磁気熱量効果

  ここでは磁気冷凍の研究に関する情報を掲示しておく。
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 気体冷凍技術は広く社会に浸透しており、冷蔵庫やクーラーなどは日常生活に必要不可欠である。気体冷凍では、冷媒(冷凍作業物質)の蒸発熱により吸熱し、蒸発後の気体をコンプレッサーで液化する際に生じる液化熱を室外に放出して冷凍を行う。しかしながら、気体冷凍ではオゾンホールの形成や代替フロンによる温暖化が加速されて、環境破壊につながる深刻な問題となっている。最近、これらの問題を克服するために磁気冷凍が注目されるようになってきた。磁気冷凍では冷媒として固体の磁性体を用いる。この冷凍方式は気体冷凍のような問題を引き起こさないので開発・研究が期待されている。
 磁気冷凍技術は室温近傍における冷凍機器にとどまらず、種々の分野への応用が期待される。高温超電導体、高感度アンテナ用フィルタ、エネルギー貯蔵、そして磁気浮上リニアモーターカーなどへの応用が検討されている。これら新規高性能機能酸化物超伝導デバイスの安定動作のためには、信頼性の高い冷凍機として磁気冷凍技術が期待されている。さらに、天然ガス(沸点 112 K)、酸素(沸点 90 K)、窒素(沸点 77 K)、水素(沸点 20 K)など、各種ガスの液化の分野でも磁気冷凍が注目されている。特に水素は、枯渇の恐れがある化石燃料に代わる次世代のクリーンエネルギーとして注目され、大量需要が予測されている。ホイスラー合金においても、元素置換によりマルテンサイトおよび磁性の変態温度が制御できるので、種々の分野への応用に適応できる低温用磁気冷凍用材料の開発・研究の進展が切望される。

□ Gibbsの自由エネルギーG、Helmholtzの自由エネルギーF, 内部エネルギーUおよびエンタルピーEの全微分
dG = -S * dT + V * dp
dF = -S * dT - P  * dV
dU = T * dS  - P * dV
dE = T * dS + V * dp
ここで、Sはエントロピー、Tは温度、Vは体積、およびPは圧力である。磁気系では気体系におけるPとVをそれぞれHと-Mに置き換えることができる。磁気系における熱力学的関係は気体系と全く等価であるので、従来の気体冷凍と同様の熱力学的原理に基づいて磁気系でも冷凍を行うことができる。
(∂F/∂T)M = -S
(∂F/∂M)T = H
(∂G/∂T)H = -S
(∂G/∂H)T = -M
GをTとHで微分すると、∂G/(∂T * ∂H) = -(∂S/∂H)T = -(∂M/∂T)H が成立する。
等温過程の磁場印加によるエントロピー変化ΔSmが以下のように計算できる。
ΔSm = ∫Hmax (∂M/∂T)H dH
エントロピーは経路に依存しない状態量であり、全微分可能なことより、
dS = (∂S/∂T)H dT + (∂S/∂H)T dH
が得られる。ここで、右辺第1項は定磁場中比熱CHを用いて、
(∂S/∂T)H dT = (CH / T) dT
に置き換えることができる。第2項の変微分項を変換し、断熱条件dS= 0 とすると、
dT = - (T/CH) * (∂M/∂T)H dH
断熱条件下では外部磁場変化により、試料の温度が変化し、その変化量である断熱温度変化ΔTadは下記で与えられる。
ΔTad = ∫Hmax (T/CH) * (∂M/∂T)H dH
この関係は極低温物理実験などにおいて、断熱消磁冷却として従来用いられているのと同一原理である。ΔTadの評価には磁化と比熱のデータ両方が必要であるが、磁場中比熱の温度変化がわかれば、S-T曲線を算出できるので、これをエントロピーの関数として温度T(S)と見なして次式で評価できる。
ΔTad = T(S)|H=Hmax - T(S)|H=0
ΔSmは上記の式より、磁化測定データより簡便に算出できるため評価が盛んである。しかし、ΔSmが大きくてもΔTad が大きいとは限らない。室温磁気冷凍にはΔTadの大きさも必要になるので、ΔSmとΔTadの両方の評価が必要である。
 系全体のエントロピー変化は次式で与えられえる。
ΔS = ΔSm + ΔSl + ΔSe
ΔSlは格子振動項で格子エントロピー変化である。ΔSeは電子項であるが、非常に小さいので冷凍の議論では無視される。室温磁気冷凍では格子振動の寄与が大きいので上式のΔSl項が重要になる。この項は格子比熱Cpとすると、温度Tと関連してCp/Tから算出される。Cpの温度変化はDebyeモデルから与えられる次式にほぼ従う。
Cp = 9 * Na * kB * (T/θD)3 * ∫θD/T0 (x4 * ex) / (ex - 1)2 dx
は、kBとθDはBoltzmann定数およびDebye温度であり、質量当たりの比熱に対してはNaは質量当たりの分子数に相当する。通常3d遷移金属系金属間化合物の場合、Debey温度が300 〜 400 K 程度になることが多いので、室温付近では Dulong-Petit則として知られる一定値への漸近を示す。この値はモル当たりで気体定数 R の 3倍程度である。このゆに磁気熱量効果に対して大きな格子比熱はマイナスに寄与するために格子負荷と呼ばれている。従来の二次変態による磁気熱量効果の程度ではこの負荷に打ち勝って外部を冷却することはできない。そこで、室温磁気冷凍には、一次変態に付随する巨大磁気熱量効果が期待されている。しかし、室温近傍で磁気一次変態を示す物質は極めて少ない。

