAサイト、TiはBサイト。どちらに置換されるのが安定か?(EfYが小さい)を議論できる。
  2) Relaxation
    構造最適化から得られる格子定数と各原子の距離を実験結果と比較する。ドープした系での原子間距離の違いとどの原子が動いているかを比較してみる。歪むと電子構造も変化するので比較してみるのもよい。
  3) Charge density
    電荷密度マップを描写し、ドープすることで電荷の分布がどの原子に移っているかを議論する。イオン結合的か共有結合的か金属結合的かを議論する。そして、どの原子との結合に影響が強くなったり弱くなったりしているかを議論する(原子間距離にも注目してみるとよい)。置換した原子に他の原子が近づいているかも注目してみる。
  4) Band structure
    ドープした系でのギャップの大きさと、ドナーやアクセプタ準位の形成、EFの位置などを比較する。直接遷移か間接遷移かも議論する。
  5) DOSs
    金属元素を置換した場合には特に、a wide isolated distinct defect peak がバンドの中心部分に現れることがある。同じエネルギー位置に状態がある元素を比較し、混成している(軌道が混成している)可能性を議論する。特定の原子の価電子帯(上の方や底)と伝導帯(の底)への寄与(の有無)を議論する。どの元素がそのエネルギーでのDOSに支配的かを議論する。構造の変化(特定の原子の原子間距離)とDOSの変化を比較する。

d) PWscf で評価した論文での例2 [4]
  1) 価数の違いによるDOSの変化を議論する。
  2) ΔEを比較する
    Ti1-xCrxO2 → Ti1-xCrxO2-x/2 + x/4O2
    TiO2 → TiO2-x/2 + x/4O2
    TiO2 → xCr (bulk bcc) → Ti1-xCrxO2 + xTi (bulk hcp)
    Ti1-xSbxO2 + xCr (bulk bcc) → Ti1-2xCrxSbxO2 + xTi (bulk hcp)
    などでの結果が報告されている。ドープ+酸素欠陥の系では、酸素欠陥のみの場合よりも全エネルギーの増大が小さくなるなどの議論をする。

e) 錯体型人工光合成
理論計算でスピン密度分布を計算し、局在や不対電子の有無を明らかにして、ラジカル的な反応性があるかを予測する。

f) etc

参考文献
[1] J. D. LEE 著、浜口博 訳、「基礎無機化学 改訂版」、東京化学同人、1979.
[2] J. W. Liu et al., J. Solid State Chem. 179 (2006) 3704.
[3] F. Li et al., Mater. Sci. Eng. B 172 (2010) 136.
[4] C. D. Valentin et al., Chem. Phys. Lett. 469 (2009) 166.
[5] 吉田将己、正岡重行、「化学」、67 (2012) 12.
読んでおくべき参考書
[1] 大谷文章著、「光触媒標準研究法」、東京図書
[2] 窪川裕ら著、「光触媒」、朝倉書店
[3] J. D. LEE 著、浜口博 訳、「基礎無機化学 改訂版」、東京化学同人、1979.
[4] 作花済夫著、「ゾル-ゲル法の科学」、アグネ承風社
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Q. 系の安定性をエネルギー的に議論したいのですが研究方法を教えてください。
A. 形成エネルギーは上記の記述を参考にして頂くとして、他にも以下に記述する研究方法があります。

1) 表面エネルギー
表面エネルギー = (真空層を入れた系の全エネルギー(原子N個) - 完全結晶(バルク)の全エネルギー×(原子N個)/完全結晶での原子数 ) / 2
計算のポイント
a. 真空層の大きさを変化させても値が変化しないことを確認する。真空層は10オングストロームは必要。
b. 真空層のある方向ではk点が1点で十分
c. 面内方向の格子定数には完全結晶で構造最適化したものを用いる
d. 実験との誤差は10〜20%程度

2) 凝集エネルギー
凝集エネルギー = (真空層を入れた系の全エネルギー(原子1個) - 完全結晶(バルク)の全エネルギー×(原子1個)/完全結晶での原子数 )
a. 真空層の大きさを変化させても値が変化しないことを確認する。真空層は10オングストロームは必要。
b. 真空層のある方向ではk点が1点で十分
c. 実験との誤差は数%程度
d. 価電子数が奇数の場合はスピンの考慮が必要

3) 空孔形成エネルギー
空孔形成エネルギー = (空孔を入れた系の全エネルギー(原子N個) - 完全結晶(バルク)の全エネルギー×(原子N個)/完全結晶での原子数 ) 
計算のポイント
a. 原子数を変えても値が変化しないことを確認する
b. 面内方向の格子定数には完全結晶で構造最適化したものを用いる

4) 引っ張り・せん断の評価
計算のポイント
a. 構造緩和しておく
b. k点や平面波のカットオフに敏感なので注意
c. 対称性の高い場合には、原子位置に初期不整を与えてみる
d. 変形を加えてセルを固定し、その後構造緩和する。(これを繰り返す)

※ 格子定数を求めておいて下さい。以下ポイント。
A. スーパーセルは周期性を考慮してできるだけ小さいものを用いる。
B. 初期配置は実験値があればなるべくそれを用いる。実験値ではXRDの結果を用いたりする。
C. k点の数や平面波のカットオフが多少悪くても良い値がでることが多い。
D. 計算結果と実験結果との誤差は約1%程度(実際には5%などのときもあるがよい)。
E. 内部構造が複雑な結晶の場合には、構造緩和に最新の注意が必要となる。

参考文献:情報機構セミナー
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