□ Maxwellの関係式
(∂S/∂M)T = -(∂H/∂T)M
(∂T/∂M)S = (∂H/∂S)M
(∂T/∂H)S = -(∂M/∂S)H

□ RCP (Relative Cooling Power)
冷凍効率の一つの簡便な指標として、磁性体が1回の冷凍サイクルで磁気熱量効果により吸放熱できる熱量として、下記の式が挙げられる。
RCP = |ΔSm| * δT
ここで、δT はΔSmの最大値の半値幅である。冷凍システムにおける熱量の種々の原因に起因するロスを勘案すると、印加磁場1T当たり2 K以上が必要とされている。

□ マルテンサイト変態
・高温では立方晶であるのに対し、冷却しある温度に達すると、立方晶からずれた複雑な構造に相転移を起こす。
・マルテンサイト変態を起こす過剰なMn原子が存在する合金 Ni2Mn1.42Sn0.58 はマルテンサイト変態が 230 Kで起こる。価電子帯光電子スペクトルは室温から240 K まで温度を下げていってもピーク構造に大きな変化は見られない。一方、220 Kまで温度が下がると、フェルミ準位直下のピークが消失したかのように光電子強度が大きく減少する。この変化はフェルミ準位直下のピークだけで、高い束縛エネルギー側の構造に変化が観測されないというのが特徴である。マルテンサイト変態を起こさない母物質ではこのような顕著な温度依存性は示さない。これらのことから、マルテンサイト変態にともなって、大きく電子構造が変化したことがわかる。 
・Sn原子サイトに導入されたMn原子の3d電子スピンはもともとのMn原子のものに対して反平行になっていることが第一原理計算から予言されている。実際に、Mn原子濃度に対して全体の磁化が減少していることから、この計算結果は磁化測定の結果と矛盾しない。Ni2Mn1+xSn1-xのバンド構造をx=0の母相とx>0の過剰なMnを含む合金について見ると、Mn 3dの間にNi 3dがあり、Ni 3dはフェルミ準位近傍に存在している。Sn原子サイトに置き換わったMn原子サイトの3d 電子の部分状態密度は、もともとのMn原子サイトそれに比べて、多数スピンと少数スピンのものを入れ替えた形になっている。そのため、少数スピンバンド側でSnサイトのMn 3d軌道とNi 3d軌道が混成を起こした結果、Ni 3d egバンドがフェルミ準位側にシフトしたと理解される。
・光電子分光では、オーステナイト相(Cubic)からマルテンサイト相への構造相転移に伴ってNi 3d eg少数スピン状態の状態密度がフェルミ準位付近で大きく減少する結果が得られている。第一原理計算では、オーステナイト相(Cubic)ではNi 3d eg少数スピン状態が約0.2 eVにピークを持って存在しているが、マルテンサイト相では、占有状態側で約0.5 eV、非占有状態側で約-0.4 eVにピークが分裂しており、もともとピークの存在していたフェルミ準位付近の状態が消失しているかのように見える。この理論計算の結果は実験結果をよく説明している。さらに第一原理計算ではマルテンサイト相を正方晶と仮定しているが、そのc/aの関数として全エネルギーをプロットすると、母相(x=0)の場合、全エネルギーの極小値がc/a=1のところにきている。これはまさに母相は立方晶(L21)が安定であることを示し、実験結果と矛盾しない。Mn濃度(x)が増加すると次第にc/a=1がエネルギー極小でなくなり、x=0.5ではc/a=1.31で極小になる。この結果も実験事実を説明している。
・過剰Mnが過剰になり、Sn原子サイトに置換し、3dスピンを反平行に向ける。少数スピン状態側でNi 3d eg軌道がSn原子サイトのMn 3d軌道と混成しフェルミ準位に近づく。Ni 3d eg状態がJahn-Teller効果によりエネルギー分裂を起こしマルテンサイト相を安定化する。ここでは、Ni2Mn1+xSn1-xを取り上げて、マルテンサイト変態と電子構造の関係について述べたが、ここで取り上げたメカニズムは他のホイスラー型強磁性合金にも適用できるものと考えられ、今後の発展が期待される。

□ Ni50Mn25Ga25系フルホイスラー合金およびその元素部分置換合金
 ホイスラー合金の磁気冷凍材料への応用に向けて、当初はNi50Mn25Ga25系合金が大きな注目を集めた。Ni50Mn25Ga25はキュリー温度が370 K程度の強磁性体であり、温度低下に伴い200 K近傍で立方晶L21構造の母相から正方晶のマルテンサイト相への一次変態を有する。

□ 相転移の次数 [1]
・Gibbsの自由エネルギーGのn次微分が不連続になるものをn次相転移と定義した。
・温度の一次微分:(∂G/∂T)H = -S
・圧力の一次微分:(∂G/∂P)T = -V
・温度の二次微分:Cp = T * (∂S/∂T)p = -T * (∂2G/∂T2)p
数学的には微分の次数を上げることに問題はないは、現実には実験の精度の制約もあり、3次相転移以上を区別することは極めて困難である。そこで一次相転移以外をまとめて、二次相転移あるいは高次相転移ということが多い。
・一次相転移の特徴は低温層と高温層が共存することである。加熱時と冷却時で転移温度が異なる過熱や過冷却現象を示すことも多い。
・二次相転移は、状態そのものが温度の関数として徐々に変化していくのが特徴である。指標として秩序度が用いられる。温度が上昇すると原子の熱運動が激しくなり、格子中に欠陥が生じ、原子が結晶格子の中を動き回るようになる。温度によって各サイトでの占有率が変わることになる。熱容量は一次相転移と異なり、かなり広い温度領域にわたって相転移が起こる。

参考文献
[1] 物質の科学・反応と物性:http://www.campus.ouj.ac.jp/~hamada/TextLib/rm/index.html
[2] 鹿又武、「機能材料としてのホイスラー合金」、内田老鶴圃

Fe2VAl系にTaを10%程度ドープしたときの室温での比熱は 0.36 - 0.48 (J/gK)程度である。
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◆ 磁気冷凍
磁場を掛ける(M vs Hにおいて、あるHでMの値を持つ。paraだと直線。S-paraだと(M = 1-指数関数(-H/H0)のような振る舞い)
(スピンの向きが揃っている。例えばCo)

儡 = 儔 / T > 0 (吸熱性)

(M vs Hにおいて、あるHが0でMも0)
(スピンの向きはランダム)
奥健夫「これならわかる電子顕微鏡」化学同人 での模式図を参照するとよい。
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